Sunshine!!&ORB   作:星宇海

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お待たせして申し訳ありませんでした……。

今回はオリジナル要素マシマシです。


第68話 ポベートールの暗躍

 ことは2日前に遡る。

 

 

 

 

 ちょうど内浦に出現した地底怪獣テレスドンを止めるために、オーブが戦っていた時のこと。

 

「コイツ……なんか変だぞ!」

 

 強靭な腕力でテレスドンを押しのけたサンダーブレスターは、眼前の怪獣の様子にいつもとは違う"”何か”を感じていた。

 

 まず見た目だ。目が赤く変色し、首元に虫刺されのような腫れが浮かび上がっている。そして次に動き。体力がないのか、フラフラとまるで屍のような状態……。だというのに、目の前の獲物に食らいついてくるかのような様。死にゆく体で人形のように動かされ続けているかのような姿に、一眞の背を冷たい雫が流れていく。

 

「ゾンビかよ……!」

 

 ややカウンター気味のドロップキックが、テレスドンの首元に炸裂。苦悶の声とともに、地響きを立てる怪獣にオーブは飛び掛かる。馬乗りになって打撃を数度浴びせた後、尻尾を掴み放り投げた。

 

「ウゥ……オオオオオッ!!」

 

「■■■ッーー!」

 

 重量のあるテレスドンを投げ飛ばしはしたが、そのおかげで腕に力が入らなくなる。かといってヤツがご丁寧に待ってくれるわけではない。激情に駆られたテレスドンは体をドリル状に高速回転しながら体当たり。

 

「……っ!? サンダークロスガード!」

 

 咄嗟のガードで致命傷を避けたはいいものの、地中を掘り進むための硬い体と回転力には咄嗟のガード如きで対抗できるはずもなく、オーブは吹き飛んでいく。

 

「……この野郎」

 

 立ち上がったオーブへ追い打ちと言わんばかりに口から溶岩熱線を吐き出す。だがオーブもやられっぱなしになるわけにはいかない。ゼットシウム光輪を前方に投擲し、熱線を防いだのだ。そして空高く跳躍。落下の勢いも合わせ、両手をテレスドンの頭部に振り下ろした。

 

 顔面を地面に打ち付けたテレスドンに、オーブはトドメだと距離をとる。

 

「もう眠ってろ!」

 

 十字に組まれた腕から放たれるゼットシウム光線を受け、テレスドンは爆散するのだった。

 

(終わったか……)

 

 一瞬にして静寂を取り戻した内浦の大地から飛翔しようと、オーブは空へ目を向ける。すると彼の強化された視力は、人間ではまず見えないであろう距離に光のカーテンを視認する。

 

 だがオーロラというのは、天体の極域近辺に見られる大気の発光現象であり、限られた場所でしか見ることができない。日本でも北海道くらいだろう。だから本来はここで見られること自体があり得ないのだ。

 

(なんだあれ……調べてく────)

 

 地面を蹴ろうにも足に力が入らない。さらに感覚も鈍くなり、何よりも瞼が重い。

 

(こんなの……はじめてだ……あれ……)

 

 意識を失うようにして倒れたオーブは、そのまま変身が解けてしまった。オーブが倒れた場所には、一眞がうつ伏せの状態で倒れており、すぐさま彼の意変に気が付いた千歌たちが駆け寄っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生はなんて?」

 

 近くの病院に運ばれた一眞。彼は今、ベッドの上で横になっている。そして数十分後、意志から話を聞き、戻ってきた果南とダイヤに残っていたメンバーは詰め寄る。

 

「容体は安定してる。というより体は健康そのものだってさ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「脳が活動し、覚醒状態にあるそうです。所謂レム睡眠といわれている状態ですわね」

 

 要はただ眠っているだけではないかと安堵する。確かに、彼にも疲労が溜まってきているだろうと緊張の糸が解れ掛けたその時、ダイヤは浮かばない顔で「しかし」と付け加える。

 

「”ずっとレム睡眠の状態”なのだそうです」

 

「……どういう事?」

 

