Sunshine!!&ORB   作:星宇海

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お久しぶりです。
みんなさんは終盤が一番筆が乗ると思うんですが、私はどうも……どうしてでしょう。


第73話 逆襲の融合大魔王獣

「これが……マガツオロチが生まれるにあたった経緯さ」

 

 

 

 

 

 アオボシは目の前で起こっている惨状の推測と、自分がこれまでにしてきた事を事細かに、それでいて素早くAqoursへと伝えた。

 

「どうしてそれを私たちに……?」

 

「別に……ただ君たちがそこにいたからさ。理由もわからないで死ぬのは嫌だろ?」

 

 鞠莉からの問いに、アオボシはそう答えた。その表情はどこか申し訳なさそうではあったが、真意はわからない。

 

「死ぬって、それどういうことよ!?」

 

「言葉通りの意味だよ。ああなった以上、誰にも止められない。例えシリウスでもね」

 

 つっかかろうとする善子から少し退きながら、彼は淡々と口にする。遠回しに”一眞は負ける”と言われたようなもので当然、黙っているはずもなく……

 

「カズくんはこれまでだってどんな怪獣にも勝ってきた。今回だって……」

 

「さあ……どうかな……」

 

「さっきから聞いてれば、アンタ何なのさ!? 最期だからって嫌味でも言いに来たの!?」

 

「おやめなさい果南さん! ……確かに、この期に及んで何を言いに来たのかとは思いましたが……」

 

 今にも飛びかかろうとする果南を抑えるダイヤではあったが、どうやら彼女も同じ心境らしい。

 

「別にそんなつもりじゃなかったんだけどね……」

 

 本当に自分は嫌われているのだなと、アオボシは苦笑い。承知のつもりで彼女たちと接触してはいるが、実際にその雰囲気に触れるとなかなか辛いものがある。

 

「ねえ……」

 

 そんな中、彼女だけは他とは全く異なった声音で話しかけた。

 

「それって……私のせい……なんじゃないの?」

 

「珠冬、ちゃん……?」

 

「私がベゼルブを呼び出したからこんなことになってるんじゃないの!!??」

 

 彼女が4月に呼び出したベゼルブ。それが最初のトリガーだった。彼女は今、これまでに感じてきた以上の罪悪感に襲われているのだ。

 

「その言い方なら、君を傀儡として助けた僕の方が悪いよ。それに、本来僕がやるはずだったのを面白半分で君に任せたんだ。悪いのは全部僕さ」

 

 そんなことを言ったってなんの慰めにもならない。でもそう言わずにはいられなかった。何故なら彼女の目元は真っ赤に腫れていたし、今にも吐き出しそうな顔だったから。

 

 

 

 

 

 泣き崩れ丸まった珠冬の背中へ、ルビィたち1年生は優しく手を乗せる。何も言えなくても……何も言えないから……彼女たちにできることをするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

「な、なんだ……」

 

 目の前で突然変異し、8つの首を天に向けるマガツオロチ。その多重の咆哮は大地を揺らし、周囲のガラスは砕け散っていく。

 

 降臨した厄災の獣ともいうべきその姿を見据えながら、オーブは震える脚に力を入れる。

 

「■■■■■■ーー!!」

 

 しかしマガツオロチはオーブのことなど眼中にないらしい。真ん中の本体ともいえる頭は周辺にあるビルを喰らい始めた。残る7つの首はそれぞれの力で破壊を楽しんでいる。竜巻を発生させビルを粉々に。雷を飛ばして爆破。火球や青白い光球を飛ばして火の海を作り、闇のような漆黒の触手を伸ばせば、建造物をなぎ倒す。純粋に……無垢に……ただ己の本能に従って街を破壊し続けている。

 

「や……めろォォォォォォ!!!」

 

 そんな惨状を黙って見過ごすつもりなど毛頭ない。蒼雷を纏い、ナイトリキデイターは加速する。

 

 

 

 ……が

 

 

 

