八首の獣は吠える。目の前にいる巨人を今度こそ完璧に殺し、その肉を喰らうために。
間髪入れずに降り注ぐ攻撃の雨。しかしその巨人は臆することなく飛び込んでいく。これ以上被害を拡大させないために。みんなを守り、未来を掴むために。
『馬鹿ナ男ダ。モウ一度ワタシニ喰ワレニ来タトハ……!』
男の笑い声と共に、7つの首が持ち上がる。口内から放たれるのは、嫌という程見たマガタノ迅雷。
オーブは即座にシールドを展開して防ぎつつ、数十発もの光輪を投擲する。しかしすべてが首を振るっただけで砕け散ってしまう。
「だよな……!」
体の紫のラインが光る。周囲をすばやく移動しながら鏃型の光弾を連射。火煙の中から、赤い光の尾を作りながら体当たり。迫る首たちを回避し、エネルギーを纏わせた拳を打ち付ける。拳自体の威力に、爆発の威力を足した二重のインパクトが肉体にめり込む。
『軽イ!』
上空から迫る火球、そして胴を薙ごうとする前腕の鎌を視認。宙返りで後退し距離を確保。スペリオンスラッシュで火球を相殺。
やはりだ。これだけではあの獣へのダメージは微々たるものだろう。おまけに7つの首が鬱陶しく、十分に近付くチャンスも本当に少ない。硬く、そしてすさまじい攻撃量。この怪物を前に勝機があるのか疑わしくなるが、そんなことは関係ない。彼女たちの元に帰るために、これからも生きていくためには勝つしかない。
勝てるか勝てないかではない。勝つんだ。
『マダヤルカ?』
テレパシーでの煽りに
「望む……! ところだ……っ!」
オーブは大地を蹴る。
天から降りてきた嵐の群体が道を阻んでくるが、サイドステップで躱し再度肉薄。前腕の鎌を腕で防げば重みで地面が沈む。
隙ができたと突撃してきた首の1つを掴んで頭突き。そして渾身の回し蹴りが残りの首らも薙ぎ払う。
「■■■、■■■■■■■ーーーーーー!!!!!」
意思の見えない咆哮を轟かせ、尻尾をこちらに向ける。尾から伸びた紅い光の束は、こちらを飲み込もうと疾走する。
「スペリオン……光線ッ!!」
十字に組んだ腕から放たれた熱戦と中央部分で衝突。両者とも引かないせり合いは、中央部の爆発によって終結する。
『オオォォォオオオ……!?』
「ああああああ……!?」
爆発は両者を包む。
しかしマガツオロチは無傷のまま。それどころか爆発すらも口にしているではないか。煙や火を口にし、そして咀嚼するという奇妙な光景だ。するとその数秒後、眩い閃光がマガツオロチを襲う。
その光はもう片方の煙の中からだった。煙を突っ切り、空へと飛翔する赤い光。オーブは2本角を持った紅の巨人へと変化する。全身を烈火で包みながら空中で幾度も回転や捻りを加え、威力を底上げした飛び蹴りを放つ。
「紅に……燃えるぜ!」
マガツオロチは灼熱の一撃に悶えている。
「■、■■■■■■■■!?!?!?!!!」
が、身を何度も捻らせて炎を消し去った。そしてお返しとばかりに撃ち込まれた光球がオーブを弾き飛ばす。
瓦礫を舞い上げながら転がっていく姿から目を離さないマガツオロチ。ヤツはマガ穿孔を放つために口元にエネルギーを貯める。
「ウウウ……ッ!!」
自分を穿とうとしている光を視線の端に捉えたオーブ。彼は咄嗟に地面へ小さな火球を放つ。すると煙が上がりオーブの姿は見えなくなった。
『調子ニ乗ルナ……!』
首の1つが360度回転。空から攻めるオーブを撃ち落とそうとマガ穿孔を発射。
「このぉぉぉぉぉ……!!」
迫る光束を弾こうと、エネルギーを纏わせた腕を立てる。光を纏った腕と光線が掠れる。火花、或いは己の肉片が宙に散っていく。
「がああああああ……!」
全身を駆け巡り、脳天から突き刺されるような痛み。しかし、ここで攻撃を中断するわけにはいかない。珠冬はもっと熱く、酷い光線の中を耐えたんだ。このくらいどうってことない筈だと言い聞かせながら、マガツオロチとの距離を詰めていく。
「ウゥゥゥゥ……オオオォォォオオオ……!」
掠っていた腕に炎が宿る。全身を命一杯回転させて勢いをつけてから、その剛腕を突きつける。
「ダアアアアアアアア!!」
~~