「いいですか。睡眠時には普段、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返します。ですが今の一眞さんの場合、レム睡眠だけを行っているという状態なのです」

 

 空気が冷えていく。専門的なことがわからなくても、ダイヤの語ったことにより一眞の置かれている状況の不気味さが浮き彫りになっていく。

 

「私たちにできることって……」

 

「今は……なにも」

 

粗方予想通りの返答がダイヤから放たれ、一同は沈黙。鎮まった病室の中で聞こえる一眞の規則正しい寝息は、見ている側に安心を与えるものではなく、むしろ底知れない不安を抱かせる。

 

「我が堕天使の力を持ってしても、リトルデーモンに干渉できないとは……」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないずら」

 

「わかってるわよ、そんなこと……」

 

 不安に押しつぶされそうだからこそ、いつも通りに振舞おうとしたのかもしれないが花丸に戒められてしまう。当の本人も不味いと感じているため、バツが悪そうに答えていた。

 

「とにかく、今日はもう遅いですし、ひとまずは解散にしましょう」

 

 皆に帰宅を促すダイヤの声も落ち込んでいる。しかし、病院にも面会時間というものがある。個人的な理由で、ここに居続けることはできない。

 

 やり場のない気持ちを胸に、彼女たちは病室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 そして一眞は、所謂”夢の世界”に引きずり込まれたのだ。そこでの彼は、和哉や珠冬とは実の兄妹という関係となっていた。夢の中とあり、無論和哉も生きている。さらに浦の星の統廃合の危機も、Aqoursの地区大会での活躍により希望者が100人を越えたことで学校を救った……ということになっている。しかし今の一眞は気付かないだろう。一時的にこの偽りの世界から逃げ出そうともしたが、再びこの世界での生活に戻されてしまったのだから。

 

「一眞くん、一緒にご飯食べよ~」

 

「ああ、わかった」

 

 彼は統廃合の危機が消えた浦の星で、平和に暮らしていた。学校で授業を受け、放課後にはスクールアイドルの練習を手伝い、そして家に帰る……そんな毎日を。あり得たかもしれない日常を。

 

(……い……おい……おい、いい加減目を覚ませ!)

 

「……っ!?」

 

「ん、どうしたの?」

 

 そんな一眞に、突如として響いてくる声。聞き覚えの無いその声を聞いて立ち止まる彼に、曜たちは首を傾げる。

 

「あ、いや……」

 

(いつまでこの世界にいるつもりだ)

 

 頭の中に響く声は先ほどよりも明確に、一眞へと呼びかける。

 

「そ、そうだった。俺ちょっと先生に頼まれてる用事あったんだった。先にそれ片付けてくる」

 

 誤魔化して教室を後にした一眞は、中庭へと出る。そしてそのまま校舎の陰へ。そこまで行けば人の目はないだろう。

 

「なんなんだよ」

 

(オレが君に伝えられる時間は限られてる)

 

「……」

 

 謎の声によって、一眞の頭にかかった靄が消え始めていく。だがそれよりも、頭に響く声の方に一眞は意識を持っていく。

 

(ここは夢の中に作られた偽りの世界。誰の目論見かは知らないが、()()()はまんまと嵌ったみたいだ)

 

「……夢? 誰のだよ!?」

 

(君自身だ。君の居たいと思える世界を何かが構築したんだ)

 

 成程。和哉が生きていて、浦の星も救われた世界線。確かにここに閉じ込めるには十分な設定だ。

 

「最悪だよ……」

 

(それだけじゃない。この世界の飲食物は実物ではないが、どうやらある種の催眠状態にさせる効力があるようだ。現実世界に帰りたいという意思を奪い、永遠にここに居させようとする)

 

 この夢の世界の飲食物には、現実世界に戻りたいと思わせなくさせる作用がある……というのもこの世界を作った人物、或いは存在の罠だろう。何も知らずに摂取すれば一生催眠に掛かりっぱなしになるのだから。

 

「性格が悪いですね」

 

(その調子だと、どうやら効力は切れたみたいだな)

 

「……ええ、あなたのお陰です」

 