 数ある触手がオーブの行く手を阻む。光剣で斬って、斬って、そして斬り裂く。しかし制限などないのか、とどまる所を知らずになだれ込んでくる。対処しきれない多くの触手は、宛ら鞭のように体を痛めつけた。

 

「がああ……ん、のぉ!」

 

 オーブはさらに加速する。その速度は、()()()()()()()()()()()()()()のではと思わせるほど。

 

「■■■■ッッ」

 

 的が絞れない。しかし自分の近くには必ずいる。ならば全方向に撃てばいいだけのこと。そう判断したオロチは広範囲に攻撃できる”マガ迅雷”を7つの首から放った。湾曲し地面に穴をあける落雷の雨を前にしてしまったら最後、オーブに逃げ場などない。あるのはただ、雷光の餌食になるだけ。

 

 避けることも叶わず何発も受けてしまうオーブ。しかし受け身を取って体制を立て直すと同時に、額へと残り少ないエネルギーを送る。

 

「この……クラッシャーナイトリキデイタァァァ!!」

 

 青い連弾と、紫や赤の混じった雷”マガタノ迅雷”が衝突しあう。その爆風を突っ切り、今度は極太のレーザー”マガ穿孔”が迫ってくる。

 

「……ッ!?」

 

 咄嗟に展開した光剣の防御もままならず、強烈なレーザーを前に吹き飛んでいってしまう。刃が砕けた状態で宙に放り出されるオーブの足を”マガ触手”はしっかりと締め上げる。そのまま周辺のビルへ、そして地面へ叩きつけた。それは無邪気に遊ぶ子どものようだった。

 

「ウ……アア……」

 

 全身に走る痛みに気を失いかけるが、どうにか堪えて触手から脱出。空中でフュージョンアップ。サンダーブレスターとなって今一度反撃を試みる。

 

 連続してはなったゼットシウム光輪。それは”マガ火球”を撃ち落として首へと接近─────

 

 ─────するが頭部のいくつかに吸い込まれ、咀嚼されてしまう。

 

「俺の技も喰らうのか……」

 

 すべてを喰らうとはいえ、技ですら食べてしまうとは……。見境なくすべてを喰らう魔獣の恐ろしさだ。

 

『フ、フフフフ……アハハハハッ! イイゾ!! コレガ全テヲ喰ラウ、マガタノオロチノ(チカラ)カ!』

 

 聞き覚えのある声がマガツオロチから聞こえる。そう、アルファルドだ。彼は喰われている時にこう言った。”ワタシという存在を体と命に刻み付けろ”と。おそらくそれがクグツに侵されたマガタノオロチへの命令となり、彼の言葉通り存在を刻み付けたのだろう。どこまで意識を残しているのかは不明だが。

 

『楽シイナァ……モノヲ喰ラウトイウノハ!! 破壊スルトイウノハ……!!』

 

 本能に支配された男の声。それはもう、()()()()()()()()()()()()()()ということを知らせているようだった。

 

『アアア……貴様モ喰ラッテヤルゾ……オォォォォォブゥゥゥゥ!!』

 

 マガツオロチは周辺に雷や火球をばら撒きながら突進してくる。エネルギーも少なく、どこまでこの体を保っていられるかわからない。しかし”迎え撃たない”という選択肢はなかった。ここで止められるのは自分1人だけなのだから。

 

 迫る触手を斬り飛ばし、撃たれる火球を叩き落とす。間髪入れず放たれるレーザーをゼットシウム光輪で防御。光芒の合間を縫って肉薄と同時に強烈な右ストレートを食らわす。7つの首からの攻撃を警戒、捌きつつ本体への攻撃を加えていく。

 

「■■■■!!」

 

 だが超至近距離からの迅雷に体は呆気なく吹っ飛んでしまう。転がったオーブへ噛み付こうとする顎を蹴り飛ばしてどうにか起き上がることに成功し、再度頭部を殴りまくってからトドメに膝蹴りを見舞う。だがヤツにまったく効いていないのは明白だった。攻撃を受けている最中なのにも関わらず、首の1つがオーブの右腕を齧り、身動きのできぬうちに本体側からの頭突きを繰り出す。しかし、たったそれだけの攻撃で数百メートルの距離が離れてしまった。

