公衆電話から次の場所のヒントを得た一行は月の案内に従い、コンタリーニ・デル・ボーヴォロとやらに足を運んでいた。
「どう考えても怪しいじゃない!」
善子の声がやけに響く。
今歩いているのは大通りから少し外れた場所であり、人通りも少ない。加えて路地のような場所でもある。善子が訝しんでいるのも無理はない。
「もしかして、元老院に……?」
「いいから行くずら~」
しかし月の案内だ。そこまで警戒することもないだろう。
「あれ、そう言えばゼロさんは?」
1人人数が減っていることに対して、曜が尋ねてくる。
「なんか調べたいことがあるからって」
詳細を省きつつ、一眞は答える。ゼロが一眞に伝えたことを正確に言うとするならば「この街で蠢いている邪気をもう少し詳しく調べたい」ということだった。
「本当にこっち?」
「多分……」
千歌も月へと聞いてみるが、彼女も自信がなさそうだった。そんな声が背後から聞こえてきて、全幅の信頼を寄せていた一眞も不安という色に染まり始める。
しかし、路地から出て日の光を浴びたときにすべては杞憂に終わった。
レンガ造りで螺旋階段になっている巨大な建物を目にしたとき、ビルの立ち並ぶ現代から石や木によって築かれた中世へとタイムスリップしたような気がしたのだ。
「この上にいる筈だと思うけど……」
最上階に目を凝らすと、3人がこちらに視線を向け手を振っていた。
それがダイヤ、鞠莉、果南だと気付くのにそう何秒もかからなかった。あの3人だと認識した彼女たちは、ルビィを先頭に続々と階段を上り始める。
「よかった」
「だな。ほら、俺たちも行くぞ!」
嬉しさで駆け出していく彼女たちの背中を見つめていた月と一眞も、すぐさまその背中を追いかけていく。
最上階に着けば、優し気な面持ちで待っている3人の姿があった。
これまでの不安と、ようやく会えた嬉しさ……その両方の感情から涙を浮かべたルビィは、一目散にダイヤへと抱き着いた。
「よくここまで来ましたわね。こんな遠くまで」
「よかった。3人一緒だったんだね」
「Of course! ずっと一緒だよ」
そうあっけらかんと答える鞠莉の様に、少し違和感を覚える。こちらの聞いた状況と、彼女たちの状況に少し食い違いでもあるのだろうか。
「どうして行方不明に?」
「「「行方……不明……?」」」
ルビィの問いかけに3人は目を細めて首を傾げる。今初めて聞きました的なノリだったことから、彼女たちには自覚がないらしい。
「どうなってるんだ……これ……」
想定していた状況とまるで異なることに、一眞も首を傾げるしかなかった。
「やっぱり、そういうことになってるのね……!」
取り敢えず、自分たちがイタリアに来た理由を話してみると、鞠莉は少々怒りを帯びた声音で呟く。……少々どころではないような気もする。
「鞠莉のお母さんは千歌たちになんて言ってたの?」
問いかける果南も若干語尾が強くなっている気がしたので、彼女も良くない感情を抱いているのは確かだった。
「特には……」
「行方不明になって心配だからって」
「それだけです。俺たちが聞いたのは」
「それで、そちらの方は?」
すると今度は月の方へ視線が向けられる。彼女たちからしたら素性も知れぬ人物だ。怪しむのも無理はなかった。
「初めまして。渡辺月といいます。曜ちゃんの従姉妹です。ヨーロシクー!」
が、そんな雰囲気に気圧されることもなく、いつも調子で自己紹介を済ませた。その性格のお陰だろうか、特に揉めることもなかった。
「流石……」
「曜ちゃんの従姉妹」
「……?」
「わかってないんかい……」
初対面でもすぐに打ち解けていく様は曜と似通った部分なのだが、当の本人はあまりわかっていないらしい。けれど、逆に無自覚の方がいいのかもしれない。
すると、階段を登り切った花丸が到着。しかし螺旋階段で目を回したらしく、その場に倒れ込んでしまう。
「でも、千歌たちが何も知らされていないってことは……」
「ダシに使われたってことですわね……」
「俺たちは駒……ですか……」
花丸の心配もあるがそれよりもと、話を進める。
あまりこういった言い方はよくないが、状況からみれば自分たちは駒なのだと表現するしかない。
「ええ。千歌っちたちが来るってわかれば、私たちが必ずコンタクトを取る」
「それで誘き出して……」
「捕まえようって魂胆ですわ!!」