 今話しかけている存在が誰なのか、一眞は見当がついているようでその言葉に口角をあげる。夢の中とはいえ、千歌たちに何も言わず逃げ出すのは気が引けるなと思いつつも地面を蹴り出そうとしたその時。

 

「な……!?」

 

 学校内にいた人物全てが、一眞の方を見て集まって来ていたのだ。

 

「ねえ……なにやってるの?」

 

「ほら、戻ってお昼食べようよ」

 

「どうして逃げようとするの?」

 

 

「「「「逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの逃げようとするの」」」」

 

 

 まるでロボットにでもなったのか、 無愛想な表情や声音でこちらへと迫ってくる。さらにアクシデントはこれだけではなく

 

(くっ……すまない。そろそろオレ────の意識は消える。ここから────は、き────)

 

「ちょっと……!? ……わかりました。ここからは俺だけで!」

 

 その声の主は消えてしまったのか、呼びかけても反応はない。声の人物へ感謝の念を抱きつつ、一眞は迫ってきている生徒らから逃げるための行動を起こす。

 

 彼女らの行動からもお察しの通り、説得の余地はないと踏んだ一眞は三角跳びや限界突破した身体能力を駆使し、人々の頭上を越えていく。どうやら体の方は現実世界と同じようだ。もしくは、意識を覚醒させたおかげか。

 

「夢じゃ全然走れないとか言われてた……けど!」

 

 脚を回す速さをもう一段上げる。負荷はかかるがここは夢の中。さらにこっちは追われている身ときた。つべこべ言っている状況ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……はあ……何とか撒けたか」

 

 走力で突き放した後、家の陰に隠れていた一眞は追手が来ないことを確認すると、肺に溜まっていた空気を一気に吐き出した。

 

 しかし状況はあまりいいとは言えない。なにせ、生徒たちからは逃げることはできたが、この世界から脱出する方法が何も見つかっていないのだから。ここからは、どうにかして抜け出す手段を探し出さなくてはいけない。誰にも見つからないように。

 

「厄介だな……この世界に引き込んだ奴は相当性格が悪いぞ」

 

 自分がこの世界に来てしまった原因……その黒幕たる存在を悪く言いながら辺りを散策する一眞の目の前には、現実の内浦と何ら変わりない景色が広がっていた。

 

「……夢の中、つっても随分とリアルだな」

 

 手に触れた感触、耳に入る音、頬を撫でる風や自分を照らす日光。夢という曖昧な空間の中だというのに、現実世界並みの情報量だ。これは知らず知らずのうちに飛ばされたら、区別がつくはずもない。

 

「ここにいたんだな」

 

 ふと、声をかけられる。一眞が振り向いた先にはなんと和哉が立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 一眞が夢の世界で謎の声を聞くようになった時よりも数時間前の現実世界の病室。そこでは千歌たち2年生がお見舞いに来ていた。しかし一眞はベッドに横たわったまま。話しかけても反応することはないし、回復の見込みがあるのかも怪しかった。

 

「大丈夫……よね?」

 

 しばらく無言の状態が続いていたが、それは梨子の一言によって破られる。彼女の言った”大丈夫”とは、いつものように何事もなく回復し戻ってくるという期待が込められた反面、もこのまま眠り続けたままなのではないかという不安をかき消すために言い聞かせるという想い故に出た言葉だった。

 

「……大丈夫だよ。またいつもみたいに戻ってくる。反省しているのかしてないのかわからない表情を作って」

 

 それが今までの彼じゃないかと。だが千歌や曜だって、全く不安がない訳ではない。曜だって、動くことのな彼の手を握り、浮かない表情で眠り続ける彼の顔を見続けていた。

 

「あ、もうこんな時間……」

 

「そろそろ行かなきゃね」

 

 しかしずっとはいられない。決勝に向けた練習が予定されており、今日は午後からだったのだ。そろそろ向かわなければ、開始時間に間に合わない。名残惜しさをどうにか封じ込ませ、病室を後にしていく3人。

 