 

 それはオーブとマガツオロチの間に、途方もない力の差が存在しているということを表していた。

 

「デスシウムフロスト……!」

 

 冷気を放ち這って行く氷塊の群れ。しかしオロチの前ではただの飴細工。火球と光弾の前にすべて砕かれてしまう。

 

「これでも……ダメか……」

 

 ほぼ手詰まりの状態。しかし一方的な攻めは続く。”マガ臭気”と呼ばれるガスを口から吐き出して動きを鈍らせ、その隙に触手をレイピアの様にして突き刺す。そしてマガタノ迅雷で果てへと吹き飛ばしていく。

 

 無限だと思わせるほどに長い滞空時間。そこからほんの数秒で重力が作用し、地面へと叩きつけられる。

 

「カ……ア……ッ……!」

 

 肺にある空気のすべてが吐き出され、音のない喘ぎが自然と喉を振動させる。

 

 一瞬、意識が飛んだ感覚。

 

「……ア……ッ!!」

 

 ギリギリで覚醒できたのか、そとも引き戻されたのかは定かではないが、どうにか完全に”飛ぶ”ということはなかった。オーブはよろよろと立ち上がり、激痛の走る体に力を入れる。その痛みは疲労の蓄積のせいなのか、はたまたは攻撃のせいなのか。最悪……両方なのか。正直よくわからない。まず痛いのかもよくわからなくなってきた。

 

「ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……」

 

 息も絶え絶え。正常なのかも怪しい意識。点滅の早まるカラータイマー。そんな状況でも、眼前の獣から視線を逸らすことはない。

 

『ホウ……マダコノワタシニ抗ウカ。ダガモウワタシハ存分ニ楽シンダ。ソロソロ観念シ、ワタシニ喰ワレタラドウダ? 貴様ハ十分ニ闘ッタ。ソレデイイダロ』

 

 テレパシーで聞こえてくる彼の声音からは、金属的な冷たさは感じられなかった。皮肉なことに寧ろ今の方が()()()()()()()()()。大魔王獣と一体化し、自分の快楽も満たせるからだろう。でもそれだけではない。マガタノオロチの本能が彼の意識と溶け合った結果でもある。

 

 8つの頭部すべてが嗤っているかのようだった。そのすべてが、こちらの足掻きをただの戯れと嘲笑っている。

 

『存分ニワタシト闘ッタ。正直、スグニ貴様ハ倒レルダロウト思ッテイタ。ダガ未ダニ立ッテイル。ソレダケデ満足ダロ。……安心シロ。貴様ト貴様ノ大事ナモノハ……苦シマセズニ喰ラッテヤル』

 

「……ふざ……けるなぁ!!」

 

 ヤツの言葉が、ヒビの入った心を繋ぎ止める。まだ終われない。倒れられないと。

 

 錘を引きずっているかのような四肢を動かし、オーブは突撃。オーブオリジンへと姿を変え、オーブカリバーを振り下ろす。

 

 金属音にも似た甲高い衝突音。それは肉体ではなく、マガツオロチの牙と刀身が激しく当たっている音だ。生物の歯というにはあまりにも強固で鋭いそれは、オーブカリバーとぶつかる度に火花を散らしていく。

 

 しかしこの戦いは実質8対1のようなもの。まともに受け続けるのは自殺行為に他ならない。後方へと飛んで距離を取ろうと、首を蹴り飛ばすと共に反動を生もうとした。だがその考えは筒抜けだったか、宙へと浮いた瞬間、4つの首が押し寄せる。

 

「……ッ!?」

 

 迎撃も間に合わず、手足を噛まれてしまった。さらにあろうことか、オーブのエネルギーを吸い始める。

 

「ガッ……アアア……アアアアアアア!?」

 

 オーブの……ウルトラマンという体を構成する光を吸い取られつづけたら、体は瓦解し、今の形を保てなくなる。

 

(まずい……!!)