ダイヤが取り出しのは1枚の張り紙。たずね人として3人の描かれたそれには涙を浮かべる鞠莉と、彼女に襲い掛かろうとしている果南とダイヤが描かれていた。正直、描いた人の悪意が見えている気がしてならない。
どうやら街中に貼られているらしい。指名手配か何かか。
「うおっ!? ナンダコレ?」
別行動中のゼロも例に漏れず、街中でその張り紙を見つけていた。
「じゃあ、行方不明っていうのは嘘だったんですか?」
どうやら行方不明というのは千歌たちをイタリアに向かわせる口実だったらしい。
すると後ろ方からザワザワと人だかりのできていく音が聞こえてきた。振り向けば、あの張り紙を持った人々が紙とこちらに視線を行ったり来たりさせている。
「ここにあまりlong stayは無理デスネ……」
「いたぞ! 鞠莉お嬢様!!」
今度はなんと、黒いサングラスに黒いスーツを纏った屈強な男たちまでもが乱入してきた。彼らの口調から察するに小原家に仕える人達だろう。
「まさかの黒服!?」
「本当にいるんだな、黒服」
「言ってる場合!?」
混乱の渦も酷くなってきたところに、鞠莉はある物を投げた。宙にひらひらと舞うそれは黒と白のストライプの────
「「制服!!」」
「「「「だめぇぇぇぇぇ!!!!」」」」
曜と月は制服に飛びついた。しかしここは最上階。重力に引かれ落ちていく2人を何とか抱き着いて止める。その後、一眞の力もあって引き上げることができて事なきを得たのだが……。
「曜の従姉妹だからってそこまで似るのかよ……」
「ごめん……」
「あれ……鞠莉ちゃんたちは!?」
3人の姿が消えていることに気付いた時にはもう遅く、既にボーヴォロを降りてしまっていた。
「詳しい話はnothingデース!」
「くそ、逃げられた。追うぞ!」
「はい! あっ、押さないくだ────ああああっ!?」
鞠莉を追うべく、黒服たちも大急ぎで階段を下り始めていた。
3人が消えていったことにより、すぐさま帰ってくる静寂。
だが、ここにいる誰もがその結果に納得いかなかった。鞠莉母が何故、Aqoursを使ってまで3人を誘き出そうとしたのか。そして街中に貼れた紙。先程の鞠莉たちの行動。すべてに理由があるのは明白だ。けれど、ここにいる8人はここまで知らなかったし、教えてもくれなかった。蚊帳の外といったところか。
「もしかして、お母さんから逃げてるずら?」
「反応を見ると、そうかもしれないな」
しかしこれも推測でしかない。真相を暴くためには、本人たちの口から行ってもらうのが一番だ。そのためにもすぐさま追いかけたいところだが、彼女たちがどこへ向かったのかはわからない。
「はあ……取り敢えず、ここを降りてから考えよう」
「うん……そうだよね」
ぞろぞろと階段を降り始めるが、花丸だけはまだ倒れ込んだままだ。
「花丸、休んでるとこ悪いが降りるぞ」
「今はちょっと無理ずら~」
「ええ……困ったな。しゃーない。じゃあおぶってやるから。それでいいか?」
「感謝するずら~」
そうして8人はボーヴォロを後にするのだった。
「Oh……やってしまった……」
走りながらも鞠莉は落ち込んでいる様子だった。おそらく、手に持っている紙が原因だろう。
「制服に仕込ませたんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけど……てへぺろ」
「じゃ、ありませんわ! 千歌さんたちはどうするんですの!?」
制服に仕込ませたつもりだったが、実際のところ仕込ませていなかったという痛恨のミス。
「わかってる、わーかってるって! そう言ってもしょーがないでしょ! それに今戻ったら捕まっちゃうじゃない」
自分のミスであることはわかっているが、どうもダイヤから言われるとついつい反論したくなってしまう。
「ならどうする? 前みたいに一部を写真で送る?」
「それしかありませんわ」
今戻れば、間違いなく黒服と鉢合わせになることは間違いない。であれば、以前のように風景の一部だけを写真に収め、メッセージで送るしかないだろう。
「おっ、こんなとこにカワイ子ちゃんが3人もいるじゃんか」
「お、ホントじゃんイタリアまで来てラッキーって感じ〜?」
「それな! ってことで俺らと遊ばない?」
最悪だ。今度はなんとナンパ3人衆に出会してしまったではないか。いかにもここで遊んでいますと伝えてくる風貌に顔を顰めそうになる。