 彼女たちが去った後、まるで待っていたかのようにして病室に入ってくる影が1人。

 

「……厄介な罠だと思わないか、シリウス?」

 

 彼をその名で呼ぶのは1人だけ。そう、アオボシ。一眞が何も答えずとも、彼は一方的に話を続ける。

 

「こうやって回りくどく追い詰めるのは”彼女”のやり方かな。まったく、陰湿で悪趣味な女だよ」

 

 一眞をこの状態にした黒幕に毒を吐くアオボシ。今もその女は計画通りに事が進んでいて笑っているだろう。だからこそそれが気に食わない。そんなアオボシは、ポケットからオーブリングNEOを取り出した。

 

「僕は君を助けたくはないし、君だって嫌だろ。だから、君の中に居る”彼”に手助けしてもらえ」

 

 そう言って、オーブリングNEOの光を彼に照射した。

 

「これで少しぐらいは目覚めてくれるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

「……」

 

「おいおい、どうした。そんな怖い顔してさ」

 

 和哉は不思議そうに尋ねてきた。その様は、短い時間ながらも一眞の記憶の中に刻まれた”暁和哉”という人物のそれだった。しかし冗談もそこまで。和哉は一眞が逃げていることを知っているらしく「どうして逃げるんだ?」と尋ねてきた。

 

「ここは……俺のいるべき場所じゃない」

 

「いや、お前のいるべき場所だろ。叶わなかった願いが、ここでなら叶ってる。怪獣だって現れないし、お前が自由に生きられる場所だ」

 

「そう。私たちの学校だって救えたんだよ?」

 

 一眞を囲むようにして、千歌や曜、梨子も姿を現す。

 

「悔しかったでしょ?」

 

「辛かったでしょ?」

 

「でもここなら……そんな思いをしなくて済む」

 

 救いたかった人を救えず、一番叶えたかったことをとり零してしまった世界よりも、理想を体現したかのようなこちら側をとるべきだだと、彼女たちは言う。

 

「ああ……そうかもな」

 

 同意する一眞を見て、口角が上がる。だが一眞の「けど……」という言葉が、状況を一変させる。

 

「ここにはいられないんだ」

 

 一眞は言い放った。そんな様子を受け入れられず、和哉……和哉の模造品(レプリカ)は引き留めようと声をあげる。「どうしてなんだ!」と。

 

「夢が叶っていても、お前が生きていて平和だったとしても、ここは偽りの世界であることに変わりはない。そんな世界でぬくぬくと生きていくほど俺もバカじゃない。それに……」

 

 理想を体現した世界でも、所詮は嘘まみれ。結局催眠をかけることでしか、一眞を閉じ込めておけない世界だったのだ。さらに一眞はこの世界に思うところがあるようで、偽物の千歌たちを睨みつける。

 

「この世界の存在そのものが、あいつらに対する侮辱だ」

 

 一度は目標を断たれたが、あらたな道を浦の星のみんなが示してくれた。しかしこの世界では、それすらもなかったことになる。それだけは絶対に許せなかった。

 

「いい加減……」

 

 一眞は地面を蹴ると同時に右腕を目一杯引き絞り、目の前で困惑する和哉の顔面目掛けて拳を打ちこんだ。

 

「”その姿”で俺に話しかけるな!」

 

 無抵抗のまま地面を転がった和哉の模造品は、起き上がることなく消えていった。彼と同じくして、偽の千歌たちも。

 

 この世界の人物を傷つけたからか、一眞の強い意志のお陰か”作られた内浦”の風景が崩れていく。そして新たに形成されたのは、チープで明らかに作り物だとわかる内浦。太陽は無く、代わりに薄暗いスポットライトだけが光を灯している。

 

 加えて、ピンク色の羊が一眞の目の前に姿を現す。しかし牙をこちらに向けた恐ろしい顔。

 

「お前か、俺をここに引きずり込んだのは」

 

 羊が何も答えることはなかった。代わりに多くの羊が集まっていき、巨大な人型の姿を形成していく。そして禍々しい光がはじけ飛んで真の姿を現した。白い毛皮を手足に生やし、黒い複数の目でこちらを睨んだ獣人のような姿。頭に生やした巨大な角とそのシルエットから、一眞は悪魔を連想する。

