投稿遅くなりました……すみません。
街中を疾走し、蹂躙していくホロボロス。ヤツが走った後に残るのは、赤い目から零れた残光と崩れていくビル群のみ。さらに、上半身を駆け巡る青白い雷を一気に解放。それは神の怒りの如く、強力な落雷が広範囲を瞬時に崩壊させた。
先ほどまで可愛がっていた存在が、今は無慈悲に爪を振るい、雷を呼び起こす姿に梨子と善子は立ち尽くすしかなかった。
「そんな……」
「……」
彼女たちは、数刻前の自分を後悔しているのかもしれない。彼女らにホロボロスを奪われなければ、もっと遠くに逃げていれば……。後悔しても仕方ないのは本人たちも承知のはずだ。でも
「私、何もできないのかな……」
「じゃあ、どうするっていうのよ……!?」
そのやり場のない感情から変換された怒りを、たまらず梨子へとぶつけてしまう。しかし、自分の行動が筋違いだという事に気付き「……ごめん」と即座に謝る善子。
しばらくすると、2人に遅れて走ってきた一眞が寄り添う。
「梨子、善子、せめてもっと安全な場所に────」
「一眞くん、どうすればいいのかな……今のノクターンは私も、善子ちゃんの声も聞いてくれない……」
彼の言葉を聞く暇などなく、梨子は一眞の腕を掴んで尋ねてしまった。
もう手遅れなのだろうかと、俯きながら零してしまう梨子の目には、既に多くの涙が溜まっていた。すると横から、「私のせいよ」と善子が小さな声を漏らす。
「私のせいよ。あの子を拾いさえしなければ……こんなことには……」
再度言葉にした善子。今の彼女は、あの出会いを否定してしまいそうなほど追い詰められている。だがそれを認めてしまえば、”出会った運命”ですら善子の敵となってしまう。それだけは絶対にさせたくないと、聞いた瞬間に一眞は思った。
「まだ、まだ終わってない! アイツには、まだ声が届いてないだけだ。善子、お前がネメアーと出会ったのが運命なら、アイツは絶対声を聞いてくれる」
一眞はまっすぐに彼女の目を見つめて言葉を紡いだ。
「梨子も、見えない力があるって言ってたろ? だったら、ノクターンとお前の間には見えなくてもしっかりと紡がれたものがある。それ信じろ」
梨子にも声を投げかけると、少しだけだが2人の表情がマシにはなった。それを確認した一眞は少しだけ頬を緩める。
「俺が時間を稼ぐから、2人はアイツに声を聞かせてやってくれ」
それだけを託すと、一眞は獅子が未だ暴れる街中へと走っていった。
「人間がホロボロスになにしたって無駄よ」
彼が走っていった場所には、既にヴィルゴが立っていた。しかし彼女が邪魔する素振りを見せないことから、その試みが無駄になるとでも思っているのだろう。
「さあ、どうかな。あんたが思ってるほど、人は弱くなんかねえぞ……!」
一眞はそれだけを言い残すと、オーブリングを持った左腕を天高く突き上げた。
~~
破壊を尽くす白い獅子の前に、2本角を光らせたオーブが立ち塞がる。
「ぶん殴ってでもお前を正気に戻す……覚悟しろッ!」
右の掌を突き出す構えをとったバーンマイト。彼は眼前で吼えるホロボロスを捉え、ジェット噴射の如く勢いで距離を詰めていく。そして放たれた左ストレートがホロボロスの爪に激突。ホロボロスも負けじと怪力で押し返し、巨大な爪を振るってオーブを攻め立てていく。
(くっ……重い……)
幾たびも体に迫ってくる鋭い刃を腕で防ぎながらオーブは踏ん張り続ける。ホロボロス、ヤツの攻撃は生半可な力で受けて良いものではない。白い獅子は単純な力だけでこちらを押してくる。それでいて厄介なことに、その獣のような敏捷性で息つく暇さえ与えない。スピードとパワー、どちらも高水準まで高めた獣。まさに荒神と呼ぶにふさわし存在だった。
「ハアアッ! なに、うおっ!?」
脚部に炎を宿して撃ち出した蹴りを難なく受け止めたかと思えば、今度はこちらの体を投げ飛ばしたのだ。
「流石だ……けどっ!」
頭が下を向いた状態で投げられてしまったが、とっさに両腕をついてバク転の要領で起き上がる。そしてすぐさま火球を生成して解き放った。だがカウンターで放ったストビュームバーストすらも、ヤツは横に薙いだだけで打ち消してしまった。