 

 逃げようにもどうにもならない。このままでは霧散して消えるだけ。絶体絶命となったその瞬間─────

 

 

 

 

 

 

 

 ─────2対の火球が横からマガツオロチを狙い撃つ。

 

 助けられたオーブも、邪魔されたマガツオロチも、突如乱入してきた火球の射手へと目線を向ける。

 

 黒い身体の胸部に怪しく光る発光体。長い突起の伸びた肩から脚部、そして側頭部にかけてはゴツゴツとした赤い体表に覆われており、頭部にはサメや深海魚を思わせる顔が付いていた。それは以前対峙した合体魔王獣。その名は……

 

「……ゼッパンドン」

 

 膝をつくオーブに腕を伸ばすと同時にゼッパンドンは……いや、中にいる少女は問いかける。

 

「一眞、大丈夫?」

 

 怪獣の衣を纏っているのは以前と同じ。だが今回は敵対するためではなく、共に守るために……彼女は戦場に降り立ったのだった。

 

「珠冬……お前、その姿……ってかなんでここに─────」

 

「説教は後で! こっち来るよ!」

 

「……ああ!」

 

 言いたい事は山ほどあるが、今は悠長に説教をかましている暇はない。彼女の言う通り、目の前の厄災に集中すべきだろう。

 

 怪獣とウルトラマン。奪う者と守る者。そんな真逆の印象を与える両者が並び立つ。

 

「■■■■■■ッーーー!!」

 

 ゼッパンドンは火球を吐きながら突進。マガツオロチは雷撃、火球、光弾を放って木端微塵に消し飛ばそうとする。

 

 上空から降り注ぐ数多の死の手。彼女は視認すれば即、射線上から消える。的は消え、地面に衝突すれば巨大な爆発。煙の消えた地面は焼け焦げ、大きく抉れていた。

 

『ナニ……?』

 

 辺りを見回すマガツオロチの背後に、ゼッパンドンは姿を現す。そしてすぐさま火球を撃ち、再度姿を消した。今度は側面に姿を現し、紫のレーザーを。

 

 鬱陶しいと前腕の鎌が水平に振られた。しかし体に届く直前に姿を消され、鎌は空を斬る。

 

 ゼッパンドンのテレポーテーションで撹乱しながら、隙をついて攻撃を加えているのだ。

 

『忌々シイ』

 

 7つの首をもたげる。オーブにしたように広範囲に稲妻を放つつもりだ。

 

「させるか!」

 

 跳躍したオーブは水平方向の回転斬りで発射を阻止。さらに追い打ちをかけるように地上から巨大な火球が首へと投げられる。

 

『ホウ……?』

 

 着地したオーブを狙い、またもや光線の乱発。差し迫る閃光を前に、六角形のバリアーが張られる。

 

「今のうちに……!」

 

「わかってる!」

 

 盾役のゼッパンドンが前に立っているため、直進する光線技のほとんどは使用できない。しかし地を這って向かっていく技なら……。

 

「オーブグランドカリバー!!」

 

 足元に命中し体制を崩すマガツオロチ。それと同時に攻撃の手も止んだ。無防備になった今がチャンス。

 

「珠冬……頼む……!」

 

「……!!」

 

 紫色の破壊光線、口から吐き出す超高温の火球……ゼッパンドンの持つすべてを、ありったけをマガツオロチへ向けて撃ち込んだ。

 

 全身を貫くための、破砕するための”ありったけ”が衝突と同時に巨大な火の手が上がる。

 

 しばしの間の沈黙。

 

 煙が完全に消えるまでの数秒は数分にも、数時間にも感じられた。黒煙が消えればそこには─────

 

「…………嘘………でしょ………」

 

 未だ無傷のまま、何の形跡もないマガツオロチがそこに佇んでいた。

 

「これだけやっても…………」

 

 こんなに攻撃しても、彼女のありったけでも……全くの無意味なのか。

 

『今ノハイイ攻撃ダッタ。コノ体デモ”熱イ”ト思ワセテクレタノダカラナ』

 

 まずい。……もう()()()()()()()()()()

 

(ダメだダメだダメだダメだダメだ……考えるな。そんなことを考えるな。まだ何か……何か手があるはずだ……!)

