今回で12話の内容は終了です。
地脈のひとつに打ち込まれし毒あり。
意識を奪い、知識を奪い、女王の傀儡と化す毒。
名を■■と云ふ。
■■、八つの地脈すべてに流れ、転生の時を待つ魔物侵食す。
毒を統べる■■■■■■■と、最後の魔王獣交わるときなれる厄災の名■■■■なり。
邪悪なる力みな併せ持ちゆゑ、かならずすべての星を喰らい尽くさむ。
~~
迎えた決勝当日。だが昨晩千歌が話した通り、時間が来るまでは各々自由に行動し、自分を見つめ直すということになっている。
「ありがとうございました~!」
彼の開けたドアの向こうから、入店、退店時になる心地のいいベルの音と共に店員の声が聞こえてくる。
「……」
彼……一眞の持っている花束には菊や樒などが見られた。それは誰かにあげる用の……ではなく、所謂仏花というものだった。
店内と外の気温差に身震いしながら、花束を片手に一眞は道を歩いていく。
「あれ……一眞?」
すると後方からよく聞き慣れた声が。首を動かしてその方向を確認すると、それはまた見知った顔の少女が。
「珠冬? 何してんだ」
「特に何も。1人で歩いているだけ。それより、一眞の方こそ何してんの?」
自分を見つめ直す方法は人それぞれ。珠冬は街の景色を見ながらいろいろ考えていたのだろう。その最中に偶然一眞に会った……ということかもしれない。
「ちょっとな。前
首を傾げる珠冬。それはそうだ。彼の知り合いが東京にいるのだろうかと疑問を感じているのだから。
「お前もくるか?」
「いいの?」
「ああ。それにこれは、俺の自己満足でしかないからな」
少し申し訳なさそうに目を伏せる一眞だったが、すぐに顔を上げ歩いていく。珠冬は先ほど見せた表情の理由を知りたいと感じ、彼についていくことにした。
歩みを進めて数十分。彼らがたどり着いたのは─────
「……路地?」
多くの建物が並び立つ中にある、何の変哲もない路地。一体ここに何が? と問いかけようとするが、それよりも早く一眞は一歩前へ踏み出していた。
「俺の記憶が正しければここなんだけど」
そう言って一眞は手に持った花束を地面に置き、手を合わせた。
「……ここでさ、俺は子どもを助けることができなかった」
一眞は地面に置かれた花を見て……いや、恐らく当時の光景を思い出しているのだろう。アクセスしたくもないであろう記憶を覗き込みながらも、珠冬の抱いていた疑問に答えてくれた。
「目の前にいたのに……俺は見てるだけ」
あの時はすぐに別のドス黒い感情に呑まれてしまって考える暇もなかったが、時間が経ってから思い返すほど、彼の中では後悔と言い知れぬ無力感として残り続けた。
「でもそれは─────」
「ああ。
一眞は花束をまっすぐ見つめ、その視線を逸らすことはなかった。すべてを救える……なんて自惚れているわけではない。しかし、目の前の人物を助けられなかったこと……その過去を忘れてはいけないと、彼は己の心に刻んでいるのだろう。
「ねえ、一眞……」
すると不安げな珠冬の声が一眞に投げられる。聞けばすぐさま何を言いたいのかを察し、彼は立ち上がる。
「言っとくけど、これはお前のせいじゃない。それだけは忘れんな」
命を落とした理由、それがマガオロチによる破壊行為故だと彼女は理解してしまったのだろう。あの時の自分は理由はどうあれ”向こう側”にいたと、そう思っているのだ。
「自分から誘っておいてだけど、悪かった。軽率すぎたな」
ばつが悪そうな顔をしながら、後頭部を掻く一眞。ここに連れてくれば彼女がどんな思いをするか、そこまで汲み取れなかったことに溜息を吐いてしまう。
「……う、ううん、私が自分で判断してついてきただけ。あと、慰めてくれてありがとね」
そう言って笑う珠冬に、何かを隠しているような違和感を感じた。しかし”ほんのちょっとした違和感”だったので、一眞は深く詮索しなかった。
巨大モニターに映し出されている文字。ビルに張られたあらゆる広告。道路を走る車の音、線路を駆ける電車の音。そして多くの人だかり……。そんな秋葉原の街中に、彼は紛れていた。
彼は街行く人々の間を抜ける。まるで影のように、誰からも気にかけられることなく歩を進める。
「……」
自分の隣を歩く人、目の前を通り過ぎていく人、すれ違う人……歩いている中で結果的に近付くこととなる人々に目をやる。
方や何でもない日常として、変わらぬ生活の一部として、顔色一つ変えずに歩く者。方や特別な日であると知り、興奮気味に街を歩く者。
(─────みんな、何も知らないんだろうな)
心の中で笑ったのか、或いは憐れんだのか……彼自身にもわからなかった。そして彼は人混みが嫌になって、ビルの上へと飛んでいく。無論、誰にも見られないように路地まで行ってから。
「おや、彼女たちは……」
地上を見下ろすと、見覚えのある少年と少女たちが走っているのが見えた。
(そういえば、さっき見たモニターに書かれていたっけ……Love Liveがどうたらって。じゃあ今日がつまり……)
最悪と最高が重なってしまったことに、彼は笑うしかなかった。もう自分ではどうすることもできないと。
「そろそろ……始まるね」
空気に溶けるくらい小さな声で呟いた。だが見ている方向はアキバドームではなく、ビル群の中に聳え立つ塔。
彼の言った始まるという言葉……そこには2つの意味があるのだ。1つは彼女たちが挑む決勝。そしてもう1つは─────