オーブとマガツオロチの戦いを見守るAqours。互角……いや未だマガツオロチの方が優勢と見える戦い。オーブは地面を転がりながらも、何度も起き上がり目の前の厄災へ果敢に挑んでいく。
「……」
視線の先にいる巨人の勝利を祈るように、曜は手を組んだ。
「……僕は……どうすれば……」
その横で、未だ答えを出せずに苦しむアオボシ。先程一眞が言ったこと。それは答えになのかもしれない。しかしそれでも彼は迷ってしまう。
(僕が今更……彼と共になんて……)
「もう、決まってるんじゃないの?」
背後から声を掛けられる。ゆっくりと振り返った先にいたのは千歌だ。彼女はアオボシの隣に立ち、さらに語り掛ける。
「今からでも遅くはないんじゃない?」
「ハッ……どうだか……。それに、僕なんかが上手くやれるかどうか……」
今更何をしても……という諦めと、僕なんかが……という自虐。そしてこの事態を引き起こしたという強い罪悪感。それが彼の決断を鈍らせていた。
「やれるかどうかじゃないよ」
「……は?」
間の抜けた声で返す。すると千歌は、まっすぐな瞳でアオボシにこう言った。
「やれるかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ」
途端、胸の奥からせり上がってくる熱い何か。そうだ。今は”やれるかどうか”なんていう不安に振り回されている場合じゃない。それに……仮にここが最期なのだとしたら、やりたいことをやった方がいいに決まっている。
「それもそうだね。感謝するよ……千歌ちゃん」
そう言って彼は歩き出す。その表情には最早迷いはない。だが歩き出した方向は戦場とは全くの逆方向。
「やる気も出てきたし、オマケもつけちゃおう」
すると彼はいつものような気持ちの悪い笑顔ではなく、真剣な面持ちで花丸に語り掛けた。
「─────命の樹の種、持ってるでしょ?」
~~
「銀河の光が……我を呼ぶ!」
オーブカリバーを精一杯の力を込めて振り下ろしたオーブオリジン。しかし……いや、やはりというべきか……。マガツオロチの体に刃が入り込むことはない。
ならば外側の厚い肉を削るのが先か。カリバーのホイール部分を高速回転させ、丸鋸の様に押し当てる。けれど悠長に削っている暇もない。そうしている間にも7つの首が食い殺そうと牙を突き立ててくるのだから。
『コノ数ヲ捌クノハ難シカロウ。ソウダ。ソウヤッテ無様ニ踊ルガイイ!』
顎をカリバーで防ぎつつ蹴り上げる。柄を両手で握り込み、大振りに薙ぐ。距離を再び離し、3つの力を呼び起こす。
「3つのひ─────」
「■■■■■■■■■■ッッッーー!」
咄嗟に放たれた雷が着弾。周りにも引火した大爆発がオーブのさらなる変身を中断させる。膝をついた彼の体に、大きく開いた口が迫り……そして閉じられる。
「ウウウ……オオォォ……」
噛みつかれた状態から離れようと、再度回転させたホイール部を押し付ける。
「く……はあ……はあ……」
やられた。逃れることはできたが、先の噛み付きで体内のエネルギーまで吸っていったようだ。力が抜け、上手く立てない。
「ったく……卑しい奴め」
『馬鹿ナヤツダ。イイ加減諦メタライイモノヲ……』
「はあ? バカなのはお前だろ。こっちは諦める気なんて……これっぽちもねえんだよ!」
立ち上がれずとも、自分を睨む数多の瞳へ睨み返す。
『無駄ナコトヲ』
「無駄かどうかなんて、お前が……いや、お前如きが決めることじゃない」
数刻前、似たようなことを言った少女がいたなと、オロチは思い出す。
ああ、虫唾が走る。お前如きだと? 違う。ワタシだからこそ言えるのだ。すべてを喰らいつくす厄災となったこのワタシだからこそ、そのようなちっぽけな行動が無駄だと言い切れるんだ。弱者は大人しく、喰われるのを……死ぬのを待てばいいのだ。
『……ハ、ハハハ。ハハハ、ハハハハハハハ! 言ッテクレルナ。ナラバ何度デモ言ッテヤル!! 貴様ハ惨メニ負ケル。ソシテソノ後デ貴様ノ大切ナモノモ、コノ宇宙モ……全テ、全テ! 喰ライ尽クシテヤロウ!!!』
8つの首全てが轟く。目や口から不気味な光が迸り、空気を揺らす。
「できねえよ。敬意もなく、その力をあたかも自分の様に扱うだけのお前には!!」
