他者の記憶を与えられた影。
肉体を与えられた歪な記憶。
激戦区となったサイバトロン基地前に、皮肉な交差が訪れていた。それらの符号を繋げているのは『コンボイ』の名である。
「司令官、これでは後退もままなりません! 奴ら、基地を襲う前に俺たちを殲滅するつもりです」
退くことも許されない僅かなサイバトロン戦士たちは、周囲の土地が変形するほどの空襲を耐え忍んでいた。
「ビルドロン、デバスターに合体して叩き潰せえ! こいつらを始末したら先ほどのミスは大目に見てやる!」
メガトロンは埒が明かないと断じ、サイバトロンに対して非情な手段を採る。
「はい、メガトロン様! トランスフォーメーション!」
ただちに6人の師団はそれぞれの部位に変形し、無情なる巨人と化した。
「デバスターか……! ホオッ!」
死角から迫るドローンロケットをすんでのところで回避するも、コンボイは姿勢を崩し隙を晒す。その不意をアストロトレインが容赦なく突く。
「ハチの巣にしてやるぜ」
「おい手柄を奪うなよアストロトレイン、奴を捕捉したのは俺だぜ」
サンダークラッカーが表情なきF-15の形態でぼやく。コンボイは被弾しながらも脇に抱えたコピーマシンを守るのに専念していたが、そこに限界を見た。責任を放るような事はしたくなかったが──という弁疏をマスクの内で噛み殺し、偽りの自分に命令を下す。
「この装置を持って逃げろ!」
「あなたはどうするというんだ!?」
「私の事はいい! それよりすまなかった。気が動転してコレを持ってきてしまったが、この装置が破壊されたら君は……ヌオアアッ!?」
残酷にも、アストロトレインのプラズマ砲がコンボイの腕に直撃した。
「しまった、装置が!」
コピーマシンはコンボイの手から脱し、荒野にポツンと転げ落ちた。それをすぐに拾い上げた名もなきコピーは、一目散に逃げていった。
「すまない、すまない」
黒色は駆けた。大地を蠢く汚点のように。トランスフォームさえ忘れ、身を丸め、命たるコピーマシンを赤子のように抱きながら走狗となった。英雄的な過去が、他者の思い出が脳に灼きつく。記憶が別人格に引き継がれる残酷さに対する悪あがきは、その呻吟を隠す事だけだった。
「あなたは戦士だ……だが、戦士でしかない、恐怖を知り勇気に試された一介の戦士でしかないんだ──」
そんな彼とすれ違うようにして──後方から轟音を響かせ、援軍が到着した。バンブル、グラップル、ゴング、ドラッグ、ハウンド、ランボルの面々だ。
「すみません司令官! カセットロンに手こずってしまって」
バンブルは言い放ちつつ、天空に座すサンダークラッカーに向けて狙撃を開始した。ゴングとドラッグは回り込んで二丁のビームガンを構え、それに続いてグラップルたちも照準を曇天へ向けた。
「私は平気だ。サイバトロン戦士、撃って撃って撃ちまくれい!!」
司令官の胸中を察する部下はいたが、本心を覗ける者まではいなかった。
*
形勢は鍔迫り合いにまで押し上げられたかのように思えたが──サイバトロンの前に、ついに最終防衛ラインを超えてデバスターが踏み込んできた。
「ウオオオッ」
知能の低下した巨大な膂力でもって、小さな戦士たちを容易く蹂躙した。ジリ貧となった彼らの傍で倒れるスタースクリームを一瞥すると、メガトロンは目の色を変える。
「お、おいデバスター! 止めろ! ロボスマッシャーが異常を起こした原因を突き止められなくなるではないか!」
メガトロンの執着は、ロボスマッシャーを用いた作戦にあった。スタースクリームの身を案じている可能性も否定できないが。
「スタースクリームを破壊しては、頭脳を調査できなくなるだろうが!」
ロボスマッシャーを改良しようというメガトロンの算段が、彼の勝利を遠ざけた。
「ムウ、メガトロン様、」
デバスターが叱られた未就学児のように躊躇した。どういう態度を表出させようか、或いはさせまいか悩んでいた。むろん、その振る舞いはこの戦場では不似合いのものである。
「メガト、ロン……」
スタースクリームは漸く上体を起こし、スパナで殴られたみたいに痛む頭を手で押さえながら立ち上がった。見上げると、踏み潰される寸前だというのがよくわかった。
「このデカブツがオレの人格を転写する装置を作ったってのか」
だが、ネメシスに眠っていた破損したロボスマッシャーのすぐそばに、不運にもメタルスダイノボットの亡骸があったのをビルドロンたちは知らなかった。
「何回死にゃいいんだ」
巨人の足を前にして、スタースクリーム──否、ダイノボットは『メガトロンに対する四度目の裏切り』を決意する。
つづく……
黒いライオコンボイも、荒っぽい奴だったけど自分が本物だと言い聞かせるようにふるまってたよね……