いや、終盤だから書けない……のか?
怪獣が現れたと同時に空は陰り始めた。先ほどまでは澄み渡るような青空だったのに、今は黒い雲が全てを塗り潰している。それまるで、人々の心を表しているではと思わせる。
だがそんな心の不安を払拭するかのように、天と地を繋ぐようにして光柱が立ち昇る。徐々に光が収まれば、皆の希望の象徴ともいえるウルトラマンオーブの姿がそこにはあった。
「……ッ!」
日本の首都東京。大都会の街中で対峙する2体。しかし、ぶつかることも火花が散ることも無かった。それどころか、何も起きない。
(どういうことだ……)
オーブカリバーを構えたままのオーブは訝しんだ。
恐らく向こうも視認している筈だ。なのに目の前の怪獣はこちらを攻撃してくることも、威嚇してくることもない。それ以前に動いていない。まるで糸の切れた人形ようだ。
(この感じ……もしや……)
突如現れるも、決して動くことのない怪獣……。同じような事例を一眞は知っている。そして、それができるのは─────
「久しいな。ウルトラマンオーブ」
先ほど落ちた稲妻の音よりも鋭く、それでいて氷より冷たい声が耳に響く。忘れたくても忘れたくないその声の主をオーブは探した。
その男は……意外と近くにいた。怪獣の隣にあるビルの屋上に。昔のまま時が止まっているのでは? と同思わせるほどに、彼の見た目には変化がなかった。豪勢な服を着て。ブロンドの髪とサファイアブルーの瞳が光を反射しているが、その輝きは綺麗とは言えない。寧ろ怪しく、恐ろしかった。そして彼の右手には……鈍く輝くダークリング。
「アルファルド……レグルス……ッ」
忘れることはない。故郷の星を踏み荒らし、挙句の果てに滅ぼした男だ。そしてプロキオやヴィルゴ……アオボシを従えていた人物。
「フフッ……ワタシを知ってくれているとはね」
不敵な笑みを浮かべながら語ってはいるものの……真意といえばいいのか、彼の本心はまるで理解できない。笑っているのも演技の様に見える。
「それにしても……今回も君は、ワタシを止めようとするのか」
彼の言っている「今回も」とは恐らく、自分と一体化する前のオーブとのことだろう。だが自分は先代との因縁は知らない。だからこそ囚われることなく、暁一眞としての言葉で返してやろう。
「当たり前だ。こんどこそ……いや、この星は絶対に守り切ってみせる」
オーブカリバーの切っ先を向けて宣言する。しかし彼の感情に揺らぎはない。
「そうか。だがワタシも、ようやく計画を最終段階に移行できたんだ。最大の楽しみを不意にしたくはないんだよ」
そう言ってアルファルドは、怪獣を見上げる。
「実に長かった……。意思を奪い、自在に操ることのできる力……。クイーンベゼルブを探し当てるのに」
彼はずっとクイーンベゼルブを探し求めていた。約3年間も。そしてようやく手に入れ、満を持してダークリングで召喚した……ということだろう。だが何のために? そこまで執着していた理由は?
そんな疑問にオーブが考えを巡らしている間に、彼はクイーンベゼルブと一体化を果たす。同じような状況を経験したのも何度目だろう。だが、これまでとは確かに違う緊張感がこの場を支配していた。
『ほう、これがクイーンベゼルブ……。ヤツが目覚めるまでこの力……お前で試すことにしようか! ウルトラマンオーブ!!』
クイーンベゼルブの使えるテレパシーで語り掛けてくるヤツを見据え、オーブも地面を蹴った。考えても仕方がないのなら、今は戦うだけ。自分の持てる力全てを使って守るだけだ。
「望む、ところだ!」
停滞していたような時間が……それまで静かだった一帯が打ち壊される。
2体の激突の背景で、着々と復活の時は迫っていた。
「始まっちゃったか」
戦いを遠目から眺めるアオボシは呟く。もう既に決まっていること。計画通りに進んでいるとは知ってはいたものの、こうして目の当たりにしてみると、底から湧き出てくるような後悔で吐きそうになる。
でも自分で選んだことだ。今更どう思おうと自業自得であることに変わりはない。この結果を受け入れるしかないのだと、自分に言い聞かせる。
「わかってるさ……今更何をやったって……」
自然と握りこぶしを作ってしまう。爪が食い込み血が出てきしまうがアオボシは構わず、そのまま両者の戦いを眺め続ける。
あと数時間で目覚めるであろう……
~~
「……ッ!」
クイーンベゼルブの鎌とオーブカリバーが衝突。途端に凄まじい衝撃波が起こり、飛び散った火花が街へと降り注いだ。
「■■ーー!」
クイーンベゼルブ本体の咆哮が轟く。やはりベゼルブと同じで不快な鳴き声だ。
オーブは迫りくる刃を屈んで回避。鍔迫り合いを解除したことで自由になったヤツの腕が頭部を狙う。すれば即座に足を振り上げて腕を蹴り飛ばし、畳みかけるようにしてオーブカリバーで胴を薙いだ。
