Sunshine!!&ORB   作:星宇海

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今回は少し短めです。
STAGE3は今回で終了です。


第76話 終幕の歌声

 

 バスに揺られる中、一眞は窓の外を見る。よく晴れた空。太陽の光に反射する海。毎度毎度見ていた景色だ。窓から淡島や富士山を見るのは……今日で最後。そう思うとやはりくるものがある。

 

「……」

 

 何かを考える訳でもなく、ただぼーっと移り変わっていく景色を目で追う。すると隣に座る梨子や千歌から声を掛けられた。あまりに反応がなさすぎて乗り過ごしてしまうとでも思ったのだろう。

 

「ちょっと一眞くん!」

 

「そろそろ学校着くよ?」

 

「あ、ああ悪い。ありがとな」

 

 そんなこんなで最寄りのバス停に到着する。外に出るとあたたかな太陽の光に身を照らされ、潮の匂いが鼻孔をくすぐる。さらにちょっと冷たい風が頬を撫でる。そして咲き誇る桜の存在が、4月からずいぶん遠くに来たことを意識させてくれた。

 

 

 

 

 

「おはヨーソロー!」

 

「「ヨーソロー!!」」

 

「うっす」

 

「え~、そこはカズくんもやるトコでしょ!」

 

「ええ!? じゃ、じゃあ……おはヨーソロー……」

 

 校門前には既に大勢の人々が集まっていた。生徒は勿論のこと、卒業生や保護者たち。そんな賑やかな様子には文化祭や説明会ではなく、入学式を思い出させる。

 

「気合入ってるね!」

 

「そりゃあ最後だもん!」

 

 曜の制服はまるで新品のように整っていた。今日この日のためにアイロンがけ等を張り切ってやってきたのだろう。

 

「まあ、俺らもそうだけどな」

 

 いつも着ていた制服なのに整っていることもあるのか、雑には扱えないなと一眞は笑う。

 

「一眞さ~ん! 今日でお別れだよ~~!!」

 

 するといきなり抱き着てくる男子生徒が1人。1年生の早見だ。以前、閉校祭の時に準備を手伝わされたとある部の一員だ。

 

「いやそれはお前らと夢野先輩だろ。俺に抱き着く前に行くべきところがあるんじゃないの……?」

 

「そうですけど~」

 

 面倒だと一眞の顔が歪む。しかしそれでも邪険に扱わないところに、彼の優しさが滲み出ている。

 

「松戸、頼むよ……」

 

「僕も寂しいよ~」

 

「ええええ!!??」

 

 早見と同じ部に所属する2年の松戸も、涙を流しながら一眞に寄って行く。

 

 いや待て……この2人とそんな仲だったかと、思考を巡らす一眞。そんな彼を見ていた千歌たちは笑みを浮かべながら「じゃあ、わたしたち先に行ってるから」とその場を後にする。

 

「え、ちょっと!? ちょっと待ってぇぇ……!?」

 

「一眞さんだけずるいっすよ~」

 

「そうだよ。僕たちを差し置いて~」

 

「お前らとはそんな仲じゃないだろ!!」

 

 青空の下、声が響く。そこにある心情は人の数だけ異なっている。緊張していたり、誇らしかったり、悲しかったり寂しかったり……。

 

 一眞はそんな独特の雰囲気が嫌いではなかったが、かといって好んでいる……という訳でもなかった。だってこれまで当たり前のように顔を合わせていた先輩たちとも、今日をもってお別れなのだから。

 

 それに……浦の星(ここ)はちょっと事情が違う。

 

 今日は卒業式。ならびに浦の星の閉校式……。この学校で過ごす最後の時間が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……こんなに広かったんだ」

 

 部室の中心に置いた椅子に座り、千歌は呟く。心なしか、彼女の声も以前より響いている気がする。

 

「いろんな物を持ち込んでたから」

 

「ちゃん片付ければ……ってか?」

 

「うん、ここでもっと練習できたかもしれない」

 

