FLOWER KNIGHT LEAF   作:藤宮ぽぽ

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このお話を書いたのは、それまで詳細が謎に包まれていたロータスレイクがついに全貌を現し始めたといったころで、当時は各国家同士の交流についてはあまり言及されていなかった印象があります。
それがシナリオがどんどん深化するにつれ、トリトニア調査隊やネライダいった面々や組織が加わり、同時に国家間の連携も活発になってきました。
世界観が重層化していくにつれ、すべての状況や要素を把握するだけでもなかなか大変な作業になっていきますが、それがまたファンとしては嬉しい悲鳴だったりもします。
 


第一章【燎煙の雪語】(イオノシジウム、ペポ、ランタナ、サンダーソニア、グリーンベル、ヒメシャラ)
1-1 ペポたちと銀色の世界


  

「わあ……!」

 

 

 どこまでも、白銀が支配する世界。

 まるで波のように連なる山々が、頂きを真っ白に化粧している。

  

 頂上ばかりではない。

 足下に広がる裾野もまた、染みのひとつすらない、白の一色だ。

 ただ、ひたすらに。視界のすべてがきらめく単色に埋めつくされた雪景色は、見る者の多くを圧倒させてやまない。

  

 そこに、小さな。

 ほんの小さな。さながら斑点のごとく、周囲とは異なる、何種類かの色。

 近づいてみれば、それは荷車の隊列ということが分かるだろう。

 そして、その部分だけが。巨大な手つかずのキャンバスのようにも思えた風景に、かすかな変化を与えつづけていた。

  

  

 

  ◇  ◇  ◇  ◇

 

  

  

「ランタナちゃん、見て見て! ほら、あっちの山も、こっちの丘も、みんなみーんな真っ白だよー!」

 

「雪! かき氷! なにこれ、いくら食べてもぜんぜん減らないじゃん! マヨネーズもソースも足りないじゃん!」

 

 

 ――右を見て。左を見て。

 場所が場所なら挙動不審と疑われかねないほど、落ち着きがないこと(はなは)だしい。

  

 国境を越えウィンターローズに入ってからというもの、前後左右にきょろきょろと首を振り、飽きずに何度も歓声をあげつづけているペポ。

 やわらかな陽光を浴びて乱反射する氷の芸術に目を細めつつ、興奮はいつまでも収まるところを知らないようだ。

 そしてまた、その隣ですっくと仁王立ちスタイルで、これまたペポと同様にはしゃいでいるランタナ。

 たまに足場が揺れて転びそうになったりするけど、そんなことを気にする様子すらどこにもない。

 きゃっきゃうふふと、さして広くもない一室の中の空気は、ふたりのおかげで底抜けに明るかった。

 

 

「……あんたたち。興味津々って気持ちも分かるから、あんまりうるさく言いたくはないけどさー」

 

 

 とはいえ、これだけ騒がれると。同行者が「やれやれ」といった気分になるのも無理はない。

 

 

「窓を開けるのも、まあいいわ。けど、身を乗り出しすぎて、客室から落っこちるのだけはNGだからね」

 

「はーいっ。心配してくれてありがとうございます、イオノシジウムさん!」

 

 

 ぺこりと小さくうなずいたものの、ペポの視線はすぐさま窓の外の銀世界へと戻ってしまう。

 

 

「……それにしても、ランタナちゃん。ウィンターローズへ来たのって、これがはじめてなの?」

 

「んー? わたし、宵越しの記憶は持たない主義だし。よく覚えてないやー」

 

 

 二頭立ての大型馬車が、十輌ほど。

 ペポたちが乗る四輪の幌馬車を先頭にして、その背後に複数の荷馬車が縦列でつづくといった格好だ。

 御者台でたくみに馬を操っているのは、地元であるウィンターローズの騎士学校に所属している見習い騎士。

 まだ見習いであるのに、こんな雪道でもまるで問題なく馬車を走らせることができる。雪景色と同じくらい、その技能の優秀さにも、ペポは驚かされていた。

  

