FLOWER KNIGHT LEAF   作:藤宮ぽぽ

19 / 29
前回で序盤は終了。ここから中盤に入っていきます(でも今回はちょい短め)。


6-3 出撃前夜1(イオノシジウムの憂鬱)

「ふーん。なるほどねぇ」

  

 

 ぱりぽり。

 自室のベッドの上でうつぶせになり、秘蔵のお菓子を口に運ぶ。

 さらにはふんふんふ~んと鼻歌をまじえながら、お気に入りの本のページをめくっていくイオノシジウム。

 その姿は、誰が見ても行儀がよいとは言わないだろう。

  

 気分はすっかりくつろぎモード。完全に、見事に、これ以上ないほどのだらけっぷりだ。

 ときおり、意味もなく両足をバタバタさせてみる。

  

 

「……下着、見えますよ?」

  

「なーに、グリーンベルったら。あたしのパンツに興味あるわけ?」

 

 

 グリーンベルが肩をすくめ、やれやれと首を振る。

 彼女の言うとおり、動きにつられて膝丈ほどのスカートが大きくめくれあがっているのは自分でもわかっている。

 でも、まったく気にならない。だって自分の部屋だもの。

  

 

「というかさー。あたし今日はオフなんですけどー? 任務だとか鍛錬だとか、そーゆーのを堂々とサボれる貴重な時間なんですけどー?」

  

 

 働かざること山のごとし。働いたらそこで休日終了ですよ。

 

 数少ない安息日。待ちわびていた一日だ。

 イオノシジウムでなくとも、休息のために用意された時間だからこそ、自由気ままに過ごしたいと思うものだろう。

 何をしてたって、今日ばかりはどこからも文句を言われる筋合いはないはず。そんな日のはずだ。

  

 

「出立は明後日。ということだから、なるべく早く伝えたほうがいい……そう思ったんだけど?」

  

「まー、そりゃそうだけどさー……」

  

「私だってせっかくのオフの日にこんな話をしたら、あなたがどんな顔をするかくらい簡単に想像できるわよ。短い付き合いじゃないもの」

  

 

 イオノシジウムに課せられた、新しい任務。

 それは、団長みずからが赴く遠征任務に、彼女も戦力として同行することだった。

  

 

「……で。あんたはそのあいだ何をするの、グリーンベル?」

  

「私は留守番よ。他の副団長格の何人かの花騎士と一緒にね」

  

「はあ……。そっちのほうが、いくらか楽かしら。貧乏くじを引かされちゃったかも」

  

「……いざというときは、残留メンバーを指揮しなくてはなりませんけどね。団長様やあなたが不在にしている間も、日々の活動が変わることはないのだし」

  

「そりゃ、あたしたちがいないからって、こっちの害虫までいなくなるってことはないもんね」

  

「あなたには言う必要もないことだけど、責任重大よ? おまけに団長様の裁可を仰ぐまでもない書類の整理と処理。なんなら入れ替わるよう、これから団長様に相談してみる?」

  

「……ごめん。やっぱ大人しく遠征任務に行くわ、あたし……」

  

 

 グリーンベルの反論を受けて、イオノシジウムはあっさりと白旗を揚げた。

 

 イオノシジウムたちをはじめ、多くの精鋭クラスの花騎士を擁する騎士団。

 日々の害虫との攻防では常に目覚ましい戦果を挙げ、鉄壁のごとく盤石な体制は多少のことでは揺るぎそうにない。

 

 今回の遠征および討伐任務は、その騎士団を率いる団長からの発案なのだという。

 たしかにここしばらくは出現する害虫の規模や被害も小さなものにとどまり、比較的平穏な日々がつづいている。

 おまけにその状況が短時日のうちに変化するような兆しも、特に見られない。

 だからこそ――

 所属する花騎士を分割して、管轄外の場所にまで数日ほど赴く余裕も生まれているわけだ。

  

 

「んー。でも、ちょっとだけ不思議なのよね」

  

「……何がですか?」

  

「人選が、よ。もちろん害虫討伐ってことなんだし、あたしが選ばれたっておかしくはないわよ? でも今回は、それだけじゃないんでしょ。他にも目的があるって話じゃない?」

  

 

 騎士団があらたな拠点候補地として目をつけた、城外の屋敷。その元住人。

 すでに命を失っているはずの彼らが現世に執着する、そのわだかまりについて少し調査をしたい、というのも大きな目的のひとつになっている。

 

 

「そっち方面はさー、ほんっとお手上げなのよね。あたしじゃどうすることもできないし」

 

 

 幽霊などといった不確実な存在がかかわるならば、助手なり調査員なりと期待されても困る。

 あえて言ってしまえば……自分でなくても、他にもっと適任な者がいるはずだ。

 たとえば。とある任務で先日ウィンターローズへの旅路をともにした彼女など、イオノシジウムから見ても信頼できるし最適なメンバーのひとりだろう。

 太鼓判が必要というなら、いくらでも押したっていい。押しまくって、晴れて自分はお役御免だ。

 

 しかし。イオノシジウムの表情からその考えを的確に察したグリーンベルは、小さくかぶりを振った。

  

 

「ペポさんと、それにランタナさん。あの2人なら、別の任務が入ってるわ。そちらも外せない案件みたい」

  

「あら、残念。……それにしても、なに? あんたの頭の中には、花騎士全員のスケジュールまで詰まってるわけ、グリーンベル?」

  

「そんなこともないけど……。でも、せめて一度組んだことのある人の予定くらいはね」

  

「はー、やっぱすごいわ。あたしじゃとても真似なんかできないわー」

  

 