『消エ失セロ!!』
様々な光がオーブに向かって放たれ─────
─────そうになった時、紫色の軌跡を描いた一閃がマガツオロチを斬り飛ばした。
正体はすぐに分かった。
体色はほぼ黒一色と言ってもよい。だが所々にある銀色が、彼の中に残っていた光を彷彿とさせる。額のランプや両目、そして胸に光るカラータイマーは常に赤で煌めいている。姿はオーブオリジンそのもの。しかし今この瞬間、彼は模造ではなく、ただ1人の戦士としてこの地に立っていた。
そしてマガツオロチを斬った右腕に持つ聖剣が一瞬、金色に輝いたような気がした。
自分は光であろうと選択した男、
「……」
オーブシャドウは振り返りもせず、ただ無言で手を差し伸べた。それを見たオーブも何も言わずに……手を掴む。
かつて対立した者。光と闇に別れた2人。同じ惑星の生き残り。あらゆる因縁を超え、今この瞬間……2体の巨人が並び立ったのだった。
『マタ助ッ人カ……幾ラ手ガ増エタトコロデ……!!」
マガツオロチは叫びながら突進。マガ迅雷、マガ火球、マガ光弾、マガ穿孔、マガタノ迅雷、尻尾の破壊光線……。あらゆる攻撃手段を放ちながら突進する。
「ンン……!」
オーブが咄嗟にカリバーで防ぎ、その後ろからオーブシャドウが跳躍。上空からの一太刀に、マガツオロチはその足と攻撃を止めてしまう。しかしそれもほんの一瞬。オーブシャドウを焼け焦げにしようと雷を降らす。
「させるかぁぁぁぁぁ!!」
カリバーを大きく回すことによって雷を弾き飛ばしていくオーブ。
「よくやった!」
「言ってる場合かよ!」
黒い稲妻の如く。再度肉薄したシャドウの蹴りがマガツオロチを後退させる。
「シリウス、飛ぶぞ!」
「あ、ああ!」
指示に従い飛翔。オロチの攻撃を回避しながら2体は空へ上がる。だが止まっている暇はない。常に避け続けなければ撃ち落とされて地面に真っ逆さまだ。
「息を合わせるぞ! 僕は水、お前は火の技を!!」
「ああ……そういう事ね!」
オーブシャドウは水のエレメントを。オーブは火のエレメントの力を解放させる。方や青く。方や赤く刀身が光る。
「行くぞ! オーブフレイムカリバー!!」
「シャドウウォーターカリバー!」
即席だというのに、2人の息は見事に合う。そしてはるか下のマガツオロチに向かい、叫びと共に引き絞った腕と聖剣を突き出す。
「「オーブ……ハイブリッドカリバァァァァァァァァ!!!!」」
火と水……。決して交わることのない属性を組み合わせ、理屈の通ることのない……何倍もの破壊力へと変換する大技。1人では絶対に出来ることのない技だ。
螺旋を描いた光束はオロチの7つある首……その1つに直撃。すると大爆発と共に首元から弾け飛んで行った。
「やっと一つ……ってところか……」
「ああ。けどもう少し待てば、今よりも少しは楽になるよ」
首が吹き飛んだことに悶絶するマガツオロチを見下ろしながら、シャドウは答える。だが楽とは……一体どのような意味なのだろうか。
「それ、どういう……」
「彼女たちを信じて待つ。今はそれだけだ」
「■■■■■■■■■ーーー!?!?!?」
今何が起こったのか。痛みが走る中で思考を巡らす。空から放たれた螺旋状の光。それが首を飛ばしたのか……? あんなちんけな攻撃で? あり得ないと否定しようにも、吹き飛んだ首があるのは事実。焼け焦げた肉体の嫌な匂いが、今も鼻孔を刺激している。”他の頭”からの視覚情報でも、無くなっているのは確認できる。
何故だ。どうしてだ。ここまで圧倒してきたのに。小娘1人葬ったのに。もう少しでオーブも喰えたのに……。寸でのところで邪魔が入る。いつも……いつもだ。もどかしさで震える。怒りで喚き散らしたくなる。
「■■■■■ーーーッッッ!!!!!」
そうか。時間を掛けすぎたのか。手を抜きすぎたのか。なら次からはもっと手早く、容赦なく……
そこまで考えたところで、マガツオロチの……いや、存在を刻み付けたアルファルドの意識が揺らぎ始める。肉体が意識を離れ、独立して動こうとしている。「食べたい」という本能に従って動こうとしている。これはそう……”マガタノオロチの意識”だ。
(何故ダ。ヤツノ意識ハクグツデ……)
