一眞が人型の強襲者に襲われてしまった頃、水族館のショースタジアムではちょっとしたトラブルが発生していた。
その音はAqoursとの仲が深まらないと落ち込んでしまい、海を見つめていたダイヤの下にも届くくらいには大きかった。
どうやらそれは、水族館に来た園児たちがはしゃいでいるが故の声だったようだ。滅多に来ることはないし、来てみれば自分の知らない生物たちが近くにいる……。そんなある意味非日常的なその体験が、子どもたちを刺激しているのだろう。引率の先生の「待ちなさーい!」という声も聞かず飛び出していくそれには、園児故のパワフルさと危なさが併存していた。
「もぉ、みんなー! ちゃんとしてよぉーー!!」
1人の園児が皆に呼びかけているが、誰の耳にも入っていないようだ。気にもせず自分のしたいこと、目についたものへと飛び込んでいく。好奇心に溢れているのは良いが、小さいその身に何が起こるのか想像がつかない。なにかがあっては遅いのだ。
駆け付けたダイヤの目線の先にいた、注意をしようにも聞いてくれない園児の姿。そんな彼女の姿が、かつての自分と重なっていく。
「わあ!? なにこれっ!?」
ダイヤとはまた別に、スタジアムにいた千歌たちも横をすり抜けて行ったり、目の前ではしゃいでいる園児たちの姿を見て固まってしまう。来てみれば、縦横無尽に子どもたちが駆け回っている光景が目の前にあるのだから無理もない。
「こらだめよ」
梨子は走り回る子どもに注意を促したりもしているが、ほとんどが聞いていないみたいだ。
「ダメだ、全然言う事聞いてくれない……」
ルビィの震える声も、その喧噪に打ち消されてしまいそうになるくらいだ。収拾がつかなくなってしまう前にどうにかしなくては……と言いたいところだが、既につかないと言われてしまうくらいには大混乱となっている。
すると、1人の園児が善子の衣装に触れる。グラデーションの綺麗な羽根というのは、園児にとって珍しいものだったのだろう。しかし善子はたまらず「こらっ!」と声を張り上げてしまう。
それがまずかった。小さな子が善子くらいの歳の子に声を張り上げられれば、一体どうなるか……。上げた本人でもある善子ですらも「やってしまった……」と一瞬とはいえ先の感情の変化を後悔していた。
「なーかした、なーかした~」
横でジト目ながらも弄ってくる花丸に、善子も軽いパニックに陥る。
「どーしよ……」
「収拾がつかないよ」
あるものは泣き、あるものは関係ないと走り回る。果南と鞠莉すらも、この状況にはお手上げだった。
「ちゃんとしてよぉ………」
自分の声はもう届かないというのは、年若な彼女にもわかっている事だろう。しかし、先頭に立つものとしては止めなければならない。ちゃんとしなくは……そう思っていた彼女の心が音を立てて簡単に折れてしまう直前――――
スタジアム全体を、そしてなによりここにいる全員の鼓膜を……たった1つの笛の音が震わせたのだ。
そして視線は自然と中央のステージに集まっていく。
「さあ、みんなスタジアムに集まれぇー!!」
みんなから一番目立つ位置であろう、飛び込み台の上に立ったダイヤ。彼女の呼びかけに園児たちは一目散に集まっていく。
「園児の皆、走ったり大声を出すのは他の人の迷惑になるから、ぶっぶーですわ。みんな、ちゃんとしましょうね」
ダイヤの注意を素直に聞き入れ、元気よく返事してくれる園児たち。さらに、園児たちを退屈させまいとステージ上で舞を披露する。その途中でウインクするダイヤ。それは彼女と同じよう、皆を統率しようとした園児に向けてのものだろう。園児にとってはダイヤの姿が憧れを抱く大きな姿に見えたに違いない。
そのまま丸く収まり、1日が終わるだろうとなった時……。
「動クナ!」
そんなしゃがれたような妙な声と共に、銃弾を発射する音が聞こえた。
「なんですの!?」
一瞬にして緊迫した空気が場を支配する。そして現れたのは、昆虫のような巨大な複眼と金色の服、透明な上着……そう、一眞を撃った張本人でもあるシャプレー星人だ。
