初登場のプルモナリアとアンゼリカの2人をメインとしつつ、これまでの各章をつないだ総まとめ的なお話として、一部の花騎士たちを再活躍させてあげる予定です。
どうぞ最後までお付き合いいただけると幸いです。
6-1 プルモナリアとアンゼリカ、屋敷を訪れる
「はいどーも! 今日も今日とてナイスなバディに誰もが振り返る美少女オーラ。心洗われる清純ぶりとチャーミングな仕草が同居する天使・アンゼリカちゃんでーっす♪」
「……どうも。実家が葬儀屋を営んでるプルモナリアです」
「ちょっとちょっと、プルモナリアさん。テンション低いですよーそれじゃ。
つかみって知ってます? とっても大事なの知ってます? もっとテンションアゲアゲでいきましょーよー!」
「でも、これがいつもの私だし」
「まー、それじゃいいです、そのまんまで。陰キャが相方のコンビってことで人気を独り占めさせてもらっちゃいますから。
それで、えーっと。私たちは現在、とあるお宅の前に来てまーす。っていうか、立派なお屋敷じゃないですかこれ!?」
「うん、大きな洋館だよね。こんな家に住みたいとか、うらやましく思う人もいるんじゃないかな」
「おまけに庭付きですよ! すごい、ステキ!
ちょっとちょっとー。ここの持ち主は権力者さん? それともお金持ち? なんとかお近づきになれる方法ってありませんかねー?」
「さあ? あったとしても、お近づきになんてなれないと思うけど」
「ほほう? いいでしょう。なぜそんな断言がプルモナリアさんにできるのか、このアンゼリカ、ひとつ華麗に予想して当ててみせましょう!」
「だってこのお宅、完全に無人状態だし」
「まだ何も答えてないじゃないですかー! 回答時間プリーズっ!
……って、いやいや、それはともかくですね。いま、聞き捨てならないこと言いませんでした? 無人? 空き家? つまり、ちょっとお邪魔しても怒られない的な?」
「……普通に怒られると思うけど。でも、誰も住んでないのは間違いないよ」
「うーわー、もったいないー。もったいなさすぎですよー!」
「こんなに立派な建物なのにね。それが今はただ朽ちていくのを待つだけの、廃屋同然なんだからさ」
「ほんとにもー、なんですかそれ。このアンゼリカさんに言わせたら、ありえない的な?
でも、まー……場所が場所ですからねー。これもやむなしといいますか、仕方がないのかも?」
……自分のテンションとはだいぶ異なるアンゼリカからのボールを、適当に打ち返しながら。
あらためてプルモナリアは、周囲をぐるりと見回してみた。
見事なほど、なにもない。
畑や田んぼ、そして手入れのされていない草地が延々と広がり。はるか遠くの地平線上には、背の高い木々と細長く伸びる山脈の姿を望むことができる。
そのなかに、一本だけ道が見えた。それはこちらへ近づくほどどんどんと太さを増し、やがて重要な街道として街の城門へとつながっていることに気づくだろう。
城壁を越えた街の外ならば、こんな光景もおかしくはない。時間の流れが減退しているかのような錯覚さえ抱かせる、のどかな風景があるばかりだ。
――城壁という、堅固な鎧で護られた街。
その外側に家を建て、さらに定住するというケースは、数少ないものの決してゼロではなかった。
街の人口が増え、同時に居住区域が拡張されていく。
それは街が発展しているという証拠であり、悪い話ではない。
しかし、豊かになればなるほど、街全体で消費する物資の量もまた増大することになる。
その結果、生産エリアもまた拡大を必須とし、早急の整備が求められるのは当然の成り行きだろう。街の安定と維持のためには不足のない物資の供給が不可欠だからだ。
害虫の脅威にさらされながらも、街は長い年月をかけて少しずつ成長していく。
成長の裏に花騎士たちの活躍があることは、疑いようがない。彼らの努力によって街の周辺の治安が確保されるようになれば、生産の基礎たる農地として活用できる土地が一気に広がるからだ。
農業にはどうしても、まとまった土地が必要になる。
そのため城壁の外側に広がる未開拓の土地は非常に魅力的に映ったし、花騎士の活動に合わせて実際に開墾も行われるようになっていった。