 一行が向かう先は、ウィンターローズ国内の僻地に存在する村々。

 地図にすら載らず、よって国から恩恵を受けることもほとんど期待できないという、小さな村や集落のいくつかだった。

 

 ……けれど、そんな状況が変わるかもしれない。

 今回、ペポたちに与えられた任務。それというのが、そうした不遇の村に必要な生活物資を、バナナオーシャン公認のもとで輸送し届ける、というものだったからだ。

  

 ウィンターローズなら、ウィンターローズに所属する組織。バナナオーシャンならバナナオーシャンに所属する組織。

 と、その国に存在する騎士団や個人の善意によって行われるものとは、今回は大きく様相が異なる。

 他国の主導のもと、窮状にあえぐ遠方の村に手を差し伸べる。

 バナナオーシャンの王室みずからが物資の調達を手配し、支援という形で無償で供与する――というのが、今回の大きな目玉となっているのだ。

 両国間で正式に取り交わされ、その名のもとで行われる計画。それは、外交という行為につきまとう面子や打算といったものを超越した、過去には例の少ない挑戦的な試みといえるものだった。

 

 

「……アカシアさんたちって、本当にすごいなぁ。ね、ランタナちゃん?」

 

「……ほえ? お菓子にスイカさん?」

 

「ちがうよ! アカシアさんだよ!」

 

 

 国家の枠にとらわれない、長距離におよぶ物資の大量輸送。

 今回の任務の発案において大きな影響力を与えたのは、実はアカシア隊やオレンジ隊の活躍によるところが大きい……と、ペポは出立前に耳にしたのだった。

 

 

「アカシアさんたちがいなかったら、こんな大きな輸送隊が組めたかどうか分からないって話、ランタナちゃんも聞いてたじゃない」

 

  

 ――スプリングガーデンに住む人々に襲いかかる、果てのない害虫の脅威。

 絶え間のないその襲撃により、輸送や交易においての規模は、それが大きいほど達成の困難さに直結する、というのが一般論だ。

 花騎士にとって輸送隊の警固にあたるというのは、つまりは後方任務にすぎない。と、そのような認識を拭い去り改めることは、なかなか簡単な話ではなかった。

 前線で華々しく戦うほうが、どうしても脚光を浴びがちになる。となれば、功績を立てるのも騎士団への貢献を認めてもらうのも、やはり前線で活躍するに勝るものはない。

 また、そのような支援任務を優先した代償として、直接に討伐へと赴く花騎士の数が不足したらどうするのか。害虫を叩かなければ、そもそも輸送など不可能ではないか。

  

 ……そうした考えが根底を占め、主流となった結果。

 頼れる護衛力にそもそもの限界があり、ときに期待を下回る結果にすらなりかねない以上、物資を大量に扱うほどリスクは増大する――といった考え方こそが「常識」と見られがちという、そんな状況だったのだ。

 

  

「……うん。本当にすごいな、アカシアさんたちって」

 

  

 しかし。

 いつしか当然のこととして固着化しかけていたその概念を、強引ながらも打破するべく行動をはじめたのが、アカシア隊だった。

  

 自身が有力な花騎士でありつつ、専門の部隊として隊商の護衛や輸送任務を請け負う。そうして強力な護衛が確実に得られるという安心感が、活発な交易や物資の大量移送といった話を現実に結びつけることになっていく。

 かつてはまるで夢物語のようにすら思えたそれが、アカシア隊やオレンジ隊の活躍によって空想とは呼べなくなってきている。そして少しずつながら、彼女たちの存在は正当に評価され、注目を浴びるようになりはじめていた。

 そうした背景が、徐々に各国の上層部にも認知されるようになって……今回のような花騎士部隊の護衛による、公的支援プロジェクトとして大きく結実したのだった。

 

 両手の指を使い切らなければいけないほどの数の馬車が、連なるようにして街道をゆく。そんな姿なんて、今まで見たことがあったっけ?

