Sunshine!!&ORB   作:星宇海

78 / 93
第72話 悪魔(クグツ)の巡る先

「待ちやがれ!」

 

 煉獄を纏た拳がクイーンベゼルブを地上に叩き落す。落下速度やオーブの殴打によってブーストが掛けられたせいか、ヤツの墜落地点には巨大なクレーターが形成された。

 

『フフフフフ……』

 

 クイーンベゼルブの肉体が小刻みに震える。しかしそれは痛みに喘いでいるからではなく、ただひたすらに嗤っているからだ。

 

「……?」

 

 一体何がそこまで可笑しいのか。真相を知るはずもない今のオーブには、ただ上空から見つめることしかできなかった。

 

『ハハハハハハッ……ようやくだ。ようやく生まれる!!』

 

 天をも貫くのかと思わせるほどの雄叫びに、オーブは警戒の色を強める。

 

 

 

 途端、地面が揺れ始めた。いや、”地面が揺れ始めた”……なんて生易しいものではない。まるでこの世界、この空間自体を揺らしているかのようだった。

 

 

 

 

 

「な、なにが起こってるの!?」

 

「……!? みんな、あれを!!」

 

 突如発生した揺れに耐えながらも、鞠莉が指さした方向に視線を向ける。

 

「おい、なんか光ってるぞ!」

 

「どうなってるのよ!?」

 

 その異様な光景を目にしているのは彼女たちだけではない。周辺にいる多くの人々も、”地面から光が漏れ出ている”という光景を前に混乱を極めていた。

 

 しかし、発生した異常はこれだけではなかった。別の場所では巨大な竜巻が発生。人類が築いた建物を吹き飛ばしていく。さらに地盤沈下で多くの人やビルが沈んでいく。

 

 それに伴って大火災も発生。大災害……なんて言葉では片づけられないような未曽有の事態に発展していく。

 

「そんな……まさか……」

 

 阿鼻叫喚、地獄絵図と化し始めたその光景を目にしていた花丸。瞬間、電流が走ったかのような衝撃。そして心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。

 

 彼女の手は半ば自動的に、バックからあるものを取り出した。

 

「花丸ちゃん、こんな時になにを……」

 

「そんなことって……でも……あり得ないずら……」

 

 今の花丸には、悠長に友達たちへと説明している暇も余裕もなかった。

 

 彼女はある可能性を否定する。正確には否定しようとしていた。彼女が取り出したもの……それは太平風土記。そして見ていたのはある(ページ)。文字と共に描かれたその絵は……今の状況ととても似ているのだ。

 

 でもこれは歴史書の筈。過去のことを書いたものではないのか。そう彼女の理性は訴えかける。見え始めた1つの推測を否定するために。だが……

 

「違うずら……」

 

「……え?」

 

 違う。違うんだと……自分の前提が、自分の捉え方が間違っていたのだと風土記と目の前の景色(地獄)を交互に見る。

 

 太平風土記(これ)は歴史書としての側面だけでなく、いずれ起きる災厄をも予言していたのではないだろうか。予言書として世に出せば、恐怖と混乱を招きかねないと危惧した当時の人々は、歴史書として残したのだろう。

 

 そうであれば合点がいってしまう。風と共に災いをもたらす存在、地面を引き裂き山を破る存在、水を穢す存在、火の玉を降らす存在……。そのすべてが現代に現れてしまったのだから。

 

 そして今目の前に広がる光景……。

 

 おそらくこれも出現を預言した誰かが、遥かな未来に向かって送った警告なのかもしれない。いつの時代に現れるのかはわからない。だがその存在だけはせめて……と。

 

「生まれようとしてるずら……」

 

「生まれようって……何がよ?」

 

 善子も花丸の表情を見て、恐る恐る訪ねた。

 

禍岐大蛇項(マガタノオロチ)が……ずら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ……何が起こってる!?)

 

 空中で惨劇を見渡しているオーブだったが、一体何が起こっているのか……まったく見当がつかない。

 

『フフフフ、アハハハハッ!! ハーハハハハハッッ!!!』

 

 先ほどまでの彼からは想像できない……騒然たる嗤い。

 

「何を……」

 

『おや、アオボシ()から聞いていないのか?』

 

 向けられる敵意を無視するかのように、クイーンベゼルブはおもむろに起き上がり歩みを進める。光というにはあまりにどす黒い光源の元へと。

 

『大魔王獣マガオロチ。おそらく君が倒したのだろう』

 

「……ッ、それが何だっていうんだ!?」

 

 思いもしなかった名前が出された。マガオロチ……6つの魔王獣の残滓とベリアルの力でこの地に現れ、一度は敗北した獣の名だ。

 

『……あれは謂わば幼体。その真の姿は地球そのものをサナギとし、完全体となって生れる』

 

 彼の言っていることが本当だとすれば、今もまだこの星に眠っているということになる。

 

 そこまで考えて、雷の様に光を放ち続ける場所に目をやる。

 

「……!? まさか!!」

 

『そうだ。今、ここで! 八つの地脈が交わるこの場で生れ落ちる!! この星に生きるすべての物を、生命体を……そして惑星そのものを喰らう大魔王獣……マガタノオロチが!!!』