そうして、一歩ずつ。打ちつける水が、やがて岩をも削り取るように。
街を囲む城壁の一部は外縁部のさらに外側へと拡幅を繰りかえし、同時に農業エリアも中心地からより離れた場所へと移されていく。それまでの田や畑には新興住宅が建設され、あるいは新しい工房が並ぶ区域へと生まれ変わらせるために。
だが、ここで――
大きな環境の変化に直面したのは、農業で生活を営む人々だった。
それまで何代にもわたって街の中心部で長く暮らしてきたのが、だんだんと彼らの仕事場である農地が遠い場所に離れてしまったのだ。
農具をかつぎ、来る日も来る日も城の外の農地まで、時間をかけて行き来せねばならない。
こうして……少しずつ住居を郊外へと移す者が増え。さらにはリスクを承知のうえで、あえて危険を冒して農地にほど近い城壁の外側で暮らすことを選択する人さえ現れはじめた、というわけだった。
「それでですね、ものは相談なんですが……。
なんならこのアンゼリカさんがお屋敷をそっくり引き取る、というのはどーでしょーかねー?」
とはいえ、城壁の外側で自由に家を建てられるわけではない。
安全が保証された場所はどこにも存在しないにしろ、比較的それに近い場所のみに限定されているのは当然のことだろう。
基本的に普段から往来のある主要街道に沿った場所か、あるいは花騎士の定期的な巡回が得られて比較的平和が保たれている場所。そうしたところが候補地だ。
今回訪れることになった屋敷も、その点はきちんと守られている。
害虫の襲撃に見舞われたことは過去に何度かあったらしいものの、近くの城門から街の中へ機敏に逃げこむことで、うまくかわしつづけてきたらしい。
そのうえ、ここ最近はなんとか平穏に過ごしていたらしいということを、事前に得た情報で知っているプルモナリアだった。
「休日は郊外の別荘でバカンス! う~ん、いいヒ・ビ・キ♪ ボロいところは修繕とかリフォームとかしてですね。あ、みなさんで力を合わせて費用はゼロに、これ大事ですからね!」
今回、団長から託された任務。
こちらから説明を受けるようにと言われているのか、
任務内容について一部は正しく洞察しているものの、別の部分で大きく誤解しているような気がしてならない。彼女の言葉を聞いていると、そんな思いがどんどん膨らんでしまう。
団長の指名を受けて、はじめて組むことになったパートナーに感づかれぬよう。プルモナリアはそっと、ひそかにため息をついた。
「……空き家だけど、誰もいないわけじゃない。今回はその人たちに、ご挨拶と少し話をさせてもらおうと思って来たわけだし」
「え、どゆことです? って、あー……」
そこまで言って、ピンときたように納得するアンゼリカ。
「アンゼリカさんもおばけが見えるんでしょ? 偉い人から聞いたよ。だから選ばれたってわけ」
「いやまー、そりゃ普通に見えるっちゃ見えますけど。って、プルモナリアさんもですか!?」
「うん」
こともなげにうなずくプルモナリア。
するとアンゼリカは「またかー」と、額に手を当てて軽く天を仰いだ。
「正直困るんですよねそういうの。珍しい能力のように見えて実は幽霊見える花騎士けっこういるんです、とか。アレですよ、営業妨害的な? キャラ被り多すぎじゃないですかねー」
「キャラ被り、とか言われても」
「アンゼリカさんはですね、美貌も特殊能力も唯一無二の究極生命体であるはずなんですよ。
想像してみてください。世の中美少女だらけになったらお金持ちを一本釣りするにもライバル多すぎて困りますよね、主に私が。それに世の男性だってありがたみが感じられなく……あれ、っていうかそっちは少しも困らない?」
たしかに似たような能力を持つものの、性格的にはむしろ正反対というほかないだろう。
アンゼリカの望みなどプルモナリアにはしょうもない話としか思えないし、ひとつひとつのリアクションが大きいアンゼリカに対して、プルモナリアは表情すらあまり変わることがない。
「葬儀屋の娘だからね。おばけなんて普通に見えるし会話もできるよ。……それに」
「……それに?」
「あっちの世界が見えたり聞こえたりするといっても、やっぱり個人差があるから。わたしはしょっちゅう接してるから自信あるけど、アンゼリカさんはそうでもないでしょ?」
