「ここ、どこ?」
「何も見えませんわ」
吹雪吹きすさぶ地で、Aqoursは歩を進めようと必死だった。しかし目の前は白一色で何も見えない。
「天は、ルビィたちを……」
「見放したずら」
さらには眠くなってきたとか言い出して、地べたに座り込む曜や梨子に「寝たらダメ」と呼びかけるのは覆面レスラーのような被り物をした千歌。一体どこで買ってきたのだろうか……。
「これは夢だよ……」
「そうだよ。だって内浦にこんなに雪が降るはずないもん」
「じゃあこのまま目を閉じれば自分に家で目が覚め────」
「ないですよ。何言ってるんですか!」
そろそろこのおふざけムードを終わりにしようと、珠冬が声をかける。だってここは────
『北海道だもーん!!』
浦の星のスクールアイドル、Aqoursは現在北海道にいます。
「きたぞー! 北海道ぉ!!」
「はるばる来たね、函館!」
両腕をあげて喜びの声をあげる一眞の隣では、さも喋っているかのように先ほど被っていたマスクを動かす千歌の姿が見受けられた。
「まさか地区大会のゲストに招待されるなんてね」
決勝進出を決めたAqoursは、北海道の地区大会予選の観覧に呼ばれて来たのだった。とは言っても、まさかこのような形で北の地へと赴けるとは未だに信じられない。
「寒い……」
「曜ちゃん、もうちょっと厚着した方がいいわよ」
「ぶあっくしゅ!!」
その横で一眞は豪快にくしゃみをしてしまう。
「一眞くんにも言ったよ、厚着したほうが良いって」
「いや、こんなに寒いとは思わなくってさ……」
ある意味この地よりも冷ややかな視線を送る梨子に、一眞はバツが悪そうに答える。彼も初めての北海道に浮かれているのだろう。
それはみんなも同じなのかもしれない。善子は内浦と同じ靴を履いてきたせいで、滑って尻餅をついてしまう。鞠莉やダイヤは雪用のブーツを履いてきたわけだが、滑らないことを証明するために隅に積まれてできたであろう雪山に登って見事に沈んだり……。
「おまたせずら~」
花丸は厚着しすぎてて丸くなってしまっている。
「やっと温かくなったずら~」
すると服の重さに耐えられずに転倒してしまい、大玉よろしく転がりながらルビィや善子、曜、珠冬を下敷きにしてしまった。着いて早々賑やかだなと、ドタバタを見ていた一眞は口元を緩めた。
そんなこんなで地区大会が行われる会場に着いたわけだが、外には既に観客たちでいっぱいだった。
「あ、Saint Snowさんだ」
「流石優勝候補ね」
会場内のモニターに映し出されているのは、今日出場するスクールアイドル。その中には勿論Saint Snowの姿もあった。
「あの……」
「Aqoursの皆さん……ですよね?」
すると見慣れない制服を着た少女たちが声をかけてきた。おそらく地元の学生たちだろう。あまりに突然だったので、千歌たちも間の抜けた声で返事してしまう。
「えっと……」
だが彼女たちには聞こえてない……気にしていない様子。寧ろ自分たちの問題で手一杯と言った方が良いだろうか。もじもじとした様子から、意を決したかのように声を張り上げる。
「あの、一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
「ちょ、ちょっとみ、みんな落ち着こう!?」
「梨子ちゃんが落ち着いて」
その後、一眞が写真を撮ることになったのは言うまでもない。
「決勝に進むって凄いことなんだね」
ルビィの呟きにみんなが頷く。決勝に進んだからこそ、遠く離れたこの場所にまでAqoursが知られ、ファンが増えたのだ。ラブライブの決勝へと進んだことがどういう事なのか、それを考えさせてくれるいい出来事だったのかもしれない。
「失礼しまーす。Saint Snowさんは……」
「はい。あ、お久しぶりです」
控室にあいさつをしに行ったAqours。本番前に申し訳ないと謝るが、既に衣装に身を包み髪をサイドテールにした聖良は快く受け入れてくれた。
「今日は楽しんでいってください。皆さんと決勝で戦うのはまだ先ですから」
「はい。そのつもりです」
その横で善子と花丸は屈んで聖良たちの方を見ていた……と言うよりは睨んでいたと言った方が近いかもしれない。
「もう決勝に進んだつもりでいるの?」
「凄い自信ずら。と、ものすごい差し入れずら」
花丸に至っては机に置いてある差し入れを。善子はそんな差し入れを見つめる花丸の方をより強く睨んでいたが。
「また見せつけようとしてるんじゃない? 自分たちの実力を」
果南はそう言って煽るが、聖良はそんなつもりはないようだ。それに、今のAqoursにそのようなことを言っても動じないとも。