クグツで自我を奪ったはず。さらにこうやって、肉体に己の意識も刻み付けて完全に制御していたではないか。なのに……どうしていきなり……。
背後を振り返る。するとマガタノオロチが這い出てきた龍脈から青い光がこちらへ伸びてきていたのだ。
(何ダコレハ……)
マガツオロチは周辺を食い荒らすと共に、龍脈からのエネルギー、そしてクグツを吸収し続けていた。ヤツは知らず知らずのうちに、この青い光も吸収してしまったようだ。おそらく……これが原因だろう。
(ヤメロヤメロ……コノ体ハワタシノ……ワタシノモノダゾ! 今更マガタノオロチ如キニ渡スナド……ウ、アァァァアアァアァァアァ!!)
~~
「これで……いんだよね?」
マガタノオロチが生まれた場所に立つ千歌たちは、そこから伸びる青い光に照らされていた。
「これでいいずら。命の樹の種が、クグツを浄化してくれる」
花丸は迷いなく言い切った。それははるか以前から予言されていたことであり、太平風土記に書かれていたことだったから。
ことはつい先ほど。アオボシに言われた言葉だった。
「命の樹の種……?」
「ああ。持ってるんでしょ? 結構でかい種を」
彼の言葉で察した花丸は、バッグから木箱を取り出して中身を見せる。アオボシは頷き花丸に……否、ここにいるAqours全員に聞こえるように話を始める。
「いいかい。あの獣、そして地脈に流れるクグツを浄化できるのは君の持っている命の樹の種……それだけだ。嘘だと思うなら、太平風土記を読んでみるといい」
信じていないわけではなかった。しかし確固たる確証が欲しかったため、花丸は謂われた通り件の書物を広げる。
「どう……?」
花丸は必死に字の列を追う。そこにはクグツを浄化する際に必要となる唯一の存在のことも書かれていた。しかし”命の樹の種”に似た記述は見当たらない。
「名前まで知らなかったってことか……。けど、僕の見立てではその種が唯一の鍵だ。今迄散々なことを言ってきたけど、これだけは信じてくれ……頼む」
頭を下げる彼に若干の戸惑いを見せたが……
「わかったわ。で、これをどうすればいいの?」
鞠莉は了承するのだった。
「鞠莉、いいの?」
「ええ。どの道方法がこれしかないのなら……賭けるしかないよ!」
彼女の一言に、全員の意見が纏まる。それを見た彼はその種をどうするのか……概要を伝え始めた。
「おそらくオロチは、まだ地脈からエネルギーを吸い取ってる。クグツも一緒にね。だからアイツの生まれた場所に、その種を打ち込むんだ。そうすればクグツは浄化される。そんで支配されているマガタノオロチも目覚める」
「でもそれって危険じゃ……」
「ああ。でもその危険こそがチャンスなんだ。同化したクイーンベゼルブの意思を、マガタノオロチは消し去ろうとするだろう。そうすれば隙が生まれ、僕とシリウスが追い打ちをかけられる」
「─────ってことを伝えたんだ。フッ、みんな上手くやってくれたみたいだね」
隣にいるオーブへ訳を話す。
「そういうことか……」
あの怪物の出現は予期されたものだった。しかしそれと同じようにカウンターとして、対抗手段の一つとして……あの種を長い間保管していたのだろう。いつしか現れる厄災と戦うために。
「これでさっきよりは大分楽になるはずだよ。マガタノオロチとアルファルドの意思が拮抗して、攻撃どころじゃなくなるからね」
目先で体を震わすマガツオロチ。攻め込むなら今だと、シャドウはオーブを一瞥する。
だがもう、答えなんて決まっているようなものだ。
「……ああ。なら、一気に行くぞ!」
「そう来なくちゃ!」
2体の巨人は急降下。距離が縮まっていく獣から目を逸らさず、聖剣を持つ手は一層強く握られる。
「■■■■ーーー!」
苦しみながらも巨人の接近は感知しているようだ。雷を降らせ、火球を連発する。
しかし先とは放つ量も、速度も……すべてが遅い。2体はその攻撃の間を掻い潜り、残り7つとなった首に狙いを定める。
「ハアァァァ!」
オーブのカウンターで繰り出した一撃が視界を奪う。続けてスイッチしたオーブシャドウが繰り出す煉獄の刃が首を焼き斬る。
あと6つ。
(オオ……アアアアア……!?)
