渋谷がめっちゃしんどいってのが気になって……。
地区予選の行われたステージ上では、大勢のスクールアイドルたちが発表の時を今か今かと待ちわびていた。後日発表ではなく、リアルタイムでの投票で決勝出場校を決める。以前とは違うそのシステムのせいなのか、会場全体が緊迫とした雰囲気に包まれている。
さっきまでの熱狂も消え失せ、今はただ静かに……発表の時を待っている。
「知れでは皆さん、ラブライブファイナリストの発表です!」
スピーカー越しに響き渡る司会の声と共に、目の前のモニターが起動する。そしてここに集まった16グループの投票数が映し出された。
「決勝に進めるのは3グループ……!」
鞠莉は呟きつつ、目の前のモニターに視線を固定する。
「お願い!」
曜も祈るようにして見つめる。
誰もがそうだった。自分達を信じてやってきた。後は、どれだけ
金、銀、銅の枠にグループ名が書きだされる。そこにAqoursの名は─────
千歌たちの場所にスポットライトが当てられた。
「千歌ちゃん!」
曜はモニターを見上げる千歌に抱き着いた。しかし彼女は反応せず、ただじっとモニターを見つめているだけ。
それも情報の処理が追いつかないからだろう。だって、Aqoursはトップに書かれているのだ。つまりは1位通過。最も投票数が多かったという事なのだから。
「やったの……? 夢じゃないよね? ハッってならないよね?」
今この瞬間が夢だと思うくらい、彼女は嬉しいのだ。あの時は果たせなかったが、今は違う。この場所に立って、切符を手にした。それがまるで夢に見るような光景だと思うくらい、輝いていた。
「ならないわ」
「ほんと? だって決勝だよ、ドームだよ? ほんとだったら奇跡じゃん!」
周りに目を向ければ、果南たち3年生や花丸たち1年生も、嬉しさに笑みを浮かべている。
「奇跡よ。奇跡を起こしたの。私たち……」
今まで奇跡を追い求めてきた千歌。しかしその彼女が信じられないと思うくらいの奇跡が、今ここで起こっていた。……いや、起こしたのだ。
会場を後にしたAqoursは、しばらく外で語り合っていた。未だその実感が湧かない、高揚感が抜けきらないというのが現状だ。だが、あれほど大きなことを成し遂げたんだからそれも仕方ないと言える。
「緊張で何も喉に通らなかったずら~」
なんて言いながらも、花丸はパンを食べている。その光景には善子もツッコまざるを得ない。
「嬉しくって……私もう、涙が止まんないよ~!!」
「どんだけ泣いてんのよアンタは!?」
「だって~!」
それは珠冬にもだった。彼女は、集まってからずっと涙を流しているのだ。いつまで泣いているのだと善子も言ってはいるのだが、満更でもなさそうだった。そんな珠冬はずっと泣いているためなのか、ルビィはティッシュを手渡していた。
一方、一眞の方も曜に何やら詰め寄られていた。
「カズくんも泣いてたんだって? 珠冬ちゃんに聞いたよ~」
「は!? 泣いてないし。そん時は目にゴミが入っただけですけど~?」
傍から見ればしょうもない問答であった。しかしそんなしょうもないやり取りでも、当の本人たちは楽し気にやり取りを交わしていた。そんな会話中、一眞の言い分に曜は目が赤いとの指摘をする。
「………目擦ったんだよっ!」
そんなバレバレな嘘など通用せず、曜は悪戯っぽい笑みを浮かべて深く詰め寄ってくるのだった。
「お前……性格悪いぞ。痛ッ、怪我人を叩くなっておい!」
それぞれが決勝進出での喜びを噛みしめている中、果南は「アキバドームかぁ」と呟いた。未だ想像できぬ場所であると同時に、以前3人で行こうと思い立った場所だ。それが2年の時を経て実現するのだ。彼女には様々な思いがあるのだろう。
「どんな場所なんだろうね」
同じく千歌も、その会場に想いを膨らませる。全国から勝ち抜いてきたスクールアイドルが頂点を決める場所。最大のステージから見る景色は、輝きは、一体どんなものなのだろうかと。
「いい曲をつくりたい!」
「ダンスも、もっともっと元気にしよう!」
梨子も曜も、それぞれのできることを最大へと引き上げて臨みたいと語る。決勝に行って輝きたいという気持ちは誰もが同じだった。