「どう意味ですの?」
「Aqoursは各段にレベルアップしました。今では紛れもない、優勝候補ですから」
聖良の言葉にはある意味の信頼と、負けたくないと叫ぶ両方の意味があるように感じた。
「あの時は失礼なことを言いました。お詫びします」
あの時とは、東京でのライブがあった時のことだろう。そのことについて、聖良は深く頭を下げる。
「次に会う決勝は、ラブライブの歴史に残る大会にしましょう!」
そう言って聖良は握手を求めてきた。すると奥の方で他のグループと談笑していた鞠莉と曜が囁く。
「ここは受けて立つところデース」
「そうそう」
同じスクールアイドル、そして優勝を目指すライバル同士……とてもいい関係だと思えるまでに成長している。千歌も手を拭いしっかりと聖良と握手を交わしたのだった。
「理亞も挨拶なさい」
先ほどから一言も発していないのは、聖良の妹である理亞。彼女は音楽を聴いているだけで見る気も起きないようだ。聖良は再度声をかけるが、彼女は反応を示さなかった。
「ああ、いいんです。本番前ですから……」
「……」
聖良とAqoursが話している中、ルビィは見てしまったのだ。理亞の重ねられた手が震えていることに。さらにそれはルビィ1人だけでなく……
「……?」
珠冬も同じくその瞳に収めてしまっていた。
すると聖良は「そういえば……」と千歌たちに疑問を投げかける。
「一眞さんはどうしましました? 先ほどから姿が見えないようですが……」
「あ!? え、え~と……」
「入れないって! カ、カズくんも「流石に控室には入れないよ~」って言って客席で待ってます!」
「あ! そ、そう言えばそんなことを言ってたわね!」
「そ、そうなんですか……? 確かに、それもそうですよね」
言い淀む千歌をフォローすべく、曜と梨子は捲し立てた。確かにスクールアイドルの控室に入るのは、
だが実際、それは土壇場で思いついた建前でしかなく………
「なんでこんな時に出てくるんだ!!」
真っ赤に燃える巨人の蹴りが、白い体に覆われた巨大生物の顔を蹴り飛ばした。地面を転がると巻き上がるのは土ではなく、真っ白な雪。
再度起き上がる怪獣の姿を見据えれば、雪が体に纏わりついているのではないかと思わせるくらいの白銀の毛皮。そしてマンモスのような牙と鼻。只でさえ銀世界な北の地を、一層氷漬けにしようとしている冷凍怪獣……名をマーゴドンと呼ばれる存在と対峙していた。
「くそ……寒いし強いしライブ見たいし……」
会場で写真を撮った後、なにやら怪獣と思しき存在の記事を携帯で見つけてしまった一眞は、一目散に飛んできたという訳だ。
せっかくの北海道を早速ぶち壊したことに愚痴るオーブの目の前で、マーゴドンは全身から発する冷凍ガス「スティファフロワー」をまき散らしながら迫ってくる。その極寒に対抗するためバーンマイトとなり、身体全体を炎に覆わせて攻撃を与えているのだったが、ダメージは期待できないのが現状だ。もう何度も倒され、踏みつけられたりで身体はヘロヘロだった。
(脚が重たい……)
マーゴドンは地球のような熱源が有る惑星を見つけると、その惑星に降り立ち片っ端から熱エネルギーを奪い取る。そして星を氷漬けにし、死の惑星へと変えてしまうという恐ろしい宇宙怪獣だ。その体から発する冷気は、吸収した熱エネルギーを変換している。即ちバーンマイトの攻撃は、逆にヤツへ力を与えているようなものに過ぎない。
「また厄介な相手が出てきたもんだ……よっ!」
冷凍ガスを吹かし、蹂躙した後に残るのは氷漬けになった木々や地。吹雪など生ぬるいのだと嫌でも認識させれる。現れたのが深い山の中であったことが唯一の救いかもしれない、もしここが街中であれば大惨事となっただろう。
(体全体に炎を纏ってたら多少はマシかなと思ってたけど……思った以上にエネルギーの減りが早いな……)
胸のカラータイマーの点滅を見た一眞は、すぐに纏った炎を解除する。しかし、解除したらしたで次は寒さで追い詰められていく。この極寒の地という場所自体が、ウルトラマンにとっては弱点になっているのかもしれない。何もしなくてもエネルギーが消費されてしてしまう以上、下手に光線を撃ったらこちらが死にかねない。
(くそっ……冷気をぶっ放すだけかと思たら力も強いなんて……)
耳を広げ空を滑空。そのまま突進してくるマーゴドンを受け止め、オーブは唸る。その冷たく硬い感触を掌に感じながら、ヤツを投げ飛ばした。
(冷たく……硬い。なら衝撃には弱いはず……。オッケー、怪力でぶちのめしてやる!)
