「ウォォォラアアッ!」
捻りを加えて威力を増した蹴りが、レッキングジョーの頭部へと吸い込まれるように衝突する。まさしくダイナマイト級の威力により、機械仕掛けの怪獣は大きく後退した。
「■■■ッーーー!!!!!」
目の前に降り立った2本角の巨人を脅威と認識、そして倒すための意思表示なのか機械音にも似た咆哮を上げる。
機械と融合したかのようなその独特のフォルムと咆哮に気圧されそうになるオーブだが、自身を鼓舞するかのように自身の拳で胸を叩き構えをとった。そして淀んだ重い空気が支配していく中で、暫くの睨み合いの後両者が激突。
両者の凄まじいい衝突によって、砂埃や道路の破片が舞い上がっていく。
「グゥ……オオッ……!」
バーンマイトですら押されそうなその力強さに、
「ウ、オオォ……」
易々と抑え込みそうなレッキングジョーに、オーブは声を上げて耐える。しかしその声がかすれ気味になっていくのが、彼の限界をうかがわせる。
「ク……ヌウァァァァァァッ!!」
そこでオーブは体から炎を放ってヤツの力を一瞬だけ弱らせると即座に腕を振り上げて脱し、側面を蹴り上げた。さらに剛腕から振るわれた攻撃を防ぎつつ、胸元にストビュームカウンターを放つ。
拳と共に放たれた衝撃波と炎の攻撃は、レッキングジョーとの距離を作ることに成功した。
(いったい誰が……誰が怪獣にされたんだ……)
Aqoursの誰かかもしれないことと以前の失敗があることから、彼は慎重にならざるを得なかった。しかし躊躇すればこちらがやられるのも、先のぶつかり合いで理解してしまう。歯痒さと不安を抱えながら、オーブは大砲玉にも似たその攻撃を回避していくのだった。
「ルビィちゃーん、花丸ちゃーん、善子ちゃーん!!」
遠くからでもよく聞こえるその声に1年生3人は反応し、振り向く。そこには、私服姿で走ってくる渡辺曜の姿があった。
「曜ちゃん……」
その沈んだ声に、隣にいる花丸や善子は心配そうに肩に手を置く。
「大丈夫!?」
曜は立ち止まるとすぐさま安否を確認した。怪獣の現れた現場近くに居れば心配するのも当然だ。
「マルたちは大丈夫です……」
力なく花丸も己の無事を伝えるが、その反応に曜は勘付いたのか「どうしたの」と問いかける。
「私たちの友達が……怪獣にされたのよ」
善子は苦しそうに先ほど起こったことを伝えた。スピカという少女が怪獣になったという出来事を。
「おい、どういうことだ?」
すると、善子の話に割って入ってきたのはなんとアオボシだったのだ。彼には珍しく余裕よりも動揺の感情が勝っている。
「アンタ、どうして曜と一緒にいるのよ!?」
善子の剣幕を面倒に感じながら首を振るアオボシ。曜はこれ以上ややこしくならないように「今は聞かないで」とだけ言っておいた。
「それより、スピカが怪獣にされたってことはホントなのか?」
彼は詰め寄って話を聞き出そうとする。その問いに答えたのはルビィ。
「ルビィを守って……スピカちゃんは……」
今でもその状況を思い出そうとすると、自分の無力さに涙が出てしまう。曜はルビィを抱き寄せて背中をさすっている。
「あの女狐……余計なことしやがって……」
アオボシは呟くと、すぐさま歩を進めた。
「どこに行く気よ!」
善子の怒りの籠った呼びかけに、アオボシは振り向いて答える。今戦っているオーブに手を出すなという忠告が彼女からは伝わってくる。
「別にシリウスに手を出そうってわけじゃない。それに今は手段がないしね。……この出来事の首謀者にでも話をつけて来ようと思って。あ、それと僕が言うのもなんだけど……もう少し離れてた方がいい。ここもじきに危なくなる」
そして彼は走っていく。目にした回数は少ないながらも、アオボシという青年からは想像もできない光景を曜たちは目にしていた。
「ハアアアアッ!」
「■■■■■ッッ!!」
拳と拳がぶつかり合い、彼らを中心とした衝撃波が街を襲う。レッキングジョーの力に吹き飛ばされたオーブはビルを破壊してしまう。1棟、2棟と己の体が突き抜けていくがその勢いが衰えることは無かった。地面を転がり、背中が道路を抉ってようやく止まるころには彼のカラータイマーも既に点滅を始めていた。
(くそ、アイツとの戦闘のダメージが……)
合体獣の力強さもそうだが、さっきのプロキオとの戦闘も要因の1つだった。アオボシからもらった生体エネルギーも、一応の応急処置レベルだ。このようなコンディションで、相手の強さを見誤って戦闘に立った自分に悪態をつきつつ、ビリビリと痛む全身を無視して立ち上がる。
あらゆる状況が悪い方向に重なってしまったが故に、次第に戦況は劣勢に傾いていく。腕の攻撃を受けてしまい膝をつけば、今度は屈強な脚力、そして機械仕掛けの生体構造を無視した出力から繰り出される蹴りが腹部や頭部に襲い掛る。ただでさえ威力の高い殴打のラッシュも、そう何発も受けていいものではなかった。
地面を転がりながら脱出したオーブは、自身の体長ほどの火球を作り出し目の前の合体獣へ撃ちだした。
「ストビュームバーストッ!!」
これで決まったかと思った矢先――――
「なにっ……!?」
「■■■■■■■ッーーーーー!!!!!」
炎の中を突っ切って巨体を進めるレッキングジョーの姿があった。加えてヤツは怒り狂っているようで、視界に映るもの全てを無差別に破壊し始めた。破壊されたビルの残骸を持ち上げて、オーブに投げつける。
(なんだ……いきなり……うおっ!?)
