『巨大な山の如きものが、海を割いて現れるであろう』
『我はアルファにしてオメガ』
『勇敢な戦士だ……恐れ入ったぜ』
『なぁ教えてくれよ、テメエには誇りってモンがねェのかよ』
数多の有機生命体の頭上で、悠久の星海を旅した箱舟が無機質に浮かんだ。金属の肉体と骨格を持つ未来の反逆者の手によって黄金の眠りは妨げられようとしたが、英雄たちがそれを赦さなかった。
『──しかし英雄は諦めないッ!』
記憶は大火に包まれ、そして……
*
デストロン海底基地では、部品の接合と加工の修理音が響き渡っていた。平時、作戦兵器の開発を担当させられているビルドロン師団によるものであった。
「おいグレン、何をモタついてんだ?」
「おお、ちょうどいい。ボーンクラッシャー、コイツを見てくれ」
部隊の中でも芸術家気質の二人が、ひとつの未知なる物質を手に取っていた。
「ああン? なんだいこりゃ」
それはオーパーツとでも呼べる代物であった。しかし間違いなくセイバートロン星由来の技術のものだと、技術師たちは結論を見出すのに苦労しなかった。
「スクラップマニアのお前なら判ると思ったんだがな」
グレンは少々軽蔑を言外に含み、ボーンクラッシャ―に返事を促した。
「さあな。だが……フム、基礎は普段扱っているものと変わらないなら、流用はできるはずだ」
「オレもそう思う」
彼らはメガトロンの命令によって、ロボスマッシャーの修復を任ぜられていた。セイバートロン星屈指の美を誇る都市を壊滅させた原因でもあり、彼らがメガトロンに忠誠を誓えたのもこの恐るべき兵器によるものであった。
「メガトロン様は随分昔からこんな製法をしていたんだろうか……」
抱かれた疑問は、予想だにしない結果となって現れるのを彼らはまだ知らない。
*
マグマを静かに燻らせる火山に、もうひとつの箱舟が突き刺さっていた。この場所はメタルボディに魂を宿す異星人──トランスフォーマーたちが永い眠りから現代に復活した聖域として、そしてサイバトロンの基地として認識されている。
テレトラン1の無機的な青のスクリーンが、アーク内の橙黄色の壁面と床に光沢感を出させていた。そこに大きな影を作っていたのは、アイアンハイドとバンブルであった。
「ねえオイラたち、地球に来てどれくらい経ったんだろう」
「そういえばそうだな……なぁスパイク、俺たちと出会ったのはいつ頃だったか覚えてるか?」
彼らは視線を落として、ミニボットたちよりも小さい友人の返答を待つ。
「ンー……まだ半年くらいだね。もう10年くらい友達って感じだけど」
柔らかく温かい肌の持ち主は、鋼鉄の異星人の一人、バンブルの膝に手を伸ばした。バンブルはスパイクの背に、そっと手を遣る。スプーンいっぱいのスープを溢さないような丁寧さに友愛が加われば、それは酷似していた。
「でも、サイバトロンとデストロンは気の遠くなるほど戦ってきてるんでしょ? ずっと戦って疲れないの?」
「そりゃあ疲れるさ。だが、デストロンの連中をパーツ一つ残さず鉄粉にしてやるまで俺たちに休息はないさ」
「ハハ、でも半年前まで400万年も寝てたけど」
地球の全てを恣にしようとする未熟な支配者──人類は、故郷の星の上ではその振る舞いを続けていたが、トランスフォーマーの出現によって慣習の見直しを余儀なくされた。橋渡し役とも言えるスパイクは、サイバトロンとの友情を確かめ合っていた。
そこへ、安寧のひとときを劈くようにして、テレトラン1がデストロンの襲撃を報せた。
「警報、デストロン軍団ガ、接近」
一同は目を見合わせた。その態度は3人の意思が一致したのを証左している。
「噂をすれば何とやらだぜ。司令官たちはどこに?」
「ホイルジャックがまた発明品を作ったから、テストしに外に向かってたけど!」
「ありがとうスパイク、ホラ乗って!」
彼も車両に変形する彼らを前に驚愕を感じる事はなくなった。アークからの出撃も、もはや特別な時間ではなくなった。
スパイクから失われた戸惑いは、恒常化した戦争に適応しつつある現状への皮肉のようでもあった。
*
サイバトロンは、切り立った断崖の先にメガトロン率いる軍団を見据えていた。荒地の無風は、かえって砂塵が舞うのを勿体ぶる。
「遂に総攻撃を仕掛けてきたかメガトロン……我々の返事はこうだ──サイバトロン戦士、アターック!!」
コンボイ司令官はその青い視野でもって、大将であるメガトロンに照準を定めていた。
「今度こそ、誰がこの戦争の勝者なのかを叩きこんでやろうぜえ!」
アイアンハイドはコンボイと並んで自軍の楯みたいな役割を担い、見敵必殺と言わんばかりに最前線を走る。
「フフフ、貴様らの威勢も今日この日までとなるだろう。行けいデストロン軍団ッ!」
メガトロンには秘策があった。ジェットロンの空爆も、カセットロンによる搦め手も、布石に過ぎないのだ。
「ネメシスに積んでおいて正解だったわ……我が傑作ロボスマッシャーをな」
「あれはまさか、ロボスマッシャー!」
コンボイはかの洗脳兵器を見、オメガスプリームの語った悲劇をすぐに想起した。同時に、仲間が犠牲になる将来を覚り、彼の信条はそれを確実に避けねばならないと意思を固くした。
「卑怯な手を……! てえい!」
ミサイルとレーザーの射線に晒されながらも、リーダーが握ったレーザーライフルはロボスマッシャーへの射撃を見事に的中させる。
「ぬおっ、し、しまったロボスマッシャーが」
「へっ、だからそんな回りくどい作戦なんて反対だったんだよオレ様は──」
毒突くF-15の航空参謀は、ぼやきながらも低空でバンブルを狙撃しようとしていた……のだが!
無情にも、破壊しきれなかったロボスマッシャーがスタースクリームを追跡していた! まもなく、しなやかな鋼鉄の触手がデストロン軍のナンバートゥーを襲う!
「グアアッ……メ、メガトロン様! これは一体!! は、早くなんとかして下さいよオッ!」
「い、いかん、ワシのロボスマッシャーが暴走を! 総員退却ーッ!!」
「おいッ! メガトロン! このオレ様を置いていくなんて──う、ああ」
彼の頭部にレーザーメスが喰らいついた。頭脳の回路が書き換えられている耳障りの異音が、サイバトロン軍に響き渡った。
「メガトロンの奴、ついに部下を見捨てたか」
ギアーズがスタースクリームを間接的に罵る。
「まずいぞ、爆発の危険があるかもしれない……おいどうしたんだあれは?!」
ロボスマッシャーは『作業』を終えたのち、六本の脚部を折ってそのまま静止した。洗脳されたであろうデストロンの兵士は、敵軍を一通り眺めると手術跡を無骨に撫で、そしてあらゆるものに対し無自覚な風に言い放った。
「痛ってえなぁオイ……俺ぁなんでこんな奴らに囲まれてんだァ? テメエら何者だ?」
つづく……
戦艦ネメシスって浪漫ありますよね。