今年度も当作品をよろしくお願いします。さて、今回はちょうど誕生日を迎えた彼女の回となります。
「……っはよ~! 先行ってるねー!」
何やら外から声がする。
それに気が付いた一眞は、未だ眠気の残る目をこすりながら、おぼつかない足取りで部屋を出る。そして外を見渡せば、すでに制服へと着替えた千歌が立っていたのだった。
なにやら
「おはよ~カズくん! わたし先に行ってるね!!」
みかん色の髪が小さくなっていく後ろ姿を見ながら、眠気で反応の遅れている一眞は小さく「いってら~」の声と共に手を振る。そして覚醒しかけてきた頭で、その光景を思い返した一眞は独り言を呟いた。
「「今日は雨か……?(かしら?)」」
どうやら志満も同じことを考えているみたいだった。
2人の予想通り、空からは水の粒が絶え間なく降りつけてくる。しかし気にすることなく、部室の窓を拭く千歌。そんな彼女が、いつになく上機嫌だと感じていたのは一眞だけではなかったらしい。
「ずいぶん機嫌がいいですわね……」
「こんな時に……」
「もしかして忘れているのかも……」
「ねえ千歌ちゃん、今日が何の日か覚えてる?」
曜の問いに、千歌は迷うことなく答える。「ラブライブ予備予選の結果が出る日でしょ?」と。
「バッチリ覚えてました……!」
「ずら……」
逆に覚えている……ということだからこそ、一同に驚かれているのが、千歌らしいと言えばらしい。しかし覚えていても尚、その態度でであることをルビィは不思議がる。「緊張しないの?」と彼女が聞いたのはそのためだ。
「だってあんなにうまくいって、あんなに素敵な歌が歌えたんだもん。絶対突破してる」
彼女は迷いなく言い切った。自分達の納得のいくパフォーマンスをやりきることができたのだ。それならばAqoursが突破できていないはずはないと。さらに聖良さんにも言われたらしい。「見たところ、トップ通過している」と。
「だから昨日あんなに声上げてたのかよ……」
一眞は昨日、隣から聞こえてきた声の理由を聞いて1人納得する。とは言え、いつの間に情報交換するほどの仲になっていたのかが驚きではあったが、同じスクールアイドルでもあるし不思議ではないだろう。
すると、待ちに待ったメールの受信音がパソコンのスピーカーから発せられる。
開いてみれば、そこには『LoveLive! 予備予選結果発表』の文字。千歌を除く10人はモニターに釘付けだ。
「緊張するずら~」
ルビィは意を決した「いきます」の声を共にクリックした。
そしてクリック後、1番に表示されていたのは『Entry No.24 Aqours 予選突破』と言う文字と、エントリーの際に送ったグループの写真。
「もしかしてこれ、トップってこと?」
「ね?」
千歌、そして聖良の言葉通り予選通過。それもトップでだ。その喜びはすぐさまみんなへと伝達、そして体を動かした。花丸は果南に抱き着き、鞠莉と善子はハイタッチと堕天使のポーズ。以前の仲を深めたこと……それが現れているのだった。
そんな姿を戸惑いながら見ている人物が1人。
「ダイヤさんも!」
差し出された千歌の手を見て、彼女は困惑しながらも同じように右手を出した。
掌と掌があたる破裂音のような音が、部室の中で拡散するのだった。
~~
「とは言ったものの……」
「うっ……デジャヴ!」
「また!?」
机に突っ伏す千歌の言葉に、一眞と曜は不安げな声を上げてしまう。この切り出し方だとまた何かがやってくるような予感がするからだ。
梨子の「今度はなに?」という問いに、千歌は答えていく。どうやら…………資金が尽きたらしい。
説明会とラブライブ、2つのライブがあったため衣装費やら何やらでもうすっからかん……なのだそうだ。「この前千円ずつ入れたのに……」と果南の不満の声を漏らす。
「このままだと予算が無くなって……」
花丸が想像したのは、予算が無くなったまま仮に決勝に行けたとしても移動がスワンボートになるのでは? というものだった。
「沈むわい!」
「それは……嫌だな~」
善子と珠冬の声が聞こえる中、梨子は確認のためと貯金箱を手に取り蓋を取る。中から出てきたのは……
「Wow~! 綺麗な5円デ~ス!」
それだけだった。ルビィや果南がその事実に驚愕しているのも不思議じゃない。実際一眞も驚きで口がふさがらないのだから。
「ご縁がありますように」
「So happy~!」
「言ってる場合か!」