投げつけるだけかと思ったら、近づいてさらに威力の増した腕を振り下ろした。
「フフフッ、いいわ……その調子で彼を葬るがいいわ」
ビルの屋上からオーブとの戦いを見ているヴィルゴ。今の状況は想定内なのかと聞かれれば首を縦に振ることはできない。今のアレは明らかに暴走している。自身に快感を得ることはできないが、結果的にオーブを倒すことができればそれでもいい。
そんな彼女に近付く人影があった。
「趣味がいいとは言えないな……」
「……何の用?」
「別に? ただ、君の嫌がらせは僕にも都合が悪くてね」
アオボシはヴィルゴを睨みながら詰め寄っていく。対する彼女も先ほどの笑顔は顔から消え失せている。今あるのは彼に対する嫌悪だろう。
「……何故スピカなんだ?」
「偶然よ偶然。オーブ知り合いでも怪獣にしてやるつもりだったのに、あの子が庇ったのよ」
「そうか? それは結果的にそうなっただけだろ。どの道彼女を怪獣にするつもりだってのは見え見えなんだよ。君のその隠しきれない性癖と同じだ」
「……アナタ、随分とあの子のこと気にかけるのね。もしかして”せめてもの”……なんて思ってるのかしら」
彼女の投げかけた言葉に、アオボシは沈黙する。2人の相向かう先では、レッキングジョーの一方的な攻撃が行われており、いずれはこちらにも瓦礫が降ってくるだろう。だが今は気にしている暇などない。今はチャンスを待つだけ。彼女に何を言われようと……適当に返せばいい。
「そんな……ただ僕にも素直なパートナーが欲しかっただけさ」
「その割には随分気にかけているじゃない? 3年間もあったのに、私たちの侵略には連れ出さない。まるで、過保護な動物だわ。そのくせして地球には連れ出す。これがどういう事かわかってるの?」
「地球は彼女の故郷だ。侵略でもなんでも、よく知っている人間がやるべきだろ? それに、彼女は死にかけてたんだ。多少の手当ては駒だとしても必要な処置だと思うけどね」
――――そろそろか……
チラッと横目で確認すると存分に暴れまわっているレッキングジョーによって投擲された瓦礫の雨が付近へと落下してきた。
――――瓦礫の落下にともなって砂塵が舞った。ヴィルゴは腕で防ぎながら視線を先へと向ける。
そこに広がっていたのは、レッキングジョーがオーブに馬乗りになり拳を打ち付けている姿だった。さらにはその両腕で頭を掴み上げているではないか。
もがき苦しむオーブだが、その力故振りほどくことができない。
――――勝った。
そう確信すると同時に、自身の左手に違和感を感じた。指一本一本に感じるはずの、掴む感覚がないのだ。慌てて左腕を上げてみれば――――
――――無いのだ。
――――確かに持っていたダークリングが。
「アハッ、アハハハハハ! 返してもらったよ……ダークリング」
気持ちの悪い笑い声にイラつかせられ、横を見てみればアオボシがダークリングを取り返していたのだった。
「どういうつもり?」
「まだ地球の手出しは僕に任されているはずだ。手を出すなって言ってんだよ、僕は」
「あっそ……好きにして頂戴。私が手を出さなくてもオーブはもう無理みたいだしね」
アオボシの警告そして態度にウンザリ、そして自分のオモチャが上手く機能してないのが気に入らなかったのか、彼女も踵を返していく。
「まったく、レグリオス星人ってのは飽き性だな。……その部分はAqoursを見習ってほしいね!」
レッキングジョーに苦戦するオーブをみて口元を緩ませながらアオボシもまた、ダークリングを構えるのだった。
一方的に振るわれる拳にオーブは悶える。体の中の空気が抜けるだけで、空気をうまく吸うことができない。抵抗しようにも、腕に力が入らない。
(けど……諦めて……たまるか……!)