 

「悪魔……と言うよりは夢魔ってところか」

 

 夢幻魔獣インキュラスは、一眞へと攻撃を開始した。

 

「痛めつけてでもこの世界に縛り付けようってか!」

 

 攻撃をどうにか避けた一眞は左手に視線を落とす。するとそこにはオーブカリバーが。自身の夢の中でオーブに変身するという訳の分からなさに苦笑しつつ、左腕を天高くに掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「散々弄ってくれたお礼だ。覚悟しろ!」

 

 オーブオリジンへは聖剣を構え、ステージのように固い地面を疾走していく。対するインキュラスも、不気味な声をあげて突進。剣と拳がついに交わる。

 

「くっ……!」

 

 しかしインキュラスの一撃は重く、力負けしてしまったオーブは後退りしてしまう。驚く暇もなく、追い打ちをかけるように飛び込んできたインキュラス。だがその動きを捉え、姿勢を低くして回避。そしてしびれる腕を無視しながら横に薙いだ。

 

 

 

 ……が

 

 

 

 刃はヤツを捉えることなく、空を切っただけ。一瞬の出来事に戸惑うも、左側面に気配を感じオーブカリバーを振り下ろす。しかし肉体を切り裂いた感触は伝わってこない。またしても空振りだったのだ。

 

「……っ!?」

 

 そして今度は右側から迫る裏拳を右腕で防ぐ。しかし腹部に激痛を感じると同時に、肺から空気がすべて出ていく。視界がチカチカしながら次の攻撃を警戒しようと頭をあげるも、振り下ろされた拳が顔面を捉える。

 

「グァ!?」

 

 朦朧とする状態でもインキュラスの姿を視線に固定。聖剣の切っ先がヤツの腹部を刺す直前、インキュラスの姿が消えた。数秒後、痛烈なアッパーカットがオーブを宙へと舞わせた。

 

「ウアアアアア……!」

 

 地面に叩きつけられたオーブは、しばらく起き上がることができなかった。瞬間移動能力で翻弄され、俊敏でいて力強い攻撃によりダメージを負ってしまったからだ。そんな全身が痛む攻撃を受けた後でも、一眞は思考を巡らせる。

 

(”読まれてる”……か)

 

 かなり無茶をした攻撃でも、インキュラスは捌いてみせた。それはつまり、自分の攻撃を見切っているからではと考えたのだ。ここは一眞の夢。本人がどう動くかも知っていても無理はないだろう。第一、相手は夢の世界を作り出した張本人。何をしてきてもおかしくはない。

 

 状況はこちらが圧倒的に不利。だが甘んじてヤツに倒されるような自分ではない。目の前の羊の夢魔をぶっ倒し、この世界から出るのだと一眞は己を奮い立たせる。

 

「■■■ーー!」

 

 倒れたオーブにトドメをさそうとインキュラスが飛び掛かるが、彼の熱意が現実化したように、オーブはバーンマイトに変化。ゼロ距離のストビュームカウンターで吹き飛んでいく。

 

「……ってぇな。それにこの場所、薄気味わりぃんだよ!」

 

 追い打ちをかけようと駆け出したが、受け身をとって起き上がったインキュラスがこちらに向かい突進。しかしその攻撃方法が先と異なっていた。なんと槍を生成していたのだ。ギリギリで攻撃から回避へと脳の伝達を切り替え、後方へと飛び上がることで距離をとる。

 

 離れたところでインキュラスの持った槍に注目する。

 

「それは!?」

 

 一眞が驚くのも無理はない。その形はまるっきりオーブスラッガーランスそのものだったのだから。

 

「なんでもありかよ」

 

 フフフ、と怪しく笑うようにインキュラスの方が上下する。一眞を通した夢だからなのか、オーブの動きのみならず、武装まで呼び出すとは……。夢という何でもありの世界を自在に操るだけのことはある。

 

「■■■■ー!」

 

