崩壊した東京の街を走る9人。
どこもかしこも崩れかけ。火の手が上がり、未だ燃え続けているところもある。地上には数刻前まで建造物の一部であったであろう破片がゴロゴロと転がっている。最早道なんて呼べるものはない。こんなのが日本の首都の現状であろうとは……誰も信じたくないだろう。
マガツオロチは相も変わらず、捕食と破壊を繰り返している。だが時折、16の瞳が空を睨む。険悪な頭部から火球を放っていたからだ。
火球は成層圏を超え、再度地上を目掛けて落下していく。そして日本中に降り注ぐのだ。今や日本に安全な場所はないに等しかった。隕石の様な火球群の中に、時たまに光球が混じっていた場合はさらに被害が拡大する。
火の海を歩くヤツのシルエットに、人々は怯えることしかできなかった。
~~
(……あれ? ここは……)
深く、深く、水底に沈んでいく感覚。なのに肌を通して伝わってくる情報は無いに等しかった。冷たくもなく、暖かくもない……不思議な空間。いや、自分の感覚がないのかもしれない。
(俺は……ああ、そうか……)
消えかけの意識の中に、先ほどまでの光景が明確に呼び起こされる。8つ首の獣に、自分を守って消えた少女の顔……。
倒せなかった。守れなかった。そう思うと、後悔や悔恨、悲しさで胸が張り裂けそうになる。一眞は1人、失意の中で息を吐き続ける。そしてふと、こんなことを口にした。
「俺はこのまま……死ぬのか……?」
諦めのようにも、まだ足掻きたいと願っているようにも聞こえる彼の呟き。だがその声は誰にも聞こえることなく、寂しく空間を漂うのみ。
彼女は最期に「倒して」と言った。自分に最後の望みをかけ、己を犠牲にしてまで……一眞に託したのだ。なのに見てみろ。託された当の本人は目の前で倒れ、今の自分はこんなところで動くこともできず……ただ沈むのみではないか。死を待つのみではないか。
なんとも無様で、滑稽で、恥知らずな有様であろうか。
責めたところで状況が変化しないことなんてわかっている。しかしそれでも、思わずにはいられないだろう。
とその時、背後から伸びてきた両腕が一眞に触れる。途端、辺りの景色は一変する。暗い水底から真っ白い空間へと。
「いつまでここで丸まってるんだい?」
「……え?」
男に声を掛けられる。それまで朦朧としていた意識が鮮明になり、感覚も徐々に元へ戻っていく。
「おはよう……とはまだ言えないけど、とりあえずこんにちは。久しぶりだね、暁一眞くん。……ああ、そうだ……この姿で会うのは初めてだったね」
一眞の目の前にいた青年は笑顔で挨拶してくる。
戸惑いつつも、一眞は青年を直視する。背格好は自分と同じくらいだろうか。年齢はおそらく、1つ2つくらい上だろう。しかしそれは外見上のみ。その纏っている気配からは、もっと長い年月を生きてきたのだと思わせる何かがあった。
「あなたは……?」
一眞は青年に問う。「誰なのか」と。でも彼は目の前の青年が一体何者なのかを、ある程度は察していた。
その声に、聞き覚えがあったのだから。
「オレは……うん。名前よりこっちの方がわかりやすいかな」
彼の目つきが変わる。どこにでもいる青年の目から、選ばれた戦士の目へと。
「オレはオーブ。君と一体化しているウルトラマンオーブ……その人だよ」
~~
一眞がオーブと対話を始める少し前に、千歌たちは倒れている一眞を見つけていた。
「カズくん!!」
誰が上げた声かなんて……そんなのはどうでもいい。1人が向けた視線の方向へ、全員が目を向ける。するとそこには、瓦礫の上に伏せた一眞の姿が。
「……!!」
誰かが口を手で覆う。倒れた姿が弱弱しく、あまりにも小さく見えたからだろう。一目散に駆け出し、彼の周りに座る面々。だがその身動き一つしない人の姿を見てしまえば、自然と最悪の結論を導き出してしまう。
「一眞くん!」
「カズくん、起きて!!」
声を掛けるも、返ってくるのは沈黙のみ。それが皆の頭にある一文字をより強く、濃く描き出してしまう。
「バカ言わないでよカズ……」
果南はそんなはずないと、その可能性を否定しようと、首元に手を当てる。しかしそれこそが、覆しようもない証拠になってしまった。
「そんな……」
ひんやり……なんて言えないくらい、冷たくなった体。それは最早人の体を触っているという感覚すらも忘れさせるほど。そして何よりも……
「脈が……ない」
血液を体中に送っているはずの器官が止まっているということ。暁一眞の体の機能は停止しているのだ。普通、全身に血液を送るという働きが止まることはない。止まっている……ということは即ち……。
「ねえ、起きて? 起きてってば!!」
仰向けにした彼の肩を揺する。しかし呼びかけには答えず、ただ肉体が揺れるだけ。
「帰ってくるって言ったでしょ……!? カズくんはまたそうやって……そうやってまた約束破るの……っ!?」
そう言えば、「ああ。そうだったよな」とボロボロになりながらも起き上がってくれる。そう思っていた。しかし今度は……今度こそは……もうダメなのかもしれないと考えてしまう。打ち消しても打ち消しても、”こうして目覚めない”という目の前の現状が、彼の死というものを残酷にも明確に提示していたのだから。
「……っ!」
一眞の死に嘆くのはAqoursの面々だけではなかった。遠くから様子を見に来たアオボシでさえ、その余裕そうな表情を崩していた。以前は倒そうとしていたとはいえ、昔からの旧友だ。彼にも思うところがあるのだろう。
(ここで死ぬ気か、これで終わりか……? まだだろ。こんな時だからこそ立ち上がるのがお前なんじゃないのか……?)
