今回は新章突入……でありその序章です。今回で何がしたいのかわかるかもですよ。
第零節 プロローグ
「この役立たずが!」
姿に似つかわしくない怒号と共に、彼女に蹴られた椅子が床を転がる。彼女らが潜伏している屋敷中に、その声と衝撃が響き渡る。しかしその様を見ている男は、ただ壁にもたれ掛かっているだけ。それは彼女の憤慨にも、そして周囲に当たり散らす様にも慣れているからだった。
「せっかくこのワタシが住みやすい世界を提供してやったのよ? だったら疑うことなくそれを享受していればいいの! こんな世界のどこがイイんだか……。所詮はワタシに跪くだけの下等な生物の星よ? こんなゴミ溜めを守ってどうすんだか。……そもそもあの羊擬きよ! アイツは夢に閉じ込めておく仕事だってロクにできないの? アイツの能力でしょ!?」
「……その辺にしたらどうだ? 今までも聞き流してきてやったが、流石に今回は我慢できねぇ」
もううんざりしているのかその男、プロキオは喚きたてていた女性……ヴィルゴを睨む。その声音からも、彼の腹の中もグツグツと煮え滾っていることは容易に想像できる。理由は十中八九、彼らが戦いを挑み、命を奪おうとしてきた巨人のことだろう。確かにプロキオは彼に戦いを自ら挑み、そして戦闘を楽しんでいたところもある。しかし、流石に2度も負けたとなればいい気はしないだろう。
「……」
「そろそろ目覚めそうなんだろ? おまけに、あの打ち込んだ毒も龍脈に回ってるみたいだしな。あとは……アルファルド様がアレ見つけてくるだけだが、全てを任せる気にはならねえ。そうだろ?」
星に巣食う禍々しい存在、大地を流れる気に紛れ込んだ毒。そして今この瞬間も探しているであろう、とある毒を統べる女王。この地球にカードが揃いつつあるようだが、その瞬間、その情景を待ち、そして黙って見ている気になれないのは、ヴィルゴも同じらしい。
「ええ、あれだけコケにされてワタシが黙っていると思う? いいえ、あの男には情けなく地面を這い蹲ってもらうわ」
「ああ、オレも同じ気持ちだ」
ニヤッと笑うプロキオの横から、コートに身を包んだ人影が横切る。そしてヴィルゴの前に立ち止まると同時に、コートを脱ぎ捨てる。その姿は人型ではあるが、鳥類に似た顔、鋸の歯のような形の縞模様を持つ体は、地球に住む生物からは凡そかけ離れていた。彼は分身宇宙人ガッツ星人。多くの戦いに悉く勝利してきた実績を持つ、宇宙の実力者だ。
「あら、意外と早かったのね」
「はい。危ない所でしたが、きちんと手に入れてきましたよ」
その異形の者が持つジュラルミンケースが開けられ、その内の1つを彼女に見せる。機械のような風貌に、腕や背中から生えている刃が特徴的な姿の……人形だった。約14センチほどの怪獣の人形。地球に眠っているオーパーツであり、何らかの些細な出来事で異次元に飛ばされて変化したとある怪獣の亜種らしい。
「これだけ?」
「途中で防衛隊と巨人の妨害にあいましてね。こればかりは申し訳ありません……」
話的にどうやらガッツ星人は盗んできたようだ。しかし
「ふうん……まあいいわ。
彼女の声に心臓が縮み上がったガッツ星人。彼は蹴られるとでも思ったのだろう。しかし、ヴィルゴは足ではなく手を動かした。懐からカードを取り出したのだ。闇の支配者の尖兵、宇宙からの脅威、術師の化身、異星から送り込まれた者、機械の体を持った存在……これらも加えようというのだろう。屈辱を受けたのならば、何倍にもして返す。今回は搦め手なしの……純粋な力で。
「こりゃ、一面焼け野原だな」
カードに描かれた怪獣や宇宙人を覗き込み、これから起こるであろうことを気にしてもいないのに想像するプロキオ。するとカードの一枚が彼に手渡された。
「アンタはどうせこれを選ぶでしょ?」
「フン、わかってるじゃねえか。コイツでリベンジマッチだ」
彼らは笑う。星を喰らう者が目覚めるその前に、あの巨人を……オーブを今度こそ殺すために。すると扉を開けて入ってきたのは、
「どうしたのですかワタシ?」
「屋敷の前に居たので、面白半分に捕まえてきたわけですよ」
少女2人を放り投げると、片方のガッツ星人は青白く光りもう片方の体と重なる。つまるところ分身していたという訳だ。放り投げられた少女はどうやら気を失っているらしく、動くことは無かった。そんな少女を見つめ、プロキオは唸る。どこかで見た気がしたからだ。そして数秒後、良く響く声で「コイツらっ!」と声を上げたせいでヴィルゴとガッツ星人に睨まれた。
「思い出したぜ。そういやオーブとよく一緒にいる奴らだ」
「なんと……そんな偶然が」
「へえ……思わぬ収穫ってところね」
みかん色の髪とグレーの髪。それらはオーブの変身者、一眞と関わりを持つ人物だったのだ。
「なら、彼をこのままここに誘き出しましょ。そうすれば手間をかけずに済む」
物量で責める手筈だったが、餌が手に入れば話は別だ。それを使ってノコノコとやってこさせればいい。どうせオーブが倒れた後も、アレが目覚めるまでは自由にできる。その時に先の怪獣たちは使ってやればいいのだから。
「ここに来たのなら、最初はオレが貰う。いいな?」
「ええ、どうぞ」
やってくるであろう彼の必死な顔や声を想像しながら、ヴィルゴは笑うのだった。
~~
それはあまりにも偶然だった。キッカケなんて些細なことだったのだ。ただ少し気になったからから……と言えばいいのだろうか。