「掛けてる場合じゃないですってば、曜さん」
あまりに能天気な曜や鞠莉に善子はツッコみ、珠冬も注意している。そんなワイワイとしたところを見ているダイヤ。彼女が気になったのか千歌が尋ねると、「果南さんも鞠莉さんも、随分みなさんと打ち解けたと思いまして」そんな風に答えてくれる。
「果南
そんな中、花丸が果南に意見を求める声が聞こえてきた。
「果南……
今までとは異なった敬称で彼女が呼ばれていたことに、ダイヤは首を傾けるのだった。
場所は変わって淡島。そこで千歌が行っていたのは他でもない
「何卒5円を5倍、10倍、いや100倍に!」
神頼みだった。両手をこすり合わせ、一生懸命にお祈りしている姿を見守っている。すると曜は「100倍は500円だよ」と声をかける。500円では無理があるな……そう一眞は腕を組みながら考えていた。
「てか、神頼みするくらいなら……」
梨子の視線につられ、全員が”彼女”へと向ける。
『鞠莉
しかし
「小原家の力は借りられまっセーン!」
「ですよね~」
以前も言っていたように、今更言える訳もないだろうということだ。自分達の力でなんとかしなくてはいけない。
しかし
「鞠莉……
しかし、ダイヤは違った。その異なった敬称がまた聞こえてきたことに、彼女は再度首を傾げてしまうのだった。
~~
「バイト~!?」
翌日は沼津のスタジオでの練習となった。その休憩時間、2年生の4人は外のに設けられたベンチに座って求人誌に目を通していた。お金が無ければどうしようもない。考えた末に行きついたのが、バイトするしかないというものだったのだ。
「しょうがないわよ……」
「ああ、こればかりはしょうがねえ」
それしかないかと、4人は同じタイミングでため息を吐くとともに俯いてしまう。すると、「今度はなんですの?」と妙にソワソワしているダイヤがこちらに問いかけてきた。
「あ、はい……」
「お腹痛いんですか?」
「違います! ……い、いえ、何か見てらしたような……」
余計なお世話だと千歌の心配に声を荒げたダイヤだったが、何か思い出したかのように急に言葉を弱める。
「はい、内浦でバイト探してて、コンビニか新聞配達かな~って」
曜の説明を聞き、ダイヤは即座に彼女の隣へと座った。そのおかげで一眞は追い出されるような形になってしまったが……。だがそんなことは気にせず、当の彼女は「沼津の方がいいかもしれませんわね」とアドバイスをくれる。
確かに沼津の方が都会だけあって、アルバイトの数は多いだろう。曜も沼津のバイトが書かれたページを開き、どのようなものが載っているか挙げていく。カフェや花屋、変わったところでは写真撮影などがあるそうだ。
そのバイトの数々に心躍らせ、千歌は”面白そう”という理由で沼津でのバイトを決めようとしたが、それは彼女によって止められてしまう。
「ぶっぶーですわ! 安直すぎですわ! バイトはそう簡単ではありません!! 大抵土日含む週4日からのシフトですので9人揃って練習と言うのも難しくなります!」
ダイヤの剣幕に押され気味の4人ではあったが、確かにライブのための資金集めで練習できなくなるというのは本末転倒かもしれない。
一眞がそうこう考えている傍ら、ダイヤは「やってしまった」と言わんばかりの表情を見せる。しかし千歌たちが気付くことは無かった。むしろ逆に彼女の意見を受け止め、どうすべきかを再度考え直すべくダイヤへと尋ねる。
「なにかあります、ダイヤさん?」
「え、え~と……」
~~
「フリマか~」
「これならあまり時間も取られず、お金も集まりますわ!」
彼女が出した案というのは、フリーマーケット。古くなった生活用品を出すことが多く、幼児服など短期間しか身につけられなかったものを出すことだってある。さらには珍しい掘り出し物が置いてあったりする事もあるため、意外と侮れないのがこのフリマなのだ。
それが丁度沼津で開かれることになっていたのも幸いだった。それ故なのか、案を出したダイヤを称賛する声があちこちから聞こえてくる。善子も善子で彼女へ堕天使の羽根を授けていた。よくやった……という事なのだろう。
「フ、フフフッ……」
「ダイヤ……?」
「羽根はつけるんですね……」
しかし、その後羽を付けてひとり笑っている姿は不気味だったが本人は気付いていないだろう。
「え、なに……なにかあったの?」