「ノクターン! やめて!!」
「ネメアー、いい加減目を覚ましてっ!」
2人はホロボロスに呼びかけているが、まったく反応してくれなかった。まるで、彼女たちの声など聞いたことなどないように。
「フン、人間が呼びかけても無駄よ無駄」
傍から見ていたヴィルゴは、暴れまわる怪獣を呼び止めようとする滑稽な姿を笑っていた。所詮、人が怪獣と紡いだ絆など簡単に壊れると踏んでいるからだ。
「ぐあああっ!?」
単純な力に押されたオーブは、赤い体をビルにめり込ませてしまう。
そのまま獲物を屠るために突進してきたホロボロスをどうにか回避………したが追撃の腕は躱せず、またしても吹き飛ばされてしまう。
「畜生……ストビュームバーストも弾きやがる……」
どうにか起き上がったオーブの周りでは、ホロボロスがビルを柱のようにして立体的に移動し、彼を翻弄していた。その速さはオーブですらも対応しきれないものであり、ヤツの姿を捉えようとすることに精一杯だった。
しかしそのせいで背後に飛び掛かってきたホロボロスに対処できず、斬撃をもろに食らってしまう。背部に焼けるような痛みが走るが、歯を食いしばり耐える。この無防備ともいえる姿で、ヤツを誘き出すために……。
「チャンスだっ……!」
ホロボロスもチャンスと思って腕を振り上げてきたところを、オーブの炎を纏った拳を胴体へ打ち込んだ。直後に爆ぜ、ホロボロスを後退させる。
(ったく、パワーでゴリ押してくるかと思えば、スピードで翻弄……おまけにカウンターも効果なしか)
ストビュームカウンターを打ち込むも尚健在の獅子。その強敵ぶりに、一眞は自分の頬が引き攣っていくのを感じた。
するとホロボロスは両腕の爪を発行させ、紫色の斬撃波”メガンテクラッシャー”をオーブに放つ。着弾地点に巨大な煙が立ち上るが、煙の中から跳躍したオーブは上空から”スワロマイトバレット”を放ち牽制。一瞬の隙に肉薄するとともに、蹴り技で吹き飛ばす。
「
炎の軌跡を描きながら、拳や蹴りを叩きこんでいく。さらにホロボロスの腕をガッチリとホールド。バランスを崩して背負い投げた。
「頼む! いい加減思い出せ!!」
ここまですれば動きも止まるだろうと思ったのが間違いだった。しかし反撃を食らい、大きく後退してしまう。さらに再度撃ちだされたメガンテクラッシャーを胴に受け、ビルと共に倒れてしまう。
「チッ、まだ止まらないか……く、うお……おおおおおお」
危険を察知しすぐさま起き上がり、迫ってくるギガンテサンダーを咄嗟に作り出したバリアで防ぐ。
(このままじゃ、押し切られる……)
一眞の思った通り、雷撃に耐えられずバリアはガラスのように砕け散った。衝撃で地面に倒れてしまったオーブの首元を、ホロボロスは噛み千切ろうと馬乗りになる。しかし、ギリギリのところで腕を噛ませて防ぐことに成功した。
「がああああああああ!? あああああああ!?」
とはいっても、その顎力で腕を噛まれているのだ。腕の感覚がなくなるほどの激痛に、堪らず声をあげてしまう。
────すると
「ノクターン!!」
「ネメアー、いい加減にヨハネに気付きなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」
2人の精一杯の叫びが空気を震わせた。そして、周りの環境音すらも聞こえなくなったかのような沈黙。その中で梨子と善子は叫び続ける。
「ねえこれ、ノクターンが好きだったものよ。わかる?」
梨子がバッグから取り出したのは、よく食べていた餌。
「これはネメアーが遊んでいたオモチャよ!」
続いて善子が見せたのは、ホロボロスがじゃれていたオモチャに、先ほど投げたボール。
その掌に収まるくらいのものには、短期間ながらも彼女たちと紡いだ多くの思い出が刻まれていた。それはホロボロスも同じだと。当のホロボロスは無言で2人の姿を見つめ続けていた。
「お願い……気付いて……」
すがるように思いで梨子はホロボロスを見つめ続け、善子は念を送るようにポーズをとっていた。
梨子は敵と味方を見分ける見えない力を。善子は自分と引き合った運命を。それぞれの力を信じ、気が付くと2人は名前を必死に叫んでいた。ホロボロスに付けた愛情深いその名を。