 

 一度考えてしまうと、とめどなく溢れてくる。考えるなと思考を切り替えようにも、こびり付いた負のイメージは瞬く間に広がっていく。そして突きつけられるのだ。諦めや絶望……死といった言葉を。

 

『ヨウヤク諦メテクレタカ。先程ハ喰ラッテヤルト言ッタガ気ガ変ワッタ。敬意ヲ表シテ、苦シマセズニ殺シテヤル』

 

 8つの口、そして尻尾がこちらへ向ける。計9つが同時に光を放ち始めるところで「ああ、尻尾からも攻撃できたんだな」と察してしまう。そう分かると……自分たちはまだまだ全力を出させていなかったという現実を突きつけられているようで……無力感に苛まれてしまう。

 

 でも、でも何もせずに甘んじて攻撃を受け入れるなんてことは……絶対にしたくなかった。だからこれが最期だとしても、せめて反撃くらいはと立ち上がろうとするが……。

 

「あ……」

 

 やばい。どうやら()()()()()()()()()()()()()()()()みたいだ。マガツオロチとの戦闘は相当な負担を彼の体に強いている。もう限界だと、まるでシャットダウンされた機械の様に全身から力が抜けていくのを感じる。

 

「アレは……どうやっても止められないよね……」

 

「そう……かもな」

 

 あまりにも静かな、終わりへのカウントダウン。その閃光を見据えても、不思議と怖いという感情を抱かなかったのは、心が灰になったからだろうか。

 

『全クノ無駄。全クノ無意味。ダトシテモ立チ向カッタその愚カサデ胸ヲ張リナガラ死ヌガイイ』

 

「……でもやっぱり、貴方如きに無駄だなんて言われたくない」

 

『……ハ?』

 

 死神の鎌が首へ確実に迫る中、彼女はオーブの前に立つ。

 

「貴方如きに……私の大事なものを奪わせたりなんかしない……!!」

 

『散レ』

 

 短い言葉と共に、8つの口と尾から放たれたのは業火、嵐、光、稲妻……すべてを合わせた漆黒の光束。少しでも振れれば消滅するであろう死の具現化。その発射音は……終わりを告げる鐘の音ともいえた。

 

 それをたった1人で……ゼッパンドンシールドを展開し、受け止めた。

 

「う、ああぁぁぁああぁぁぁぁぁっっ、あぁぁぁぁぁああぁぁああ…………!!!!!!!!」

 

 本来であればシールドを展開しただけでは守れるはずもない一撃。だが……だが彼女は耐えている。地獄のような時間に耐えながら、感覚がイカれ始めている両手や……両足に力を込めて。もう体の一部は溶解し、視覚も聴覚も、うまく働いていない。

 

 極熱を防ぎながらも彼女が思い出すのは、たった数刻前の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マガツオロチに苦戦するオーブを見続け、自分たちはなにもできないと歯痒い思いをする少女たち。それは珠冬だって同じだった。でもそれと同じくらいに、自分が成してしまったことへの責任が重く圧し掛かっていた。

 

「ここも危ない。避難した方がいい……と思うよ」

 

 らしくない言葉を口走るアオボシ。

 

 怪訝な目をアオボシに向ける一同。先程は「みんな死ぬしかない」みたいなムーブを出しといて、今は「逃げた方がいいと思う」などとほざく。お前は混乱を招きに来たのかと再度突っかかりたくなる。

 

「……そうだね。みんな、こっから離れよう!」

 

 彼の言う通りにするのは癪だが、それでももう少し安全な場所に行くというのは賛成だ。

 

