「はあ……」
溜息を吐きながらベッドに倒れ込む。
その瞬間、まるでマシュマロの様に沈み込んでいく感覚と共に全身が重くなる。
しばらく無言の間が続く。すれば耳に入ってくるのは、秒針が時を刻む音。そして外の波や風の音だけだ。
「…………」
結論から言えば、ライブは失敗に終わった。
これまで積み上げてきた彼女たちからは考えられないような初歩的なミスの連発。気が緩んでいた……という訳ではない。でも、それでも落ち着かない何かが彼女たちの中にはあったのだ。
ライブ後の彼女たちにどう声を掛ければいいのか、少し迷った。でもかけた言葉が果たして正解だったのかは、未だ確信を持てずにいる。
「6人……か……」
おそらくそれが大きな問題なのだろう。いなくなった3人の分をどう補えばいいのかもわからない。
でも、それだけが問題じゃない。寂しいんだ。鞠莉や果南、ダイヤがいなくなったことが、それを再度つきつけられた瞬間、寂しさと不安が彼女たちに降りかかるんだ。
さらに追い打ちをかけるのは、分校の問題は解決していないことだった。
「────浦の星のみんな、わかってるから」
「────古い校舎も悪くないって」
「────そっちのほうが私たちらしいって」
むつ、よしみ、いつきは……いや、浦の星の生徒はそう言ってくれたのだが、こちらとしては無力感に押しつぶされそうだった。
「ねえカズくん、起きてる?」
そんな回想を終了させたのは千歌の声。襖越しに聞こえてきた彼女の声が暗かったというのは、言うまでもない。
「どうした?」
尋ねてきた一眞に、千歌は梨子と共に浜辺へ行こうと誘ってきたのだった。
胸中に渦巻き続ける気持ちを整理するのには丁度良く、夜風が気晴らしにもなってくれるだろうと、一眞は了承するのだった。
「2人ともまだ気にしてるの?」
開口一番に尋ねたのは梨子。
腰を下ろしている千歌と一眞の表情が一致して暗かったからこそ問うたのだろう。
「そんなんじゃ……いやどうだろう。まだ引きずってるかも」
いつもは否定か、あやふやにして返答してくるであろう一眞。しかし今回は素直に返してきたではないか。珍しい反面、彼も包み隠さず自分の思いを伝えられるようになってきたのだと思えば喜ばしいことだ。
梨子は一拍置いてから、自分の思ったことを伝える。
「スクールアイドルって、誤解されやすいと思うの」
アイドルとして、ステージ上ではいつも笑顔でこなしている。でもそれが真剣さが足りないように感じられてしまうし、楽しそうにしているから遊んでいるようにも見えてしまう。
「そうかな?」
見ている者とやっている者とでの視点は全く異なる。
実際は踊りながら歌わなければいけないし、それに応じて体力もつけなければならない。1つのパフォーマンスの裏には、相当な努力の積み重ねが存在している。
「でも辛そうだったり、不安そうにしてたら、見ている人は楽しめない」
アイドルがステージに立つとき、観客に提供するのは夢のような時間だ。そんな中で負の表情を見せてしまえば、その時間は呆気なく瓦解してしまう。故に絶対に見せてはいけないのだ。
それが誤解を生んでしまうというのは難儀なものではあるが。
「だから……諦めずに伝えていくしかないと思うの」
時間はかかるし、何度も批判されるだろう。それでも梨子は伝えることを放棄しないのだと、そう言い切った。
「浦の星の生徒も、真剣に頑張ってきたんだって」
「それは……わかってるんだけど」
千歌もその意見には賛成だ。でも、それだけでは拭えないことが確かにあるのだった。
「6人で踊るって、どういうことなのかなって」
6人でもAqoursを続けていくと、鞠莉たちと話し合って決めて気合も入っていた。しかし3人が抜けた途端、急に不安になってしまったのだ。
「……」
「……」
「新しいAqoursってなんだろう」
新たな形が、進むべき道が定まらないことがとても不安なのだ。形は違えど一眞もそれは同じ。
「どうするの? このままだと浦の星もスクールアイドルも誤解されたままになっちゃうけど」
「それは……」
誤解されたままなのは嫌だ。けれど進もうとすればどうしても……先に見えな場所を歩んでいくことが怖くなる。
「失敗は、自分たちで取り戻すしかないんじゃない?」
梨子は立ち上がり、駆け出していく。
「まだ、間に合うと思う」
2人は問う。まだ間に合うのかと。
すると梨子は迷いなく言った。今度こそ反対している人たちにもちゃんと見てもらう、と。
