「……んん」
自然と意識が覚醒し、瞼が上がる。少しの眠気とベッドへの誘惑を振り切り、暁一眞は顔を洗うために洗面所へと足を運んだ。
顔を洗い終えると、ふと鏡で自分の顔を見る。
――――やはり今日もか。
記憶を失って3年が経ったが、記憶が戻るそぶりは見えない。千歌や曜に仲良くしてもらっているが、やはり記憶がないことへの孤独感は消えないのだ。そもそも暁一眞という名前も本当の名前ではない。
かといって全く手掛かりはないのか……と言えば嘘になる。些細な手掛かりは、あのノイズまみれで脳内に流れるビジョンだろう。しかし自分には全く心当たりがなく、詳細すらもわからない違和感に悩まされている。
「こんなこと……はじめてだもんな」
そう、あんなものが脳内に流れてくることなんてこれまでの3年間にはなかった。いつからと聞かれればそれは――――
「ウルトラマン……」
自分がオーブへと変身を遂げる前後が初であった。これにいったい何の関係があるというのだろうか。ひょっとするとウルトラマンになり続ければ記憶が元に戻るのでは……? なんて考えてみるが、そんなバカバカしいことがあるはずもない。
「はあ、どうすれば……っと時間」
ため息を吐いて時計を確認した一眞は慌ただしく自分の部屋に戻っていくのだった。
~~
「うへぇ……」
「千歌ちゃん、どうしたの?」
教室の机に頭を伏せている千歌に尋ねる曜。その伏した今の彼女は溶けたアイスのようだった。
「最近妙に暑くない? まだ夏は始まってないよ~?」
「そう言われればそうよね。ニュースでも言ってたわよ。今の天気は少し変だって」
梨子も例年より早い猛暑を不思議に思いつつ、ニュースでも報道されていたことを伝える。
ここ最近は謎に暑い。まだ7月に入ってすらいないのに真夏並みの気温を記録しているのだった。下手をすればそれ以上……。
「今だったら海に入っても問題ないと思うよ梨子ちゃん」
「なんでその話を蒸し返すの!?」
気だるげに言った千歌に反応する梨子。4月に海の音を聴こうとして単身海へと入ろうとしたことが梨子にはあったらしい。たしかに4月では冷たすぎるが、今の気温なら大丈夫だろう。
「カズくんは……ってこっちもか!?」
「な~に~?」
曜がそうリアクションするのも無理はない。一眞も千歌と同じように、顔を机に伏している。やはりさながら溶けたアイスだった。
「だって暑いんだもん! こんなん飲まなきゃやってらんないっすよ!」
「言い方おじさん……」
苦笑する曜は両端で溶けたアイスで挟まれているのだ。
気だるげな2人がいる中、授業の合間に設けられた休み時間が終わりを告げようとしているとき、事件は起こった。
「「きゃああああああああああああああああ!?!?」」
突然、廊下の方から何人かの生徒の悲鳴が聞こえたのだ。
「え、なに!?」
「なにかあったの!?」
いつものじゃれあっているときの悲鳴ではない。これは
「え、なんだ?」
「さあ~」
暑さで溶けている2人は机から動くことは無かった。しかし、再度入ってきた曜の一声で状況は一変する。
「水が、水が臭くなってる!?」
「な……」
「え……?」
その信じがたい現象に一眞と千歌は言葉を失うのだった。
「で、水を出してから異変に気付いて、嗅いでみたら異臭がしたと……」
「そうなの。で、でもこんなことって今までなかったよね?」
「なかったけど……ダイヤさんはどうでしたか?」
一眞たちは女子生徒にさっきの状況を聞いていた。加えてそこには生徒会長の姿もある。先生たちはこの原因究明のために校舎中を駆け回っているため、授業どころではないのだ。
「私もこのような状況は初めてですわ。
「まだわからない……か」
ダイヤは深刻な面持ちで頷く。
「……そうだ」
一眞は何かを考えつくと廊下を歩きだした。
「どこに行くつもりですの?」