すると、ルビィの呼びかけに全員が反応する。彼女の先にある街頭モニターには、先ほどのAqoursのパフォーマンスが映し出されていたのだ。その再生回数は既に4万を軽々と超えている。
「生徒数の差を考えれば当然ですわ。これだけの人が見て、私たちを応援してくれた」
歓喜の声を上げる中、ダイヤはそう言った。確かに生徒数ではこちらが不利であったのにもかかわらず、1位通過という形に収まったのは、多くの人々がAqoursの存在を認知し、応援てくれたお陰だと言えよう。
ならばと、千歌は振り向いて鞠莉に問いかける。これだけの人々に知られ応援されたのであれば、入学希望者も増えているはずなのでは? と。他の皆も、期待を込めた眼差しで視線を向けた。
が、鞠莉は何も答えない。否、応じていないのが”答え”となっている。「まさか」と考えたくもない結果が頭に浮かぶ。
「携帯、フリーズしているだけだよね。昨日だっていくつか増えてたし。まったく変わってないないんて……」
徐々に弱くなっていく鞠莉の声。そこには、いつもお転婆な鞠莉の姿はなかった。サイトや携帯がフリーズしてる……そうあってほしいという願望は、ただ現実から目を背けているだけでしかない。けど、そうなりたくもなる。ラブライブ地区予選を通過し、決勝に臨めるというのに……こんな仕打ちはあんまりだ。
「鞠莉ちゃんのお父さんに言われている機嫌って、今日までだよね?」
「大丈夫、まだ時間はありますわ。学校に行けば正確な数は分かりますよね?」
「……うん」
この状況でも冷静なダイヤは鞠莉に確認した。いや、こんな状況だからこそ、彼女は冷静でいなくてはいけないと思っている。
そんな一転した重々しい空気間の中に、千歌の声が響く。雰囲気とは逆の明るい声で彼女は言った。「帰ろう」と。
~~
浦の星に帰ったのは20時を越えたころだった。しかし、時間なんて気にする程余裕などない彼女たちは、すぐさま理事長室で入学希望者を確認する。
「どう?」
「……変わってない」
先ほど携帯で確認したのと同じ。現時点での入学希望者の数は80人。あと20人の希望者がいなければ、浦の星は統廃合が決定する。
「そんな……」
「まさか、天界の邪魔が!?」
善子はいつもの調子だ。でも、そんな天界のせいにしたい気持ちも確かにあるが、誰も口には出さなかった。
そんな中、あと4時間しかないと果南が告げる。
「Aqoursの再生数は?」
ライブ映像はずっと伸び続けているとルビィが鞠莉に伝えると、彼女はもう一度父親と話すために理事長室を後にした。
増えない希望者数と反し、ライブ映像の視聴回数はすさまじい勢いで増えていく……。どうにも消化しきれない複雑な感情が全員の胸中に蠢く中、時計の針は21時を示していた。
「遅いな、鞠莉さん」
「向こうは早朝だからね。なかなか電話が繋がらないのかもしれないし」
秒針の動く音が妙に鼓膜へと響いていた理事長室内で、ようやく会話がなされた。鞠莉が電話をしに行ってから約1時間。それまでの間、誰も話そうとすることは無かったのだ。
「Waitingだったね」
扉の開く音共に、鞠莉の声が聞こえてきた。ようやく話が付いたのだろう。誰もが出た答えを知りたくて、彼女へ視線が集まっていく。
千歌が聞いたところ、父親とは話せたようだ。決勝に進み、再生数も凄いことになっていると。でも、聞きたいのはその先だ。
「何とか明日の朝までは伸ばしてもらいましたわ」
「朝……ですか?」
「ええ。日本時間で朝5時。そこまでに100人に達しなければ、募集ページは停止すると」
目を伏せてしまった鞠莉の代わりに、ダイヤがそのように説明してくれた。正真正銘、これが最後のチャンスとなるだろう。
「でも、あと3時間だったのが8時間に伸びた」
十分可能性は残っていると励ます千歌の隣で、パソコンを見ていたルビィと珠冬が声を上げて立ち上がった。
「今、入学希望者が増えたんです!」
そう言って画面を見せると、人数は86人になっていた。1時間近くで、6人もの人が希望してくれたのだ。その様子に「やっぱり、私たちを見た人が興味を持ってくれたのよ」と梨子が言った。まだ結果は分からない。まだ終わってないという事だ。