 

 アルファルドの言葉は、もう既にカウントダウンに入っていることを意味していた。今起きている災害も、マガタノオロチが生まれようとしているから起きているのだろう。歴代の魔王獣が暴れていたのと同様の事態が。

 

「だとしても……!」

 

 マガタノオロチが出現するのは変えようのない事実。だとしても……だとしたら、尚更眼前の敵を真っ先に倒さなければ。彼がここに来た理由だって、マガタノオロチを利用する気であることが容易に想像できるからだ。

 

「ダアアアアアア……!!」

 

 捻りを加えた飛び蹴りに炎をプラス。猛火纏った脚部が胸を捉える。さらに着地した足を軸に大きく回転し、踵を頭に打ち付け吹き飛ばす。

 

 二転三転し地面へと伏せるクイーンベゼルブ。しかし倒れる瞬間、オーブに向かって火球を乱射。

 

「……!」

 

 跳躍するのとほぼ同時に光が迸る。青い巨体が着地すれば、その衝撃で地面の土やアスファルトが舞い上がる。

 

 蒼い剣士と海の青い巨人の力をその身に宿したナイトリキデイターは、宛ら雷の如く音を置き去りにして駆け出していく。

 

「■■■■ェェェェ!!」

 

 ナイトアグルブレードを出現させた右腕で鎌を受け流して突撃。左の掌底で腹部を打つ。さらに追い打ちをかけるように、後退することすらも許さないと言わんばかりに、オーブは渾身の飛び蹴りを見舞った。

 

 自分のペースに持ち越せたオーブは、その身に雷を纏い突貫。

 

「■■■■■■■■ゥゥゥゥッ!!」

 

 だがそれは相手にも読まれていた。クイーンベゼルブは自分の下僕にしようと、背中から伸びた触手をカウンター気味に射出─────

 

「ハアアッ!」

 

 ─────させるも、オーブは直感と反射神経でどうにか回避。さらにカウンター返しともいうべきか、青い刃で触手を斬り払った。

 

「■■■■■■■■■■ァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 器官の一部を失った故、痛覚が全身を駆け抜ける。苦しみの声を漏らすクイーンベゼルブの”触手だった”ものからは、毒々しい色の液体が噴き出ていた。

 

「これで……!」

 

 オーブはスクリュー状の波動弾”ストライクナイトリキデイター”を撃ちだす。この一撃をもってようやく彼とは決着がつ─────

 

 

 

 

 

 ─────こうとする瞬間、クイーンベゼルブを庇う様に怪獣が現れた。

 

「なっ……!?」

 

 現れたのは熔鉄怪獣デマーガ。しかし通常種とは異なっており、目が赤く変色……そして体に虫刺されのような腫れが浮かび上がっていた。

 

 デマーガは身代わりになり爆発四散。庇われたクイーンベゼルブには、波動弾が貫通したような跡はない。

 

「怪獣が……庇った?」

 

 先の状況を飲み込めないまま、オーブはその場に膝をついてしまった。最大火力で撃ち込んだ故、エネルギーの残量が残り少ない。それを証明するように、カラータイマーも点滅を始める。

 

『……正確には違うよ。守るよう……()()()()()()()

 

「なんだと?」

 

『クグツ……という毒がある。ベゼルブ種が持つ、生命の意志を奪い支配する毒だ。これを打ち込まれた怪獣はクイーンベゼルブの……ワタシの命令を聞く道具になってくれるのだ』

 

 生命の自由を奪う毒、クグツ。その存在にオーブは恐怖する。しかしオーブはさらなる追い打ちをかけられることになる。

 

『このクグツ……既に地球に打ち込まれているというのは知っているかな?』

 

「な……!?」

 

 彼が語ったのは内浦にベゼルブの現れた4月の事だ。あの時、ベゼルブは尻尾を地面に打ち込んでいた。それは気紛れに起こした無意味な行動ではない。その場所が、()()()1()()()()()()()()()からだ。

 

『地脈であればどこでも良かったが、アオボシの要望でね。あの場所にクグツを打ってもらったんだよ』

 

 召喚されたベゼルブには、オリジナルほどのクグツの効力はない。しかし地脈を流れ、やがて8つすべてに流れていく頃には、オリジナルと同等の力を持つようになった。そしてそれは、地球に眠る怪獣にも影響を及ぼしたのだ。

 

 だが本当の狙いは、地球の怪獣ではない。それは……

 

「マガタノオロチを……操るためか」

 

『その通りだ。だからこそクグツ怪獣を操れるクイーンベゼルブを欲したのだよ』

 

 全ての発端、企みの一手は既に置かれていた。すべてが遅かったことに、オーブは拳をただ強く握ることしかできなかった。

 

 もう時は止まってくれない。揺れが酷くなり、竜巻の規模も拡大する。雲が晴れて、太陽が顔を出したのかと思うくらいの眩しい光。もう()()()が来てしまったのだと、嫌でも理解させられる。

 

『さあ、ようやくだ。目を覚ませ、マガタノオロチ!!』

 