明らかにいつものダイヤとは異なったので、たまらず一眞は近くにいた珠冬に尋ねる。
「そんなの私が知ってるわけないでしょ……!?」
予測していた言葉がそのまま返ってきた。ならば仕方ないと一眞は向き直る。そこには半分に切られたみかんの被りものを着た千歌の姿があった。美渡の会社で使わなくなったものを借りてきたと言うが、一体何のために使うやつだったのだろう……。そんな考えを巡らしている暇もなく、ぬいぐるみを買おうとする少女が来た。
「これ、いくらですか?」
ペンギンのぬいぐるみを抱えて尋ねてきた。
「どうしようかな……」
「値段考えてなかったなそういや」
「でも、これしかないけど……」
そう言ってポケットから取り出したのは5円玉。つくづく5円に愛されているみたいだ。
「え~と……」
「千歌、こりゃ流石に……」
しかし少女は下から彼女たちをウルウルとした目で見つめてくる。所謂上目遣いというものだ。
「「……」」
千歌と一眞は互いに見合わす。「どうする?」と。そして………
「ありがと~!!」
「「まいどあり~!!」」
結局、5円で売ってしまったのだった。しかし、少女が嬉しそうだったからそれでもいいかと思ってしまう。
「よかったね、倍だよ!」
「弁天様のおかげだね」
そんな声が聞こえてくるがダイヤは「ちゃんとなさい」と両者を注意する。活動資金なのだから稼がなくてはいけない。その為には心を鬼にするべきだと。
ダイヤは言った通り、一歩も引かない姿勢を見せフリマに臨んでいくのだった。あまりに強気になりすぎてお客に指を指してしまったのはなんとも言えないが。
「いろんなのが出てるんだな~」
客の数が少なくなった頃、一眞は辺りを回ってみることにした。なにか珍しいものは置いてないかと、ちょっとした冒険心が働いたのかもしれない。とはいっても買うつもりはなかったが……。
「ん、なんだ……? アクセサリーも売ってんのか」
遠目から彼が見たのは、青い宝石のようなものがはめられたネックレスやピアス、イヤリングが売られている光景だった。ものがものだけに多くの女性がその場にはおり、
「アヒルボート決定ずら……」
そろばんをうち終わった花丸の沈んだ声が聞こえた。売り上げが低かったため本当にどうにかしなければいけないのだが、話題はダイヤのことへとたちまち移ってしまう。
「何者にも屈しない迫力だったわね」
「さっすがダイヤさん」
「だよね」
褒められているのだが、当の本人は肩を落としている。売り上げのことなのだろうか、はたまたは別の……
「それに引き換え、鞠莉はそんなの持ってくるし……」
果南の声につられて鞠莉の方へと視線を移せば、そこには自分を模した象のようなものを彼女は軽トラに積み込もうとしていた。売れなかったので持って帰るのだ。美渡も売るとは思っていなかったようで、呆れ全開の声が聞こえる。
「これ、ホテルにあったような……」
「見た目より軽いんだな……それ」
その像を見ていた珠冬の、朝から思っていた疑問の声、そして軽々と持ち上げているさまを見た一眞の声が聞こえてくるが、それよりもと鞠莉は善子のことを引き合いに出す。
「それを言ったら善子だって売り上げnothingデース!」
善子が持っているのは黒い羽根の入った段ボール箱。しかし中身が減っているようには思えなかった。
「……ヨハネよ」
すると風が羽根を舞い上げてしまう。その光景を見て「まるで傷ついた私の心を癒してくれているかのよう……」なんて思いに耽る善子。しかし「バカなこと言ってないで急いで拾いな!」という美渡の怒声に背中を押され、全員で拾うことになってしまう。
「……鞠莉さん」
「どうしたの、一眞?」
気になりすぎた一眞は遂に鞠莉へと問いかけてしまう。理由は簡単。近くで首を垂れている生徒会長のことである。
「ダイヤさん、なにかありました? なんか、いつもと調子が違って見えたから……」
「ナニナニ~、一眞はダイヤのこと気になってるの~?」
鞠莉はすぐさま身体を押し付け、ジト目で聞いてくる。これは彼女がよくからかう時にしてくるやつだ。
「いや、違いますって! ただ気になっただけです。それ以上でも以下でもないですよ。てかなんでそうなるんですか……!?」
「それもそれでダイヤが傷つくと思うけど~?」
「ええ……」
一眞の反応を楽しんだのか、「It's joke!」と笑って見せる。そして先よりは真剣な面持ちになる。