「まったく……僕が蒔いた種だっていうのに、今更後悔するなんてね……。”クグツ”なんてもの……打ち込まなきゃよかったよ」
~~
彼女たちは走る。
過去を振り返ることはあっても、それはほんの一瞬。その先の未来を見据えても恐れずに、これまでと同じように我武者羅に、全力で。
どのくらい走り、どこまで来て、そしてどこまで続くのか……。それはわからない。だがこれまでのことすべてがあってここに……決勝に辿り着けた。だから今は雲の上だと、空を飛んでるみたいだと……思いっきり楽めばいい。そして優勝し、輝きと証を見つけに行くのだ。
今まで抱いてきたあらゆる想いをあのステージで魅せる時。
0から1へ。そして1から……その先へと向かうために、彼女たちは地面を蹴り上げた。
─────WATER BLUE NEW WORLD─────
まるで夜空のようなステージに立ち、踊る彼女たちの姿。
楽しかったこと、辛かったこと、それら全てが掛け替えのない時間。誰だってずっと居続けたいと思う程に。だがそれが叶うことは決してない。けどそれは悲しくはない。何故なら心に刻まれており、いつだって共にあるのだから。
それを知っている彼女たちは今という時間を重ね、次の場所へと、新たな未来へと渡っていく。
雲の上のような、海上のような、幻想的な紺碧の世界。そこで歌い、踊る彼女たちのそれはAqoursにしかできない、Aqoursだけの輝きであった。
そして優勝グループの名がモニターに映し出された瞬間、溢れんばかりの拍手や歓声に包まれた。その優勝グループというのは─────
Aqours
ここに……ラブライブという歴史に刻み込まれた瞬間だった。浦の星学院スクールアイドルAqoursというその名が。彼女たちはやり遂げたのだ。ここまで順風満帆ではなく、むしろ理不尽を強いられ続けてきた。だがそれでも諦めずに走り続けた先に……ようやく。
するとそのパフォーマンスをもう一度見たいと、誰かが声を上げた。それは瞬く間に広がって、会場全体を揺らす大きな1つの声になった。
輝きを見つけた彼女たちは、もう一度ステージへと昇り─────
─────青空Jumping Heart─────
「みんな……おめでとう! やったな」
会場の外で待っていた一眞は、みんなと合流するなり開口一番にそう告げる。
「カズくん……わたしたち……」
未だ夢心地なのだろうか、千歌たちは旗を片手に持ちながら彼に尋ねてくる。本当のことなのかと。
「ああ、優勝したんだよ。最高に輝いてな!」
だから一眞はまっすぐ、これは現実だと伝えた。
「そんで……学校の名を……残したんだ」
すると一眞は千歌や曜、梨子に引っ張られるようにして肩を組み合った。互いに顔を見て笑いあい、次第に涙が溢れ出る。他のみんなも、互いに抱き着きあって涙を流していた。
「やった! やったよおおおおおおお!!!!!」
「ああ。ああ! おめでとう、おめでとう!!!」
そうして互いの気持ちを、喜びをぶつけ合った。そうしてどのくらい時間が経ったかわからなくなった頃、ようやく全員が落ち着きを取り戻していた。
「長く居すぎちゃったね」
「いいのいいの! なんたってマリーたちはWinnerなんだから!」
「それ理由になってる?」
「なってないずら」
いつもと変りないやり取りができるくらいまでにはなったようだ。
「よし、どうする?」
先頭に立つ彼女に問いかける。
「うん! か─────」
「帰ろう」と言いかけたところで、空から光が一直線に降り注いだ。
光に遅れて、強烈な雷鳴が鳴り響く。それは音だけでビルを、地面を揺らすほど。
「……っ!?」
誰もが息を呑む。先ほどまで空気が一転、得体のしれない緊張感が場を支配した。
赤雷の降り注いだ場所へと目を向けるものの、煙が立ち込めておりよく見えない。
「なんだあれ!!」
それは名も知らぬ男の声。彼は煙の中に居座る何かを視認したのだろう。煙が晴れ、その正体が人々へと明かされる。
昆虫種のような巨大な体に鋭い両腕の鎌。毒々しい赤と黒の体色に、まるで人間のような顔……。
それは
「なんなんだ……アイツ……」
これまでとは違う……と思うと同時に、ここで行けば戻れなくなるのではという本能的恐怖が頭の中を駆け巡る。
「……は、はあ……はあ……はあ……」
自然と息が上がる。冷たいじっとりとした汗が背中を流れる。
でも、行かなくては……。理由は1つ。みんなを守りたいから。その一心で、石のように固まった足を強引に踏み出させる。
「カズくん……」
そんなか細い声の方向に目を向けると、みんなが不安そうな顔でこちらを見つめていた。一眞の表情から、あの存在が桁外れにやばいのだとみんなに伝わってしまったのかもしれない。
(みんなを不安にさせちゃダメだよな)
「フゥゥゥゥ……大丈夫。いつものようにすぐ帰ってくるよ」
深呼吸し、落ち着きを取り戻した一眞はそれだけを言い残し、怪獣のもとへと駆け出していく。落ち着いた……とはいっても、外見を取り繕っているだけにすぎない。しかし彼女たちのお陰で大分マシにはなった。
「言った通り、すぐ終わらせないとな!!」
恐怖を押し殺すようにして、一眞は左手に持ったオーブリングを天へと振り上げた。
最初のやつは
一眞が花を手向けることになる話は20話で描かれています。これはどこかでまた触れたいなと思っていたので、ここにきてようやく消化できました。
そしていよいよ……