その声を聞いたホロボロスから、徐々に力が抜けていくのがわかった。そして毒気を抜かれたかのように大人しくなりオーブから退くと、梨子と善子の前に己の頭を置いた。それは小さかった時の甘えるしぐさのようだ。
先ほどまでの狂暴性はすっかり消えたようで、その姿は以前と変わりないものだった。
「めでたしめでたし、って……はあ? なにそれつまんな。怪獣は怪獣らしく暴れればいいってのに……もういいわ」
自分の軽んじていた人間が怪獣へと呼びかけ、それが成功するとは思っていなかったヴィルゴは悪態をつく。気分が大きく下がり、おまけに腹立たしい。そう感じた彼女はダークリングを取り出す。
「もういいわ。ウルトラマンごとおさらばしてもらわ」
懐から取り出したカードを、赤く光るリングへと通した。
~~
「ホロボロスも大人しくなったけど、こりゃどうすればいいんだ……」
梨子や善子を認識できたとはいっても、これほど巨大となってしまったホロボロスをどうするべきか。そのことで頭を悩ますオーブ。もう今まで通りに生活できるとはいえない。
今後のことを相談するため、まずは退避だとホロボロスを移動させようとオーブが腕を翳したその時────
何十発もの銃弾の雨が、オーブ、そしてホロボロスに撃ち込まれた。その雨は地面や周りのビルをも撃ちぬき、凄まじい爆発が辺りを包み込む。
幸いにも、オーブが咄嗟にバリアを張ったことで梨子や善子は大事には至らないだろうが、展開している本人の方は別だ。ホロボロスとの戦闘に次いでのダメージに、身体が悲鳴を上げているのだった。
「今度は……なんだ……!?」
オーブの限界を感じ取り、ホロボロスは空へと跳躍。そして急降下から放つ爪の二連撃で、射撃者を切り裂こうと橙色のそれを煌かせた。しかしバリアで防がれてしまったのかホロボロスは後退し、オーブの隣に降り立つ。
しばしの静寂が辺りを支配。徐々に硝煙が消えていったことで、射撃者の正体が露わになった。
右腕が巨大なハサミ。左腕には先の掃射で使用していたであろう、ガトリングガン。銀色のあちらこちらに、赤の差し色が入った身体。二本の角のような頭と、顔に当たる黒い面。すると、黒い面の中に光る赤いライトが目と口に至る部分で発光を始めた。
「なに……ロボット……!?」
善子の言葉の後に、妙な起動音が鳴り響いた。
「はあ……デスフェイサー、やっちゃって」
またもや退屈そうな表情で、ヴィルゴは己の召喚した機械兵器……否、電脳魔神に命じた。
「ぐ、硬ぇ……」
駆け出した勢いを、ダイレクトに拳に乗せて放ったはずなのに、デスフェイサーはビクともしない。強固な装甲の冷たさが、拳を介し伝わってくる。迫りくる大型のハサミを腕で受ければ、その重みに膝をつきそうになる。さらに銃口が束ねられた左腕を腹部に打ち付けられれば、空気だけの叫びが口から洩れる。
「がっ……!?」
オーブが蹴られ後方へ追いやられると、代わって襲い掛ろうと走ってくるホロボロス。素早さで翻弄していこうと、辺りを走り認識を撹乱しようとする。
「■ー■ー■ー」
だがそこは機械の強みと言ったところだろうか。高速の演算処理で場所を予測したのか、右腕のハサミを伸ばし、ホロボロスを掴み上げる。
「調子乗んなよ、この……」
側面からブラストリウム光線を放ととしたものの、ガトリングガンで防がれると同時に放り投げられたホロボロスの下敷きになってしまった。
「ああ……体が……」
地面に伏したまま起き上がれないでいるオーブ。彼の疲労とダメージが限界に達しようとしているのだ。最悪なことに、既にカラータイマーも点滅を始めている。
このままでは眼前の敵に甚振られるだけ。されに梨子と善子も守り切れない。
限界の彼を見からなのか、はたまたは自分の主人を守ろうとしているのか、ホロボロスが駆けていく。デスフェイサーに打たれても、何度も、何度も爪で切り裂き、蹴り、噛みついた。
「もうやめて!」
「これ以上は止めて! ヨハネが言ってるの!! 私の言うことが聞けないの!!」