 几帳面すぎるというかなんというか、あいかわらずよね。

 感心が半分、呆れが残りの半分。心のうちでそう思うものの、とはいえそんなグリーンベルの堅実さに、自分の管理さえおぼつかないイオノシジウムは何度も助けられていたりする。

  

 

「……ま、あれこれ考えても仕方ないわよね。とにかく、団長さんがあたしを選んでくれたのは間違いないんだし……」

  

 

 もぞもぞと、ベッドに埋もれっぱなしだった身体が少しずつ動きはじめる。

 しばらくそんなことを繰りかえしながら――ゆっくりと、イオノシジウムの身体が起き上がった。

 

 

「概要はまあ、わかったわ。昨日団長さんからの簡単な説明もあったしね。……で、具体的な作戦会議はいつ開かれるの?」

 

「今夜よ。参加する花騎士全員を集めて、食堂で開かれることになっているわ」

 

「うーわー、なによそれ。ということはなに、あたしの休みは丸一日もないってわけ?」

 

「安心して。あなただけじゃないけど、参加メンバーは全員、作戦開始まで自由行動になるそうよ。つまり明日も好きに過ごせるわけで、よかったじゃない」

 

「それ本当!? ふふーん、さすがは団長さんよね。わかってるじゃない♪」

 

 

 団長さんってば、アメとムチを使い分けるのがうまいんだからー。

 明日ものんびり過ごしてオーケーということなら、今晩の作戦会議くらいはまあ目をつぶろうじゃないの。

 

 そして……となれば、次はこちらの番だ。

 自分がすべきことといえば、言うまでもない。団長から寄せられる信頼と期待に全力で応えること。

 つまりは花騎士として、恥じることのない戦いをすることだ。

 

 

「……ずっとこうしたままってのも、ちょうど飽きてきたところなのよね」

 

 

 ベッドから降りると、スカートのしわを伸ばすように軽く叩く。

 名残り惜しいけれど、お菓子袋の封もぎゅっと紐で結んだ。

 いつまでものんびりできる無限休日編も最高には違いない。けれどもまた、少しくらい気分転換するのも悪くない。

 要はメリハリだ。だらけ方改革だ。

 

  

「いいんですか? せっかくの休日なのに」

 

「って、あんたが焚きつけたんでしょーが。ま、ちょっと訓練場で身体を動かしてくるだけだし」

 

 

 素直ではないものの、やる気を見せたイオノシジウム。そんな彼女に、しかしグリーンベルは珍しいなどとは口にしない。

 親しい友人として、普段の言動はどうあれ、ちゃんと人並みに彼女が鍛錬を重ねていることを知っているからだ。

 

 実のところ、促すまでもないのだ。

 やるべきことはしっかりと終えている。グリーンベルすら、そうと気づかぬうちに。

 それがイオノシジウムという花騎士なのだから。

 

 

「準備運動くらいはやっとかないとね。そうでしょ、グリーンベル?」

 

「ふふ、そうね。せっかくだもの、団長様にもいいところを見せないとね」

 

「な、なに言ってんの!?」

 

 

 ……思わず、声が大きくなる。

 

 まるで狙いすましたカウンターのような、グリーンベルの一言。あまりに不意打ちすぎて、つい過剰に反応してしまった。

 こんなときに見せる付き合いの長い親友(グリーンベル)の表情はきっと、イオノシジウムとカタバミ以外に知る者はいないに違いない。

 

 

「そんなの、あたしが気にするわけが……まあ、ないって言ったら嘘だっての、どーせあんたにはバレちゃうんだろうけど」

 

 

 けれど、こういう真面目一辺倒ではない彼女の性格だからこそ、イオノシジウムも心を許すことができるのだとわかっている。

 

 

「でもね。あたしが気に入ってるのは団長さんだけじゃなくて、この騎士団そのものが、なの。そこんとこ重要だからね?」

 

「ふふ、同感です。居心地のよさを感じているのは私も一緒よ、イオノシジウム。であればこそ、留守居役をしっかりと務めるつもりですし」

 

「……ま、それじゃ干されて居場所を失ったりでもしないよう、せいぜいお互いに頑張りますか」

 

「ええ。……この騎士団が、これからもずっと私たちの帰る場所であるために、ね」

 

 

 そう言って微笑むグリーンベルの肩を、イオノシジウムは軽く叩いた。

 

 この気の合う友なら、後方守備という大役を見事に果たしきってくれることだろう。

 そしてまた遠征任務は、自分が加わる以上かならず成功させてみせる。幽霊の件についても団長の人選に任せていれば問題ないだろう。

 

 憂うことは、何ひとつない。

 

 

「あたしたちの知らないとこで威張ってるらしいけど、そんな害虫たちに知ってもらわないとね」

 

「ええ。頼んだわよ、イオノシジウム」

 

 

 ともに部屋を出て、グリーンベルとは別の方向へ歩き出す。

 背中越しに届いた彼女の声に、イオノシジウムは片手を軽くあげて応えた。

 

 

「任せて。『せいぜいお山の大将にすぎない』ってこと、きっちり教えてくるわ」

  




この6-3から6-6までの4話ほどは、"出撃前夜編"といった感じでしょうか。
第一章~第五章で活躍した花騎士が再登場し、それぞれ遠征任務に旅立つ直前の様子が描かれていきます。
いよいよとなる遠征開始は6-7からの予定。どうぞ、しばしお付き合いいただければ嬉しく思います。

次回の登場花騎士はヒメシャラ。ベルゲニアもちょろっと出てきます。

また前回、はじめて設置しましたアンケート。
そちらにお答えくださった皆様、ご協力ありがとうございました(深謝)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。