Sunshine!!&ORB   作:星宇海

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おい……なんで……ミラウェ回で4話使ってるんだ……(こんな長丁場になるとは思わなかった)


第55話 今のAqoursを越えて行け

 その日の夜、梨子はいつもの調子で自室のベランダに出る。しかし、そこから見える彼女(千歌)の部屋に灯りは灯っていない。もしやと感じ砂浜へ視線を移してみれば、そこには人影が。動きを目で追っていくと、これまでの五日間で何度も見たものであり、人影は彼女であると確信できてしまう。

 

「どうしたの梨子ちゃん?」

 

「あ、志満さん。千歌ちゃんは?」

 

 志満に話を聞いてみれば、千歌は「まだ練習する」と言って出ていったきりらしい。こんな夜まで……と梨子は彼女を心配せずにはいられなかったが、どこか納得もしてしまう……。そんな、なんとも複雑な気分を抱えたまま、梨子は砂浜へと足を運んだ。

 

 

 するとそこには、千歌のことを見守り続ける少女が既に一人。

 

 

「梨子ちゃんに頼むと、止められちゃいそうだからって。ごめんね?」

 

 梨子には言わないでほしいと、千歌に頼まれたのだろう。謝罪する曜に、梨子は気にしていないと言って上着を着せてあげた。梨子もなんとなく、わかっていたのかもしれない。誰かが見ていることは。

 

「でも、こんな夜中まで……」

 

「あんなこと言われたら……」

 

 梨子と曜は、数刻前の会話を思い出していた。その内容と言うのが、果南が千歌へ持ち出した条件。それは”明日の朝までにできなければ諦める”というものだった。

 

「2年前、自分が挑戦してたから尚更わかっちゃうのかな。難しさが」

 

 怪我をしないためもそうなのだが、ロンダートからのバク転というパフォーマンスの難度がどれだけのものかを身をもって理解している。だからこそ、果南はこの条件を出したのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

「ああっ!?」

 

 苦悶の声と共に、ゴロゴロと地面を転がる一眞。既に服も、体もボロボロ。いくつもの切り傷や痣がその過酷さを物語っている。だが、これまで一度たりともセリザワに攻撃を与えられてはいなかった。

 

「くそ……なんでだ……俺は……」

 

 ふと、悔しさから声が漏れてしまう。何度やっても、刀身が思うように動かない。自分で振っているはずなのに……。力を込めているはずなのに、上手く伝達していない。

 

 彼に届かないという事は、あいつにも届かないという事。ウルトラマンも、オーブの名も穢されたままだという事だ。

 

 

 木刀を持つ手に、自然と力が籠っていく。

 

 

「………」

 

「動きのブレですぐにわかってしまうんだが、君は何かに迷っているな」

 

 ふとかけられたセリザワの言葉に、体が震えた。それは見ようとしなかったもの。それを考えてしまえば、何かが壊れてしまうのではないかと蓋をしてきたもの。(アオボシ)に言われたあの言葉が、ずっと心の中で疼いているのだ。

 

「何を迷っているんだ? 口に出してみれば、案外解決するかもしれないぞ?」

 

 もう向き合わないわけにはいかないだろう。諦めるように、一眞は重い口を開き、音を発することを拒否する喉を強引に振動させた。

 

「……あいつが言ってたんです。ウルトラマンの力も、矛先を変えれば災厄になり得るって。俺は、その言葉を否定できなかった。……俺だってわかってるんです。誰もが善人では無いことくらい。この世界には、光と同じくらいに闇も溢れてる。どっちが正しいかなんて主張は、あちこちでコロコロ変わっていく。だけど俺は……ウルトラマンとしての光を信じたい……。そう思ってるはずなのに、ホントにそれが正しいのか、今は分からなくなっているんです」

 

 それが、一眞の抱えていたことだった。ウルトラマンと言う存在の光を信じようとするも、アオボシの言葉が纏わりついている。その信じたものは、本当に正しいのかどうか。結局は独善的なものに過ぎないのではないかと……。

 

 それを黙って聞いてたセリザワは、そこでようやく口を開いた。

 

「昔……星から星へと渡り、己の食欲を満たすだけの存在から、オレはとある惑星を守ることができなかった。そして復讐心だけをこの身に宿し、ヤツを追っていたことがある。」

 

「……え?」

 

 セリザワが語ったのは、彼の過去の話。復讐の鎧をその身に纏い、高次元捕食体と呼ばれる怪獣を追い求める狩人としての姿は、今の戦いに懐疑的で、理知的な彼からは想像もできない。