この合体獣が変異させられたものならば、その中に居る誰かを助け出さなければならない。最後まで足掻くと決めた彼女たちの背中を見た者ならば、彼女たちを支えるマネージャーなのであれば――――
己も最後まで諦める訳にはいかない。この猛攻に、どうにかして反撃のチャンスをこじ開けなければ……
(今のエネルギーでやれば最悪……でもコイツしかねぇ!)
身体から熱を発する。内側からせり出てくるような炎の衝撃。限界まで貯めて……それを解放させる。
「ストビュームダイナマイト……!!」
全身から発した爆発がレッキングジョーを吹き飛ばす。ダメージにならなくても、吹き飛ばせるだけで十分だ。
「ハア……ハア……ハア……ハア……」
距離をとることには成功したが、内心かなりキツイ。気を抜いたらすぐに変身が解除されそうだ。
カラータイマーの点滅も激しくなっている。ここで勝負をつけたいところだ。
すると
三日月状の光線が頭を掠めて、目の前の合体獣へ飛んでいく。衝突すれば身体を青い電流が体を駆け抜けていく。
「……ッ!?」
オーブは背後の存在に気が付くと息を呑んだ。白い体に黒の斑点のような模様が浮かんでいる。それでいて胸から腹は、まるでゴツゴツとした岩石のような肌。鼻部や頭部の両端には三日月状の角が光っていた。
「よお、楽しそうだな。僕も混ぜてくれよ」
「お前……」
その怪獣の中から聞こえてきたのはあのアオボシの声だった。まさかこの機に及んで、2体を相手にしなければいけないのか……そんな焦りがオーブを駆け巡る。
「ハハハハッ……」
長い尻尾を振り回し、こちらに向かってまるで槍のように突き出した。
(この……ッ!)
数秒後に来るであろう衝撃に備えようと構えるが、彼の警戒は杞憂に終わる。
そのまま突き出していく尻尾は、レッキングジョーの足元を払い転倒させる。するとヤツのヘイトはオーブではなく怪獣に向けられたようで、怒声のような咆哮と共に駆けだしていく。
だがその攻撃が振るわれることはなく、レッキングジョーの体には先の尻尾が巻きつけられる。そして尻尾から放つ電撃を受けて、合体獣は体を痙攣させた後地面に倒れこんだ。
「お前、何してんだっ!?」
倒れこんだことを確認し、尻尾を離した怪獣。そこにオーブが向かっていく。だが、彼は冷静な声で言い放つ。
「大丈夫、短時間とはいえ眠らせただけさ。どうした、お前も時間ないみたいだけどどうする? やるのか?」
「何が言いたいんだ」
「撤退しようって言ってんだよこの馬鹿。彼女たちの話も聞いた方がいいだろうしね」
「……そうかもな」
怪獣が頭を向けた方向にはルビたち1年、そして曜の姿があったのだ。彼の言いなりになるのも癪だが、胸のカラータイマーも鳴っているのも事実。彼も攻撃する意思がないと思えたオーブは変身を解除。巨大な体が光の粒子として街に霧散していくのだった。
「大丈夫!?」
変身を解除すると、すぐさま曜たちが駆け寄ってくる。「大丈夫だ」と返した一眞だったが、瓦礫でできた壁に手をついてしまう。息も切れ切れなので、その言葉が嘘であることはすぐさまバレた。
「大丈夫じゃないときぐらい、大丈夫じゃないって言いなさいよね……って言っても聞かないわよね」
「悪い、つい癖で」
やれやれと首を振る善子に苦笑いで謝る一眞。しかし時間がない。一眞はすぐさま本題に入ろうと口を開いた。
「アイツから聞いたよ。話があるんだろ?」
「う、うん。それが、あの怪獣の正体……」
「知ってるのか!? あの怪獣は、誰が変異させられたものなのか……」
曜も知ってるみたいだが、伝えるべきは自分ではないと思ったのか1年生の面子へと申し訳なさそうに目を向けた。
「あの怪獣は――――「花丸ちゃん」
花丸が伝えようとしたのを止めたのは誰でもないルビィだった。今でも脳裏に焼き付いている衝撃的な光景を彼女はありのまま伝えた。
「一眞さんはスピカちゃんのこと、知ってますか?」
予想だにしない名前が出てきたことに一眞は驚きながらも「知っている」と伝えた後に、彼女との慣れ始めも、本当の名前も……彼の知るすべてを伝えた。
「スピカ……じゃなかった珠冬って、地球人だったのね」
「今まで教えてなかったのは悪かった。でも、なんでルビィたちと……?」