 何も残っていない部室の広さを改めて感じる4人。最初だって物置小屋同然で、足の踏み場がなかったことを思い出す。掃除して使えるようになった後も、思い思いのものを置いたりなんだりで随分と賑やかになっていた。

 

 すると部室に入ってくる者が1人。果南だ。彼女は何も言わず、ただホワイトボードを撫でる。これまで色んなことを書いてきたホワイトボードも今は真っ白だ。以前のような消えかけの文字もない。

 

「全部、無くなったな……」

 

 一眞は目を伏せながら言った。ここにあったものは綺麗さっぱり無くなる……なんて知ってはいるが、でもやっぱり形が残らないというのは……やっぱり寂しいものだから。

 

「そんなことない。ずっと残っていく……これからも」

 

「……うん」

 

 形としては何一つ残らないとしても、みんなの胸の内には必ず残っていくものだ。決して消えることのない思い出として、いつまでも輝き続けるもの。そう彼女は言っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

 多くの人に見守られた中、卒業式がついに始まった。しかし参加する生徒はペンキで汚れていた。実は式が始まる少し前、全校生徒で校舎に寄せ書きをしたのだ。学校に対する気持ちをここで残しておこうと、鞠莉が提案したのだった。

 

 そして卒業証書の授与も終わり、残るのは代表として登壇したダイヤのスピーチ。

 

「今日この日、浦の星学院はその長い歴史に幕を閉じることになりました」

 

 そう語るダイヤの表情は悲しみに包まれたものではなく、実に晴れやかなものだった。

 

「でも、わたくし達の心にこの学校の景色はずっと残っていきます。それを胸に新たな道を歩めることを、この学校の生徒であったことを……誇りに思います。皆さんもどうかそこのことを忘れないでください」

 

 もう来ることはなく、ここでお別れだ。しかし記憶にだけはずっと残っていく。それを知っているから彼女はこうも誇らしく、胸を張っているのだろう。そしてその思いを胸に未来へと歩き出していく。

 

 変わらないものを、その想いを胸に歩き出すのは3年生だけではない。ここにいる人々が、生徒が……そして一眞だって。

 

「ただ今をもって、浦の星学院を……閉校します」

 

 閉校しても、すべてが消える訳じゃない。

 

 Aqoursが刻んだのだ。これからも紡がれていくであろうラブライブという大会の歴史に。この学校が確かに存在したという証を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ時間ですわよ」

 

「まだ誰も帰ろうとしてない」

 

 最後の行事が終了したのだが、ルビィの言う通り誰1人帰ろうとしなかった。学校を出たら最後、本当に終わってしまうから……。

 

「ほっといたら、明日でも明後日でも残っていそう」

 

「完全に籠城ずら」

 

 だからその時をどうにかして伸ばそうとしてしまっているのかもしれない。

 

「そうしたら、まだ学校を続けてもいいって言われるかも」

 

「そんなことになったら、みんなびっくりだよ」

 

「だね」

 

 そしたら奇跡が起こって……なんて考えてもしまうけれど、そんなことはない。悲しくはあるが、もう決まってしまったことだから。

 

「ちゃんと終わらせよう。みんなでそう決めたんだから」

 

 だからこそ想い残しのないように、校舎中を見て回って……自分たちの手で扉を閉めていく。

 

 一眞も見ていく途中であらゆる思い出が蘇ってきた。扉を閉める瞬間、名残惜しくなってしまう場面がいくつもあったけれど、そう感じているのだって自分だけではないだろう。

 

「最後はここか……」

 

 感謝を伝えながら扉を閉めていき、最終的にたどり着いたのはスクールアイドル部の部室。

 

 

 

 ここがあったからみんなで頑張ってこられた。

 

 ここがあったから前を向けた。

 

 毎日の練習も、衣装づくりも、そして腰が痛くても。難しいダンスだってそうだ。

 

 不安や緊張だって全部受け止めてくれた。

 

 それも全部、全部が全部……帰ってこられる場がここにあったからだ。

 

 

 

 ここでの想いを語って次々去っていく。そして残るは千歌1人。

 

