空に浮かぶは大きい雲(ありふれ世界編) 作:あろえよーぐると
中村恵里について…高校一年生時、光輝に近づくメス犬を密かに処理してたせいで元々纏わり付いた負の念が多くなっていき、強い負の気配を感じた妖怪複数とエンカウント。
異界に連れ込まれ必死に逃げるも少しずつ怪我を負わされて力尽きその場で倒れる。終始、光輝の名前を呼んで助けを求めるが来るはずがない。
自分のこれまでの人生を振り返り、最悪な人生を与えた世界に呪詛を吐く直前に間に合った歩太に助けられた。圧倒的な力を持って妖怪達を屠る歩太の姿に目を奪われる。歩太は救助に遅れたことを謝罪して相手の方を見ると同じクラスの女子だと気づいた。恵里の方も同じクラスの歩太に助けられたことに気づき驚く。
治療をしつつ恵里の身体に異常が無いか確認した後、歩太は記憶処理をしようと考えていたが問題が発生。
恵里の身体から霊力が漏れており、負の念も纏わりやすいことが分かった。このまま放っておくとまた襲われるために、そして素質があったので陰陽師にならないかとスカウトすることに。
そして紆余曲折あって歩太とリニスの家に弟子として居候することになった。二人と過ごしていく恵里はもう味わうことのない家族の温もりに触れることに。また、非日常が日常となった日々を過ごすこともあり、結果的に光輝のことはどうでもいい存在になった。
なぜなら本当に自身を守ってくれる存在と出会えたから。
◆◆◆◆
「グゥオオオ!?ガァアっ!……ガアァ……グゥォ……」
ベヒモスは歩太にガチガチに固められ身動きできず、その隙に恵里によって意識を飛ばされた。歩太はメルド達騎士団と光輝達を魔法で回復させた。
「天恵よ 遍く子らに癒しを──〝回天〟……。後はこのまま暫く維持するだけだな」
「ねぇ、アユ君。この下に飛び降りるって本気?冗談だよね?」
「恵里。出会ってから一年が過ぎたことだし次のステップアップしてみようか」
「えっ?」
「
「……だから?」
「奈落に一緒に行くから」
「直前に言うのやめてくれない!?」
歩太は恵里を弟子にしてから普段の修行はどういった内容なのか事前に伝えたりするのだが特別な修行を行う際は臨機応変を心掛けられるようにいつも直前に言っている。想定外の事が起こるなんてこの業界では日常茶飯事だ。実際、歩太も師匠の鶴子に何も告げられず疲れきって寝ている自分を富士の樹海に放り込んだりされた。死の危険で目を覚めさせられるなんてあの師匠本当に容赦ない。弟子なら大丈夫だと信頼しての試練なのだろうが。
それに比べて自身は弟子に対して甘いとと歩太は考えている。
「じゃあ恵里、打ち合わせ通りに」
「もうっ、やればいいんでしょ!」
◆◆◆◆
「出雲…それに恵里も……」
光煇は自分が助けられた相手を見て唖然とした声を出した。他の助けられたメンバーも驚いているが歩太は無視して全員を急かす。
「ここは自分と恵里で引き受けますんで早く撤退を」
歩太の冷静な言葉に光煇達は現状を思い出し素早く行動に移ろうとするも戸惑いを隠せない。
「いきなりなんだ?なんでこんな所にいるんだ、出雲!恵里も巻き込んで君は正気か!ここは君達がいていい場所じゃない!俺達に任せて恵里は早く……」
「そんなこと言っている場合か!あれが見えないのか?皆、パニックになってる。導くリーダーがいないからだ!」
光煇の中で歩太は物事に消極的で言い訳ばかりするイメージでいつもとのギャップに思わず硬直する。
「俺とリニスである程度落ち着かせたがそれだけじゃダメなんだ。皆を導き、助けるにはお前しかできないんだよ!」
歩太は光輝の胸ぐらを掴みながら訴える。光煇が階段の方に視線を向けるとトラウムソルジャーに囲まれ、未だ右往左往しているクラスメイト達がいた。
効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。
「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのは天之河だけだ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見ろ!メルドさん達も早く皆の所へ!」
「光煇君!それに皆!ボク達も頑張るから早く鈴達を助けてあげて!」
歩太と恵里の言葉に光煇は今守るべきものを理解して頷く。額から汗を流しながら今にも目覚めそうなベヒモスを必死に抑えている歩太を見てメルドは確認する。
「……やれるんだな?」
「「やります」」
確固たる意志を宿した眼を真っ直ぐ向けてくる歩太達にメルドは笑みを浮かべる。
「くっ。まさか、お前さん達に命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「「はい!」」
光煇達とメルド達は階段に向かう。
階段にいる生徒達は何とか連携して敵を倒しているものの、如何せん出現するスピードが速く徐々に劣勢を強いられていた。騎士達の奮闘もあり、誰も脱落している者はいないがそれも時間の問題である。自分の運命を悟り諦めの境地に立たされようとしていた。
「──〝天翔閃〟!皆、諦めるな!道は俺が切り開く!」
そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づく。