 

「そしてヤツを……ボガールを倒すために、オレは地球へと向かった。周りを顧みず、ただボガールを討つために剣を振るっていたあの時のオレには、ウルトラマンの名の意味などどうでもよかった」

 

 かつての話をするセリザワに、一眞は言葉を失ってしまった。彼も憎み、怒っていた。それはまるで、人間のようだと思ってしまったからだ。

 

 ……いや、彼らウルトラマンだって意思を持った1つの個人だ。それを忘れてはいけない。意思をもった生物は思い悩んだってなんら不思議ではないのだから。

 

「だが、()()()()で彼らに教わったんだ。復讐だけではない、誰かを守るという事。そして、ウルトラマンの名の意味を……」

 

 それは、決して途切れることのない出逢いの記憶。当時の地球に派遣された戦士、そして彼と絆を紡いだ仲間たち。そんな彼らが、自分を復讐の鎧から解放させてくれたと。仇を屠る狩人(ハンターナイト)から、光を守護する存在(ヒカリ)へと。

 

 一度過ちを犯したとしても、そこからまた立ち直ることができると、彼は教えてくれているようだった。

 

「確かに、オレたちの信じているものは曖昧で、正解など見つからないのかもしれない。だが、オレは信じている。オレたちの光を、その信念を。ここまで培い、育んできたものは間違いではないと。君にも、オレと同じように築いてきた信念がある筈だ。君の信じてきたもの、それはなんだ?」

 

「俺が……信じてきたもの……?」

 

 セリザワは静かに首を縦に振った。己の信じたもの、在り方。ただ、それだけなのだ。

 

 正義や悪も、光も闇も、全て存在している。存在してこの世界は動いている。しかしそれが仕方のないことだと、諦めて受け入れるのではない。その世界の中で自分が掬い取った想いを、揺るぎのないものに変えて生きていく。それだけでいい。

 

 あいつの言い分も正しい。けど、全てではない。

 

 

 

 ────俺は何を信じた?

 

 

 

 ────誰も傷ついてほしくないという願いだ。

 

 

 

 ────千歌たちを守りたいという想いだ。

 

 

 

 ────自分が見てきた、ウルトラマンの姿だ。

 

 

 

「俺は……みんなを守りたい。アイツの言っている事が正しかったとしても、身勝手に蹂躙して、笑顔を奪っていい訳じゃない。それが俺の信じてきたもの、これからも信じていくものです。そしてアイツがウルトラマンの名を名乗るのなら、俺はアオボシを止める。それが、俺の知っているウルトラマンだから……!」

 

「その眼……もう迷いはないようだな」

 

 彼の言葉を受け止めたセリザワは少しだけ口角を上げると、木刀を構えた。それを見た一眞も同じように構える。先ほど感じていた痛みも、疲れも、少しはマシになった。疲労以外の重荷が、肩から降りたように感じる。息を吸い込んでいくと、夜の冷たい空気が肺の中に取り込まれていく。瞬間、何もかもクリアになっていった。

 

(この想いを……ただ載せればいいだけだ……!)

 

 ほぼ同時に、両者は地面を蹴った。コンマ数秒で縮んでいく両者の距離。

 

「うおおおおおっ……!!」

 

「……っ!」

 

 

 そして──────

 

 

 

 

 数秒の内に、木刀を肉体へと打ち込んだ衝撃音が、暗い森の中に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 梨子と曜の目の前にいる条件を出された本人(千歌)は、何度も練習を繰り返した。何度も、何度も。傷だらけになろうが、なんだろうが……定められた期限までに完成させるために。その一点で地面を蹴っている。

 

「あと少しなんだけどな……」

 

「あと少し……」

 

 あと少しで完成するのに……というもどかしさと、見守るしかできないという無力感を感じる2人。

 

「「惜しい!!」」

 

 すると、重なった気持ちは声で表現された。そして2人は頷きあうと、千歌の下へと駆け寄った。

 

「焦らないで。力を抜いて、練習通りに」

 

 梨子が千歌の右手を掴み、焦り、強張る彼女を落ち着かせる。

 

「できるよ。絶対できる」

 

 続いて曜が左手を掴み、微笑んで励ました。

 

 最初から寄り添っていた2人は、千歌ならば必ずできると激励を飛ばしたのだ。2人の「見ている」と言う言葉に千歌の顔に笑顔が戻る。絶え絶えだった息も落ち着いていき、焦燥感も消えていく。