 全員が走り出したと思ったその時……

 

「……珠冬ちゃん?」

 

 彼女だけは……あるものを拾い上げていた。それは漆黒のリング。一眞の持つそれとは対極に位置するもの。宇宙一邪な心を持つ者の前に現れるといわれるアイテム。ダークリングだ。

 

「……!? それは……!!」

 

「珠冬、立ち止まってないであんたも逃げるわよ!」

 

 善子の手が肩に触れる。しかし彼女は即座に

 

「ううん、私は行かない。……善子たちだけで逃げて?」

 

 はっきりと、それでいて静かに答えた。当然、善子からは「何言ってんのよ!?」と返される。

 

「私、これ使って一眞を助けてくる」

 

「……! あんた正気!? 一眞を助けるたってどうにかできる保証あるの!?」

 

「………わからない。どうにかなるかもしれないし、どうにもならないかもしれない」

 

「だったら……!」

 

 珠冬が言っていることの意味を……誰もが察してしまった。どうして彼女がそんなことを言ったのか。そしてこれから何をしようとするのか。それは所謂、贖罪という名の─────

 

「ダメだよ……」

 

「ルビィ?」

 

「ダメだよ! 死にに行くなんて!! そんなの、ルビィが……みんなが許さないよ!!!」

 

「そうずら! 珠冬ちゃんは悪くないずら。悪かったとしてももう償ったずら。だから……」

 

 何とか引き留めようとするルビィや花丸。それでも珠冬の意思は固かった。本当だったら「そうだよね」と言い、手に持ったリングを投げ捨ててみんなと逃げたい。でも……それはできない。

 

「自分がしてきたこと……今日まで考えなかったことは一度もないんだ。皆と楽しくやっている時も、ふと……自分にこんな幸福が許されるのかなって思ったり、夢に見たり……」

 

 彼女はずっと問い続けてきた。操られ、自分の意思ではなかったとしても……怪獣を呼び出したこと。そのせいで罪のない人々を死に追いやってしまったこと。そんな過去があるのにも関わらず、自分は平和な世界(ここ)にいていいのかと、ずっと問いかけてきた。

 

「いいのよ、ここにいても!! 何が何でもいいの! ヨハネの言ってることだから絶対なの!! ……だから……そんなこと……言わないでよ……」

 

 そして耐え切れなくなって、善子すらも泣き崩れてしまった。

 

「あーあ、やっぱり私は悪い子だ……。ルビィや花丸や、善……ヨハネの頼みを聞けないなんて……理亞にも悪いことしちゃうな……」

 

 今にも溢れ出てきそうな雫。それを瞼を閉じることで抑えた珠冬。覚悟にも近く深呼吸の後、彼女は3人と目線を合わせるようにしゃがみ込み精一杯の笑顔を見せた。

 

「ありがとうね。皆と過ごした時間はこれまでで一生の宝物だよ」

 

 さらに向き直り、千歌たちにも言葉を紡ぐ。

 

「先輩方も、これまでありがとうございました。こんな私を入れてくださって、本当感謝しています。……あんまり話していると行けなくなっちゃうからこの辺で……」

 

 一礼し、走っていく珠冬。そこで彼女はアオボシとすれ違う。

 

「僕が止めても……君は行くんだろ?」

 

「……うん。私が決めたことだから」

 

「………」

 

 アオボシの握った拳は自然と力が入る。それを見た珠冬は、ただ……優しく笑う。

 

「珠冬……! 僕は……僕は本当は……」

 

「言わなくてもいい。わかってるから」

 

 それだけ言い残し、彼女はマガツオロチの元へ駆け出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後まで役に立たないなと思ってたけど……そうでもないみたい……」

 

「おい……珠冬……やめろ……」

 

 一眞は呼びかけているが、今の彼女に……言葉は届いていないだろう。

 

「私の役目はここまで。だから一眞が……マガツオロチを倒して。私も……兄さんも、信じてるから」

 