「ダイヤのことは、マリーと果南に任せておきなさい!」
そう言われてしまったのであれば、幼馴染である彼女たちに任せるのが適任だろう。そう判断した一眞は鞠莉たちに後を託すのだった。
~~
巨大なプールからイルカが飛び上がるさまを見ていたのは、小さな園児だけではなかった。千歌のほかに1年組も混じって見惚れているのだ。
「えっと~じゃあ、仕事いい?」
何処からか曜の声が聞こえてきたため千歌は周りを見渡すが、当然曜の姿はなかった。
「曜ちゃん、どこ?」
「ここだよ~!」
水族館のマスコットキャラに扮した曜が手を振る。
「にしても慣れてんな~」
「前にもバイトしたことがあるからね」
感心した一眞は、園児の邪魔にならない程度に目の前のマスコットをのぞき込んでいた。
今日は水族館でイベントがあるからと、1日だけのアルバイトを頼まれたのだ。これも曜からの紹介であるため、彼女には感謝しなくてはいけない。
ここからは数人にわかれてそれぞれに割り振られた仕事をこなしていく。
売店ではダイヤのほかに、千歌や花丸、珠冬が担当していた。
「うどん、もう一丁!」
「まるは麺苦手ずら」
「まあまあ、そんなこと言わないで……」
「ほら、のんびりしている暇はありませんわよ!」
ダイヤの喝に3人の間の抜けた返事が返ってくる。しかし、その後ろでダイヤは思い出したかのように目を見開く。そしてソロソロと千歌の方に寄っていき……
「ち、千歌さん……? き、今日はいい天気ですわね~」
他愛もない話題を振ってきた。しかしあまりに突然、さらにダイヤらしくないそれに千歌は固まる。
「花丸さん、うどんはお嫌い?」
花丸にも振るが、彼女も同じように固まってしまう。加えて怯えているように見えたのは気のせいではないだろう。
「珠冬さんは、なにか好きな食べ物はありますの?」
ここまでくれば珠冬も同じ反応だった。
「なに? なにかあった?」
「……あったずら?」
「わからないずら。けどあれは多分……」
その不自然なほどの話題と、ダイヤの笑顔……。
「え……もしかして……」
そこから導き出されてしまったものに珠冬は声を震わせた。そして3人の声が綺麗に重なってしまったのだった。
「「「すっごい怒ってるずらぁぁぁ~~!?」」」
さらに屋外のステージを掃除していれば、梨子とルビィがアシカの餌を持ってきた。しかし餌を持っていることでアシカが近づいてきてしまい、2人はパニックで逃げてしまう。それを何とかダイヤが笛を使ってプールへと戻すことで事なきを得た。しかし
「ダメですわ……。こんなことしていたらまた硬いと思われて……」
本人は何故か落ち込んでいた。そんな彼女の姿を梨子は捉えていたが真意は不明のままだ。
今度は園児たちの相手をしている曜、善子、一眞の元へと向かったダイヤ。
「はい、風船どうぞ」
ダイヤの目の前では風船をあげたり、おなじみの「ヨハネ降臨!」で園児たちを楽しませている姿があった。
「僕はウルトラマンだぞ!」
「ぼくも!!」
そう言って善子を怪獣にでも見立てているのか、腕を十字に組んだ園児の姿もあった。しかし善子も「この堕天使ヨハネにその程度の攻撃など……」とか言って一緒に遊んでいるので問題はなさそうだ。
「みんなのヒーローだね」
園児たちの姿を見つめていた一眞に、曜は話しかけた。
「やめろよ、なんか妙に照れ臭いし……」
自分がこのように、憧れの姿として子どもたちから見られているのかと思うと、とても恥ずかしく感じてしまう。
「いいじゃん、どうしようもなくなった時に助けてくれる、光の巨人さん!」
そう言って肩を叩かれるも、彼は動かなかった。それは園児たちの様子、そして曜の言葉がはるか昔、母星で光の巨人のことを話していた少女のことを思い出させたからだった。
「カズくん?」
「……あ? ううん、大丈夫、大丈夫。もう少し風船配るよ!」
そう言って一眞は風船をいくつか手に取って、園児の方へと出向いていく。
「よ、曜……ちゃん」
そんな中、ダイヤは曜に呼びかけた。今まであまり使ったことのない敬称を付けて。その為かほぼ聞こえなかったみたいだが。
「ダイヤさん、何か言いました?」
「いえ、その……」
「ダイヤさんも配ります?」
そう言って風船を差し出す曜。風船を手に取る前に、ダイヤは彼女のことをこう呼んだ「
その衝撃でうっかり手を離してしまった風船は天井へと向かっていく。
「善子ちゃん、一眞くんもおアルバイト頑張りましょ~!」