「ん~、そうなんですかね~? まーそこらへん、あまり深く考えたことがない的なカンジではありますけど……」
「……たとえば、ほら。そこ、アンゼリカさんのすぐ横にだって、3人のおばけが立ってるし。じっとこっちを見てるけど?」
「ひっ! って、私見えてないのにー!? どゆことどゆこと、誰か盾になってー!」
「……冗談だよ?」
なるほど、こうやって
油断するとトラブルメーカーになりかねないアンゼリカの扱いをちょっとわかった気がするプルモナリアだった。
いわゆる、幽霊屋敷というやつだ。
本来誰もいないはずなのに、妙な気配を感じることがある――
そうした話は、ひとつきりでなかった。調べてみると近くの街道を通りがかった農民や商人のうち、複数の口から同じような言葉が飛び出したのだ。
噂の発生時期は、実はそれほど古くはない。それになにより、それまではちゃんと住人が存在していたことは、周辺の巡回任務にあたったことのある花騎士なら誰もが知っている。
建物のいくつかの部分に補修された跡が見えた。元の住人は、きっとこの屋敷を大切に扱ってきたのだろう。
かつてはきちんと手入れがされていたと思わせる庭の草も、しかし今は自由とばかりにあちこちで背を伸ばしはじめている。
まだ廃屋と呼ぶには少し早いかもしれない。けれどこのままでは遠からずそう呼ばれるようになるのは、誰の目から見ても明らかだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「おじゃましまーす……」
屋敷の扉を開け、建物の内側へと足を踏み入れる。
さすがにこのときばかりは2人とも注意深く、また面持ちも神妙なものになっている。
静寂に満ちた屋敷の内部は、昼間であるにもかかわらず薄暗かった。
プルモナリアとアンゼリカのかすかな息遣い以外に、音らしい音もない。
「うー、ちょっとカビくさいですかねー」
プルモナリアのやや後方に陣取ったアンゼリカが、顔をしかめながらパタパタと手を左右に振る。
薄暗くはあるものの、気をつけながら歩を進めれば移動はさして困難ではない。ただ空気は重く淀んでいて、噂はどうやら本当のようだとプルモナリアは判断した。
「屋内なら外よりもマシかな~、と思ってたんですけど。これはやっぱりアレですかねー。一度みなさんの手で、しっかり掃除をやってもらった方がいい的な」
「そうだね。でも、みんなにやってもらうとして、そうしたらアンゼリカさんの仕事は?」
「やだなーもー。ほら、現場監督という大事なポジションがあるじゃないですかー。あ、ちゃんとプルモナリアさんにも現場副監督という立場を用意しますからね、ご心配なく!」
「……アンゼリカさんって、害虫討伐に失敗して部隊が全滅しても、なぜかひとりだけ生還しそうだよね」
「あ、わかります? わかっちゃいます? やっぱりこう、他の人とは違うなにかを持ってますよね~、私ってば♪ いやー、ハイパー美少女すぎてつれーわー」
……あるいは仲間たちに見放され、真っ先に犠牲者となってしまうタイプ。
ぽそりとプルモナリアはつぶやいたものの、当のアンゼリカの耳には入らなかったようだ。
「それはともかく。……あれ、見える……?」
屋敷全体の構造は、おそらく一般的なそれと大差はなさそうだ。
たっぷりとした広さを誇る玄関ホールと、左右には直線的に両翼へと延びる廊下が姿をのぞかせている。
そして、中央部の奥。優美な曲線を描いた手すりが扇状に広がりながら二階に至る踊り場へとつづく、大階段。
その一角を指差しながら……プルモナリアは、アンゼリカの反応を待った。
「……あー、いますねいますねー。めっちゃ見られてるし、明らかに気づかれてますよね。まー当然といっちゃ当然でしょうけど」
「話し合いとか交渉は、こっちに任せて。ただおばけが見えるだけで、安易に深く関わろうとすると……いろいろあるから」
「いろいろ、ですか? たとえば?」
アンゼリカの問いに、プルモナリアはかるく首をかしげつつ。
「本当にいろいろだけど……やっぱり定番は魂を持ってかれちゃう、ってのだよね。まあ、アンゼリカさんがあっちの世界で人気者になりたいっていうなら、わたしは止めないけど」