「ありがとう」

 

 スクールアイドル部のプレートを千歌が外した瞬間、この部室もその役目を終える

 

 そして全員が校舎から出る頃には、空はすっかりオレンジ色に染まっていた。

 

 Aqoursだけじゃない。多くの生徒も、保護者の人達も、みんな校舎を見上げている。最後の別れを告げるためにだ。

 

「千歌ちゃん」

 

 校門を動かしていくのはAqours。誰よりも奔走し、誰よりも足掻き、そして誰よりも涙を流した彼女たちがその門を閉めるのだ。

 

「……千歌」

 

 千歌も突き動かされるように門を動かす。それでも、受け入れていても、自身の……否、みんなの込み上げてくる想いはやはり─────

 

「浦の星の思い出は……笑顔の思い出にするんだ。……泣くもんか……泣いてたまるか!」

 

 そうは言ってもとめどなく溢れてくる涙。止めようとしてもそう簡単にできることじゃない。

 

 肩を寄せ合い震わす姿を前にするが、一眞はただ見守るだけ。あの門は彼女たちが閉めるべきだ。自分の役割ではないし、そんな責任が務まるとも思えない。学校を愛した彼女たちだからこそ相応しいのだ。

 

 門の閉まる音がする。それと同時に学校を照らした日輪も沈んでいく。この瞬間もって、浦の星はその長い長い歴史に幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~

 

「よっ。また来たよ」

 

 一眞が来たのはとある墓だ。それはあの兄妹のものだ。せめて形だけでもと鞠莉が手配してくれたのだ。

 

 既に何度か来ている一眞は手を合わせ、いつものように話しかける。

 

「梨子がさ、犬を飼い始めたんだ。名前は……プレリュー……ド……だったけかな。あいつ、犬苦手だったのにな」

 

 小さくとも新しい変化が始まっているということだ。これまでの出来事を通じ、みんなの中で変わっていったものがあるのだと……そう思える。

 

「しいたけなんてさ、子ども生んだんだぜ? あそこもまた賑やかになっていくと思う」

 

 彼がこの話をしている時には既に鞠莉もダイヤも果南も、それぞれの道へ向かい進みだしていた。ここに……内浦にはもういないのだ。

 

「俺もさ、いろいろ考えなきゃいけないんだよな」

 

 そう。一眞はウルトラマンと一体化した人物ではなく、ウルトラマンオーブそのものになっている。その力をどう活かすか、どう活かせるか……まだわからないことばかりだ。

 

「まあ、ゆっくり考えていこうと思ってる。もし決まったら報告に来るわ」

 

 笑顔を向け、一眞は墓を後にする。

 

 ここまで決して楽な道ではなかったし、後悔だってたくさんある。でも……ここまで走り続けてきたことは決して間違いではなかった。

 

 多くの出会いに助けられたこと。そして自分に託されたものがあること。それらが自分を……暁一眞を創ってくれたことを知っているから、間違いじゃなかったと断言できる。

 

「もしもし? え、俺も!? わかったちょっと待ってて……!!」

 

 電話を切り、走りだしていく一眞を見守る影が1つ。彼は黒い衣服を身に纏い、いつものように笑みを浮かべる。だがそれは敵としてではなく、以前のように仲間として歩んでいくような微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 青い空の下、歌が聞こえる。

 

 これまで辿ってきた軌跡を振り返るような……そんな歌が。

 

 みんなの中に眠っていたものであり、ずっと前からあったものを示す歌。過ごしてきた、歩んできた時間が”輝き”だったことを、それが彼女たちの探していた”輝き”だったのだと……そう示す歌が。

 

 




一眞を見守っていた影。影はシャドウですよね。あれ……シャドウの名を持っているのって……。
まあ彼のことはおいといて、これでサンシャイン本編のお話は終了となります。

ですが喜んでいるのも束の間。次回からは映画の話を進めていきます。オーブが次に対峙するのはいったい誰なのか……。まあ本編(オリジンサーガ)、映画ときたら残るのは……ねえ?
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