「今はそんな暇ありませんので!」
「ええ? ここまで来て暇無いわけないじゃん?」
「ああもう、私たち急いでるから!」
言い訳のない若い男たちの対応と自分達の置かれている状況で思わず声を荒げてしまう果南。途端、男たちの表情が一変する。
「んな事言って良いわけ? 俺たちが力尽くでやったって良いんだぜ。なぁ?」
「おうよ」
「まあ、そっちの方が面白そうだよな」
目を光らせて、ジリジリと歩み寄ってくる男たち。逃げようにも後ろからくる追手に捕まってしまうのがオチ。
挟み込まれてしまった彼女たちは、必死に考えを巡らせるが打開策は見つからない。黒服と男3人が揉め合う状況にでもなればいいが、そこまで時間稼ぎする余裕はないだろう。現に目の前の男たちはすぐにでも飛びかかってきそうなのだから。
「フラれたからって今度は襲うのか? そいつは感心しねぇな」
響き渡る声。だがその影はない。
「ああ?」
見渡す6人の視線は屋根の上へ。男たちから見た声の主は逆光で見えなかった。シルエットともいえるそれはちょうど鞠莉たちと男どもの中心に着地した。
「なんだお前?」
「お前らに名乗るつもりはねぇよ」
その男は鞠莉たちと同い年か、少し上くらいの青年だった。
男たちはその姿に爆笑する。お前1人で何ができるとか、粋がんなぼくちゃんとか……。要は馬鹿にしているのだ。相手が自分たちよりも年下のようだったから。
「あなたは……?」
「オレはゼ……つってもわかんねぇか。暁一眞の知り合いだ。コイツらはオレに任せてさっさと行きな。急いでんだろ?」
彼の眼はとても鋭かったが、かと言って怪しい者ではないと直感が告げている。言うなればそう、幾度も見たあの巨人たちに近い安心感。
すると3人は見合って頷き、4人の脇を駆けていこうとする。
「ちょ、いかせ────」
手を伸ばそうとした1人の腕を掴み、後方へと押しやる。
どうやら押した力が強かったか、後ろの2人も巻き込んで尻餅をついてしまう。
「汚ねぇ手で触んな」
この隙に行くようにと、首の動きだけで指示を出す。
「ありがとう。そうだ、一眞の知り合いならこれを渡してくれない?」
「おう。任せろ」
そう言って鞠莉は紙を渡した。
「この御恩は忘れません」
「ありがとね」
走り去っていく少女たち。残ったのは野郎だけ。
「どうする? ここで帰れば見逃してやるぜ、僕ちゃん?」
折角のお楽しみを不意にされ、挙句に馬鹿にされたとなれば黙っちゃいない。
「んだとこの野郎っ!」
殴りかかってきた腕を掴み、逆に腹へと1発くれて放り投げる。
「そうかよ。……来な」
口元を拭い、構えを取った青年は迫る男たちへ拳を振るった。
「ここら辺に行ったはずだけど……」
手掛かりもなかったため、取り敢えず鞠莉たちを追う人々の後をつけることにした一行。しかし途中で見失ってしまい、もう成す術なしといった状況だ。
失意のまま進み続けた一眞たちだったが、とある人影を目にしたところで足を止める。
「よう。もう少ししたらお前らと合流しようと思ってたところだぜ」
男3人を下敷きにし、その上に座り込んでいたゼロが手を振っていた。
「どうしたんですか……これ……」
「こいつらはナンパに失敗した挙句に襲おうとした馬鹿どもだ。気にすんな」
気にするなと言われても、伸びている男に座るゼロという姿を前に気にするなというのは無理がある。
「ここに来たんなら丁度いい。ほら、金髪の子から預かったもんだ。お前らに渡すつもりだったらしいぜ」
ゼロから手渡された紙に目を通す。横に描かれたイラストから鞠莉が書いたことは間違いないだろう。
「読めるか?」
「いいえ。ゼロさんは?」
「……読めねえ」
千歌たちも目を通すがイタリア語で書かれている為か、読み解くことはできない。文字の羅列をじっと見つめるだけだったところに、救いの手が差し伸べられた。
「ヨハネが守護する地を見下ろす時、妖精の導きが行く先を示すであろう」
月が横から内容を訳してくれたのだ。読み解けて嬉しかったが、それでも意味が分からない。
「ヨハネ?」
自分が呼ばれたと思い、自身を指さす善子。しかし書き記されている内容は違うだろうと月。ヨハネが守護聖人の地フィレンツェの事だろうと推測した。
「じゃあ、今度はフィレンツェに行くってことか」