3つの頭が黒い彼に攻め入る。しかしステップで難なく躱した後、攻撃の間隙を突くように割り入ったオーブの蹴りや拳、そして剣が頭を吹き飛ばす。
「ンン……ッ!」
「フッ……!」
立て続けに全体重を乗せた2体が斬りかかる。その勢いは落雷を消し飛ばし、醜悪な頭部を断つ。
あと4つ。
(クッ……!? ワタシヲ愚弄スルノモ大概ニ……!)
レーザーが巨人たちを穿とうと迫る。だが難なく避けた両者。そして側面に立ったオーブの刀身から繰り出される水流。それは首を締めあげて拘束。その横からシャドウの一文字斬り。
あと3つ。
(フウゥゥゥゥザケルナァァァアアァァアァ!!!)
竜巻が解き放たれる。瓦礫を巻き込み勢いを増す。
「煩い鳴き声だ」
シャドウから放たれる深緑の暴風。ぶつかり合った両者は掻き消え、衝撃となって周囲に拡散する。
「ダアァァァァ……!」
だがオーブシャドウは止まらない。その衝撃の中を突っ切り、未だ動けない首へ狙いを定める。素早い一閃の後に、地面を揺らすのは活動を停止したオロチの首。
あと2つ。
「三つの光の力……お借りします!」
エネルギーの残量的にも厳しく、カラータイマーも既に点滅を始めているが構うことはない。オーブトリニティは光弾や火球を弾き、雷の雨を縫うように駆け抜ける。左で逆手持ちにしているオーブスラッシャーで未だ抵抗する首を勢いよく斬りつけた。丸鋸のように高速回転した刃は肉を、そして骨を断つ。
「ウオオォォォォォォォォォッッ!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッッ!?!?!?!?!」
そうして背から生えた7つの首はすべて斬り落とされた。残るは本体。胴体と同じくらいに巨大で、醜悪な本脳しか見受けられない頭部だけだった。
(ウ……グオァ……マダ、マダダ……コノ肉体ハ……全テヲ喰ラウ超大魔王獣……コレシキノ事デ……)
完全な制御を失っても、7つの首を失っても、それでもまだヤツは動きを止めない。
その巨体をもって体当たり。強力な力と、死にたくないと叫ぶ生存本能を前に、巨人たちは地面へと打ち付けられる。
(ハア……ハア……)
今だ。倒れて未だ呻くあの2体へ、光線を放てばすべてが終わる。待て……そうだ、あれらを食べればいい。そうすれば斬り落とされた首も再生するだろう。抑えているマガタノオロチの事は……いや、それも後回しだ。今は食べることだけを……。
そう結論を出し、口を大きく開いたマガツオロチは一歩一歩歩を進める。
(オ前タチヲ……喰ラッテ……)
だが、マガツオロチの足が止まった。そして数歩下がり始めたのだ。
(……ッ!? ウ、オオオオ……オオオオアアアアアアアア!!!!)