「いやいやいや、そんなわけありませんって。ゴージャスな生活もまだ経験してないですし、この世のお金持ちさんを悲しませちゃうじゃないですか。こ~んなにピュアで清純さMAX的な乙女がいなくなったら、そりゃーもー」
「……身も心も煩悩に極振りしてるくせに」
「なにか言いました、プルモナリアさん?」
「ううん、なにも。いずれにしても、深い理由もなくただ見えるってのはさ、本質的におばけに好かれてるんだよね。……だったらさ」
「だったら……?」
「生きてる人と違わない。好きな相手とは、ずっと一緒に暮らしたいよね。この世でなくても、地獄でだって……」
「そそそ、そんなのイヤですってー! でもプルモナリアさん、そっち系じゃガチなわけだし。あれ、それじゃ私的にヤバいっぽい? ほんとこれ、触れちゃいけない案件とかじゃないですよねー!?」
「冗談だよ?」
ちょっと面白い。
出来心でやってしまったけれど、プルモナリアが差し出す手玉にあっさり乗っかってくるアンゼリカ。
大きめなリアクションとともに周辺のホコリを吸いこんでゴホゴホと咳きこむ彼女の背中を軽く叩いてやりながら、プルモナリアはついそんなふうに思ってしまった。
ともあれ、自ら進んで関わろうとしなければ、災いが降りかかってくることはそうないはずだ。
……しかし、今回はこちらから関係を持たねばならない。
やがて、同じことを繰り返さないよう念を入れつつ肩で息をするアンゼリカを尻目にしながら。
余計な刺激を与えぬべく意識的にゆっくりとした動作で、プルモナリアはそれ――屋敷の住人とおぼしき幽霊、のそばへと歩を進めた。
「……こんにちは。はじめまして。花騎士のプルモナリアといいます」
臆することなく目の前に立つと、深く一礼する。
霊の数は、二体。
両者の体格はかなり異なっており、ひとりは初老の男性、もうひとりはまだ幼い男の子といった感じだ。
おや、とプルモナリアは内心で首をかしげた。
老いた男性の霊は、噂となっている――先日亡くなったというその本人と見て間違いないだろう。
けれども子供の霊がいるというのは、まったく聞いていない。完全に想定外だ。
「急にお邪魔してしまって、すみません。このお屋敷の住人……いえ、もと住人の方たちですよね?」
ともあれ、語りかけぬことには何も始まらない。
生きている人間が相手のときと、まったく違いはない。相手が幽霊であっても、涼しい顔で話を進めるプルモナリア。
2人の幽霊はというと、最初、突然現れた侵入者たちに、戸惑いと警戒感をあらわにしていたように思う。しかし花騎士と名乗ったとたん、それらの雰囲気は嘘のように霧散してしまっていた。
「今回こちらにお伺いしたのは、聞いてほしいお願いがあったからなんです」
害意は認められないものの、幽霊たちが何を思っているかまではわからない。
それでも迷うことなく、プルモナリアは一気に核心を告げた。
「この場所と、そしてこの建物。その2つを、わたしたちの騎士団に譲っていただけませんでしょうか……?」
まずは今回初登場となる2人からスタートです。
お話のきっかけは、プレイしていてふと思った疑問からでした。ウィークリー特別任務をはじめマップをよく眺めると、街を囲む城壁の外側に住居らしき建物があったりするんですよね。
カトレアのような花騎士なら人里離れたお屋敷に住んでてもおかしくはないけれど、「なんでこんなとこに普通に人が住んでるんやろ?」と気になり、あれやこれやと秋桜を重ねるうちに、今回のお話にたどり着きました。
まだまだ始まったばかり。現在の構想としては、おそらく6-10プラス1つか2つ、そのくらいの長さになりそうです。
年内にはなんとか完結させるべく頑張っていきますので、どうか最後までよろしくお願いいたします。
―追記―
アンゼリカの特徴といえる語尾(たまに出てくる)ですが。「~てきな(ログボ等)」と「~的な(イベントテキスト)」と、ひらがなだったり漢字だったりと、どちらかに統一はされていないようです。
かといって本作でも同じことをすると読みづらくなりかねないと考えた結果、「~的な」で統一することにしています。ひらがなよりも漢字のほうが読みやすいんじゃないかな的な?