次なる目的地が決まったとなれば、一行は即座に移動を開始する。
善子は別の意味で嬉しさを表情に滲ませているのだったが、それに気付いていたのは梨子だけだった。
~~
フィレンツェに着いたのは、既に日が傾き始めていた頃だった。
「はあ~、疲れた」
「やっぱり電車移動ってのは大変だな」
フィレンツェに来るのには電車で約2時間揺られたわけであり、少し体が痛い。さらにお腹も空いてきたとのことでフィレンツェ中央市場のフードコートに寄っている。
「ですよね。わかりますか」
「ああ。特に日本の通勤ラッシュはな……精神の修行にはもってこいだが、それはそれとして気が滅入るってのを覚えてる」
男仲良く話が盛り上がっている隣で、千歌たちは鞠莉たちからの再接触を待っていた。
「待っていれば向こうから接触してくる……のかしら?」
梨子は周りを見渡してそれっぽい人物がいないか確かめる。……がいる筈もなかった。
「携帯は?」
曜の問いかけにルビィは首を横に振る。
彼女が言うには、携帯で連絡をしてしまうと鞠莉母にバレてしまうからでは……ということらしい。
「そりゃ大変だな。けど、連絡ないとどうすることもできないし……」
すると月が皿に盛りつけられた分厚いステーキを持ってきた。ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナというフィレンツェの名物らしい。
「「でっっっか!!」」
そのあまりの大きさに男2人は立ち上がってまじまじと見つめている。
だがその傍ら、一眞はそれが月なりの励まし方であるとちゃんと理解していたのであった。
「サンキューな月」
「え、僕は別になにもしてないけど?」
「そうかい。ならそうとっとくよ」
すると、はたまた1人欠けていることに気が付く。今度は善子がいなくなったのだ。
「善子ちゃーん! ヨハネちゃーん!!」
「消えた?」
「あの堕天使、今度は自分が行方不明になってるじゃない」
呼びかけても反応せず、見渡してもそれらしい姿は見えない。つまりこの場所には居ないと見た方がいいだろう。知らぬ地で迷子だなんて笑っていられる事態じゃない。
「心当たりは?」
善子の生きそうな場所……。堕天使やそういった関係で美術館とかだろうか。そんな推測を一眞が口に出す前に、ルビィがもっとも有力な情報を提示してくれた。
「善子ちゃん、ヨハネってずっと呟いてた」
「もう、いつもいつも……」
「怒るのもわかるけど、チェリーなんたらナイトメアはすんなよ?」
「しないって! てかなんでそれ覚えてるの!?」
そんなやり取りをしつつ足を運んだのは、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂と呼ばれる教会。巨大なドームが特徴の大聖堂は、フィレンツェのシンボルになっているとのこと。
「「でっっっか!!」」
男2人、2度目の驚愕。
だがその外観に見とれている場合ではない。ここを訪れたのは善子を探すためだ。しかし、辺りを何度見渡しても、ゼロの視力をもってしても彼女を見つけ出すことはできなかった。
だって、見ている方向が逆なのだから。
「善子ちゃん……」
「なにしてるずら?」
「善子ではありません。ヨハネです」
白い羽のような装飾だったり、お団子にした髪の部分に白い羽を着けていたりと、普段の彼女とは真逆の色だ。
「私は今、堕天使ヨハネではありません。守護聖人ヨハネからこの地で天使の生を授かったのです」
「お、天界に引き上げられたんだな。よかったよかった」
「え、いいのか?」
呆れたのか、それとも天然なのか……善子の報告に嬉しそうに頷く一眞へゼロは怪訝な表情を向ける。
「いろんな子がいるんだねぇ~」
隣では月が楽しそうに笑っていた。
改めて見ると確かにそうだなと、一眞も感じる。どうやら、1年もいると感覚が麻痺するらしい。
さらに、善子はクーポラと呼ばれるドゥオーモの天蓋部へ行こうと提案する。どうやら拒否権は無いらしく、既に
加えて15ユーロをお納めしてくれとも言われた。とは言っても購入してきてくれたのだから、そのくらいはしなければ。
「あなたもよ。空から舞い降りた我が同胞」
「え、オレも? ってか同胞ってなんだよ」
「白銀の翼を広げ降りた来たではありませんか。この地上に」