 

「「「千歌ちゃーん、ファイトー!!」」」

 

「頑張るずらー!」

 

 千歌が視線を向けると、そこには花丸たち1年生4人が駆けつけてくれていた。その声援を受け、千歌は再び挑戦する。

 

 

 

 しかし、しかしそれでも飛ぶことができなかった。今まで同じように、地面に仰向けで転がってしまう千歌。

 

「あぁー! できるパターンだろー、これぇー!!」

 

 応援を受けて飛んだのにできないという現実に、千歌は声を荒げてしまう。

 

「なんでだろう……なんでできないんだろう……。梨子ちゃんも、曜ちゃんも、みんなこんなに応援してくれてるのに……」

 

 仰向けで考えてしまうのは、何もできない自分の無力な姿だった。期待に応えられない、不甲斐ない自分の姿。それが溜まらないくらい嫌だった。

 

「嫌だ、嫌だよ! 私、何もしてないのに、何もできてないのに……!」

 

 右腕で目を覆えば、去っていく果南の姿が思い出される。何もできていないのにこのまま終わってしまうのかと、千歌の口元が震えた。

 

「ピー! ドッカーン!!」

 

「ズビビビビー!」

 

「普通怪獣ヨーソローだぞー!」

 

「おっと、隙にはさせぬ。りこっぴーもいるぞー!」

 

 突然、曜と梨子は彼女の言っていた普通怪獣の名を出した。一体何だと言うのだ、というふうに千歌が視線を向ける。梨子と曜は思惑通りと笑えば、千歌に問いかけた。

 

「まだ自分は普通だと思ってる?」

 

「普通怪獣ちかちーで、リーダーなのにみんなに助けられて、ここまで来たのに自分はまだ何もできていないって。違う?」

 

「だって、そうでしょ?」

 

「千歌ちゃん、今こうしていられるのは誰のお陰?」

 

「それは、学校の皆でしょ、町の人達に、曜ちゃん、梨子ちゃん……それに……」

 

 

 

「合っているが、それじゃ正解とは言えないな」

 

 

 不意に駆け聞こえてきた、その覚えのある声に全員が反応する。視線の先にいた少年は傷だらけでありながらも、どこかすっきりした雰囲気を纏っていた。

 

 一眞は砂浜に降りると、おぼつかない足取りではあるが、それでも千歌の下へと近づいていく。

 

「なあ、千歌。今のAqoursを作り、最初にやろうと言い出したのは誰だ? そしてみんなを、こうやって集めたのは誰のお陰だ?」

 

 千歌の言っていた”みんな”に含まれるべき、一番大切な人物。最初に声を上げた、決して忘れてはいけない人物。それは────

 

「千歌ちゃんがいたから私はスクールアイドルを始めた」

 

「私もそう。皆だってそう」

 

「他の誰でも、今のAqoursは作れなかった」

 

 高海千歌、本人だ。彼女がいなかったら、今こうしてスクールアイドルをしていることは無かった。輝こうと、足掻こうとすることは無かった。

 

「千歌ちゃんがいたから、今があるんだよ。そのことは忘れないで」

 

「自分のことを普通だと思っている人が、諦めずに挑み続ける。それができるって凄いことよ? すごく勇気が必要だと思う」

 

 自分を普通だと思っている少女が、キラキラとしたスクールアイドルに出会い、そして始めた。その道中で何があったとしても折れずに挑み、進み続けている。それはとてつもなく勇気のいることだ。

 

「そんな千歌ちゃんだから、みんな頑張ろうって思える。Aqoursをやってみようって思えたんだよ」

 

 そんな彼女の姿があったから、皆が背中を押され、一歩を踏み出すようにしてスクールアイドルを始めた。もう一度やろうと思えるようになった。

 

「恩返しだなんて思わないで。みんなワクワクしてるんだよ? 千歌ちゃんと一緒に、自分たちの輝きをみつけられるのを」

 

 千歌の前に、道を作るようにして並んでいく梨子たち。彼女たちの手首にチラッと見えた湿布。千歌のように全力で足掻こうと、練習を続けている証拠だ。

 

 千歌は以前「みんなのお陰でやってこれた」と言っていた。しかし、それ以上に千歌にもらったものもある。そして彼女たちも、自分たちの輝きを見つけたいと思っているのだから、期待だとか恩返しだとか、そんなものを背負う必要はないと、梨子は言ったのだ。

 