雪に覆われた地面を蹴りながら、オーブはその姿をサンダーブレスターへと変化させた。攻撃を掻い潜り、アッパーや手刀、さらに蹴りを食らわす。だがその連撃も長くは続かず、マーゴドンの怪力に見事吹き飛ばされてしまう。
「ウオオオオオオオオ!!」
雪原から起き上がったオーブは天に向かって吼え、即座に肉薄する。爪で胴を切り裂いたかと思えば膝蹴りを見舞う。そうして物理的ダメージをマーゴドンの体に蓄積させていく。
「■■■■ッーー」
苦悶の声と共に首を揺らして怪獣が後退。チャンスと思い懐へと入り込み、腕を突き上げた。
「テメェが凍っちまえ……デスシウム……フロストォ!」
拳を撃ち当てるとともに放たれた冷気は、体の内側から怪獣を凍らせていく。
(よし……!)
その様を見届けたオーブは腕を限界まで引き絞り、光と闇のオーラを纏わせた拳をマーゴドンに向けて打ち付けた。するとヤツは強い衝撃に耐えられず、バラバラに砕け散っていくのだった。
「悪い、遅れた!」
その後、会場に到達した一眞は急ぎ足で客席へと向かった。寒さと疲労で鈍くなった脚に鞭を打ちながら席へ向かうと、既にAqoursの皆や珠冬は席についていた。
「遅いよ!」
「そういうのは後でいくらでも聞くって。それよりSaint Snowさんは……もう終わっちゃった?」
「いいえ。まだこれからですわ」
ダイヤの言葉に「ホントですか? いやよかった~」と安堵する一眞。目にしておきたかった本命を見れないとあれば、あの怪獣を心底恨むところだった。
「いつまで突っ立ってんのさ。空いてるところに座りなって」
「はいよ。うう~さみっ……」
先ほどの寒さが抜けないのか、腕を摩りながら一眞は席に着く。そしてスポットライトがステージを照らすとともに歓声がより一層大きくなる。心を揺さぶるような激しいイントロから始まったSaint Snowの曲に観客の熱狂も頂点に達そうとしていた。
「It's showtime!」
そして彼女らは踊り始め─────
~~
「まさかあんなことになるなんて……」
「でも、これがラブライブなんだよね」
全てのグループの発表を終え、地区大会の順位が映し出されたモニターの中に、Saint Snowの名前は…………なかった。
まさかとも思えるかもしれないがこれが事実。しかもその光景を自身の目で見てしまったのだ。
「一度ミスをすると、立ち直るのは本当に難しい」
「一歩間違えれば私たちもって事?」
「そうずら……」
控室へと向かいながら、珠冬は先の光景を思い出す。ダンスの最中、2人はぶつかって転倒。その後どうにかして持ち直そうとしたが、動揺して歌えるわけもなく……。さらに気がかりなのは、最初に控室に入って見た彼女の────。
「……?」
そんな中、珠冬の視線に入ってしまう。思い悩むようなルビィの姿を。
その後、路面電車でホテルへと向かっているのだが、内部での彼らの雰囲気は実に重たいものだった。
控室に向かったはいいものの既に2人の姿は無く、机の上も綺麗に片付けられていた。さらに残ったグループの話では、今日はいつもの2人ではなかったようだ。喧嘩していたという話もあるが、真意は本人たちにしかわからない。
「まだ気になる?」
「そりゃあな……」
電車内での雰囲気に果南はそう切り出す。言わずもがな誰もがそうだろう。千歌たちに至っては本番前に顔を見せた仲でもあるし尚更だ。
「ずっと2人でやってきたもんね」