アオボシは無意識のうちに、一眞が立ち上がることを信じていたのだ。そしてもしかしたら……と、どこか希望をも見出していたのだ。
千歌たちは一眞へ必死に呼びかける。ここが終わりじゃないはずだと。まだまだやるべきことも、したいこともあるはずだと。ただひたすら彼のことを想い、呼びかけ続けた。
~~
「あなたが……ウルトラマンオーブ」
「そう。……って言っても今は君がオーブのようなものだから、ちょっと複雑かもね」
白い空間の中で、一眞と
「……」
オーブ本人であるのは何となくわかるのだが、以前の彼と少し違うのだった。”以前”というのは、夢の中に囚われた時のことだ。その時のわずかな時間に、オーブ本人と話す機会があった。しかしその時と雰囲気がまったく違う。状況もあったが、それだけではないだろう。
以前話した時の堅苦しい感じではなく、今の彼はどこか穏やかで、優しい。
「あ、あの……前に話した時と随分……」
「ああそれね。ごめん。こんなんじゃ示しがつかないかなって演じてたんだけど、上手くいかないもんだね」
ヘラヘラと笑うその様は緊張感がないのか、案外図太いのか。でも先ほど見せた瞳は、間違いなく闘う者の瞳であったことは確かだ。
「ようやく、君と話せる機会を作れた。だからまず言っておかないとね」
青年はゆっくりと、その頭を下げた。
「君を救うためとは言え、戦いに巻き込んでしまった。挙句には頼りっぱなし。そして今は一刻を争う状況だ。ここまで、本当に申し訳なかった。オレがもっと早く目覚めて、君から離れるべきだったのに」
「そ……そんなこと……」
確かにそうかもしれない。一眞を救ったことは事実。しかし、一眞自身が戦う必要はどこにもなかった。オーブが目覚め、一眞との一体化を解いていれば、このような空間にいることもなかっただろう。
「君の体を修復するのにかなりの力を使ってしまったんだ。だからオレは、力が回復するまで眠るしかなかった」
「でも……そのおかげで、俺はここまでやってこれた……。だから……謝らないでください」
一眞は力なく、青年に語り掛けた。ここまではやってこれた。しかしオーブ本人であれば、珠冬を失うこともなかったんじゃないかと……考えてしまったからだ。
「……君は優しいね。やっぱり、間違いじゃなかったな。君を助けたことも、そして─────再び、君を助けると選択したことも」
「……え?」
彼の一言に、なにか大きな決意が垣間見えた。
「簡単な話さ。今の君はほっといても死ぬ。オレと一体化していても回復が追い付かない。だから─────オレと一眞くんの体を完全に同化させるんだ」
ウルトラマンと人間が一体化する理由。例えば一体化した人物の傷を癒すため。例えばウルトラマン自身の傷を癒すと共に、惑星での長時間の滞在、活動を行うため。といったものが主な理由だろう。一心同体とはいえ、人物には人物の意思、ウルトラマンにはウルトラマンの意思として、互いの釣り合いが取れた状態で行われる。
「完全に同化って……」
「一時的に君をウルトラマンオーブそのものにするんだよ。一心同体の一時的な変身じゃない。君自身がオーブになるんだ。まあそんな事すれば、どちらかの意思は完全に消滅しちゃうけどね」
完全な同化。もう2度と離れることができなくなるということ。そして2つの意識と2つの体というバランスも崩壊し、いずれどちらかの意識がもう片方に飲み込まれてしまうのだ。
「他のウルトラマンならどうにかなるのかもしれないけど、生憎……オレは無理っぽいから」
変わらず笑顔で語るオーブに、一眞は言葉を失う。だってどう考えても、受け入れがたい提案だ。それに彼は
思い違いであってくれと願いつつ、一眞はオーブに尋ねる。
「あなたは……どうなるんです?」
「うん? 消えるよ。仕方のないことだけど」
自分が消えるという選択をしているのに……なのにそれをさも当然のように彼は話している。
「どうして……そんなにすぐ決断できるんですか。どうして……自分を犠牲にすることにためらいはないんですか。こんな俺なんかのために……」