 

「新たなAqoursのWAVEだね」

 

 そこには鞠莉たち3年生の姿も。

 

「千歌、時間だよ。準備は良い?」

 

 視線の先、笑顔で待ち構える果南。問いかけていた彼女の表情には、曇りのない信頼が見て取れた。ただ千歌を信じている。それだけを信じている顔。

 

 千歌も頷き返すと、勢いよく駆け出していく。みんなの想いを知り、そして自分の想いとも向き合った。必ずできる。そんな確信が、千歌の中にも、みんなの中にもあった。

 

 

 

「ありがとう。千歌」

 

 

 彼女が飛ぶ瞬間、一言では言い表せないくらいの想いの詰まった言葉を果南は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 山から朝日が昇り切った後、千歌たちはパフォーマンスの成功に歓喜の声をあげていた。

 

 

 

 そして各自家に戻ろうという話になったころ、紫色の閃光が彼らを襲った。その光は人型の形を成し、地面に着地する。

 

「あれは……」

 

「漆黒に染まりし、偽りの巨人……!?」

 

「もう、今そんなこと言ってる場合!?」

 

 善子の言っている通り、漆黒の体に剣を持った巨人。オーブシャドウが姿を現したのだった。しかし彼は直立しているだけで、行動を起こそうとはしないようだ。それはまるで、()()を待っているかのように。

 

「成程ね。俺をお望み……って感じか」

 

 彼の目的を察した一眞は、一歩前へと踏み出した。だが、誰が見てもわかるその外傷の多さでは、みんなも送り出すことなどできなかった。

 

「お待ちなさい! いくらなんでもその傷では……」

 

「その体で戦えるの?」

 

 ダイヤと果南が問いかけてくるが、一眞は「大丈夫です。あの人も結構手加減はしてくれましたから」と答える。反応を見る限り、信じてはいなさそうだが。

 

「そうよ。まだ見つかっていないみたいだし、今は逃げよう? 怪我の手当てをしてからだって……」

 

 しかし、梨子のその提案に一眞は首を振ることは無かった。

 

「もし俺が行かなかったら、アイツは街を壊すだろうな。俺が出てくるまで、ずっと」

 

 今行かなければ、食い止められたかもしれない被害がどんどん広がっていくだろう。彼は、オーブの名を名乗っただけ。その本質は、怪獣や侵略者たちと何ら変わりないのだから。

 

 それを言われてしまえば、誰も彼を止められなくなってしまう。一眞は「ごめん」と謝罪した後、彼の胸の内を明かした。

 

「みんな、ありがとう。その気持ちは本当にうれしい。……けど、今ここで戦わなかったら俺は、アイツの間違いを認めることになる。それだけは出来ないんだ。それは、俺の想いに嘘を吐くことになるから」

 

 黒い巨人を見つめ、千歌たちに語りかける一眞。そこには、迷うことなき信念が宿っていた。

 

「じゃあ、約束して。勝って、帰ってくるって」

 

「約束だよ! まだ地区大会も残ってるんだから!!」

 

 しばしの沈黙を破ったのは、曜と千歌の約束だった。そう言った彼女たちの表情が不安げだったのも、オーブシャドウに敗北した姿を一度見ているからなのかもしれない。

 

「大丈夫だって。もうあいつには負けない……。なんたって俺は……光の使者(ウルトラマン)だから」

 

 それを言い切った一眞は少しだけ駆け出すと、オーブカリバーを眼前の黒い巨人に突き出した。虹色の光が一眞の体を包み込み、瞬時にオーブオリジンへとその姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

「フフッ……来たねぇ」

 

「さあ、ここで勝負をつけようぜ」

 

 光と闇……道を違えた2人は今一度、その手に持った剣を振るう。1人は彼を殺すため。1人はみんなを守り、そして己の信じたものを貫くため。

 

 

 2体の巨人の激突は、以前の対戦を遥かに凌ぐ勢いや衝撃で、早朝の内浦を震わせていたのだった。

 

 

 




なんか……一眞がおいしいとこだけ持って行ってる奴になってるな……。ま、いっか主人公だし(よくない)

ウルトラマンとしての在り方や考えについて、若干のブレが出てしまいましたがそれも解決。次回アオボシに反論してくれることでしょう。千歌もパフォーマンスを成功させ、地区大会で披露できることになりました。

セリザワの過去話はただ私がやりたかっただけです。正体なんてみんな知ってるからやっても大丈夫!

次回、再戦です。

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