「このまま増えてくれれば……」
曜が呟いていると、千歌が駆けだした。
「どこ行くのよ!」
善子が呼び止める。
「駅前。浦の星、お願いしますってみんなでお願いして、それから……」
「千歌、気持ちはわかるけど時間が時間だ。人がいねえ」
焦る千歌をそう言って一眞が止める。残念だが、今駅前に行ったところでどうにかなるとは思えない。仕事帰りの人ならいるかもしれないが、それも無理があるだろう。
「じゃあ、今からライブやろう? それをネットで────「準備している間に朝になっちゃうよ」
さらに案を出そうとする千歌に、曜は抱き着いて落ち着かせる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
「でも……なにもしないなんて……」
何かしたいという気持ちは痛いほどわかる。みんなだって同じ気持ちだからだ。でも、もうどうこうできる時間なんて残されていない。だから────
「信じるしかないよ。今日の私たちを」
果南の言葉に、千歌はメンバーやマネージャーたちに視線を向ける。彼女の目に映っていたのは、信じようとするみんなの強い眼差しだった。この部屋にいる誰もが、今日の自分達、そして見ていた彼女たちのことを信じているのだ。
「そうだよね。あれだけの人に見てもらえたんだもん。大丈夫だよね」
ようやく落ち着きを取り戻した千歌も、それを感じた曜も離れる。すると、ダイヤから声がかかった。「そうとなったら皆さんは帰宅してください」と。しかし「帰るずらか?」と花丸は不満そうに尋ねた。
「なんか1人でいるとイライラしそう……」
「落ち着かないよね」
「確かに。気になるもんな、希望者の数」
誰もがここの残って見守りたいと意思を露わにする。自分も同じだったのだろう。ダイヤは「仕方ないですわね」とここに残ることを許可してくれた。ただし”親と理事長の許可があれば”だが。
「勿論、みんなで見守ろう」
後者に至っては聞くまでもない。
さらに両親たちの許可も取れたとのことで、全員が学校で見守ることとなった。信じる彼女たちの雰囲気に乗じて、また1人、入学希望者が増えたのであった。
「あれから1人も増えない……」
それから4時間が経過したが、まったくと言っていいほど増える気配がなかった。深夜でもあるし仕方ないとは思うが、それでも今日の5時までが期限だ。悠長に構えてはいられないのだ。
「やっぱりパソコンが壊れてるのよ!」
善子はルビィからパソコンを奪うと、上下に振り始める。「昭和の家電じゃないんだから……」と珠冬も止めに入るが、聞こえていないようだった。
「Stop.壊れていないわ」
「これが現実なのですわ。これだけの人が浦の星の名前を知っても……」
「例え街が綺麗で、人が優しくても、わざわざここまで通おうとは思えない」
ダイヤや果南が言っていることも理解できないワケではない。寧ろ誰だって便利な方に、賑わっている方に行きたいだろう。だがそんな現実が、今はちょっと恨めしい。
誰もが果南やダイヤの話に耳を傾けていると、どこからか音が聞こえた。
「そう言えば、お昼食べた後何も食べてなかったわね!」
梨子は恥ずかしさを隠すためか、妙に声を張り上げている。でも彼女の言う通り、何も食べていないのも事実だ。一眞は行ってこようと立ち上がったが、今回は1年生たちが買ってくると言い出したため、彼女たちに任せることとなった。
「まったく、世話が焼けるったらありゃしない。こっちはリトルデーモンのことで手一杯なんだから」
ガサガサとレジ袋の音を立てながら、善子たちは歩いていた。
「仕方ないずら。今のAqoursを作ったのは千歌ちゃんたち2年生」
「その前のAqoursを作ったのはお姉ちゃんたち3年生3人だもん」
花丸に続くようにルビィも口を開く。
「責任、感じているずらよ」
「そんなもの感じなくてもいいのに……少なくとも私は感謝しか……」
ふと漏らした善子の本音。責任など感じなくてもいい。変われた人がいたのは、自分は自分のままでいいと思える場所があったのは、紛れもなく千歌たちや3年生たちのお陰だからだと。