 3年もの時間を奪われた彼女。暁珠冬がただの少女として生きられた時間は、ほんの僅かだった。だがその僅かな時間に、その瞬きのような間に、彼女が手に入れた彩というものは……掛け替えのないものだった。だからこそそれを守るため、それを守れる力を持つ彼を守りバトンを繋げるため……少女はその命を燃やす。

 

「今までありがとうね。それとごめんね」

 

 白く塗りつぶされていく世界の中で、頭だけをこちらに向け笑う珠冬の顔が……見えた気がした。

 

 

 

 

 

(─────ああ……でも……Aqoursのライブ、もう少し見ていたかったな)

 

 

 

 

 

 完全に塗りつぶされ、聞こえてくるのは巨大な爆発の音のみ。

 

 世界が元に戻っていく。

 

 正常に戻った世界でも、変化はあった。爆発の威力は遥か数千メートル上空の雲まで達していたようで、暗雲の隙間から、太陽の光が細々とさしてくる。

 

 オーブの目の前には先ほどまでの頼もしい背中は無い。まるで最初から存在していなかったように。でも彼女という存在はここにいたという証として、地上に焼け焦げた2つの足跡がしっかり残っていた。逆に言えば、それだけしか残っていなかった。

 

『哀レダナ。オーブヲ守ッタ結果、ソノ肉体ハ熱量ニ耐エキレズ消滅シタ。余リニモ呆気ナイ幕切レダッタ』

 

 悲しみでどうにかなりそうだった。悔しさでどうにかなりそうだった。あまりにも自分が無力で……どうにかなりそうだった。

 

「この………………!!」

 

 杖替わりにしているカリバーの柄を今一度強く握る。身体は限界。これ以上の戦いは耐えられない。様々な感情が精神を砕いている。しかし、しかしそれでも尚、立ち上がろうとするために、柄を今一度強く握る。

 

「アル……ファルドォォォォォォォ!!!!!」

 

 硬化した四肢に命令を伝達する。だがすべては彫刻の如く、岩石の如く、固く……重かった。軋む音なんて呼べぬほどの、体からはしてはいけない音がそこら中で響く。エネルギーなんてない。だから己の魂を燃料にこの体を動かしていた。

 

 

 

「お、おおおおおおお…………!!」

 

 

 

 だが……

 

 

 

「おお………お……………………」

 

 

 

 もはや

 

 

 

「……………………………………」

 

 

 

 これまで。

 

 

 

 とっくのとうに胸と双眸の輝きを失っていた巨体は、地面へと倒れてしまった。

 

「■■■■■■■■■■■」

 

 地面に伏した肉塊へ牙を突き立てるマガツオロチだったが、捕食することは叶わなかった。直前で粒子となって霧散してしまったからだ。

 

 最早己を邪魔立てする存在は消えた。あとはゆっくりとこの星を喰らていくだけ。その雄叫びは邪魔者が消え去ったことへの喜びか。それとも喰尽くすことへの宣言か。

 

 再び持てる技を全て発動させながら、破壊及び捕食活動を開始したマガツオロチ。アオボシが言った通り、誰にも止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 地面にうつ伏せで倒れ込んでいる一眞。だがその意識は最早ないに等しかった。

 

 闇に覆われた視界。遠くなる周囲の音。指先から冷たくなっていく感触。

 

 その感覚を……一眞は知っている。1度目はマガゼットンのと戦闘に巻き込まれた時。2度目はゼッパンドンに敗北した時。

 

 

 

 

 

 

 つまるところそれは………死だ。

 

 

 

 

 

 

 

 







はい。書かれている通りです。

彼女の結末については本当に悩みました。本当にこれでいいのか、もっと違った解決法があるのではないかって。でも彼女が満足している気もするのでいいかなって今は思います。

そしてゼッパンドンを再登場させた理由ですが、シールドが使えるからと2.5章ではゼッパンドンを出せなかったからという理由があります。


さて、これからどうなるのでしょうか……。
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