「一体、どういうつもりですの……?」
恐る恐る、ダイヤは目の前の星人に問う。何故ここを襲ったのか。立て籠もりでもして、身代金を要求する……訳でもなさそうだ。
「鞠莉、どうする……?」
「ここはあのAlienの言う通りにすべきよ。下手に動いたら、ダイヤや園児たちが危険……」
そうは言っても、親友に銃口が向けられている光景を目にしながらも助けに行けないというのは辛いものだ。黙って見過ごしたくなどない鞠莉は唇を噛んでいた。
「オレガ求メテイルノハ、コレダ」
そう言って取り出したのは片手で持てるくらいの大きさの石……鉱石と言ったほうが良いかもしれない。そんな代物だった。
「コイツハ、ヤセルトニウムダ」
それが手に持った青く光る鉱石の名のようだ。さらにシャプレー星人は説明を続ける。
「マッタク……アクセサリーニシテ広メテモ、時間ガカカリ過ギルカラナ。ンデ思イツイタワケヨ。生体エネルギー豊富ナ子ドモヲ使エバイイッテナ」
ヤセルトニウムには、人間から生体エネルギーを吸い取って母体石に移すことが可能という特性がある。彼の考えていることは最短で、最速でエネルギーを集めようという事。だからこそ、生体エネルギー豊富で、尚且つ多くの人数がいるここを狙ったのだろう。
加えて、オーブの抹殺も含めていたのかもしれないが……。
「今日カラココハオレノ人間牧場ダ。ホラ、サッサトコッチニ来イ!」
「ウ、ウルトラマンが助けに来てくれるもん!」
園児の中の1人が恐怖しながら声を上げる。すると追従するように「そうだそうだ」という声が園児の中から上がるが、シャプレー星人は笑いながらその言葉を否定する。
「ハハハハハッ、無理ダナ。ウルトラマンハ助ケニ来ナイ。何故ナラオレガ始末シタカラサ!!」
誇らしげに語るその姿に、ダイヤたちAqoursは園児たちとは違う意味で驚愕する。ウルトラマンの始末……それは即ち”一眞の死”であるからだ。そう言えば彼の姿を見ていないと思い返せば、全身に寒気がまとわりついてくるのがよくわかる。
「来る! 絶対に来てくれる!!」
しかし、園児たちに彼の言葉は通じなかった。ウルトラマンは来ない。そう言われても尚、彼らは信じているのだ。ピンチになれば駆けつけてくれる……光の戦士の存在を。
「ウッセエガキダ……丁度イイ、ヨク見トケ。オ前ヲ見セシメシテヤル」
シャプレー星人の銃口は、園児に向けられる。今の状況がどういうことか、そして自分に迫る運命が何なのか、園児なりにも理解していたのだろう。目は見開いて歯を鳴らし、脚が震え体は動かない。
だがそんな小さな体の前に、水色と白のストライプが重なる。
「オイ、ソコヲドケ」
「いいえ、退きません」
黒い長髪を揺らし、青緑の瞳で目の前の星人を睨む。彼女の行動に果南や鞠莉は飛び出そうとする。しかしダイヤ自身に、それを止められたのだった。何も言わず、ただ首を横に振るだけで。
「へッ、オ前ゴトキに何ガデキル、ウウン?」
「わかりません……。わたくしには彼のように戦う力を持ってはいませんから」
なら退いてろとシャプレー星人は言いかけるが、ダイヤの「ですが!」という声に止められる。
「それが”守らない”という理由にはなりませんわ」
「知ルカ、早ク退ケツッテンダヨッ!!」
しかしダイヤは屈せず、しっかりと立つように足を広げ尚もこのような言葉で言い返した。
「いいえ! わたくしはここから一歩も退きません!」
「ソウカ、ジャアオマエガ最初ダ。オ友達ニモ看取ってモラエ!!」
激昂したシャプレー星人は光線銃の引き金を引いた。すれば同じくらいのタイミングで、果南や鞠莉の声が聞こえる。「ごめんなさい」と彼女は2人に、そして千歌たちへ心の中で謝罪を述べた。
――――しかし、数秒後に来るであろう衝撃や激痛といったものが、彼女を襲うことは無かった。
恐る恐る瞼を持ち上げれば、ドーム状の透明な膜が宇宙人を覆っていたのだ。