「……」
穏やかな瞳で一眞の紡ぐ言葉を待っている。一眞が今から何を吐き出すものを知っているかのような達観した表情で、優しく受け止めようとしていた。
「俺は……俺の意思でここまでやってきました。もう迷わないと、後悔はしないと。でも……俺は……珠冬を守れなかった! オロチを倒せなかった! 今この瞬間も、みんながどうなっているかを考えるだけで怖くて堪らないんです! こんな俺を生き返らせるより、あなたが生き返った方が……よっぽど……」
心に決めたことは確かに覚えている。でも、何故オーブが自分を生き返らせようとするのか……こんなちっぽけな自分をどうして生き返らせようとするのか、問わずにはいられなかった。
一眞の叫びを聞いて、オーブはそっと目を伏せて考える。
「どうして、か……オレがそうしたいと思たから。じゃ、ダメかな?」
「………え?」
間の抜けた声を出した一眞。そんな自分の生すらも左右する決断が「そうしたいと思ったから」なのかと。
「だよね。そう思うよね。でもこれはさ、オレの我儘なんだ。10を殺し、100を救う事しかできなかったから、今回くらいただの”1”を救いたいんだ」
オーブは語る。戦士の頂で力を授かり、ウルトラマンオーブとなったことを。そしてあらゆるミッションをこなしたことを。
いつも、戦いの度にいくらかの犠牲が出る。少数の命を見捨てないと助けられないような大勢の命があったからだ。どうにかして10を救おうと思った。でも……どうやってもできなかった。だからこの世界はこういった仕組みなのだと言い聞かせて、少数の命を見ないようにした。そうしてある時、魔王獣を倒しに来た地球で彼に出会った。
「自分を犠牲にしてまで誰かを助けようとする君の在り方……憧れたな。だから助けた。ウルトラマンとしての使命とかじゃなくて、ただ純粋に誰かを、1を……ううん、その選択を選べる他でもない……君を助けたかったんだ」
そう。それが彼の純粋な我儘。10を見捨てたくないと、その中の1を見捨てたくないと、それまで蓋をしていた彼の純粋な心。
「だから今も……同じ選択をする。この選択を君が教えてくれたから」
「そんなの……」
「それに君にはまだ、戻るべき場所があるはずだよ?」
オーブは天を指さす。その方向に一眞も目を向ける。
『カズくん!』
『一眞くん!』
『先輩!』
『一眞!』
Aqoursのみんなが自分を呼んでいる。必死に、目を真っ赤に腫らせて叫んでいる。
「彼女たちを裏切るのは罪だぞ?」
「……」
まだ自分には帰るべき場所が、帰りを待ってくれている人がいる。それを裏切るなんてどうかしてた。
「それに彼女も願いだって」
ああ。ああそうだ。珠冬の残した言葉だってまだ残っている。倒れたのなら、またもう一度立ち上がる。今までずっとそうしてきたことだ。
体が軽くなっていく。心に涼しい風が入り込んでくる感覚。今までかかっていた靄も晴れていく。
「その顔、覚悟は決まったみたいだね」
一眞が頷くと同時に、青年の……オーブの体は輝き始める。同時に輪郭が曖昧となり、光の粒子として消え始めていく。だがその表情はこれまで見てきた以上に穏やかであった。消滅するという変えようもない現実が迫っているが、絶望にまみれた表情では断じてなかった。
「君に大役を任せるのは本当に心が痛い。でも君が望めば、オーブの力も消えるかもしれない。普通の人間として生きることだって選べるはずだよ」
「いえ、そんなことはしません。あなたの意思も継いで、俺は戦っていきます。ウルトラマンオーブとして。それがあなたの生きた証になると、そう信じて!」
普通の人として生きるという選択を、一眞は断固として拒否した。皆を守りたいという願いに加え、青年の生きた証を残すためだ。彼が戦ってきた長い時間、そして彼の選択に最大の敬意を払うために。
「そっか。なら止めはしないよ。あの獣を倒し、みんなのところへ帰るんだ。……さあ、もう戻る時間だ」
「あなたには何度も何度も助けられました。本当にありがとうございます」