「■■■■■ィィィィィ!?」
大きな一撃。それが効いて激昂したのからなのか、はたまたは余裕であり、今度はこちらから仕掛けに行くぞと言っているのか……。どちらかは不明。しかし刃を光らせ、再度こちらに向かってくることに変わりはない。
『随分と楽しませてくれる。だがワタシが本当に見たいのは君の命が散る瞬間だ』
「悪いが、お前にはだけは見せねえよ!」
再度吹き飛ばしたクイーンベゼルブの双眸から撃ちだされたのは数多の火球。オーブは聖剣を盾にし、弾幕の中を一直線に走り抜けていく。
「お前はただ取り繕っているだけだ。命が散る瞬間が美しいとして命を奪うその正体……それはただ、殺しを楽しんでいるだけだけの虐殺者だ!」
『だから?』
それが悪いことかと、まるで純粋に疑問を抱く子どものような声音で……彼は返答してきた。
『だとして……だから何だというのだ。ワタシが感じる”楽しい”という感情や”嬉しい”といった感情の向けられる先が、”生命の終わり”だっただけのこと。何もおかしいことはないだろ? それとも……君は否定するのか? そんなもの……都合の良い押しつけではないか』
確かにそうだ。感情の向いてる先が不幸にも死にまつわるものだっただけのこと。それはこちらにも否定することはできない。
「けど……どんな理由があっても、誰かを傷つけていい理由にはならない!」
以前黒い体の巨人と戦って、そしてある人に師事して得た答えだ。物事の善悪は主観的なものでしかない。でもだからと言って誰かを傷つけたり、悲しませたりしていいわけがない。
風を起こす。刀身を緑の風が包む。先端に増した重みを意識しながら全身で2回転。そしてついた勢いを殺さずに振り抜く。
「オーブウインド……カリバー!」
放たれた竜巻はクイーンベゼルブに到達する直前─────
『目障りだ』
呆気なくかき消され、エネルギーの残滓は宙に溶けていってしまう。視界が開かれたものの、そこにオーブの姿は無かった。ではどこへ……。
「オーブランサー……」
上か! と天を仰ぐ。
曇った空で瞬く青い……それでいて赤い光。ハリケーンスラッシュだ。
「シュートッ!」
オーブスラッガーランスを突き出すと同時に光を解放。青い光線と火球が中心部分で衝突。両者ともに打ち消されてしまう。
「まだまだ……ッ!」
クイーンベゼルブは、肩にある触手でオーブを絡めとろうと空中に向かって伸ばしていく。
「……ッ!!」
触手の先端にある鋭い毒針が目に入る。アレには間違っても刺されてはいけないと本能が、或いは一体化した存在が囁く。
その反射的な思考に体も反応。身を翻して2つの触手の包囲網を潜り抜けていく。さらには触手を踏み台にして加速。突風ともいえる勢いで懐に入り込み、刃を突き立てる。
「トライデントスラッシュ!」
1発目は弾かれる。直後、頭を刈り取ろうと腕が振るわれる。
回避。そして側面へ飛び込む。
2撃目は直撃。わき腹を見事に切り裂いた。
しかし向こうも反撃に出てくる。
それも回避。そして別側面へ回り込む。
「ハアアアア……!」
「コイツで……!」
トドメと言わんばかりの一振りを与えんと、構えたまま突進。
「■■■■ッー!」
咆哮を上げたかと思うと、ヤツは火球を自分の真下に撃ち込む。途端に起きる爆発。そして舞い上がるアスファルト。
「あああああっ!」
予想外で防御態勢がとれていなかったこと。そして身軽なハリケーンスラッシュという形態のこともあって簡単に吹き飛ばされてしまう。加えて、熱を帯びたアスファルトの残骸を体全体に浴びてしまった。
「くっ……!」
全体に突き刺すような痛みが走るが、歯を食いしばって堪える。似たような痛みをこれまでも経験してきた。こんなのが今更なんだというのかと。
すぐさま周囲を警戒しようと意識を向けたその刹那─────
「■■■■■■!」
クイーンベゼルブに捕まってしまった。先の爆発で目くらましと多少のダメージで足止め。そして意識を向ける前に接近し捕縛。なかなか狡猾なやり方だ。
ヤツはその腕で、その鎌でわき腹を挟み込んでくる。肉が裂け、冷たい金属が侵入してくる感触に顔を顰めてしまう。
『随分と楽しませてくれるじゃないか。これほどの力があれば、あの3人を倒したのも頷ける』
本当に楽しんでいるのかと疑問に思うくらい、感情の振れ幅を読み取ることのできない声音。
「そうかよ……。じゃあ、その敵討ちも兼ねてるってわけか?」
彼に対抗するように、こちらも強がるように問いかける。
「グッ……アアアアアアアアッ……!!」
それが面白くなかったのか、クイーンベゼルブは腕から電流を流してくる。
『敵討ち……何故?』
「ち……違うのか?」
『何故あいつ等の敵討ちなどしなくてはいけないんだ? 彼らはワタシに賛同しただけの他人だ。どこで死のうと知ったことではない』