「てめぇ如きがダイヤさんたちに手ぇ出してんじゃねえぞ!!」
そんな声が聞こえてきた気がすれば、上空からシャプレー星人目掛けて小惑星の如き光が衝突した。
星人を吹き飛ばし、彼の立っていた場所に光が降り立つ。すると、赤と紫の光が徐々に収まっていく。それは人型の形となり……
「あっ!?」
その後ろ姿を視線に捉えた園児は、彼が誰なのか理解すると思わず歓喜の声を上げる。
「「「ウルトラマン!!」」」
「かz……ウルトラマン……!?」
園児たちと共に、目の前に立つ戦士の名を口にするダイヤ。そして彼が無事だったことに安堵し、口元をほころばせる。
オーブ スペシウムゼペリオンは頭だけをこちらに向ける。光り輝く双眸がダイヤの目と合えば、彼は静かに頷いた。ダイヤはすぐさま園児や保育士たちとともにその場を離れていく。
「ナ、何故ダ!? オ前は、オレガ確実ニ撃ッタハズ……」
シャプレー星人は状況を飲み込むことができない……いや拒否していた。自分が撃ったはず、案山子同然となった彼の横たわった姿も見た。なのに、今ここでウルトラマンとして立っている。その紛れもない事実に彼は狼狽える。
(……つっても、俺もよく覚えてるわけじゃないんだけどな)
不思議なことに、一眞自身も生きていたことが驚きだった。
撃たれて気を失い、数分後に起き上がった。
不思議に思いつつ、撃たれたはずの胸元に手を当てる。その違和感に気付き、胸元につけられたポケットに手を入れてみた。そこにあったのは、ウルトラマンのフュージョンカードだ。
「カードが防いでくれた……ってことか?」
事実、それしかないだろうと自分に言い聞かせる。しかし、自分がこれを入れた覚えはない。まず、入れようとすら思わないだろう。
(そういえば……)
一眞はあることを思い出していた。それはダイヤのことを果南や鞠莉から聞いた場面、そして男性を案内する場面だ。しかし、その間の部分だけが少し曖昧なのだ。まるで、
「コノ、ナラモウ一度撃チ殺スマデダァァァァァ!」
光線銃から弾が撃ち出される前に、オーブの身体が紫色に輝く。目にもとまらぬスピードで突撃。撃つ暇も与えられず、気付けば拳で吹き飛ばされていた。
(もう撃たれんのは懲り懲りだからな)
オーブの体が赤く輝き、怪力で光線銃を破壊する。激昂の声を上げてこちらに向かってくるシャプレー星人を見据え、オーブは構える。
顔を狙ってきた右腕を絡ませ、逆にこちらの攻撃を与える。腹部への蹴り、首元への肘打ち。そして渾身のアッパーカット。しかし背中から落ちてもすぐさま起き上がる。オーブは迫りくる拳の乱舞を往なしていき、反撃の機会を伺う。鞭のようにしなった蹴りが迫ってくれば、前転で躱す。
(背中がガラ空きだ!)
オーブは飛び上がり、2連撃の蹴りが背部に決まればシャプレー星人はその衝撃につんのめる。
「コノ……ウルトラマンガァァァァ!!」
空高く飛び上がったシャプレー星人と同じように、オーブも飛んだ。次第に近づいていく両者……。そして手刀どうしが一瞬にして交わり着地。両者ともに、振りぬいた姿勢から動くことがない。
「……グッ、アア……ァァ……」
しばしの沈黙の後、シャプレー星人の体が地面へと倒れ伏したのだった。
シャプレー星人が倒れたことで、緊張の糸がほぐれた。オーブはそのまま消え去ろうとしたが、ウルトラマンを見た園児たちが一斉に走ってきて彼の周りに集まった。
「ウルトラマンだー!!」
「握手して~!」
「大きくなったらオーブさんみたいになる~!!」
色々と声をかけられるが、彼が喋ることは無かった。
(喋ったら……ダメだよな……でもいいのか……? う~ん……)
なんとなく喋らないほうが良いかなと、彼は内心悩んでいたからだ。そして出した結論は……
「シュ、シュワァ……」
とだけ。後は首を振ったり握手をしたりするくらいの、ボディーランゲージでなんとか意思表示をする。
後ろで苦笑しているAqoursの視線がチクチクしているが、今は気にしないでおこう。
「バカメ! マダ終ワッテナイゾ!!」