精一杯の感謝の言葉を伝える。伝えられるのは、これが最初で最後のチャンスだから。そして背中を押してもらった彼へ、もう大丈夫だと伝えるように一眞は微笑む。そして
「─────行ってきます!」
と。
笑みを浮かべて消えていくオーブを見届ければ、あるべき場所に戻るために生成された穴へと駆け出していくのだった。
~~
「……ッ!!」
「……!?」
肺に空気が入っていく。血液の循環、途端に末端から駆け巡っていく熱。あらゆる情報が交錯する。
「悪い……約束、破るところだった……」
体は所々はまだまだ痛むけど、動かせないというレベルではなかった。彼女たちの姿を目にして理解する。本当に、オーブがやってくれたのだと。
彼が上半身を起こした途端、体にはちょっとした衝撃が走った。
「もうー!!! 心配したんだからぁぁぁぁぁ!!!!!!」
曜や千歌が抱き着いてきたからだ。他の面々も、一眞に無事に涙を拭っている。
「帰ったら覚悟しておきなよ!」
「こんなに心配を掛けたんです。何か言う事があるのでは?」
「心配かけてすみませんでした」
先ほどまで死んでいたとは思えない程の笑顔だったからか、それとも生きていたことが嬉しかったからか、ダイヤもそれ以上咎めることはなかった。
「ええ。今回はそれで許すことにしましょう」
「……」
遠くから見ていたアオボシも、一眞が起き上がったことに笑みをこぼした。しかし、その表情は長く続かなかった。遠方でマガツオロチが火球を吐いたのを見てしまったからだ。放物線を描いた火球のいくつかが不幸にも、一眞たちのところへ落ちようとしていた。
「まずい!」
アオボシの叫びは一眞たちにも伝達していた。彼らは咄嗟に空を見上げる。飛来するのは何十もの火球。衝突すれば死は避けられない。咄嗟に一眞はオーブリングを構えたがそれよりも早く、全員の目の前に、とある巨体が着地したのだった。その巨人は剣を盾のように扱い、火球を防いでいく。
「んん……」
爆発と熱風が消え去った頃、Aqoursの少女たちは恐る恐る目を開ける。しかし、千歌たちには傷一つない。死んだ……という訳でもないらしい。
しかしそれだけでなく、暗い影が自分たちを覆っている。その正体を確かめるべく、彼女たちは視線を上に向ける。するとそこには、思いがけない人物の姿があったのだった。
「………」
するとそこには黒いオーブ……オーブシャドウが剣を構えて千歌たちを守っていたのだ。
「な、なんで……」
純粋に敵……とは言い難いものの味方でもないはずの彼が救ってくれたのだ。そんな彼の行動に、一同は困惑。
だがそれはアオボシも同じであった。
変身を解除し、信じがたいその行動に困惑していたのは千歌たちでも一眞でもなく、アオボシ自身だ。
「なんで……僕は……」
「やっぱりな。お前にも……まだ光が残っているってことだよ」
「なに……?」
歩み寄った一眞の一言に、動揺するアオボシ。だがそんなこと、信じられるはずがなかった。
だって狂乱に駆られて母星を破壊し、ここまでにいくつもの悪逆を尽くしてきたのだ。そんな自分が光を捨てきれない? そんなこと、信じるわけにも、認めるわけにもいかなかったのだから。
「不思議だったんだ。どうしてお前が瀕死の珠冬を助けたのか……鞠莉さんを助けたのか。洋館で千歌や曜を助けるのに手を貸してくれたのか……」
「そ、それは……!」
ただの気分だと言いたかった。珠冬に至っては、傀儡が欲しかったと言いたかった。でも、言うことができなかった。
「誰かを助けたかったんじゃないのか? まあ、やり方は最悪だけどな」
一眞のそれは、アオボシ……リゲルの心に深く突き刺さった。
守る価値もないと、星を破壊した。
その時、彼は思い出してしまったのだ。光の巨人の噂を語る少女の輝いた目を。しかし、そんな希望を打ち砕いた。それは彼に後悔として残った。
その後、地球に降りた時に見てしまった。瀕死の少女の姿を。
あの時の後悔が頭を過ったリゲルは、珠冬を傀儡にするという名目で命を救った。褒められたやり方ではなかったが、それでも……それでも確かに、リゲルは少女の命を救っていたのだ。