一眞の疑問はそこだ。彼の目線からは、どちらにも接点が無いように思えたのだ。一眞への精神的な攻撃かとも考えたが、それができれば既にやっていただろう。
「珠冬ちゃんも、スクールアイドルが好きって言ってたから」
今度はルビィが彼女との慣れ始め、そして今に至るすべてを話してくれた。そして……自分を庇って、怪獣にされてしまった事も。
「だから珠冬ちゃんが怪獣になったのは……ルビィのせいなんです」
彼女の悲痛な叫びには誰もが黙るしかなかった。仕方ないともわかっている。だが、それでもあの時何かできていたのではないか、彼女を守る手段があったのではないかと……ルビィは涙を流していた。
「あいつ……やっぱスクールアイドル好きだったんじゃないか……」
そんな中、一眞はいつかの光景を懐かしむように呟く。
「ルビィが悪いんじゃない。って言っても、気休めにもならないかもしれないけど……」
優しく話しかける一眞に、曜は何かを察する。
「過去は無理だけど、未来は変えられる……ってやつ?」
「曜にはわかっちゃうか。うん、そう。今度こそ珠冬を助けよう」
ルビィや花丸、善子の目を見ながら一眞は呼びかけた。彼の目は、まだ諦めてなどいなかったのだ。
「……どうやってだ?」
割り込む声が1つ。声の方向にはアオボシが座っていたのだ。
「あの合体獣は相当な力だ。シリウスだって実質負けているようなもんだ。何か策でもあるのかい?」
横目でこちらを見ながら問いかける。確かにあの合体獣は強い。小細工なしの純粋な身体能力……屈強な筋肉と限界を易々と超える機械の力。アオボシの介入が無ければ負けていたのも事実だった。それを身をもって知っている一眞。だがしかし、彼は悩むことなく答える。
「みんなで」
「……は?」
「確かに強い。俺も戦って嫌という程叩きこまれたからね。だけど、さっきは俺だけだった。だから今度は、みんなで戦うんだ」
一眞の後ろに立つルビィたちも困惑の表情が浮かんでいる。自分たちにはアレを止める力などないのだと。
「俺が時間を稼ぐ。だからルビィたちは、あの中に居る珠冬に声を届けるんだ」
「ルビィたちが……?」
方法を教えてもらっても、ルビィたちは不安げな表情のままだ。暴れる様子を自身の目で見たのだから信じきれないだろう。
「スクールアイドルとして、ファンに声を届けろ。ルビィのスクールアイドルとしての想いは、そのくらいじゃないだろ?」
「わかりました。ルビィ、珠冬ちゃんに声を届けます。またスクールアイドルの話したいから!」
「マルもやるずら!」
「ルビィもずら丸も本気で言ってるの!?」
「善子ちゃんはやらないずらか?」
「誰もやらないなんて言ってないわよ!? クククッ……彼女もリトルデーモンの1人。それを救うのが堕天使ヨハネの務め!!」
彼の言葉に、ルビィも覚悟を決めたようだ。彼女の決意に花丸も、善子も声を上げる。
「私も応援するねっ!」
曜も彼女たちについて行くと敬礼のポーズで答える。
「君たちは正気か!? アレはもはやスピカの意識なんてないも同じだ。それでも声が届くと本気で思ってるのか!?」
アオボシは彼女たちの決意を否定する。アレには彼女の意識など残っていない、ただ本能で動き、暴走する怪獣でしかない。それに声など届かないと。
「できるさ」
一眞は確信したように言い返す。ただ一言。一言だけをアオボシに投げたのだった。理屈などどうでもいい。彼女たちに秘められた力を、紡がれた絆を信じるのみだと。
「はあ……勝手にしなよ」
アオボシはため息を吐き、その場から去っていく。
「あいつは現実的だよ、ホント……」
一眞は相変わらずだなと頬を緩ませる。彼とアオボシ。敵対しているはずの2人なのに、妙な信頼感を感じさせてくれる。
「よし、じゃあみんなで……珠冬を助け出そう!」
風が吹き始める。あの重く淀んだ空気が運ばれて、温かい風が背中を押してくれる。
一眞の握るオーブリングが、彼女らを決意を読み取ったかのように光り輝いた気がした。
合体獣となった珠冬。その力強さを前に、俺も一度は膝をついてしまう。しかし、俺たちはまだ諦めない。ルビィたちと協力して、今度こそ珠冬を救い出すんだ! 次回Sunshine!!&ORB「ハジマリの呼び声」
「……僕も力を貸すよ」