「ちょっと」
「どこに行くか聞いているんです! 答えなさい!」
ダイヤの声が廊下に響くが、一眞は足を止めることは無かった。
「ア、アハハハハ……」
「すみません……」
苦笑いする千歌たちの横で梨子がダイヤに謝罪するという姿がそこにはあった。
理事長室のドアをノックすると「どうぞ」と、いつもとはかけ離れたテンションの声が中から聞こえた。
「失礼します」
「あら、一眞。今は先生たちが原因を探しているわ。生徒は大人しく待ってて」
どうやら鞠莉にも、鞠莉だからこそ聞きたいことがわかったのだろう。
「今は他の場所からも電話が鳴りぱなしなの。どれもこれも水関連のことでね」
電話の対応が忙しいから今は来るなということなのだろう。
「……待ってください。どういうことです?」
「水から異臭がするけどそちらは大丈夫なの?って確認よ」
紙やパソコンに目を通しながら鞠莉か答える。
他の場所……例えば市民プールやレストラン、それに近くの水族館も被害を被っているということか。であれば、ここら一帯の……結んだ線が行きつく場所が”異臭水の源”なのだろう。
「鞠莉さん! ここら一帯の水はどこから運ばれてきていますか!?」
「そ、そうね……」
彼の机に乗り出しながら聞いてくる様に驚きつつも鞠莉は地図を出して調べていく。
「ここ。この水源よ」
ジッと鞠莉が指さした場所を見つめた一眞は、それまたすごい勢いで理事長室を出ようとする。
「ちょ、ちょっとカズマ! 待ちなって!?」
先ほどからの変わりように困惑する鞠莉。
「恐らく原因は水源です。このままだと言いずれは日本中……いえ、世界中に広がってします!!」
原因は何であるかは未だわからない。しかし、直感が告げているのだ。ここ一帯の問題ではない……と。
「では……!」
風のように去っていく一眞にはやはり鞠莉の声は聞こえていない。
そのまま2年の教室に飛び込んでいく一眞を、クラスメイトは目を見開き見つめている。
「誰か自転車できた人いないか!?」
彼の突然の問いかけにざわつくクラス。
「一眞くんいきなりどうしたの?」
「わかったかもしれないんだ。水の原因」
「「「えええ!?」」」
彼の答えに驚く千歌たち。
「どこなの?」
「おそらく○○のところの水源だ。もういろんな所の水が臭くなってるらしい」
「じゃあ
「多分な……」
自分の家(旅館)の水すらも臭くなっている状況に頭を抱える千歌。じゃあ私の家も!?とショックを受けているのは梨子だ。
「あの、私の自転車でよかったら貸すよ……」
と、ロックを外すカギを差し出してくれた女子生徒が1人。
「ありがと。必ず返すから!!」
と教室を出ていく一眞。
「で、水源に行って何するつもりなんだろう?」
「でも原因がわかったら対策はできるし」
「そうね」
慌ただしい一眞を見送った3人。
「ああ、ダイヤさん!? 水は出すなってみんなに伝えといてください!」
さらに廊下ですれ違いざまにダイヤを発見し、水を出すことによって異臭が広がるのを防ぐよう頼む一眞。
「え、あ、わかりましたわ。でも、なんでそれをあなたが……」
「お願いします!」
「ちょっと、お待ちなさい!!」
しかし一眞は止まらず、階段を駆け下りていってしまった。
「……もう、廊下は走らない……と書いてあるではありませんか……」
彼女の声は虚しく廊下に響いた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
貸してもらったピンクの自転車を自分でもあり得ないぐらいのスピードでペダルを漕いでいた。一刻も速くつかなければ……という彼の意思が体に伝わっているのだ。こんなに早く焦げるのもオーブの力……なのだろうか。
(でもピンクってめっちゃ恥ずかしい……でもそんなこと言ってらんねえ!!)