「目の前のものを救おうとするのがお前の弱点だ……。なのに……僕も同じことを……」
「自分でわかってるはずだ。リゲル」
そう、彼も憧れていた。誰ふり構わず助けようとする一眞の姿を。彼の追い求めているその理想に。
「……」
一眞は呆然とするリゲルの胸ぐらを掴み上げたあと、思いっきり彼の顔を殴り……
そして、抱きしめた。
「………………ありがとうな。俺たちは光であって闇でもある。どちらか一方にいることなんてできないんだよ。でもそれでいいんだ。葛藤して、迷って、それでも光であろうとする。だからこそ、輝くんだ」
数多の思いが詰まった一眞の言葉に、リゲルは天を仰ぐ。
「みんなを頼む」
肩を叩き、一眞は向きを変えた。
いまだ暴虐の限りを尽くす、あの融合大魔王獣を倒すために。
あれは怪物だ。彼は……アレはただ命を奪うことしかしない。それしか知らない。それしかやらない。このままでは地球が、いずれは宇宙の星々を喰らい尽くす。そうなる前に止めなければ……。
「カズくん!」
走り出す直前、背後からかけられた曜の言葉に、足が止まる。
「………………必ず倒してね!」
他にかけたい言葉があっただろう。行かないでとも言いたかっただろう。しかし、彼女はそうではなく倒してと、勝ってくれと、彼の背中を押した。
「曜ちゃんの言う通り! いつものやつでぶっ倒しちゃって!」
「私たちの想いはひとつだから」
千歌と梨子も、一眞の背中を押す。対峙する時は1人でも、その想いは繋がっていると。
「天界堕天条例に誓って戻ってきなさいよ、リトルデーモン!」
「ここで信じて待ってるずら」
「頑張ルビィ!」
不安な筈なのに、恐怖で叫び出したいだろうに、いつもの調子で送り出そうとしてくれる。
「貴方のこと、信じていますわ」
「帰ってくる……これは理事長命令デース!」
「カズ……勝ちなよ」
みんなの調子に、少し笑ってしまう。だが、背中を押してくれるその想いは、一眞の心を、みんなを守りたいと思う力を強くさせる。
そして─────
「ああ……」
一眞は振り返り笑う。
「任せとけ!」
そう言い残して走り出した。
マガツオロチに向かってただひたすらに走る。傷が完全に回復したわけではない。尋常じゃない痛みが、熱がまだ残留している。
でも走る。
だって────
「─────終わらせない」
みんなで紡いだ今を。そしてその先に続いていく未来を……こんなところで閉ざされたくはないから。
1人では無理でも、みんなとならば出来ないことはないと知っているから。みんなの想いを背負えば、なんだって出来るから。
だから彼は走る。
そして……だからこそ、彼はそれを叫ぶのだった。
「ウルトラマンさん!」
「ティガさん!」
黒煙が立ち込める空を駆ける一条の光。
その眩しさに16の目を向けたマガツオロチは、その流星が一体何を表すのか……その全てを悟る。途端、本能だけで動くものでは無くなったやつの底から湧き上がるのは苛立ちや不快感……。
己が感じている負の感情全てを消し去る為に、そして目の前の光にぶつける為に、全力の咆哮へと変換した。
「『
それだけでは収まらず、頭部の一つからマガ穿孔を放った。
しかしそのレーザーも鏡状にしたスペリオンシールドで反射され、己の身体へと撃ち込まれてしまう。
彼は地面へ着地すると同時に地面を強く蹴り上げた。アスファルトが捲り上がり、衝撃でクレーターが形成される。それもすべて八つ首の怪物に突撃していくための突進力に変えたからだ。
スペリオン光輪は八つ首の内の1つ、その眼を切り裂いた。
皆の力を借り、最後の戦いへと赴きました。
オーブとなった青年(ガイさんとは異なる)が完全に同化したことで、暁一眞は完全なるウルトラマンとなりました。ジャックやエースをイメージしてもらえばわかりやすいかと。
そして出ましたあのセリフ。変身者が違っても、その言葉だけは変わらない。オーブという存在に刻みこまれているということですね。
ではまた次回、お会いしましょう!