 此方に突き出されたオーブスラッガーランスの攻撃を避ける。しかし攻撃速度はむこうの方が上、加えて本体は安全距離からの攻撃ときた。

 

「やり辛ぇんだよ!」

 

 掠ったオーブスラッガーランスを掴み上げ。インキュラスの脚を蹴飛ばして槍を取り上げる。

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 掠った場所を抑えるオーブ。そこからは血のように光が漏れ出していた。インキュラスはチャンスと感じてか、右手からは紫色の光輪を、そして左手からは赤の光輪を投擲してきた。

 

「チッ……!」

 

 迫りくる丸鋸状の光線をバックステップで距離をとりつつ、蹴り技で叩き落とす。

 

(まさか、すべての形態……なんて言わないよな?)

 

 懐に潜り込むように肉薄してきたインキュラス。その真っ赤に燃える拳で、こちらを叩きのめすつもりらしい。オーブも対抗し、拳を受け止めて一発。裏拳で一発。最後に胸部にドロップキックを浴びせた。

 

 これ以上長引かせるわけにはいかないと、倒れこんだインキュラスに向かいストビュームバーストの発射準備に取り掛かった。一眞がこれで終わりだと口に出そうとした瞬間、頭上から光の筒”キュラスター”が出現。なんとオーブを閉じ込めてしまった。

 

「出しやがれ! ガアアッ!?」

 

 筒を破壊しようと拳を打ち付けると、電流が流れオーブを襲う。何もできない巨人を見て、無力さを嗤うインキュラス。ヤツは余裕そうな表情でゆっくりとこちらに向かってくる。それも何もできないオーブを嘲笑っての事だろう。何もできずにいるオーブを、手に持った聖剣擬きで首を落とすつもりか。

 

「くそ……」

 

 打つ手なしかと唇を噛んだ一眞。だが無力なままで終わるのだと思うと拳に力が入る。大切な人たちを再現し、あれこれさせたのも気に入らない。そんな怒りの炎が一眞の心で燃え盛っていた。

 

 すると一眞はふと、ここが夢の世界だという事を思い出す。現実では起こり得ないことでも可能になり、何だってありえる世界だということを。現にインキュラスだってしたい放題。それが何よりの証拠だ。

 

「なんだってアリなら、こういうのもイケるだろ……」

 

 取り出したのはウルトラマンタイガのフュージョンカード。一眞は今のバーンマイトにタイガの力を上乗せしようというのだ。タイガの父タロウ。そしてタロウを教官に持ち、タイガの兄弟子たるメビウス。3つの炎を1つにまとめ上げようというのだ。現実では決して起こることのない現象。でもこの世界ならば……。

 

「いい夢……見させろ!」

 

 意を決した一眞は、迷うことなくオーブリングへカードを通す。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■!!

 

 

 

 

 

 爆発にも似た火柱が、キュラスターを粉々に破壊した。狼狽えるインキュラスは、太陽が間近にでもあるかのような明るさに目を覆う。

 

 光が人型に収束しても、まだ辺りは明るいまま。バーンマイトの胸部には青いプロテクターが装着されており、頭部の角にも燃える炎のような意匠が施されている。しかし体はすぐに炎に包まれた。

 

「ウ、ウオオオオオオオオ……」

 

 包まれた……というより、全身から絶えず炎を噴出しているのだ。その内外からの絶え間ない熱で、一眞自身も焼かれているような状態。だから彼はたまらず、声を上げてしまっていたのだ。

 

「なんだよこれ……ウウッ……」

 

 苦痛をどうにか受け入れ、彼はインキュラスを見据えると同時に右の拳を左掌に打ち付けた。

 

「こっちも時間ないからな……すぐさまぶっ倒してやる!!」

 

 駆け出したオーブは、炎の尾を作りながらインキュラスに接近。瞬時に手に持った聖剣擬きを落とさせて、顔面を何度も殴りつける。吹き飛んだインキュラスを待ち構えるように移動し、腹部を蹴り上げる。そして上空を舞う体へストビュームカウンターを打ち込み地面へと落下させる。

