赤い双眸は、黒いリーダーを捕捉していた。影がそのまま生き物になったようなコピーコンボイは、基地のすぐ外で立ち尽くしていた。
背から広がる翼を揺らしながら、彼は物怖じせず歩を進めた。
「ダァ……テメエ、足が震えてやがるじゃねえかア」
「これから、私はどうすればよいのだろう」
「どうするか、だと?」
「私は司令官としての記憶を持っている。役割に対する責任感も、私のメモリーに刻まれている。……しかし偽物なんだ。いや、記憶は本物で──」
「ンなごちゃごちゃした事はどうでもいいんだよオ! テメエはサイバトロンの連中から逃げるんじゃねえのかってんだ」
スタースクリームは、自分の主翼に慣れていなかった。歩行時のバランス感覚が保てず、猫背になって黒色の偽者を追っていたのである。……しかし、そのボディに慣れない理由はそのひとつだけではなかったはずだ。
訝しげにその二人を観察するのはバンブルとグラップルだった。明朗な黄色のボディに光沢を蓄えながら、互いに顔を見合わせる。
「なんかさ、あの二人気が合いそうじゃない?」
「それはわからないが、不思議だ。彼らのパーソナルコンポーネントはどうなっているんだろうか」
バンブルはなんとなく不安になり、腹部のフロントガラスを指でなぞった。
コピーコンボイは、弱気な音声回路でもって焦燥を口から滑らす。
「逃げたってどうしようもないじゃないか! ああっ、私は司令官であって、そうでない。勇ましい記憶と、本当は使命から逃れたい気持ちが交互にやってくるんだ。こんな勇気のない心を持つ私は司令官なんかじゃない」
「逃げられもしねえんだから勇気もねえだろうなぁ、コレっぽっちもよオ……」
「私は、破壊されるべきなんだ。私がいるだけでみんなを混乱させる。でも死ぬのも怖い……死んだらどうなる? スパークが還ったら、もう私は私ではなくなる。いや──本来は『私』という存在など、」
黒い巨体が、ずしりと膝を付いて狼狽する。じれったい気持ちを何故か抑えているのに気づいたジェットロンの航空参謀──のボディをした何か──は、腕で彼の頭部を薙ぐ。
「ぐうっ」
「痛いか? 死ぬのが怖いか? テメエみたいな戦士はゴマンといやがる。大口叩く奴もいたが、そういう奴に限って偉いモンに諂うクズ野郎だった……いいか、役割が見出せねえなら戦うしかねえ。オレたちの道はそれだけだ。産まれた時から戦うようにできてんだ」
「君は、物心ついてからずっとそういう風に考えて生きてこられたのか? 私には、本物の永いメモリーが──」
「思いなんてのは──所詮記憶の奴隷だ」
かつての『彼』がそうであったように、地球人の作家の言葉を引用した。ただ、今の『彼』が持つ不満は、目の前にいる『偽物』が自分と同じ立場だという妙な示し合わせだった。
……オレも、記憶を容れられただけのハリボテだ。
*
基地内では、残ったサイバトロンたちがコピーマシンについて取り沙汰しないはずがなかった。
「チップ、彼を追跡できるか?」
頼もしい声がこだました。コンボイ司令官は、小さい天才に責任を求めた。この行為は彼に対する罰ではあるが、闇雲な処分ではなく、責任を最後まで全うする機会を与えたというほうが正しい。
「うん、この装置を機能停止にすれば、彼は消えてしまうよ」
チップは理路整然としていた。慌てない彼に対し、注目の集まるコンボイ司令官は着実に滔々とする不安を覚えていた。
「チップ、コピーマシンを私に貸してくれ」
「はい、どうぞ」
「いやはや、安全を確保して使うべきだったか……おや、司令官どちらへ」
がに股のまま、ホイルジャックはトランスフォームする司令官を呼び止める。彼は、車両のまま話す。
「私も分身を追跡する。説得するんだ。バンブルたちが先に、そうしているかもしれないがね」
……トレーラーに変形する彼のモットーは『自由とは全知的生命体の権利である』のだから、難儀である。
つづく……
今回会話文ばっかりですね……