その痛ましい光景に、梨子と善子が叫ぶ。だが、ホロボロスはその命を無視した。それも、共にいてくれた人を守るため。凶暴化しても尚、呼びかけ続けてくれた彼女たちを守るためだった。
「まだ抵抗するのは驚きね。……ん、ならこれはどうかしら」
ホロボロスの食らいつきに驚くヴィルゴ。すると彼女はふと少女2人のことを思い出し、薄らと笑みを浮かべた。そしてデスフェイサーに念で命じる。”主砲で撃ちぬけ”と。
デスフェイサーへ青い雷を放って足を止めさせ、相手の頭上を軽々と跳躍。すれ違う一瞬で顔を切り裂いた。鬱陶しいからかガトリングを乱射するが、ホロボロスは回避。躱せなかった数発は紫の刃を飛ばして相殺。加えてどこからともなく放たれた 光線が、銀色のボディから火花を散らせた。
「俺を忘れてんじゃねえぞ……鉄くずが」
光線を放った直後にだらりと腕を下げてしまうオーブを無視し、デスフェイサーは空へと飛翔する。そして胸元が開放すれば、砲台が顔を出した。銃口が赤く光りエネルギーチャージを始める。溜まっていくたびに高音になるそれは、破滅へのカウントダウンのようだ。
「あの野郎……ふざけんな!」
一眞が激昂し駆け出したのは、デスフェイサーの銃口が梨子と善子に向いているからだった。
「梨子、善子、早く逃げろ!」
「今更逃げたところで無駄よ」
走り出したのが一歩遅った。オーブの目の前で、遂に極太の光子砲が発射された。その閃光で目元を覆ってしまう。
身体の熱が奪われていき、どうしようもない絶望感が体を駆け巡っていく。そんな時、疾風のように梨子と善子の前に立った獅子は、紫色の斬撃波”メガンテクラッシャー”を発動させた。
「お前ッ……何やってるんだ!?」
「ノクターン!?」
「ネメアー!?」
ホロボロスは振り替えることはせず、ただ斬撃波を生成していた。それが何を意味するのか、ホロボロスの意思を理解してしまった3人は何とかやめるように声を上げる。しかし、ホロボロスは黙って、今まで放ってきたものより何倍も巨大な刃を生成して放った。
刃と光線の両者が中心でぶつかり合う。爆風が梨子と善子のを吹き飛ばす。
その光景を目にしてしまい、地面に倒れた痛みなど気にせず梨子と善子は悲鳴を響かせてしまった。
~~
炎が引いていくと、そこには肌が焼け爛れてしまったホロボロスが横たわっていた。既に虫の息なのは、火を見るより明らか。だがそんな事実、誰も信じたくなかった。
「そんな……」
「いや……」
脳裏に浮かぶ言葉を否定したいのに、目の前に映る全てが証明している。梨子と善子は声を震わせ、痛む体など無視して駆け寄ってきた。
もう聞こえるかすらも怪しい鳴き声を上げ、2人に視線を移す。自分の最期を悟ったからこそ、もう一度だけと……頭を近づける。オーブも静かに頷けば、梨子と善子はホロボロスの頭に優しく触れる。
本来、デスフェイサーのネオマキシマ砲は発射すれば島ひとつ吹き飛ばすことができる威力だ。光線で相殺することなど、不可能に近い。しかし、ホロボロスは守りたい一心でそれを防いだ。彼女たちとの絆が、不可能を可能にしたのだ。
2人の頬に涙が流れる。撫でた……というにはあまりに小さい手だったが、満足そうに鳴いたホロボロス。そのまま青い粒子となり、空へと飛んでいくのだった。
「バカじゃないの。人間に情が移らなければ、こうやって死ぬ事もなかったのに」
誇り高き獅子が消滅する光景を見ていたヴィルゴは、馬鹿馬鹿しいと嘲笑っていた。
「くっ……クッ、ウオオオオオオオオオオオオッ!!!」
命を奪ったデスフェイサーへの怒り、そしてなによりも、助けられなかった自分への怒り。その怒りを糧にして、デスフェイサーへと突進していくオーブ。今の彼には限界以上の力が漲っていた。せめて梨子と善子を守る。それがホロボロスへの弔いだと信じて。
瞬時にサンダーブレスターへと姿を変え、拳で押していく。さらにデスシウムフロストを即席で腕に纏った。それは獣のような鋭い爪へと変化し、強力な切断力を発揮する。しかし右腕のハサミが、片方の爪を切り壊してしまう。
「チッ、忌々しい腕だ!」
ガトリングの掃射を防ぎつつ、バックステップで後退。それと同時にゼットシウム光輪を飛ばし銃口を潰す。再度接近すれば、オーブは左手の光輪、右手の生成した爪で両腕を斬り飛ばした。追撃の後ろまわし蹴りを胴体に当てれば、デスフェイサーは吹き飛んでいく。