 

「その剣をお前が持つ資格はねえ!」

 

 しかしインキュラスもサンドバッグでいる気は無く、瞬間移動でオーブの攻撃を逃れる。

 

「……ッ!」

 

 気配を感じたオーブは火球を辺り一帯にバラまく。あちこちで起きる爆発に紛れ、インキュラスはオーブの隙を伺い突進。飛びつかれはしたものの、回転の勢いを利用して遠方に投げ飛ばした。さらに左腕の手甲から、金色の光剣を伸ばす。

 

「ストビュームブレード!」

 

 多くの斬撃をインキュラスに浴びせ、右の拳でさらに殴り飛ばす。すると怒りに震えるインキュラスは青い刃を両腕から延ばした。しかし剣技はそこまでのようで、ただ出鱈目に振り回しているだけだ。

 

「お前如きが、その剣を扱えると思うな!」

 

 青い形態の力を使ってしまった事が、さらに油を注いでしまったらしい。目にも止まらぬ乱れ斬りでインキュラスの生成した刃を折り、突き立てた拳がヤツをさらに後方へと吹き飛ばした。

 

 フラフラと立ち上がり、憤怒に声を上げるインキュラス。オーブは両腕を水平に開いた後、頭上で手を合わせる。そして収束していくエネルギーと共に、腰へと持っていく。

 

「ストビュームブラスター!!」

 

 十字に組んだ腕から、オレンジ色の光線を放つ。

 

 光線を浴び続け、苦悶の声を上げるインキュラスをしっかりと捉え、地面を蹴って加速。右足を突き出してドリルの如くきりもみ回転。深紅の炎を増幅させ、インキュラスに向かい突撃。

 

 ”オーブブラストスピンキック”でインキュラスの体を穿つと同時に大爆発。インキュラスは塵一つ残さず消え去ったのだった。

 

 すると周りの世界も、光に包まれていく。ようやくこの夢が覚め、目覚めるという事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

「う……ここは……」

 

 目を開け、入ってくる情報にしばし困惑する一眞。どうやら病院らしい。まあ、ずっと外で倒れていたのでも困るが。

 

「……っ!? つう……」

 

 意識が覚醒すれば、すぐさま痛みが襲ってきた。それはあの焼かれるような痛み。本来は負っていない痛みではあるが、夢の世界へと向かった心……魂にでも刻まれたのかもしれない。もし此方でもなれたとしても、二度とゴメンだと一眞は思う。

 

「……」

 

 眠っていたのにもかかわらず、ぐったりと疲れた頭で夢の出来事を思い出す。夢の中に理想の世界を築き、そこに閉じ込めようとする。自分を狙ったのも、オーブをこれ以上動かせないようにするためだろう。しかしそのために、彼ら彼女らを使って誘惑したことは許しておけない。あの怪獣を呼び出した黒幕が必ずいるはずだ。

 

(恐らくアイツだろうけど……)

 

 親しい人を目の前で怪獣にしたり、小さく無害な怪獣を狂暴化させた彼女だろう。これのお礼はいつか必ずと、心に誓う。

 

 すると、自分の病室に近付いてくる足音が聞こえてくる。恐らく彼女たちだ。病室のドアが開いたら、開口一番になんて言おうかと一眞は考えをめぐらすのだった。




黒幕は皆さまの予想通りインキュラスでした。ですが今回はオリジナル要素で、オーブの技をコピーして使用してくるという行動をさせました。嫌な人にはホントに申し訳ないです。

次にタロウ、メビウス、タイガの3人をフュージョンさせた形態を出しましたが、あの形態は夢の中という限定的な空間でのみ変身可能です。仮に現実でなろうものなら、オーブが噴き出す炎に耐え切れません。また左腕の手甲は、タロウブレスレット、メビウスブレス、タイガスパークのデザインが一体化したものをイメージしています。実はこの形態は、とある方のお声によって出すことを決めました。長い時間がかかってしまいましたが、ようやく出すことができました。

次からは新章ですが、サンシャインパートはまだまだお休みです。
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