「あ、あのっ!」
男性のコートから、なにかが落下したところを偶然見てしまった高海千歌。彼女は拾い上げて声をかけた。しかし男性は焦っていたのか、それとも沼津の喧噪にかき消されてしまったのかは……耳に留まるとはなく、立ち止まって振り返ることも無かった。そしてそのまま男は、人混みの中に消えていってしまう。
「千歌ちゃん、どうしたの?」
練習で乱れたのであろうグレーの髪を整わせながら、渡辺曜は千歌へと問いかけた。
「男の人が落としていったんだよ。早く届けてあげなきゃ」
男が歩いていった方向に目を向け、千歌はそのまま走り出した。最少の理由だけで話の全貌が見えていない曜も、なりゆきで彼女の後をついて行く。幸い人混みの中でも男は見分けがつき見失わずに済んだが、距離はだいぶ離れている。一見千歌たちのそれは尾行のようにも見えるが、こちらには相応の理由があるため問題はない。
「あ、待って……!」
千歌の声は虚しくも男には届かず、彼は洋館へと入っていってしまう。
「ああ、もう……」
「入っていっちゃったね。どうする?」
「う~ん……ここまで来たんだし行こうよ」
「それもそうだね。よ~し……全速前進、ヨーソロー!」
意気込んで洋館へ近づいていったのはいいものの、どことなく漂う薄気味悪い外観や雰囲気に戸惑う2人。すると千歌は、こんな疑問を曜へと投げかけた。
「ねえ、曜ちゃん。ここまで来て聞くのもなんだけどさ、こんな洋館……沼津にあった?」
「最近沼津にできた建物があるって噂をママから聞いたよ。多分、これがそうじゃないかな」
では、先ほどの男はここに越してきた人物なのかもしれない。例えば、子どもができて育児のためとか……そのためにドデカい洋館を建てるのはどうかと思うが、そうであれば彼の落としたものにも説明がつく。
「それって……人形だよね?」
改めて男の落とした品を見つめる2人。それは何処からどう見ても人形だった。しかし女の子が遊ぶような可愛げのある人形ではない、。その姿に似たものを、彼女たちは幾度となく見てきた。
「怪獣の……人形?」
「マニアックな人がいるんだね……」
あまり人の所有物をジロジロ見るべきでもないと判断し、彼女たちは意を決して洋館の扉を叩いた。
「あの~!」
「すみませ~ん」
しかし、扉を開き館の主人が出てくることは無かった。聞こえてくるのは鳥のさえずりや、遠い町の喧噪だけ。まったくの無反応だったという事だ。顔を見合わせ、もう一度声を上げ扉を叩くも結果は同じ。
「……」
すると数秒後、扉が勝手に開いたのだ。目を見開く2人は息を呑む。
「は、入っていい……ってことかな?」
「ど、どうだろう……」
「でも、開いたってことはわたしたちが来たことに気付いてくれたってことでしょ?」
「そ、そうかな……あ、千歌ちゃん!?」
千歌は怪獣の人形をポケットの中に入れ、そのまま館の中へ踏み込んでいく。遅れながらも彼女について行く曜。洋館の中は、静かで未だ新築のような綺麗さだった。家具や床、そして屋内の全体から漂ってくる匂いは、本当にまだ建って日が浅いのだと感じさせてくれる。
だがどこまで進んでも人の姿形を目にすることは無い。
「どこにいるんだろ」
「見当もつかないよ」
すると2人の背後に”何か”が通る気配。外の音も多少は遮断され、2人だけという状態だからこそ、敏感になってしまう。2人は同時に振り向き、周囲を確認するが何もいなかった。
「でもさっき……」
「足音みたいなのが聞こえたよね?」
確認しあうが、現にそこにはいない。ならば私たちの気のせいなのかもしれない。ちょっとした不安がらしく処理されてしまうという事は前にも聞いたことがある。恐らくそれだ。そう解釈して向きなおそうとする2人。
────だったが
「「……ッ、……ッ、……!」」
息を吸うのすら忘れてしまいそうな中、その生物は踵を返すように奥の方へと戻っていく。見逃してくれたの……という事だろう。理由が何であれ助かったという感情が湧いて出てくる。しかし、まだ動けそうにはなかった。完全にその姿が見えなくなるまでは、安心することはできなかった。
────バタン、と扉が閉まる音が聞こえ、千歌と曜はゆっくりと息を吐きだした。それでも慎重だったのは、完全には警戒を解いていないからだろう。普通に息を吐いた瞬間、戻ってくる気がして。
そのまま2人は玄関まで引き返した。音を立てないよう慎重に。もう落し物のことなどどうでもよかった。恐怖もあるが、それよりもこのことを一眞に伝えなければという想いもあったのだろう。そして玄関に辿り着き、手汗が酷かったことも忘れドアノブを回す。そこには先のような晴れた空や風景が広がっていると信じて────
が、扉の先には先ほどの人型の生物が立っていた。鳥のように目を光らし、こちらに襲い掛ろうとする宇宙人が。
2人は絶叫の後に、意識を手放した。
粗相をやらかす宇宙人が居ましたね……。でもこうしないと話が動かないからしょうがないね。()ジュラルミンケースの中に入っているのに、どうしてコートのポケットにも入れているの? というのは、彼が単純にケースに入れ忘れたからです。盗んでくるのも大変だったんでしょう。
それと千歌が拾った人形の活躍は彼女たちを館に導くのが仕事だったので、ここまでです。もう出番はないのでどんな怪獣だったのかは皆さんの好きに想像してください。
それではまた次回で!