「……っ!?」
彼は自分以外のことにはとことん無頓着なのか? アオボシは異なるとしても、他の2人は長い時間を共にした人物のはずだろう。それが悪であれ何であれ情が湧くものではないのか? 死んだりすれば悲しむものではないのか……? そこだけは
……と同時に、怒りも湧いてくる。
「アイツ等は……認めたくはないけど……ウウッ……あんたを慕ってた」
『……だから?』
己を真っ二つにしようと鎌を食い込ませている腕を掴む。すると抵抗するように、電流も強くなっていった。
「……少しくらい……悲しんでやってもいいだろうが……!」
脱出しようと腕に力を籠める。ゆっくり、着実と刃と体を離していく。だが力が足りない。
『……!?』
心の怒りを体現するように全身が燃える。そして炎の中に現れる、2本角のシルエット。
「ウオオ……ッ……スワロマイトバレット!」
拘束を振り切り、至近距離からの連弾をぶち込む。混乱するヤツの腹部を二弾蹴りすると共に後方へと宙返り。
「フッ……!」
距離を取って着地したストリウムマイトは仕切り直しだと言わんばかりに構える。だがもう睨み合いは必要ないと、渙発なく火球がこちらに飛んでくる。
「……ッ!!」
しかしそんなものは通用しないと、オーブは焔の中を突っ切る。流れ弾はビルを穿ち、道路に小規模のクレーターを生み出していた。
「ハアアアアアアアアア!」
足を延ばして間合いに入り込む。迎撃を防ぎつつ鳩尾に拳を打ち込む。さらに畳みかけて高速のラッシュ。そして渾身のアッパーカット。その重そうな身体が宙を舞い、背中から叩きつけられる。
今がチャンスだと全身にエネルギーを貯めていけば、比例するように体が虹色に発光。循環するすべてのリソースを左腕へ回す。
「ブラストリウム……光ォォォォォォ線!」
T字にした腕から放たれる業火。地面に跡を刻みながら進むそれはクイーンベゼルブを包み─────
「……」
大爆発を起こす。
……が
「……なに!?」
火煙を打ち破り、羽を広げて飛翔していく姿がそこにはあったのだった。
あまりの事に思考が停止する。先ほどの攻撃は、そこらの怪獣であれば確実に消し飛んでいたであろう一撃だった。なのにヤツは健在。それどころ高速で空を駆けているではないか。
いや……もしかしたら、その前提が間違っていたのだろうか。今対峙しているのは並の相手ではない。あの2人の上に立つ男だ。弱い筈がない。
「……ッ! 待て!!」
意識が引き戻される。今は唖然としている場合ではない。前提を書き換えている場合ではない。倒せていないのなら、もう一度やるまでの事。
オーブもヤツの後を追うように、地面を蹴りつけて巨体を打ち上げた。
~~
「嘘……あの攻撃を受けても生きているの……?」
遠くから戦いを見ていたAqours。彼女たちもクイーンベゼルブの耐久力に……その生存能力に驚愕していた。
「でも、見てよ! 逃げてるってことはオーブの攻撃が効いてるってことじゃ……」
曜は逃げていく怪獣を指さしながらそう口にする。攻撃が効いていないのなら、そのままオーブに攻め込めばいい。先ほどの様に、鎌で切り裂けばいいのだ。でもそれをしない。今はオーブに背を見せて逃げている。ということは、致命傷に近い一撃になったということではないのかと。
「……違う」
「え?」
皆と同じように天を仰ぎながらも、皆とは違う視点で物事を見ていた珠冬。
「珠冬、どういう事よ?」
「アレは逃げてるわけじゃないと思う」
「しかし、現にあの怪獣は……」
ダイヤが言い切る前に「珠冬ちゃんの言う通りかもしれないずら」と花丸が口を開く。彼女の勘も、あの怪獣の飛翔が単なる”逃げ”でないことを伝えているのだろう。
「花丸?」
「花丸ちゃん……?」
「マルもよくわからないけど……でもあれは逃げてるってことじゃない」
「一眞を……”オーブを誘い込んでる”……んだと思う」
一同は空を見る。戦いが終わる気配はなく、双方の勝敗の行方なんて未だ闇の中だ。
だが彼女たちの中には、底知れない”嫌な予感”というものが渦巻いていた。それが的中しないことを、少女たちは祈るばかりであった。
運命のいたずら……なんて言葉があるが、それはこんな時に言うのかもしれない。
少女たちがいる場所から数メートルの場所に、赤いリングが落下してきたのだ。おそらく、もう用はないとアルファルドが投げ捨てたのだろう。加えて戦闘の衝撃で空に投げ出され、”偶然”ここに落ちてきたのかもしれない。
宇宙一邪な心を持つ者の前に現れると言われているリングは、捨てられた瞬間に”次の所有者”となる者の元へと飛ばされる筈だ。しかし消えることなく、そのまま残り続けていた。
まるで自分を見つけてくれと……言っているかのように。
次回「