先ほどの作戦の舞台となった断崖に、デストロンの精鋭コンドルが空を切っていた。物言わぬカセットロンの彼に我執などなく、ただ主に命ぜられた任務を遂行する。
オプティックセンサーに映されたのは、焦げた岩肌とマシンの破片だ。かつて精密だったそれは大破し無残にも内部パーツを晒しているが、その光景はかえって往時の面影が強烈にあった。
「ふむ……自爆はしていないようだな。わかった、もうよい」
「ハイ」
コンドルを調律しているサウンドウェーブも、また主への静謐な従順さを醸していた。コンドルが偵察から帰還したのち、直ちにメガトロンへの報告を担当した。
工場の襲撃に成功したデストロン軍は、そこに臨時基地を建設し、本部と相違ないレベルの設備を整えていた。デストロンは破壊に長けた荒くれ者が集くが、時に建設において秀でている。
真新しいモニターの前で、メガトロンは顎をさすった。
「奴がいないのが気がかりだが、ロボスマッシャーをサイバトロンに利用されては困る。爆発をしなかったのは不具合があったんだろうが──ビルドロン、お前たちが責任を持って回収に向かえ」
「分かりましたメガトロン様。ああ、あの、それと」
歯切れ悪く、師団の一人が申し出た。
「なんだグレン早く行かんかっ!」
「ロボスマッシャーの構造に未知のテクノロジーが使われていたようなのですが、ご存じで?」
メガトロンは一瞬、遥か旧い時代に製作した兵器について追憶した。
「未知のテクノロジーだと?……まさかお前、修復の際に不具合を見つけたのか?」
彼の頭脳によって、当時のロボスマッシャーは正規の技術によるものだったと弾き出された。
「ああいえ、その実は……」
*
ある者は関心を持ち、ある者は不穏を感じ、総員はそれを囲んでいた。
「さあ諸君、吾輩たちの研究成果を見てくれたまえ! 名付けて『立体コピーマシン』!」
ホイルジャックの掌に載った金属の箱は映写機に酷似し、あまりにも平凡に思える代物だった。
「その小さな箱がどうしたってのさ」
ゴングが腰に両手を当てて、呆れたように、或いは試すようにぼやく。
「これはチップ君との共同制作でね、意思ある生物を複写する道具なのだよ。記憶はそのままに新しい人格を得るという画期的且つ意欲的な作品だ!」
車椅子の青年もホイルジャックの熱量に応じる。
「オホン、サイバトロンのみんな──これはね、単に戦力を増強させるものではないんだ。これは『複写体』の性格が『被写体』と反転しているって実験でもあるんだけど、僕たちの本当の狙いは性格の対称性について、なんだ。もちろん軍用は可能だけどね」
「チップ、つまりどういう事?」
スパイクが口を挟む。その質疑に喜ばしく彼は返答する。チップのこうした積極性と行動力は、決して彼が書痴などではないと感じさせられる。
「つまり、コンボイ司令官みたいに勇敢な人と、スタースクリームみたいな卑怯な奴、一見正反対だけどそれはなんで反対だと思う? 性格は数値化して二項にあてがう事ができるけど、それは結局のところ人が考えた印象を反映させただけだよね。この機械は、『被写体』の頭脳を読み取って、それを単に反転させる。これによって、真に反対の性格が判明するってカラクリさ」
「そりゃ分かったが、なにで試すのさ。俺は勘弁して欲しいが」
ゴングがチクリと半畳を入れる。しかし剛腕の持主は、隣に立つスタースクリームの監視も忘れていない。
「ではまず、コンボイ司令官を複写してみよう──それっ」
レンズの部分から一条の濃い光が放たれた。コンボイ司令官はそれをまともに浴びる。
「私のボディは何ともないが……おお」
レンズの光は宙にコンボイの輪郭を描き、次第に黒色のコンボイが仕上がった。
「こ、こいつはすげえや……動くのか? 触れるのか?」
ゴングは精巧な出来に少し狼狽えたが、冷静さを忘れてはいなかった。
「君は私のコピーか。私はコンボイ、サイバトロン戦士の司令官──」
「……私に近寄るなア!」
友好の握手を求めたオリジナルのコンボイは、無彩色の複写体に弾き飛ばされた。
「ホオッ! お、おい待てどこへ行く!!」
黒いコンボイは一目散に逃げていった。基地内はコピーの後を追う者や、ホイルジャックたちに更なる疑問を投げかける者とで騒然とした。
「コイツら……何バカらしい茶番をしていやがる」
そのなかで、何かに洗脳されたスタースクリームが独り言ちる。
「コピーだと……ふざけやがってよオ」
彼は、かつての自分にクローンが造られ、そして喰らったのを思い出した。忘却の果てからの回想は、実に森閑としたものだった。
「アイツだけじゃねえ、オレのニセモノは──」
『造りものの魂』を代用して形成されたボディに、彼の人格と記憶が納まっていたのも回顧する。そして同時に、その人造的な魂と今のボディに潜む魂が、ほぼ等質であるのにも『彼』は感づいていた。
納豆とお味噌汁の毎日です。