「お前達、今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか、馬鹿者共が!」
皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。そしてついに包囲網を突破した。リニスは密かにトラウムソルジャーが出現する魔方陣を少しずつ壊していたのでこれ以上増えることもない。あとは橋でベヒモスを抑えている歩太と恵里が下がれば完璧だ。
「お前ら!今、坊主達がベヒモスを抑えている!ここまで逃げる時に抑えが無くなりベヒモスが坊主達を追ってくるだろうから魔法で援護するぞ!タイミングは俺が指示する!」
「出雲君!恵里!こっちはもう大丈夫だから早くそこから離れて!」
八重樫雫は歩太達に離れるよう大声で伝えた。歩太達の周りには魔力の回復薬の空瓶が何本も転がっている。クラスメート達は歩太達の献身に感動して雫に続き次々と声をかける。
歩太達は少し足元が覚束ないまま階段に向かって走る。
「グォォオオオオ!!」
ベヒモスは枷から解放されて雄叫びを上げた。自身を縛り上げた相手が走って逃げているのを確認するとその場で地団駄を踏み怒りの咆哮を上げ歩太達を追いかける。赤熱化した角を掲げて突撃、跳躍して歩太達を飛び越え逃げ道を塞いだ。もう魔力が残ってないのか歩太達は悔しそうな顔をしている。
「くっ、仕方ない!お前達、しっかり狙え!決して坊主達に当てるなよ──放てっ!!」
メルドの声にクラスメート達は次々と準備していた魔法をベヒモスに向ける。流石のベヒモスも集中砲火には耐えられないのか苦痛な叫びを上げる。そして断末魔のような声を出して倒れるのであった。
「良くやったぞ、お前達!」
メルドがそう言うと皆はこの絶望を乗り越えたのだと歓声を上げた。
「恵里、もう大丈夫だ。早く此方へ来るんだ」
「エリリン、イズッチ、お疲れ様っ!あとは鈴達に任せてゆっくり休んで」
「出雲君、恵里。あなた達のおかげで助かったわ。本当にありがとう」
光煇、谷村鈴、雫が声をかける。歩太達は緊張の糸が途切れたのかその場でしゃがみ、苦笑を浮かべながら手を振る。リニスはそんな二人を見て微笑む。
これで危機は去った。誰もがそう思った時、死んだはずのベヒモスが動き出した。
「ガァアアア!!」
その死に体な身体を持ち上げ瞳を血走らせて歩太達を見ていた。
「なん、だとっ!?」
「どうして!?」
「二人とも早く逃げてっ!」
ベヒモスは頭部の角を再び赤熱化させてその頭を歩太達に向けて振り下ろしす。歩太は動けない恵里を抱えて何とか避けるも衝撃の余波で恵里ごと吹き飛ばされた。ピクリとも動かない歩太達。ベヒモスは最後の力を振り絞らんとばかりに近付いていく。
そんな時、橋が大きな音を立てる。ベヒモスの巨体に見合う重量、クラスメートの魔法による集中砲火、再び起き上がったベヒモスの渾身の一撃…それらの衝撃によって橋の耐久が限界を超えて崩壊していく。リニスは歩太達を救うべく向かおうとするが光煇に止められる。
「歩太っ!恵里っ!離して下さい!今、助けないとっ!今、向かわないと間に合わないのです!!」
「橋が崩れるぞ、このままではここも危ない!早く階段の奥まで走れっ!」
「いやっ!離してっ!離して下さいっ!」
メルドの声にクラスメート達は急いで走り、事なきを得たがその間に橋は崩壊の速度を上げて歩太達は奈落に墜ちていった。
「あっ……歩太───ァアアアア!!!」
歩太達は奈落の闇へと消えていく。リニスはその瞬間を見て絶望の声を上げた。
「助けないと……はやく、たすけないと……」
「離してっ!エリリンがっ!鈴は行かなきゃ行けないのっ!!」
身体から生気が抜けたようにふらふらと定まらない瞳を奈落に向けて動かすリニス。鈴も親友の恵里を救うために先ほどから騎士達の抑えを振りほどこうと力を入れる。
「リニス!鈴!君達まで死ぬ気か!恵里達はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、体が壊れてしまう!」
「ムリじゃないもん!エリリンもイズッチもまだ生きてるもん!だから邪魔をしないでっ!」
「二人はもう助からないっ!現実を見るんだ鈴!」
「そんなの知らないよ!早くそこを退いてっ!」
光煇はリニスから離れて鈴と向き合って説得していた。リニスは橋が途切れた場所までゆらりと歩いていく。そんなリニスを雫は抱き締めた。彼女がどれほど歩太のことを想っているのか良く分かっているため慰めの言葉が浮かばない。
あの時、自分達が早くメルドの指示に従っていればこんなことになっていなかったと悔やむ。
「リニス、ごめん、ごめんなさい……」
小さく何度も歩太の名前を呼ぶリニスに涙を流しながら謝ることしかできなかった。
歩太「リニスの女優っぷりに驚愕。うるっときた」
恵里「リニスさん、超ぷりてぃ。抱き締めたい」
リニス「そんな褒めすぎですよ、二人とも。歩太だって必死な顔を取り繕ってるのは演技とは思えなかったほどでしたし。恵里だって絶妙なタイミングでベヒモスの死体を動かしていたじゃないてすか」
歩太・恵里「「いや~、照れる」」
以上、三人の脳内会話でした。