「待て……!! うあああああああああ!!!!」

 

 爆発にも似た衝撃がビルを、道を、オーブを吹き飛ばし、辺りを砂塵で覆ってしまう。

 

 

 

 

 

 時が止まったかと思う程の静寂。

 

 

 

 

 

 煙の中から覗くシルエット。無数の触手に覆われ、蛇のように伸びている首が複数巻きついた球体のような身体。そこに巨大なワニのような顔が付いているというかなりグロテスクな姿。そしてクグツ怪獣に見られるような、虫刺されのような腫れも確かに存在していた。

 

「ウ、ウウ……」

 

 地面に打ち付けられた痛みに喘ぎながら、オーブは起き上がる。

 

「あ、あれが……」

 

『ハ、ハハハハハハハッ! アーハハハハハハハハハハハハハッ!!!! 遂に目覚めたぞ!!! 超大魔王獣……マガタノオロチ!!!!』

 

 ヤツの声に呼応するように、マガタノオロチは産み落とされた赤ん坊の如く盛大な咆哮を轟かせた。

 

 その誕生に一通り喚起した彼は、すぐさまマガタノオロチに命令を下そうとテレパシーを飛ばす。

 

『さあ、マガタノオロチよ! 手始めにこの星を食い尽くせ!! そしてこの星の命を─────!?』

 

 クグツに侵食され、クイーンベゼルブに支配されている筈。だったが、マガタノオロチはあろうことか()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

(……どうなってる?)

 

『アアアアアアアアアアアアアアアア、ガアアア……!? ……成程……意識を奪われて尚、その捕食本能に従おうというのか……!!』

 

 バリッバリッと、肉を裂き骨を砕きながら喰らっている。どうやらクグツに侵食されても、その本来持ち合わせた性質を消しきれていないらしい。

 

 自身が喰われているというのに、彼は取り乱してはいなかった。それどころか、この状況を楽しんですらいた。

 

『フフフッ、面白い……。ならばワタシを喰らいがいい! この血肉を喰らい……ワタシという存在をその体に、命に!! ……刻み付けろォォォォォォ!!!!!』

 

 すべてを飲み込んだマガタノオロチに数秒後、異変が起きる。

 

「ッ……!?」

 

 内側から膨れるように肉体が盛り上がり、体内機関、骨格、すべてが変化していく。マガタノオロチは苦しみに声を上げているが変化は止まらない。

 

 巻きついた首は腐るように落ち、代わって体から()()()()が7つ生えてくる。そのすべてはマガオロチそのもの。さらに頭と一体化していたような胴体が伸び、二足歩行だったのが四足歩行に。加えてクイーンベゼルブと同じ前腕が生える。そして尾も4つの爪が伸び、中心にコアを備えたものへと変異する。赤や紫といった体色も変化。すべてが黒く染まった肉体に血液のような、地を這うクグツのような鮮紅が走る。その姿はただ禍々しいだけ。

 

 星を喰らうマガタノオロチ、そしてクグツを持つクイーンベゼルブ。それらをアルファルドは繋ぎ融合させてしまったのだ。

 

 その末に生まれたのは星に存在する悉くを喰らいつくすだけの厄災。太平風土記にて予言されていた融合大魔王獣。名を─────

 

 

 

 

 

「─────禍津大蛇(マガツオロチ)……」

 

 

 

 

 

 予知されていた通り……2体が交ざり合いって誕生した存在を前に……誰もが恐怖と絶望の眼差しを向けるしかなかった。

 

 

 

 

 




さて今回の解説です。
まずはクグツやマガタノオロチ周りをおさらいします。

アルファルド君はマガタノオロチと仲良く破壊活動をしたい!

でも本能で星喰ってるやつに近づいたら自分も食われちまうよ。

じゃあ、操ればよくね?とクグツやクイーンベゼルブに目をつける。

(でも直に刺すだけじゃ操れないかもな……オリジナルより効力が弱いだろうし……)……!じゃあ生まれる前から流しておけばいいんだ!

そこら辺はアオボシなどに任せて(第1話)アルファルド君はクイーンを探しに行く。

地脈からエネルギーを吸い取ると共にクグツを吸収していったマガタノオロチ。

てな感じで進んでいたというわけです。そのせいで地球産怪獣にもクグツが回ってしまいましたが……(第68話、第72話)

でも喰われたんですけどね……。しかしそれが引き金となって突然変異。今作のラスボスであるオリジナル怪獣へと変化してしまいました。本編、そしてオリジンサーガにおけるラスボス同士のフュージョンアップです。
その名はマガツオロチ。シンプルすぎるこの名前、本当は8に関する言葉とかつけようかなとも思ったんですがやめました。下手に弄るとダサくなるからね。で、迷った挙句に辿り着いた決め手というのがGE2に出てきたマガツキュウビやP4のマガツイザナギでした。

姿に関しては、オーブ最終話のマガタノオロチ爆発直前のシーンで8つ首状態になるじゃないですか。あの状態で戦わせたいな~と思って。色については先程の決め手になった2体を元に。

さて、強いもの同士を混ぜたその力は如何に……?

それではまた次回で!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。