吹き飛ばされても、腕を斬られても、痛みを感じない機械は再び立ち上がる。それはデスフェイサーも同じだ。するとヤツは立ち上がり、胸元の装甲をまたもや開けて砲台を出した。再度ネオマキシマ砲を撃とうというのだ。
「ダメ、今度撃たれたらそれこそ一眞くんが……」
梨子のそれは正しいが、避けなくても広範囲で被害が出ることになるのは間違いなしだ。
チャージが開始され、発射が近付く。周りのエネルギーが発射口へと吸い込まれていく。体を嫌な汗が流れる。
だが意を決したオーブは真正面から突っ込んでいく。自身のフルパワーを乗せるために、右腕を精一杯引き絞った。
「ウオオオオオオオオオオオオ…………!!!!」
渾身の一発が、デスフェイサーの胸部を貫いた。
火花を散らせ、機能停止した案山子のような体を空へと投げ、やり過ぎと言わんばかりのゼットシウム光線を放てば、デスフェイサーは完全に塵と化した。
────戦いには勝利したものの、空を見つめるオーブの背中はとても寂しいものであった。
~~
「悪い……助けられなくて」
「一眞くんのせいじゃないよ……」
「そうよ。悪いのはあのロボットでしょ……」
誰一人勝利を喜ぶ者はいなかった。それもそうだ。今自分たちが生きているのも、大事な存在が守ってくれたから。それも今は、夕日のオレンジが彩る空へと駆けて行ってしまった。
たった数日の付き合いだったのに、心に空いた喪失感が虚しく響いている。
「……今日はもう帰るわね」
「善子ちゃん────」
「……大丈夫よ。また明日ね」
一眞が視線を外したのは、善子その背中が小刻みに震えているのがわかったからだ。
すると、梨子は善子へ語り掛けた。
「私ね……やっぱり、見えない力はあると思う。善子ちゃんだけじゃなくて、どんな人にも……。だから信じている限りはその力は働いていると思う」
この出会いの終わりが、決してよかったとは言えない。言うつもりもない。しかしそれでも、善子との出会いには必ず意味があったのだと、梨子は伝えたかった。その見えない力を、善子が恨んでしまわないように。
「……さ、さすが私のリトルデーモンね。ヨハネの名において、上級リトルデーモンに認定してあげる」
「あるがとう、ヨハネちゃん」
「善子よ。……ありがとう」
振り返った善子の目から飛んだ涙が、夕日の光を反射していた。
その夜、十千万に寄った梨子はしいたけの頭に触れようと、手を伸ばすがあと少しのところで躊躇ってしまう。
「梨子ちゃん、どうしたの?」
「千歌ちゃん。……試してみようかなって。これも出会いだから」
それは勿論、しいたけに触れることだ。突然の言い出しに千歌は「え?」と声を漏らす。しかし梨子はその反応を予測していたかのように、さらに続けた。
「私ね、もしかして出会いってこの世界では偶然ではないのかもって、思ったの」
「偶然は……ない?」
「いろんな人が色んな想いを抱いて、その想いが見えない力になって……運命のように出会う。すべてに意味がある」
梨子が千歌に出会ったことも、そしてホロボロスに出会った事にも意味があり、それは偶然ではないと。見えない力によって、まるで糸で引き寄せられるかのような運命によるものだと。
「見えないだけで、きっと……」
その力は見えないだけで、誰にも存在しうるもの。
そう言って餌を乗っけた右手を、梨子はしいたけに差し出しす。すると、しいたけが食べてくれたのだ。今まで怖がって触れなかった梨子が、今こうしてしいたけと触れあうことができるようになったのも、あの獅子との出会いのおかげなのかもしれない。
「そう思えば素敵じゃない?」
夜風が頬を掠める。その風を感じながら、梨子はそう問いかけた。
その夜空では、今はいないあの獅子の声がどこかで聞こえた気がした。
ホロボロス……すまん。でも最初からこうなることは決まっていました。
それ以外にもいくつか後悔はありますが、とりあえず終えられてよかったと思ってます。
あと、デスフェイサーですが召喚故にオリジナルよりは劣っています。