「私たちの答えって、前に進みながらじゃないと見つけられないんだと思う。不安でも……やろうよ、ラブライブ」
これまでもそうだったように、答えを見つけるためには不安でも進むしかない。以前は立ち止まっていた梨子がそう言ったのだ。らしくないような気もするが、それは彼女が成長した証なのだろう。
「私たちってきっとまだまだなのかなって」
「優勝したんだよ?」
頂点を取った。けれども未だ成長の余地を残しているという事だろう。
「そうだよな。そっちの方がお前たちらしいよ」
「そこは一眞くんも入ってなきゃ!」
「ええ……!?」
迷いは消えない。不安も残ったままだが進み続けることはやめない。そうしないと答えが見つからないから。そう思えば、なんだかやることがたくさんある気がしてきて、やる気が湧いてくるのだった。
「よし、明日からまた練習だー!!」
「練習って、どこでやるのか決まってるのか?」
気合を入れた千歌に一眞は尋ねる。普段であればそこまで考えていなかったと言うことろだが……
「うん。決まってるよ!」
いつもの眩しい笑顔で答えたのだった。
~~
「後も1往復行くよ~!」
晴天の中曜の声が浜辺に響く。遠くから見えるのは、ランニング中のAqoursの姿だ。
「今は浜辺で練習を?」
「そうなんです。今はちゃんとした練習場所がないので。でも、始めたての頃はここでやっていたんで、初心に帰るって意味ではうってつけだと思います」
「そうなんですか」
一眞は今、聖良と理亞の2人を練習場所に案内していた。
「にしてもすみません。突然の頼みだったのに」
今は聖良の卒業旅行中で東京に来ていたのだとか。それを知った千歌がちょっとだけ練習を見てもらえないだろうかと誘ったのが来てもらった理由だ。
「構いませんよ。理亞も皆さんに会いたがっていましたから」
「姉さま!」
そんなやり取りを見れて一眞の頬が緩む。理亞にはこのことは言わないでと釘を刺された。言わなくてもバレるのではと思うが、これは口に出さないのが吉だろう。
「……あと、ありがとう。お墓のこと」
「ああ。滅多に会えないだろうから、あいつも喜んでいると思う」
小声に近い声で理亞にお礼を言われる。ここに来る前に彼女の墓にも行ってきたのだろう。
そんな話をしているうちに、Aqoursと合流することができた。そして案の定、理亞の本心は聖良によってバラされていた。
「では早速見てもらえますか? 今の私たちのパフォーマンスを」
部活動報告会でやったように、6人はパフォーマンスを披露した。
その最中に一眞は聖良の表情を時折見ていたが、あまりいいとは言えなかったというのが正直な感想だ。
「どうですか?」
「ハッキリ言いますよ……」
千歌が訪ね、聖良は立ち上がってAqoursを見る。そして彼女の発する声音からは厳しさが目立っていた。
「ラブライブ優勝でのパフォーマンスを100とすると今は……30……いえ、20くらいといって良いと思います」
なかなかに手厳しい評価だ。しかしそれだけ3年生の存在が大きかったという事だろう。
果南のリズム感とダンス、鞠莉の歌唱力、そしてダイヤの華やかさと存在感。それらがAqoursの持つ明るさや元気さそのものであると言って良い。それらが失われればどうなるか……言わずともわかるだろう。
それに伴って不安で心が乱れている……そうした感情が無意識にパフォーマンスにも表れていたのだと、聖良は推測する。
「なんか……フワフワして定まってないカンジ」
理亞も言葉の端に苛立ちを含ませながら言い切る。
残念だがそれは紛れもない事実だった。
薄々見え始めていた”足りないもの”を突き付けられ、Aqoursは言葉を失う。
「でも……どうすれば……」
ルビィの放った一言が、理亞の燻っていた心に火を灯してしまった。
「そんなの人に聞いたってわかるわけないじゃないっ! 全部自分でやらなきゃ……! 姉さまたちはもう、いないの!!」
理亞は走り出していく。
自分の中にあった不満を吐き出して。いや、今まで吐き出せなかったからこそ、ここで言う事しかできなかったのかもしれない。
「すみません……」
「いえ……」
「理亞ちゃん、新しいスクールアイドル始めたんですか?」
聖良が卒業し、新しくグループを作って始めようとしている理亞。何人か人は集まった。しかし現実は厳しく、そこからあまり上手くいってないというのが聖良から語られた。
踏み出そうとする者誰もがぶつかる壁……なのだろう。