あまり見られたくないという気持ちもどこかにあったようだ。
~~
水源にたどり着いた一眞。そこにはさっきの水のような”まるで洗っていないザリガニの水槽”のような異臭が漂っていた。
「やっぱここが原因で間違いなさそうだな……」
一眞は服でガードしながら進んでいく。
すると目の前の湖には黄色い鱗に覆われ、まるでタツノオトシゴのような頭をした怪獣がいた。額を見ると禍々しく輝く水晶体がついていた。
「お前が原因か……」
その怪獣はなんとも気持ちよさそうに水に浸かっている。
「オイ! 迷惑も考えずに水浴びとは良い度胸じゃねえか!! ふざけてんのかよ!!!」
暑さで水分を取りたいが、怪獣のせいで水がつ変えないという状況。だが怪獣はそれを知らず水浴びをする姿に一眞は怒り心頭であった。
その叫びをうるさいと感じたのか、水の魔王獣マガジャッパは鼻から黄色の高圧水流マガ水流を放った。それは地面を抉り、木々を切り倒していく。一眞もギリギリのタイミングで避ける。
「この……」
「怒ってるね~とどろく叫びを耳にして……か?」
突然聞こえた声の主を探す一眞。しかし一眞が探し当てるよりはやく、男は姿を現した。
「なんだお前……?」
怪獣が近くにいるのに驚くどころかニタニタと奇妙な笑顔を見せつける男に、一眞は警戒を強めた。
「おいおい、寂しいこと言うなよ……僕のこと忘れちゃった?」
「誰なんだ……お前なんて知らないぞ」
一瞬寂しそうな表情を見せた男は、笑顔で向き直り自己紹介をした。
「……では改めて、僕の名はアオボシ。まあ他にも名前はあるけど、それはいつか」
頭を深々と下げるアオボシ。その名前に一眞は聞い覚えがあった。
「千歌と曜が会った男はお前のことだったのか」
千歌と曜の口からアオボシと名乗った男と接触したことは過去に聞いていた。さらにウルトラマンオーブという名前も彼から知らされていたようだ。
「おや、彼女たちと知り合いだったのか。ホント妬けるな~……そうやって見境なく助けてんのか?」
意味が分からない。彼がどんな意図があって話しかけているのか、一眞には見当がつかないのだ。
すると刹那――――
アオボシの恐ろしく速く、それでいて鋭い拳が一眞の体へと迫った。
「ぐうッ……」
拳が身体にめり込んだような痛み。そして衝撃でつぶれたような声しか出ない一眞は膝をつく。
「そんな半端な力じゃ、助けるどころか失うだけだぞ」
彼の言葉に脳内でノイズが走るとともに強い頭痛が彼を襲った。
「く……!?」
「そうだ、思い出せ……お前は――――」
「う……るせえっ!」
両方の痛みは残っているが、動ける程度に回復した一眞。彼の大振りの右フックがアオボシの顔に近付いていく。が、彼は軽々とこれを回避。さらに追撃で左腕を振るうがそれもブロックされる。
「本気で来いよ。僕はそれを望んでるんだ」
「知……るかっ!」
彼の言葉を一蹴し。その胸元に蹴りも入れるが彼は回るように攻撃を避けた。そして流れるようにしてアオボシの反撃。
だが不思議なことに彼の攻撃が読めたのだ。過去に何度かやり合ったかのように、彼の動きが予測できた。
しかし力は彼の方が上のようで、腕で防いでも押し切られてしまいそうだ。
「やっぱり体は覚えている……ってか?」
「……!?」
彼の言葉に動きを止める。だが、守りは破られないように腕に力を入れている。
「他のウルトラマンの力を借りいなきゃ変身できないなんて……笑っちゃうよなぁ」
「どういうことだ!」
その煽りに激昂した一眞は裏拳からの再度蹴りを入れ、彼と距離を開けた。彼は自分がウルトラマンだと知っている。加えて意味深な言葉たち。彼は自分の過去を知っている人物なのだろうか。
彼に怒りがわくことは確かだ。しかしそれ以外にも……胸に込みあげてくる感情が確かにそこにはあった。
「そのまんまの意味さ。ほら、僕に構ってばかりいると魔王獣が別の場所に行っちゃうよ?」
彼の飄々とした態度に怒りを覚えながらも、一眞はマガジャッパを止めるため走り去っていった。
「やっぱり、光とやらは彼を選ぶのか……クソッ」
アオボシの悪態を聞くものは、誰一人いなかった。
「これ以上水には入らせないっ!」
一眞はマガジャッパを見据えると、空にオーブリングをかざす。
《ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン》
紫の光がマガジャッパの目の前でオーブの姿へと変わる。
怪獣退治の専門家と言われた戦士の赤と銀のベースに、超古代の光の巨人の紫のラインと金のプロテクターを纏ったオーブ。
彼はマガジャッパに向けて戦闘の構えを取る。生命活動に不可欠な水を護るため、オーブとマガジャッパの戦いの火蓋が切られるのだった。
魔王獣討伐と言いながら戦ってねえじゃねえかよお前よ!
すまない。とあるゲームの探索やサブクエをこなしていくのが楽しすぎてね……。侍最高!誉最高。
話変わりましてアオボシと一眞の初邂逅。おまけに殴りかかってくるなんて……まあほら、知り合いっぽいし、一眞が忘れたから……しょうがないね。
次回はマガジャッパと戦ってもらうよ。
あとこれは私の考えですが、鞠莉さんは真面目パートでは途中に英語を挟むみたいなことはしないかな~なんて思ってます。(書くのが面倒とかじゃないからね)