基地を発ってすぐ、トレーラーの姿をしたコンボイが目撃したのは、黒い自分と倒れている敵軍の兵士だった。
「おい! 二人とも何があったというんだ」
「ぐ、お、オレに構うな……それより、この真っ黒のオマエは……」
地に臥せたスタースクリームは、やはり当人とは思えない声で呻り、コンボイの怒気を制した。
「『本物』の私よ──私をどうするというのだ、破壊するのか?」
脅す風な語調で、『影』は後退りながら話す。彼の『形』となったサイバトロン司令官は両手を挙げる。
「や、そんなつもりはないよ。ただ、仲間の技術者が君を造った事と、私の記憶を共有させてしまった事を謝罪したかった」
コンボイ司令官は冷静というよりも慎重だった。現在の性格は違えど、記憶が一緒だという事実は、過去の自分の憂悶さえ知っているという真理を導き出せる。
そんな逡巡を載せた彼の声は、意に介さんと言わんばかりに虚空に帰す。広がる荒漠の原野が静まり返っているのを、視線を泳がせながら『本物』は感じていた。
「消さないというのなら、私はどうすれば」
「それはこれから一緒に決めていくつもりだ。それよりも、彼は一体どうしたんだ」
「つい数アストロ秒前に、苦しみだしたんだ。……彼もまた『出来損ない』だ。公然と生きる権利を持っていない」
「生きる権利など誰も持っていない。そんな必要はないんだ──さ、ラチェットに診てもらおう」
コンボイは恐れていた。自分の虚勢は全て見破られているという可能性を。
気が気ではなかった。戦士らしさという鋼鉄の鎧で包んだはずの弱さを、『影』は知っているはずである。それ自体を癪に思っているという訳ではなく、それが公にされた時サイバトロンの士気が低下する過失についてコンボイは想像していた。
そこへ、赤いバネットが砂を撒き散らしながらやって来た。ビークルモードのそれは、気性を感じさせる声を響かせた。
「司令官! 5時の方角からデストロンが!」
駆け付けたアイアンハイドが土煙を纏いながらロボットモードに変形し、伝令を果たした。最初に彼がモニター越しに見たものは、メガトロンの銀のボディだった。
「メガトロンが!? 直々にやってきたというのか」
*
ワシントン上空に広がる鈍色の雲を背に、デストロン軍団は弾丸みたいに宙を突き進んでいた。首尾よくエネルギーを確保し、拠点を拡大した彼らは、天を裂く推進力でそれを証明した。
「者ども! そこのスタースクリームを捕らえろーっ!」
リーダーの指揮は、兵士を狂暴にさせた。サイバトロン戦士の手が届かない、戦略的優位である空中から思い思いに掃射を開始する。
「クッ、奴らチョロチョロと虫みたいに……正々堂々と降りてきやがれってんだ」
アイアンハイドは指の火炎放射と右手に握ったビームガンで応戦した。しかし、ジェットロンとトリプルチェンジャーには掠りもしない。
「アイアンハイド、君はスタースクリームを基地に運んでくれい! ここは応援が来るまで私がなんとかする!」
コンボイ司令官のその命令が、慟哭だと覚ったのは黒いコンボイであった。
「『本物』の私よ! 本当はあなたは何も考えていないだろう! 勝算はないと分かっているはずだ! あなたも逃げればいい!」
レーザーの雨を掻い潜りながら、自らの恐怖心を忘れようとする『本物』は、なお苦悩を隠匿した。
「勝算は作り出せばいいんだ……とにかく、諦めてはならない……!」
自分の魂に言い聞かせるように、サイバトロンの司令官は悲鳴を雄叫びに変えた。その言葉はスタースクリームのセンサーに届いていた。
「コ、ンボイ、お前は……」
朦朧の意識のなかで、『彼』は目前で今死線に挑もうとしている『戦士』と、最後まで諦めなかったかつての『英雄』を重ねていた。
『──しかし英雄は諦めないッ!』
つづく……
たびたび出てきたコピーマシンとやらは、BWⅡ18話のアレです。