悲鳴に似た咆哮。ある一点が痛みだし、体中を駆け抜けているからだ。すると肉体の一部……正確には顎の下あたりから体液が噴き出てきた。
突如苦しみだし、体液を垂れ流す様は戦いを見守るAqoursどころか、ウルトラマン達も困惑の表情を表していた。
「どうした……?」
「……!? シリウス、顎の下を見てみろ!」
指摘された部分に視線を集中させる。
顎の下は赤く光っており、さらには攻撃を受けたかのように炭化していたのだ。
「……! まさかあれは……」
(オオォォォォ……何ダト言ウノダ……)
ここにいる者が知らない出来事が1つある。
マガオロチが地底に命を託した時、ヤツはとあるものを下敷きにしていたのだった。それは御神木だ。その部分のみエネルギーの照射が阻害され、結果一部が不完全なままで生まれたのだった。
太平風土記にも”大蛇の邪気を阻む鬼門となる”と書かれている。それがこの御神木の存在と働きを予知していたものだったのだ。
だがそれだけではない。その不完全な箇所に攻撃を与えた者のお陰でもある。オーブと共に戦った少女……合体魔王獣だ。攻撃を与えた直後は効いてないと思われていたようだが、その攻撃は肉体をジリジリと焼き、弱点ともいえる場所を露出させたのだった。
「ありがとう……またお前に助けられた……」
察したオーブは小さく呟き、気合を入れて立ち上がる。彼女の作った勝利への一歩だ。決して無駄にするわけにはいかない。
(オオオ……ガアアアアアア!!)
痛み、そして怒り……それらをぶつけるようにマガタノ迅雷を放つ。だがその程度の攻撃は既に見切られている。前方宙返りで回避した2体は同時に踏み込む。両者の全力で放った拳は弱点を抉った。
「■■■■■■ッッッッッ!!? ■■■■■■………」
体液が絶えず噴き出るマガツオロチは、弱弱しく後退を始める。力を借りる者と、力を支配して使う者。その両者の戦いも遂に終焉の時が来ていることを予感させる。
「よし。ありったけの力をヤツにぶち込むんだ」
「■■■ーーーー!!」
マガツオロチはそれでも抵抗する。マガ触手を伸ばし、オーブシャドウを縛り上げて引き込む。ヤツはシャドウを己の急所を隠す盾としたのだ。
「ウウウ……」
さらに逃がさないようにと、腕へ喰い付く。
人質を取ればオーブは攻撃できないと考えたのだろう。卑怯で汚い獣だ。
「グ、ガアアアアアアアアアアアア!!??!」
片腕を食われている上、エネルギーを吸われ続けているアオボシの絶叫が響く。今すぐ助けなくてはとオーブは駆け出そうとするが、それを止めたのは……誰でもないアオボシその人だった。
「今すぐ光線を撃ち込め! ウゥ……取り返しがつかなくなる前に……!!」
ウルトラマンの力を取り込み、先ほど斬り落とした首が再生しかかっている。
彼を助けたい。でも光線を撃たなければ……。葛藤に目を伏せていると、アオボシが声を張り上げる。
「やれ! 暁一眞……ウルトラマンオーブ!!」
途方もない激痛が走り、声を上げることだって苦しい筈なのに……。それでも彼が声を上げたのは─────
「………ああ!」
彼の決死の言葉で、遂にオーブは覚悟を決めた。
ここに生まれ落ちた獣はどれよりも強く、どれよりも残虐だった。
2体の巨人による足止め
邪気を阻んだ御神木。
クグツを解毒するための命の樹の種。
そして1人の少女によって開いた……オロチの急所。
ここに至るまで多くの力を尽くして来た。
「諸先輩方……」
思えばこれまでの戦いは、いつも多くの存在に助けられてきた。地球人にも、ウルトラマンにも……。それは何十万、何百万、何千万という確率の1。偶然の出会いだった。
「光の力……」
しかしその偶然は今、この瞬間……必然となったのだ。マガツオロチを倒す為のありったけとして。この星の未来を繋ぎたいとする、みんなの祈りとして。
「お借りします!!」
己が持つ全てのカードをオーブリングへ読み込ませる。
その全てを取り込んだオーブリングはこれまでに見た事のない白銀の輝きを生み出し、両端の羽根が展開すれば……その光が体全体を包み込む。
《ウルトラオーバーラッピング》
七色の光が拡散する。その中心に立つのは、新たな形態となったオーブ。だがその姿は、これまでのフュージョンアップやトリニティーフュージョンといった系列ではない、まったく異なる姿だった。
光そのものになってしまったのかという程に、体全体は常に光り輝いている。額のランプ、オロチを見据える双眸や両手足のクリスタル。そして青く輝くカラータイマー。それだけかハッキリと見えているだけ。
(ナ、ナンダトイウノダ……)
彼から発されているのは破壊を司る禍々しい輝きではない。この星を……この星に生きる存在を守るような……温かな輝きだった。それはまるで……天から降り注ぐ────
《ウルトラマンオーブ スプリームサンシャイン》
輝きの巨人は剣を振るう。オーブカリバーとオーブスラッシャー……その2つを掛け合わせたかの様な白銀に煌めく聖剣を。
「俺は……俺たちは……闇を照らして、輝きを掴む!」
前方から自分を飲み込もうと雷が、尾から放たれた死の閃光が殺到する。
「……!」
だが逃げることなくオーブは閃光を……その先にいる怪物を見つめる。
剣を持った右腕を引き絞る。長い刀身を左腕で支え狙いを定める。
狙うは一点。大きく抉れた顎下。そこに自分の持てる全てを放つ。
「オーブ───」
刃が爛々と燃える。
多くの存在に背中を押され、彼は至高の光芒を撃ち放つ。
「────サンシャインカリバァァァァァァ!!!」
さらに聖剣を構成する材質までもエネルギーとし、腕を十字に組んで威力を底上げした2撃目を放射した。
「……じゃあね」
闇の光を飲み込んでいく眩い光柱。彼の……いや、彼らの想いを乗せて走る輝きはマガツオロチを飲み込む。
(ウアアアアァァァァァァァァ……アァァァアアアアアァ─────!!!!!)