「それが最後の大会でミスして……結果まで」
やっぱり会いに行かなほうが良いのだろうか。そう千歌が言うと、善子も無理に明るくした声で同意する。確かに彼女たちには彼女たちの時間が必要だ。今無理に会うこともないだろう。
「私たちが気にしても仕方のないことデース」
「そうかもね」
仲のいい2人の姉妹なら問題ないと、こちらが過度に心配することは無いと結論付けたところでようやく明るい雰囲気に戻りつつあった。しかしルビィだけは、どうにも煮え切らない感情を抱いてしまっていた。それは多分、自分にも通ずることなのかもしれないから。その無意識が、自然とダイヤへ視線を向けてしまう。
「……手、震えてた」
すると隣に座る珠冬が、ポツッと言葉を漏らした。それは控室で見た理亞のことだろう。
「え……珠冬ちゃんも見てたの?」
「見てたっていうか、見ちゃったって感じだけど……」
無理やり作った笑みをルビィに向けて語る彼女。だが理亞が何故手を震わしていたのか、その理由を知ることはこの2人にもできなかった。
~~
「ヘヘへッ……どこ行きやがった。オーブ……」
暗い道を1人で歩く少年の姿があった。彼は足を引きずり、口からは血を流していた。しかし彼が浮かべているのは笑み。飽くなき戦闘欲を内に秘めた少年プロキオはオーブを探し歩いていた。
「いい戦いだったが、オレはもっと、もっと戦いたいんだよ」
以前の戦いで敗北したプロキオだったが、彼の戦意が消えることは無い。逆に敗北したからこそ、今度は負かしたいと思える。
生か死しかない、純粋な命のやり取り。その中でしか己の価値を見出せないのが彼なのだ。戦って、その屍の上に立つ。それでしか己の存在を感じ取れない。心が燃え滾るような熱さを感じ取れない。
「今回はこっ酷くやられたのね、プロキオ?」
無意識の内に耳へと入ってきた女性の声に顔を顰め、声の方向へ視線を向ける。
「テメェの寄こしたババルウ星人が碌に働かなかったからだろ。ヴィルゴ」
プロキオの憤慨すらも楽しそうに見ていたヴィルゴは「アンタが弱いだけでしょ」と一蹴する。
「そうかよ。じゃあ何しにきたんだ。オレを笑いに来るだけじゃないだろ」
「珍しい、今回は頭を使ったのね。まあいいわ。どうせあなたはオーブとの再選をのぞんでいるだろうから、コレをあげに来たの」
ヴィルゴは手に持った
「……あ?」
「そいつは前のヤツよりかは動きやすいはずよ。光線の反射とかはできないけど、剣術ならあなたも得意でしょ?」
「オマエは相変わらず腹ん中は見えねえが、今は感謝しといてやる」
「気を付けてね」
「チッ、思ってねえだろうが」
ひらひらと手を振るヴィルゴには目もくれず歩き出したプロキオ。
彼の手に握られたカードには、黒をベースに金の装飾が施された体に赤く光る目。そして胸には青い光を宿す星人の姿が描かれていたのだった。
北の地でも紅に燃え、闇を抱いて光となりました。(は? 何言ってんだ)
今回登場したのは、ちょうど配信されている80最終回に登場する冷凍怪獣マーゴドンです。ここはやはり雪や冷気に関する怪獣がいいかなと思いまして、最初の案ではガンダーやスノーゴンにでもしてバラバラになってもらおうかなとも考えていました。
マーゴドンをウルトラマンに倒させるのはちょっとナンセンスかなとも思いましたが、実はこの怪獣O-50組とはちょっとした因縁があったり……。
そしてどうにか生きてたプロキオが持っていたのは……。