そんなシャプレー星人の声が空気を引き締める。満身創痍ながらも、彼はヤセルトニウムを取り出した。
「オレガダメナラ、コイツニヤッテ貰ウゼ。コノ石ニ溜メ込ンダエネルギーデ……出デヨ、ベムラァァァァ!!」
天に向けて突き出したヤセルトニウムがスパーク。地響きと共に降り立ったのは全身に鱗と鋭い棘が生え、小さな前肢と長い尾を持った怪獣だった。しかしヤセルトニウムに強化されているのか、鉱石のように青くなった背びれと、頭に生えた2本の角が特徴だった。
「早く逃げましょう!」
園児たちを先導するダイヤと一瞬だけ目が合うと、互いに頷きあった。それぞれの役割を果たし合おうという決意の表れなのかもしれない。
すぐさまオーブは屋外へと出ていき、右の拳を突き出して巨大化していく。
目につくもの全てを破壊していくベムラーにすぐさま飛び掛かるオーブ。開幕一番に脳天へと手刀を打ち込み、さらに首筋には両腕で放った。
そして生まれた隙にはすかさず、跳び蹴りを食らわして距離を離す。
「■■■ッーー」
首を振って迫ってきた巨体を抑え込もうと両手で受け止めるも、ベムラーの角が発光。伝達してきたように口から光が漏れだす。刹那、青い口から吐かれた”ハイパーペイル熱線”が至近距離のオーブに襲い掛る。
抵抗してくる首の力をどうにかねじ伏せ、光線が当たらないように回避。狙いを外した熱線の威力で地面から破片が飛び散り、周囲に降り注いだ。
(当たったらマズいけど、無暗に避けるわけにもいかねえ……)
避けるのに越したことは無いが、それだけでは周りにも被害が及んでしまう。避難したとはいえ、近くには人もいるのだから気は抜けない。彼は先の熱線でドロドロに溶けた地面を見下ろし、すぐさま駆け出した。
「■■■、■■■ァァァ!!!」
まるで悪魔のような風貌に向けて2連撃で足を振るう。1連撃目は避けられるが、2連目は頭部を捉えることに成功した。さらに首元へと飛び掛かり、共に回ることで平衡感覚を狂わせる。そしてすれ違いざまに放った渾身の蹴りが再度ベムラーに隙を生んだ。
(これで……終わりだ!)
トドメをさすために、オーブは十字に腕を組んだ。
(スペリオン……光線っ!!)
だがあろうことか、放たれた光線はベムラーの角に吸収されてしまったのだ。すぐさま角から伝達していけば、威力が上乗せされたハイパーペイル熱線が無防備のオーブに衝突した。
軽々と宙に飛ばされ、地面に倒れこんだオーブのカラータイマーは遂に点滅を始める。
(まさか……光線は全て吸収ってか……? あんの野郎、厄介なモノ呼びやがって)
呼び出した暗黒星人に毒づくオーブ。光線を吸収してする……というのは、以前に戦った台風怪獣に通ずるものを感じていた。
「がんばれー」
「がんばってー」
すると、彼の強化された聴力がある声を捉えたのだった。視線を向ければ、先ほどの園児たちがウルトラマンに向かって声を届けている。そこにはダイヤをはじめとしたAqoursの面々もいた。
(みんなのヒーロー……ね)
どんなに絶望的でも、必ず立ち上がり人々を守る……そんな背中を見せる者がいる。だからこそどんな状況でも彼ら、彼女らは強くいられる。信じてくれる。
その声が、力に、光になる。
(光の巨人が……いつまでも倒れてるわけにはいかないよなっ!)
ベムラーから放たれた3度目の熱戦がオーブを直撃。しかし、爆発が起きることは無かった。
「ク、ググゥゥゥォォォ……」
何故ならそこには、オーブカリバーで熱線を防ぎ続けているオーブオリジンの姿があったからだ。
簡単に体を浮かすほどの威力を持つ熱線に押されそうになるも、腰や足に力を入れて踏みとどまるオーブ。
「ウ……オオ……!」
そして遂に熱線を退けたオーブがベムラーへと踏み込んでいく。
瞬時に振り下ろし、再度斬り上げる。その閃光のようなV字斬りがベムラーの角を斬り落とした。悶絶の声を上げるベムラーから離れたオーブは聖剣を構えた。
(今度こそ……トドメだっ!)