善子は自分が何を言ったのか理解すると、すぐに後ろを振り向く。そこには微笑みを浮かべる花丸やルビィの姿が。
「リ、リトルデーモンを増やすためにAqoursに入っただけなんだし!?」
「私も感謝しかないよ。みんなと出会えて、今こうしていられるのはAqoursのお陰なんだし」
紛らわしている善子に、珠冬は抱き着きながら自分も同じだと打ち明ける。
「だからマル達が面倒見るずら。それが仲間ずら」
「だね。何かいいな、そういうの。支え合ってる気がする」
ルビィたちは夜空を見上げた。そうしていると、深夜のちょっぴり冷たい風が頬を撫でた気がした。
その後彼女たちは、買ってきたおでんの具在のどれをあげるか……なんて話をしながら帰っていくのだった。
「94人……」
「あと6人……時間は?」
「……1時間もない」
パソコンの前で希望者数を見つめる彼女たち。僅かながらも増え続け、あともう少しという所なのだが同じくして、残された時間も残り少なかった。
待っているうちに朝日も登り、澄み切った空が広がる早朝。現実から切り離されたかのような空気感の中で、千歌たちの声が響いていく。
良い所だと、いい子ばかりだと、後悔させないぞと叫ぶ果南や千歌、曜。そして3人に続いて「私が保証する」と叫んだのは、転校してきた梨子だった。そんな彼女たちの姿をフェンス越しから見ている一眞は、ふと呟いた。
「いいトコだよ、ホントに……」
そんな時、理事長室の窓からルビィの声が聞こえ、4人は急いで戻っていった。
「あと3人!!」
刻々と迫る時間、それと同じくして増える希望者の数。心臓の鼓動が早くなる。頼む……その一心で。
「……98!!」
大丈夫、絶対に届く。そう信じている。奇跡はまた起こると、全員が息を凝らして見守っていた。
────届く……!
────届く……!
────届く……!
無慈悲にも、サイトにはその4文字だけが表示された。
驚くほどあっけなく、迅速な切り替わり。そしてそれは、浦の星の統廃合が決定したという事を嫌でも理解させられる。
「時間切れですわ」
「……そんな、あと1日あれば……ううん、半日でいい。1時間でも……それで絶対────」
「何度も掛け合いましたわ。一晩中、何度も何度も……。ですが、もう2度も期限を引き伸ばしてもらっているのです」
本来であれば、ここまで無茶を通してくれたことの方が異例なのだ。これ以上は無理だと、ダイヤは言った。さらに続くようにして鞠莉も
「いくらパパでも、全てを自分1人の権限で決める事は出来ない。もう限界だって……」
すでに統合の手続きに入っているだろうと。遂に迎えてしまった約束の時間。彼女らの大きな目標”廃校阻止”は叶わなかった。その受け入れがたい現実は、みんなの心を締め付けていく。
「だめだよ。だって私達まだ足掻いてない。精一杯足掻こうって約束したじゃん!」
まだ手立てはある筈だと、ここで終わらせたくないと叫ぶ千歌。しかし
「やったろ、全部……」
「そして決勝に進んだ。私たちはやれることはやった」
やれることは全部やった。足掻いて足掻いて……決勝に進んだ。そのやり尽くした結果の果てに、この”廃校決定”に至った。
受けれ難いが……もうここまでだと。
「じゃあ何で、学校がなくなっちゃうの……学校を守れないの……そんなの……そんなの……」
今彼女の内にあるのは、全部やったのに何故学校が無くなるのかという、やり場のない憤りと悔しさだ。
見ていられなくなった鞠莉も、もう一度父親と連絡しようと歩き出すが、ダイヤと果南に止められる。これ以上の無理を言えば、今度は鞠莉自身が理事長をやめるように言われてしまうからだ。
受け入れしかないのだ。学校は……無くなるのだと。
~~
その日、全校集会にて正式に統廃合することが決定したと告げられた。壇上で話す鞠莉を見ていられず、一眞は目をそらしてしまう。
悔しさもあるが今はどちらかと言うと、どうすることもできない無力感や虚無感の方が大きかった。
決勝進出については、クラスのみんなが応援してくれている。でも今は、それを考えることはできない。しかし内心ではそう思ていても、実際には本音とは逆のことを言うことしかできないのだが。