いなくなった瞬間、その者たちの存在に如何に助けられてきたのかを実感する……という話をよく聞くが、実際に体験する側となるとなかなかにキツイものがある。
「……ん?」
すると遠くから響くのはヘリのローター音。
ピンク色でやけに派手だなと感じるそのヘリはこちらに向かって飛んでくる。
「なに~?」
「これ、前にも確か似たような……」
「浜辺、ヘリ……うっ……」
「そんなことしてる場合!?」
速度を落とさずに通り過ぎていこうとするヘリに全員が身を屈める。そして砂埃を舞い上げながらヘリは一眞たちの前で滞空。
「マジでこれって……」
「鞠莉ちゃん……」
このやり方。明らかに鞠莉と初めて出会った時と同じだ。
しかしドアが開き、中に座っている人物を見たときにそれは間違いだったと悟る。
「……じゃない!?」
乗っているのは長い金髪を風に靡かせた女性。それならば鞠莉だろと思うが、身長や顔つきが妙に違った。
「My daughterがいつもお世話になっておりマース!」
だがこの英語と日本語を妙に混ぜて話し、語尾の独特な癖は彼女とそっくりだ。
「となれば……」
「小原鞠莉の母。Mari's motherデース!!」
突然の鞠莉母登場に、千歌だけでなく一眞までもが間の抜けた声を出していたのだった。
~~
その後小原のホテルへ移動し、詳しい説明を受けた。
「連絡が取れない!?」
単刀直入に言われ、尚且つスケールの大きさに全員の声が重なる。
どうやら鞠莉、果南、ダイヤの3人は卒業旅行に行ったきり連絡が取れなくなってしまっているのだという。
「ってか、月はどうしてここに?」
「みんなの練習を見に来たら丁度……」
6人は鞠莉母のピアノ演奏を聴きながら事情を説明されている中、一眞は後方にいる月と話していた。
ちなみにさらに後方では聖良と理亞もその様子を眺めている。
「成程ね。お前も案外巻き込まれた体質だったりするのか?」
「いやどうかな……」
すると月は何かを思い出したのか、一眞に尋ねる。
「そうだ。僕が見に行った時、黒い服を着た男子がみんなのこと見てたけど、もしかして知り合い?」
黒い服着て自分たちと関りがある男子なんて限られている。もう誰だったのかなんて見えているようだが、人違いを期待して月へ質問を投げる。
「そいつと……話した?」
「うん。君も一緒に来ない? って誘ったんだけど、僕はそういうの柄じゃないからとかなんとかって。あと、一眞くんによろしくって」
「あぁぁぁ……」
あいつの憎たらしい笑顔が浮かぶようだと、一眞は肩を落とす。
「……はい、知り合いです」
「そうなんだ。また会えるかな?」
「もう会わなくていいかと……」
「え?」
ひきつって話す一眞と対照的に、月はもう一度会いたいなどと屈託のない笑みでしゃべっている。
「あなたたちなら、きっと鞠莉たちを見つけられるハーズー!!」
ホール内に鞠莉母の声が響いたと思ったら、今度は天井から大量のお金が降ってきたではないか。
「……んじゃそら」
その様子に、口を開けて放心してしまう。
けれどそれは「探すためならば旅費はこちらから出す」というパフォーマンスと言う事だった。因みに中身はチョコである。
「ですが、見つけてくれればそれ相応のお礼は致しますので」
「任せて。この堕天使のヨハネアイに掛かれば、3人を見つけることなど造作もないことです!」
善子は立ち上がってそう言って見せるのだが、どうもお金に目が眩んだように見えてしまったらしい。
花丸の指摘にライブのための資金と言い返したのだが、そこでAqoursの本来の目的を思い出したのはルビィ。
「そうだよ! ルビィたちライブがあるんだよ!!」
先の失敗を取り返すためのライブを準備しているのだが、鞠莉達と連絡がつかないというのも不安だ。まさに板挟みといった状況だ。
「行ってきた方がいいと思います」
悩ましい状況下に響いたのは聖良の声。
「先ほど、皆さんの練習を見て思ったんです。理由はどうあれ、一度3人と話し合った方がいいって」
自分たちで新しい一歩を踏み出すために、今までを振り返ることは決して悪いことではないと。
「千歌ちゃん、聖良さんの言う通りだと思う」
「まあ、ライブの練習はどこだってできるしな」
「これまでだってやってこれたし。大丈夫、できるよ!」
その言葉らに千歌も遂に決心したようで元気よく立ち上がる。
「わかった、行こっか!!」
決まったところで、3人が一体どこに卒業旅行へ向かったのだろうか。
誰もが抱く疑問を、待ってましたと言わんばかりに鞠莉母はプロジェクターで映し示してくれた。