「イージスのことを言ってんのか?」
「まあまあ、あまりツッコんでも身が持たないので、諸星さんも行きましょう!」
ゼロの分も購入していたらしく、共に天蓋部へ向かうことになった。
ちなみに彼の資金ついてなのだが「何も聞くな」と言われてしまった。触れてはいけないこともあるのだと、その時一眞は思った。
「日本だと見ないわよね。こんなに統一された街並みって」
展望デッキから見渡せるのは、フィレンツェの街並み。赤いレンガ式の屋根が辺りを埋め尽くしている様は、梨子の言うように日本では見られないものだ。
「何百年も前からずっと変わらないんだよ」
月の話を聞きながら、一眞は辺りを一望する。日本と異なる街並みが、何百年も前から築き上げられて今も残っている。自分にはまだまだ知らないことがたくさんあるのだと、目を輝かせていた。
「地球……いいとこだよな」
「はい。俺もそう思います」
ゼロの言葉に笑顔で答える。
こういった素晴らしい面があるからこそ、侵略者と戦ってきた面もあるのだと、今はそう思える。
「あれは……妖精の瞬き!」
すると、遠方の方で光る何かを発見する。ここからでしか見ることができないであろう耀きは、こちらに向かい合図しているかのようだった。つまりはアレは……。
「お姉ちゃん!」
ダイヤたちが発しているということだろう。
~~
光の見えた方向へと公共交通機関を駆使し到達したころ、辺りはすっかり夜になっていた。
あまり賑わっている場所ではなく、今は風で揺れる木々の音が辺りを支配するのみ。そんな中目を引くのは、1軒の大きな豪邸だ。
「「でっっっか!!」」
男ども、3度目の驚愕であった。
「でも本当にここかしら?」
梨子が不安そうに尋ねる。
それもその筈。電気がついているのは正門だけであり、他に明かりが点いているようなところは見当たらない。要は人の気配がないのだ。
「うん」
しかしルビィははっきりと首を縦に振って肯定した。
ここで突っ立てもいられないと、千歌は「こんばんはー!」とあいさつを飛ばす。静かなせいか、余計に声が響く。
するとベランダの方から3人が生えるように出てきた。目を凝らすと、指を口元に当てたジェスチャーをしている。騒ぎ立てるのは良くないらしい。
「広い……」
その後中へ通されると、待っていたのは広い部屋に豪華なシャンデリアだった。
「今度は尾行されなかった?」
「大丈夫、途中で何度も道を変えたし」
再び巡り合えたことに安堵していると、3人の視線は一眞の隣にいる男に向けられる。
「先ほどはありがとうございました」
「いいや。礼なんざいらねえよ。オレがしたくてしたことだ」
フッと笑って見せるゼロ。
おそらく、あの倒れていた3人の男どもは鞠莉たちに襲い掛かろうとしたのだろう。ゼロの助けがなかったとなればゾッとする話だ。
「あの後ママからはなにも連絡ないの?」
お礼を終えた後、鞠莉の問いは千歌へと投げられる。彼女から何もなかったという旨を伝えられ、納得した鞠莉はそれっきり黙ってしまう。
「一体何があったんです。ここまで来て何も知らないってのは……」
一眞は鞠莉へ訊いてみるが、彼女は「ちょっとね……」とはぐらかしてくる。詳しくは教えてくれないようだ。
「なんで隠すんですか?」
この言葉を一眞が言う資格はない気がするのだが……と頭の片隅で考えてしまったのは、月とゼロ以外の全員。しかし、千歌たちも知りたがっているのは事実だった。
「確かに……ここまで来て知らされないというのはかわいそうですわ」
言い方は悪いかもしれないがダシに使われ、イタリアまで来た7人。彼ら彼女らが事情を知らず振り回されっぱなしというのは流石に思うところがあるのだろう。ダイヤは鞠莉を説得するが、それでも彼女は口を割らなかった。
何かあるとは思っていたが、それほど深刻なことだとは思わなかった一眞は息を呑む。
すると口を割らない親友に代わり、果南が答えてくれた。
「鞠莉が結婚するの」
想定よりもはるか上……いや斜めか……。ともかく頭にはなかった衝撃の答えに、一同は固まってしまうのだった。
全然進まないまま5章まで来てしまった……。
とは言っても一眞やゼロとの絡みを書くのが楽しいので、やめられないんだなぁこれが。
生き生きしている主人公ですが彼にも悩みはあり、ゼロとの出会いが重要なファクターになっていきます。
ではまた次回で。