その日の夕方、沼津の練習場に集まったAqours。廃校は阻止できなかったが、ラブライブは待ってくれない。
「55,000のリトルデーモンが待っている魔窟だもの!」
「みんな善子ちゃんのスベリ芸を待ってるずら」
「ヨハネ!」
相変わらずのやり取りに少しだけ救われる。すると、手を挙げたルビィから「3年生はこれが最後のラブライブだから、絶対に優勝したい」と強い意気込みを語った。
「じゃあ優勝だね!」
「そんな簡単な事じゃないけどね」
「でも、そのつもりでいかないと」
俯く千歌に、梨子は声をかけた。優勝を狙って突き進もうと。
そして始まった練習。そんな時にふと脳裏に過っていくのは、あの光景だった。パソコンに表示された98人という希望者の数。5時を指そうとする時計の針……。そして何よりも明確に出てくるのは、募集終了というあの文字だった。
届かなかった時の想いと、今まで押し込めていた感情が、いつの間にか千歌の頬を伝っていた。
「今日は、やめておこうか」
「え、なんで? 平気だよ」
「わかってるよ。お前の気持ちくらい……」
やせ我慢で言っているのか、それとも気付いていないのか……どちらにしろ、千歌の感情は誰もが抱いているものだというのは確かだ。
「ごめんね。無理にでも前を向いたほうが良いと思ったけど……やっぱり気持ちが追い付かないよね」
「そんことないよ。鞠莉ちゃんたち最後のライブなんだって、ルビィちゃんも言ってたじゃん。それに……」
「千歌たちだけじゃないの」
歩み寄った果南が、千歌にそう告げる。
「ここにいる全員、そう簡単に割り切れると思っているんですの?」
前を向こう、ラブライブに集中しようと言ってはいるものの、ここにいる誰もがそう簡単に割り切ることはできなかったのだ。マネージャー2人も、何も言わなかった。彼らも同じだったからだ。
「やっぱり、私はちゃんと考えた方が良いと思う。本当にこのままラブライブの決勝に出るのか、それとも……」
「自分の心に聞いてみて。千歌っちだけじゃない、ここにいる皆」
本当の気持ちはどうなのか。ここいいる全員に対して、鞠莉は自分の心に聞いてみるべきだと投げかけた。
あれから数日。私服姿の一眞は、1人で海を見つめて考えていた。自分がどうしたからといって何かが変わるわけでもないとは思うが、それでも向き合わないわけにはいかないだろう。
「……ん? よっ」
砂を踏む音に気が付いた一眞は、足音の方向に顔を向ける。するとそこには、私服姿の珠冬が立っていた。
「一眞はどう思ってる、統廃合のこと?」
2人して海を眺めながら、おもむろに口を開く。
「……正直しんどい。足掻こうって決めてここまで来たのに、廃校が決まっちまった。……何が足りなかったんだろう、どうすればよかったんだろうって考えちまう。何考えてももう遅いってのに、まったく……」
胸の内から込み上げてくる感情をどうにか堪え、一眞は逆に聞いた。「お前はどうなんだよ」と。
「……私は、みんなよりもここに思い入れは少ないよ。そりゃもう圧倒的に。でもさ、そんな短い間でも、確かに私はここにいた。だからさ、悔しいし寂しいなって……」
波の音と混じり、彼女の鼻をすする音が聞こえてくる。彼女は「見るな」とでも言うだろうから、一眞は目の前の海だけを見ていた。
(もう一度お前と話したいよ……)
どうしようもない感情の中、一眞はあることを思い出していた。いつの日だったか、和哉と……いや自分の記憶の欠片と話した時のことだ。思い出してみると、彼からは多くのヒントを貰い、背中を押してくれていた。
「俺が……お前の……っ!」
最後に言った言葉を思い出す一眞。すると何かが合致したのか、一眞は立ち上がる。
「え、ちょっとどうしたの!?」
「あいつに……和哉にまた助けてもらったよ」
珠冬に話す一眞の顔は、先程よりもマシな笑顔を作っていた。
────次回予告────
突如として内浦に降り立つ脅威。その恐るべき目的は……。
オーブ大ピンチ。
次回Sunshine!!&ORB「見つめる海」
目覚めよ、巨人!
悩むAqoursや一眞たち。しかし一眞は何かを思い出したようで……。
でも次回予告が全然違うって言うね。(次回に関しては何も言いませんよ)