小原家の先祖が暮らした地。長い地中海の海岸線を持つヨーロッパの国────イタリアだ。
「鞠莉もハグゥもデスワも、イタリアへ行ってマース!」
壁に映された異国の地を眺めていたその時、久しぶりであり2度と味わいたくないと思った巨大な揺れが一眞たちを襲った。
「なになに!?」
「この感じは……」
「ええ、ちょっと一眞くん!?」
すぐさま揺れの正体を悟った一眞。彼は月の声も聞かずにホールを後にした。
外に出ると、無人地区の方に白い巨体が降り立っていた。おまけにその純白の全身に似合わないくらい、おどおどろしいオーラを纏いながら。
遅れるように外へ出てきた千歌たちも、降り立った存在に視線を送る。
「アレって……怪獣!?」
正直あまりいい思い出がないというのが怪獣だが、今回のはとびっきりだ。Aqoursにも、そして一眞にもトラウマを植え付けたと言ってもいい、独善的な執行者。名を─────
「……Galaxy dragon!」
鞠莉母は怪獣を見上げて言った。
以前鞠莉も同じようなことを言っていたななどと呑気に考えている暇はない。怪獣は独特な機械音を響かせ、進行を始めたのだから。
「いえ、アレはサルバ────」
「善子ちゃんは黙るずら!」
花丸が善子の口を押えるが構わずフガフガと声を出している。
「一眞くん……」
「ああ、行ってくる!」
「行くってどこに!?」
「え、ああ、えっと……あ、なんだアレ! 鳥かな!!」
月にはまだ正体を知らない。さらにここには鞠莉母もいる。バレるのも時間の問題かもしれないが、だからといって積極的にバラしていくのは得策ではない。
一眞は月たちが視線を逸らした隙に走り去っていく。
「あれ、一眞くんは?」
「カズくんは大丈夫だから私たちも逃げるよ!」
「ええ!?」
強引に背中を押し、その場から避難していく一同。
一方一眞は、人気のない場所に移動。懐から取り出したカリバーを空に掲げる。
青い閃光が霧散し、聖剣を持った巨人が怪獣の前に立ちはだかる。
「銀河の光が、我を呼ぶ!」
オーブカリバーを構え、オーブオリジンは目の前の怪獣に……いやロボット怪獣を睨む。
シビルジャッジメンター ギャラクトロン
こいつを前にするとどうも手足が熱が奪われ、背筋が凍るような感覚が生じる。
その理由もわかってる。以前のような事態になることを恐れているからだ。でも今は違う。数々の戦いを超え、光と闇を抱きしめた今なら……そんなことを再び起こすことはない。いや、起こさせない。
「また、生態系がどうのってか。悪いがお前の正義を聞いてる暇はない!」
鋭い突きが喉元を捉えようとするが、ギャラクトロンは回避。すればオーブを敵対者として認識したのだろう。右腕の砲塔を展開し襲い掛かってくる。
「くっ……!」
機械故の尋常じゃない怪力で、防ぐにしても腕が痺れる。
回り込んでから刃を思いっきり叩きつけてもビクともしない。それどころか、逆に反撃として腹部に何発か喰らって放り投げられてしまった。
「■■■ー!!」
至近距離からの光線を間一髪で回避。魔法陣が出現し、後から巻き起こる爆発の数々。
「……! があっ……!?」
だが回避まで読まれていたのだろう。ギャラクトロンシャフトが首を掴み、宙へとその体を浮かせる。
抵抗がほとんどできないオーブはシャフトを切り離そうと、駆動部を何度も叩くが効果は薄い。
「あのままじゃ……!?」
避難した場所から戦闘を見ていた月が声を上げる。
ほとんど抵抗も、防御すらもできない今の状態で攻撃を受ければどうなるか……考えたくもないことだろう。
(こ、この……!)
ギャラクトロンの胸元にある赤いコアが鈍く光る。エネルギーを集め、オーブの胴を貫こうとしているのだ。
絶体絶命だと思われたその時、青く澄み渡った空から2つの白刃が疾走。失速することなく飛翔する2対の刃がギャラクトロンシャフトを切り裂いた。
形状から察するにブーメランとも言えるそれは青空にくっきりと開いた大きな穴……所謂”ワームホール”に吸い込まれていく。そして穴の中で輝く小さな光がこちらに向かって突進。近づいてくる青い輝きは、徐々に紅蓮の炎へと姿を変えていく。
「ウォォォォッラア!!」
炎に包まれた右足が、ギャラクトロンを後方へ吹き飛ばした。
駆け足気味かなと思いつつ、ようやくイタリア行きが決定。……と同時にシビルジャッジメンターさんの登場。
久々の戦闘でオーブは苦戦。そして危機一髪で助けたのは……そう、みなさんご存知限界を知らないあの方です。
それではまた次回で。