そのままスキップで横切っていくダイヤを見送る善子と一眞。その表情は凍り付いたかのように固まってした。そして目線だけがダイヤを追っていく。
「……ヨハネよ」
「そこ!?」
「違った?」
「いや、それよりも!」と一眞。そして3人は集まり、さっきの違和感を確認しあう。明らかにいつもと違うダイヤであることが逆に怖いのだ。
「今の背筋に冷たいものが走る違和感……」
「わかる……」
「天界からの使者によってもう一つの世界が現出したかのような」
「なんだそれ……」
後半の例えはよくわからない。しかし感じたものは一緒らしい。
「お姉ちゃんが変?」
「なんかすごい怒っていたような……」
「悩んでいたような……」
人が少なくなってきたタイミングで8人は集まり、ルビィに相談する。妹であれば何か知っていると思ったが、どうやら彼女にもわからないようだ。
「あれは、闇に染まりし者の微笑み……」
「かどうかはわからないけど」
「じゃあ、誰かがダイヤさんに成りすましている……?」
あられもない方向へと話が展開していきそうな予感がし始めたため、口を出さないようにしてきた果南と鞠莉も、動かざるを得なくなってしまった。
「ダイヤ……ちゃん?」
今までの事情を説明してくれた果南と鞠莉。千歌が聞いたまま返すと、2人は困り気味ながらも首を縦に振る。
「みんなともう少し距離を近づけたい……ってことなんだと思うけど……」
そこまで聞ければ、一同は成程なと納得する。会話の振り、頼りにされ過ぎること、そして名前の呼び方……ダイヤは彼女なりに距離を縮めようと努力していたのだ。
「じゃあ、あの笑顔は怒っているわけじゃなかったずら?」
「悪いことしちゃったかも……」
花丸は安堵し、珠冬は申し訳なさそうに呟く。
「でも、可愛いところあるんですねダイヤさん」
意外な一面だと梨子はそう口にする。しかしなぜ言わなかったのだろうと曜は不思議に思う。それは果南も同じみたいだ。
「つってもなかなか言い出せねえよ、こういうのって」
「でも、ダイヤは昔かっらそうなの。小学校の頃も、私たち以外はなかなか気づかなくって……」
「真面目でちゃんとしてて、頭がよくてお嬢様で……頼りがいはあるけど、どこか雲の上の存在で……」
「みんなそう思うから、ダイヤもそう振舞わなきゃってどんどん距離をとっていって……」
昔も現在の生徒会長のようにみんなの先頭に立ち、率先して何かをやってきたのだろう。みんなの前に立つ姿と言うのは、どこか大きく見えるものだ。そして自分とはどこか遠いものなのではないかと錯覚させる。前に立ち、頼りにされているから、ダイヤもそうあらねばと受け止めてしまう。
「本当は、すごい寂しがり屋なのにね」
すると、遠くから「すいませーん」と声が聞こえてきた。スタッフを呼んでいる男性……若い青年のようだ。
「オレがいこう」
そう言って一眞が立ち上がり、男の方へと向かう。
「……」
「どうしたの、曜?」
そんな遠ざかっていく彼の後ろ姿を見ていた曜を、不思議に思った善子は声をかける。
「ううん、ちょっと気になって……」
気のせいかもしれないが、彼に違和感を感じていたのだ。さらに、立ち上がる前にも何かしていたようだが、視界の端に入っただけで細かくは見ていなかった。
「えっと……トイレならここを曲がって~」
一眞は場所を訪ねてきた男性を案内していた。口で説明するよりも、付いてきてもらった方が確実だと思ったからだ。
「クククッ……バカだな」
「はい?」
背後から聞こえてきたその声に一眞は足を止める。聞き間違いかなと、一眞は再度尋ねるように振り向けば――――
発砲音と共に、左胸……心臓の付近に何かが着弾した。
「な――――あっ――――――」
何もわからないまま、一眞は地面に倒れこむ。
「ヒ、ヒヒヒ……オレガ、オレガオーブヲタオシタ……コレデアトハ……エネルギーヲコノシセツカラモラウダケ……」
横たわった彼を確認しながら地球人の青年は、昆虫のような巨大な複眼と金色の服、透明な上着が特徴の宇宙人へとその姿を変えた。
そして一眞が動かないことを確認すれば、すぐさま踵を返す。この水族館で何かをするために……。
最新話でした。
いきなり急展開過ぎましたね。まあ、いつものことなんですが。ダイヤのことがわかってきた反面、何やら企んでいる者がいるようです。
それもすべては次回のお楽しみという事で……