オーブカリバーに内包されている4属性の1つ。火のエレメントを選択。目の前で日輪の如く描いた炎をベムラーに向けて飛ばすと、高速回転で火の玉となりヤツを拘束。
己の声と共に、天から地へと振り下ろされた紅の縦斬りが、悪魔の如く凶悪なその姿を爆発させるのだった。
戦いの後、様々な声を上げる園児たちをを見下ろすオーブ。彼はただただ静かに首を振り、空へと飛翔していくのだった。
~~
「結局、わたくしは、”わたくし”でしかないのですわね……」
全てが終わった後、ダイヤは1人そう呟いた。試行錯誤しながらも、やはり先頭に立つものとして様々な念を抱かれ、ぎゅっと仲が深まることは無いのかと……。”ダイヤさん”でしかないのかと。
「ダイヤさん!」
そう考えていると、やはりその敬称で近づいてくるものが1人。もう見ずとも、その声で誰なのかわかってしまうのだが。
「一眞さん。皆さんからは逃げてきたんですの?」
「あ、いや~……そんなところです……」
一眞はあの後、心配したとかその他諸々でみんなに説教されていたのだ。彼女らのジト目は心臓にあまりよくないと先の一件で分かった。
「それよりも、今日は本当にすみませんでした。それと……ありがとうございました!」
真面目な口調になった一眞は、そう言ってすぐさま頭を上げた。向けられた本人は「い、いきなりなんですの?」と困惑している。
「今日のアレは、ダイヤさんがいたから俺も間に合いました。俺はただ戦う事しかできなかった……ダイヤさんが守ってくれていたからこそなんです。ヒーローは俺なんかじゃなくて、ダイヤさんですよ」
ダイヤは言葉を失う。あの星人に向かって自分は力が無いと言ったのに、彼にはヒーローだと言われた。そのことで混乱しているのかもしれない。
「それに……」
「”ダイヤさん”には”ダイヤさん”でいて欲しいと思います」
一眞の次に聞こえてきたのは千歌の声だった。
「確かに、果南ちゃんや鞠莉ちゃんと違ってふざけたり、冗談言ったりできないなって思うこともあるけど……。でも、ダイヤさんはいざとなった時頼りになって、私たちがだらけているときは叱ってくれる。ちゃんとしてるんです」
ダイヤだからこそできることも、してくれることもある。別に”ダイヤさん”であるということは、仲が深まっていないという事ではない。”ダイヤさん”であるからこそ、みんなとの関係も強く結びついている。信頼している。
「だから……みんな安心できるし、そんなダイヤさんが大好きです」
千歌が「ね!」と呼びかければ、全員が笑顔で頷く。もう既に、ダイヤちゃんと呼ばれる以上の関係になっていたのだ。
「だからこれからもずっと、”ダイヤさん”でいてください。よろしくお願いします!!」
千歌の……Aqpursの言葉に、彼女の瞳からこぼれ出た雫。それをどうにか落ち着けて、彼女は振り向きながら答える。
「わたくしはどっちでもいいんですのよ……別に」
そう言って右のほくろの辺りを掻く。それが何を意味するのか……それは果南と鞠莉の2人のみぞ知る……ということなのだろう。
ありがとうと、改めてよろしくと言う意味を込め、千歌の掛け声の後に――――
『”ダイヤちゃん”』
そう呼べば、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
「ク、クソ……ナンデダ……オレガ負ケルナンテ……」
暗い夜道をおぼつかない足取りで歩くシャプレー星人。彼は今度こそと、右手に持ったヤセルトニウムを見つめる。
「いいえ、あなたには”次”なんてもの、存在するわけないでしょ?」
闇夜に紛れ込むかのようなドレスと、月明かりが照らし、光沢を見せる肌。
「キ、貴様ハ――――アッ―――――アア―――――」
その言葉を最後に、シャプレー星人は息絶えることになった。
「ふーん、これがヤセルトニウムねぇ……随分と使えそうな代物ね」
「そうかい、それはよかった」
ヤセルトニウムを見つめる女……ヴィルゴの横に立ったのはアオボシ。彼もまた左手にダークリングを持っていた。
「……なに?」
前回の”いやがらせ”のせいか、彼女の嫌悪は以前よりも膨れ上がっているようだ。明らかに嫌悪する声だったのだから。
「ダークリング、君に譲ろうと思って?」
「どういう風の吹き回しかしら、私から奪っておいて今度は譲る? 頭を見てもらったほうが良いんじゃない?」
「君も同じようなモノだろ?」とつけ、アオボシはリング内に集まった4つのエレメント、その残り香とともにリングの羽根を展開した。すると空間が捻じれていく、そして1つの点に集まっていけばとあるアイテムが生まれた。それはまるで小型化した――――
「それがあるからもういらない……ってこと?」
「ああ、そうなるね。これで君も存分に楽しめるんじゃないか?」
彼の言葉には何も返さず、ダークリングだけをぶんどっていったヴィルゴはそのまま闇へと消えた。
「ありがとうな、君の働きは最後のエレメントを使わせたことだ」
既に亡骸となったシャプレー星人”だったもの”に話しかけるアオボシ。
「さあ、ようやくだ。これで君と対等に戦えるよ、シリウス……」
手に持ったソレを月に翳す彼は、これからのことに興奮を隠しきれないよう……。獣じみた邪悪な笑いが、辺りに響いていた。
ついにエレメントが揃った。やったねアオボシ!
そしてヤセルトニウムを奪い、ダークリングを手にしたヴィルゴは何をやらかすんだか……