光に飲み込まれたマガツオロチ……否、アルファルドは肉体が消失していく感覚の中で悟った。
己の死を。
途端、心臓が縮み内臓がもみくちゃにされるような感覚が走る。勿論、既に体内器官が残っているのかどうかなどわからないが。
息が上がり、全身の穴が開いていく。他の人から見れば、今の彼は想像もできないような顔なのだろう。蒼白で汗がだらだらと垂れた……。
これまで自分が与えてきた感情だ。自分の欲求を満たすために、ただただ殺めてきた多くの生物が抱いてきたであろう感情だ。
(あ、ああああ……! 嫌だ……ワタシはまだ……死にたくない……!!)
どれほどの存在がそれを願ったのだろうか。どれほどの存在がそう願い、無慈悲にも叩き潰されたのだろう。
(やめてくれ……ワタシはぁあぁぁぁぁっぁあぁぁっぁぁあぁあ─────!!!!!!!)
悲鳴を上げる。しかし崩壊は止まらない。手を伸ばそうにも、既に体の半分以上が消えている。死が近づく。他の者と同じように、彼の願いもまた……同じように叩き潰されるのだ。
(ああああああ……あああ……あ……ぁ……………)
マガツオロチの全体から炎が迸る。爆ぜて、爆ぜて、爆ぜて……。四方八方から光の柱が伸びてはやがて白になり……恐るべき規模の爆発が、衝撃が、ドームの様な丸い形を成して広がっていくのだった。
~~
戦いが終わり、夕日に照らされた街に佇むオーブ。彼はここで散った彼らに祈りを捧げた後、粒子となって霧散していくのだった。
千歌たちはオーブの消えたところまで一目散で走っていく。あれだけの戦いをこなしたのだ。瓦礫に座り込んで動けなくなっているかもしれない。それに何より……早く勝利を祝ってやりたい。
「……!」
足を止める。そこにいた一眞は座り込んでいる訳でも、ましてや倒れているわけでもなかった。
「………」
一眞は瓦礫の上に立ち、天を仰いでいる。体は見るからにボロボロ。額からの出血で右目は開けないようだし、布切れのようになった制服の下からは、数多くの傷が見え隠れしている。右腕なんか血で真っ赤だ。
でも……一眞は気持ちよさそうに風を感じていた。痛みよりも何よりも……今は勝てたことが、未来を掴めたことが……とてつもなくうれしいのだろう。
「あ……」
Aqoursに気付いた一眞は、いつものように笑顔を作ってこう言った。
「─────帰ろう」
多くの声が響く。金色にも似た夕日に照らされた空は、1つの戦いが終了したことを祝福しているかのようだった。
オーブ、オーブシャドウのみならずみんなで掴ん勝利でした。
2人のタッグ技は言わずもがなロッソとブルが元です。カリバー持ってるし行けるかなと。
そして最終回限定フォーム的なスプリームサンシャイン。見た目はずっと光ってます。サーガとかに近いイメージです。全員召喚ならこっちは全合体で行こうかなと思って温めてました。ウルトラオーバーラッピングはメビウスインフィニティの時に鳴る玩具音声が元です。
さて残るのはサンシャイン本編のみ。