影大名~徳川家康の影武者、主君の跡を継ぎ天下を臨む   作:ひいちゃ

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陸の章~徳川の危機:第二次長浜合戦

 長浜城の門前、そこに馬に乗った世良田二郎三郎と本多忠勝、井伊直政、そして彼らに率いられた徳川軍が勢ぞろいしていた。

 その二郎三郎のもとに、新たな物見が駆け付ける。

 

「大殿、織田軍が領内に侵入しました! すでに一つの集落が奪われた模様!」

 

 その報告をうなずいた二郎三郎は、顔を自らの忠臣であり盟友でもある忠勝、そして直政に向ける。

 

「よし、では出陣する。忠勝、直政。この戦いは時間が勝負だ。豊臣軍が城に迫る前に織田軍を追い払い、城に戻らなくてはならん。少数だからと言って油断するなよ」

 

 彼の言葉を受けて、忠勝たちもうなずく。

 通常であれば、この場合、城の兵と出陣している軍勢とで挟み撃ちにするのが定石。だが、長浜城は落城したばかりで、十分に修復がされておらず、兵力もほとんどない状態のためその定石はとれず、城の外で豊臣軍を迎撃する手しかない。そのことを二人とも十分に理解していた。

 

「心得ておる」

「お任せあれ」

 

 二人の返事を聞いた二郎三郎は表情を引き締め、号令を下した。

 

「よし、出陣!」

 

* * * * *

 

 かくして徳川軍は出陣し、奪われた集落の近くで織田軍と激突した。

 

 織田軍はよく奮闘したが、戦力差があるうえ、一刻も早く片付ける必要がある徳川軍の猛攻を受け、ほどなくして崩れた。

 だが、二郎三郎はこれを追撃したりはしなかった。

 

「織田軍、撃滅しました!」

「よし。ただちに長浜城へ駆け戻り、そのまま豊臣軍を迎撃する!」

 

 徳川軍は二郎三郎の号令の下、迅速に長浜城に駆け戻った。豊臣軍が城にたどり着いてしまう前に城に戻り、軍を再編成して出撃し、豊臣軍を迎撃しなければならない。

 その撤退の鮮やかさは、田楽狭間の信長や、中国大返しの秀吉に匹敵するほどであった。

 

 一方、豊臣の陣。

 

「秀吉様、徳川軍が迎撃に出陣しました!」

 

 物見の報告を受けた豊臣秀吉は、感嘆するようにつぶやいた。

 

「なんという軍の速さよ。わしの軍にも勝るとも劣らぬな」

 

 その彼に、腹心の黒田官兵衛が問いかける。

 

「いかがなさいます、秀吉様?」

 

 秀吉の答えは決まっていた。

 

「決まっておる。連中の行軍速度は確かに我らに劣らぬが、こちらとて、兵の強さは徳川軍に劣ってはおらん。このまま進軍せよ」

「はっ」

 

 かくして、徳川、豊臣両軍は、長浜城にほど近い、城の南の平原で激突した。

 世に名高い、「第二次長浜合戦」の開幕である。なお、後の世においては、第一次よりこの第二次のほうが激戦となったことから、第一次長浜合戦より、この戦いのほうが人々によく知られている。

 

* * * * *

 

 両軍の構成は、徳川軍が前衛を二郎三郎の本隊と、本多忠勝隊とその他の隊。そして後衛が井伊直政の鉄砲隊。豊臣軍が、秀吉率いる本隊と、その他の一般武将率いる隊、そして官兵衛率いる鉄砲隊とが混成した軍となっている。

 いざ戦いが始まった時、官兵衛率いる鉄砲隊は、他の隊と離れて後退し、後衛に陣取るという形だ。

 

 総勢は徳川軍のほうがやや多いが、ぶつかりあう前衛の兵力は豊臣側が有利。他方、鉄砲隊の数は徳川軍有利という情勢である。

 

 その両軍はついに激突した。

 押し寄せる豊臣軍を、正面から受け止める徳川軍。

 徳川軍は前衛が受け止めつつ、後衛の鉄砲隊が必死に援護射撃を行い、一方の豊臣軍は、黒田隊の鉄砲の援護を受けつつ、その兵力で徳川軍を飲み込みにかかる。

 

 血が流れ、阿鼻叫喚が響き渡る。鉄砲の音が響き渡り、血しぶきが舞う。足軽隊が土煙をあげながら駆け、鉄砲が火とともに鉛玉を放つ。

 

 まさに激戦であった。前衛の戦力は豊臣軍が勝っていたが、忠勝の奮闘と、二郎三郎の敵の攻勢を受け流しながら、敵兵力を削っていく指揮、そして後方の鉄砲隊の支援により、数に勝る豊臣軍と戦線を拮抗させていた。

 その一方で、やはり前衛の兵力差はいかんともしがたく、徳川方も、豊臣軍を突き崩す決め手に欠けていた。

 

 両軍とも決め手を欠いたまま激闘を続け、その戦いは未来永劫続くかと思われた。

 

 だが、その激闘も終わりを迎える時が来た。

 

 徳川方本陣に駆け込んだ伝令が戦況を報告する。

 

「大殿、すでに第四隊、第五隊がほぼ壊滅状態。他の隊も、忠勝様の隊をはじめ、かなりの被害を受けております」

 

 だが二郎三郎は臆することなく、前方を見据えて言った。

 

「うむ……だが、もう少しだ。豊臣軍も無傷ではない。かなりの被害を出している。もう少し耐えれば撃退できる」

 

 二郎三郎の読みは正しかった。一方の豊臣陣。

 

 作戦会議のため、秀吉の陣に訪れていた官兵衛が言う。

 

「奴ら、かなり粘りますな」

 

 その腹心の言葉に、秀吉もうなずき、若干の迷いを込めて聞き返す。

 

「残念だが、そろそろ引き時か……な」

 

 官兵衛は、やはり残念そうに、主に助言する。

 

「はい。これ以上兵を失えば、我らと領を接している本願寺、松永に対する備えに支障が出る恐れがあります。ここは一旦退くが得策かと……」

 

 その助言を受けた秀吉は大きくうなずいて号令を出した。

 

「よし。全軍、引上げだ!」

 

 豊臣軍の陣から撤退を指示する銅鑼が響き渡り、それを合図に豊臣軍は潮が引くがごとく引き上げていく。

 徳川軍は、二郎三郎は、ついに長浜城を守り切ることに成功したのだ。

 

 豊臣軍が撤退していく、その様子を二郎三郎は、陣を訪れていた忠勝とともに見送った。

 

「追撃するか? ……と言っても、この状況では無理だな」

「あぁ……。我らの損害も大きく、とても追撃する余裕はない。今は、撃退しただけでよしとしよう。

引き上げ、兵を休ませよ」

「御意」

 

 かくして、第二次長浜合戦は徳川方の辛勝に終わり、徳川はこの戦いを、大きな犠牲を出しながらも耐え抜いた。

 そしてこの戦いは決して無駄ではなかった。

 これが、徳川のさらなる飛躍への第一歩となるのである……。

 

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