 ――と、ペポは思う。

 

 認められつつあるとはいえ、今でもアカシア隊では充分とはほど遠い輸送量に甘んじざるを得ない場面が往々にしてある、といった噂も耳にする。とすると、今回のこの膨大な物資を見れば、羨ましがられるかもしれない。

 さすがは国家規模の計画と、あらためて驚かされる。そしてさらに、その護衛という重要な役目を自分が担っていることを思い返すと――ウィンターローズの雪景色に目を奪われながらも、ペポなりに何度も緊張をあらたにしてきた。

  

 ただ、同時に。

 もうひとつ、別の思いもまた、どうしても頭から振り落とすことができない。

 

 

「ヒメシャラさん……。村の人たちだって、きっと楽しみにしてくれたと思うんだけどなぁ……」

 

 

 個人的な支援ながら、例年、ウィンターローズの恵まれない辺境の村にクリスマスプレゼントをこっそり贈っていたというヒメシャラ。

 地道な彼女の活動を知る者は、決して多いとはいえない。だからこそ、その話を最初に聞いたときのペポは、なによりも強く感動したものだった。

 それだけに今回、この選抜メンバーの中に彼女の姿がないことに、寂しい思いがしてならない。

 

 

「代わってあげたかったなぁ。でも、気がついて探したときには、別の任務に出発しちゃった後だったし……」

 

「それとこれとは、話が別よ。きっとヒメシャラだって、そう納得してるはずだわ」

 

「……はい、イオノシジウムさん……」

 

 

 ペポの頭の上に、ぽんと優しく手のひらが置かれる。

 

 

「……気にしなくても、きっと大丈夫よ。聖夜祭は毎年、必ずやってくるんだしね」

 

  

 バナナオーシャンに所属する、この任務を割り当てられた花騎士は、つごう五名。

 ペポ、ランタナ、イオノシジウム。

 そして――

 

 

「……そういえば。イオノシジウムさんって、たしか、ウィンターローズの出身なんですよね?」

 

「ええ、そうよ。まあ、花騎士になって、バナナオーシャンに配属されることになって……」

 

「……その後、何度かふらりと里帰りをしてるんですよね、イオノシジウムったら」

 

「ちっがーう! その言い方だと、いかにも里心がついて、みたいなイメージになっちゃうでしょー!

 ……たしかにね。何回かこっちに戻って活動した、ってことはあるわよ? あるけどさー」

 

 

 ペポやランタナとは、向かい側となる座席。そちらで歓談するのは、今回の隊長役を務めるイオノシジウムと、それにサンダーソニアとグリーンベルの三人だった。

 五人の花騎士が、護衛の任に就きながら。そこにウィンターローズ所属の見習い騎士が二十名ほど、道案内および御者の役割を担って、輸送部隊はひたすら目的地に向かって進みつづけている。

 

  

「なあなあペポペポ~。仕事が終わったらさ、アレやろうよアレ!」

 

「アレってなあに、ランタナちゃん?」

 

 

 ペポの問いにランタナは片手を拳にして差し出すと、中に何かをぎゅっと詰めるような仕草をしたあとに、それをひょいっと空中に放ってみせた。

 

 

「うーん……おにぎり?」

 

「ペポのおバカー! 食べ物を放り投げるやつが、どこにいるんじゃーいっ!」

 

「うそうそ、冗談だってばー。雪合戦でしょ? いいね、やろうやろう~♪」

 

 

 任務が重要だろうと、そうでなかろうと。

 ペポたちはそれを失敗に終わらせることがないように、一生懸命にこなすだけ。

 

 そして、無事に完了したなら。

 ……そのあとは少しくらい遊んでも、きっと許してもらえるよね。うん。

  

  

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