影大名~徳川家康の影武者、主君の跡を継ぎ天下を臨む   作:ひいちゃ

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八の章~本願寺領切り取り競争・後

 本願寺領切り取り競争のため出陣、桜洞城を攻略した徳川軍。

 だが、兵糧不足のため進軍を一時停止。次の収穫があるまで国力と兵力を養うことに集中した。

 

 そしてそれから一年経った1595年9月、徳川軍は再び富山城に出陣。だが、これも激しい激戦となった。

 

「大殿! 西より、本願寺の援軍が接近!」

 

 物見がもたらした報告に、徳川本陣の幕僚たちに戦慄と緊張が走る。もちろん二郎三郎もその一人だが、彼は総大将の身である。表情を崩さずに伝令を呼んで伝えた。

 

「信康の鉄砲隊に迎撃させよ。そののち、我が軍勢の支援に戻るようにと」

「ははっ!」

 

 かくして。

 

 前面の富山城からの軍勢を二郎三郎の本隊が受け止め、御山御坊からの援軍を信康率いる鉄砲隊が撃ちぬいていく。

 本願寺の兵たちにはやはり鉄盾が配備されていたが、それでも信康隊はかまわず鉄砲を放っていく。やがて、戦力差が効いてきたのか、本願寺の援軍は崩れ、そして壊滅していった。

 

「若殿、敵の援軍、殲滅しました!」

「よし、父上の軍勢を支援する。 鉛の弾を雨と浴びせよ!」

 

 信康の号令一下、鉄砲隊は急速に方向転換し、正面の富山城に向きなおり、そこから出てきた敵軍に鉛玉を浴びせる。

 それを見て取った二郎三郎はうなずくと立ち上がり、采配を振るって号令した。

 

「信康が戻ってきたか。これで勝てる。だが、油断は禁物だ。全軍、油断せず敵軍を攻め立てろ!」

 

 二郎三郎の言うとおり、今まで互角だったのが、信康隊の参戦により、形勢は徳川に大きく傾いた。だが、本願寺はなおも激しく抵抗を続ける。

 

「接近してくる敵軍を確実に撃滅せよ」

 

 二郎三郎が冷静に指示を飛ばす。

 

「槍衾・極を仕掛けよ!」

 

 忠勝が大声で、配下の足軽隊に号令する。

 

「二郎三郎様の軍勢と連携して、敵を撃ちぬいていくのだ!」

 

 信康の命令一下、鉄砲隊が一斉に火を放つ。

 

 信康の鉄砲隊の支援、そして忠勝率いる足軽隊の奮戦により、ついに本願寺軍は崩れた。崩れた本願寺軍は一斉に富山城に逃げ帰っていく。

 あとは、富山城を攻略するのみ。だが。

 

「大殿、わが軍の士気がそろそろ限界です……」

 

 伝令が、申し訳なさそうに現状を二郎三郎に報告する。ここまでの激しい戦いで、兵士たちの士気が底をつきかけていた。

 このままの状態で城攻めを行っても、城を落とす前に、徳川軍が瓦解するのは目に見えている。そこに本願寺軍の逆撃を食らったらひとたまりもない。

 二郎三郎は決断を下した。

 

「仕方あるまい。撤退する……」

 

 徳川軍は城攻めを諦めて撤退した。これは徳川軍の実質な敗北と言ってよかった。確かに迎撃に出てきた本願寺軍を撃破しはしたが、戦略目標である富山城の攻略はできなかったのだ。いわば戦術に勝って、戦略に負けた、というべきか。

 ともあれ、徳川軍は再戦を期して、桜洞城に撤退した。だが、二郎三郎含め、徳川のどの将も、雪辱に燃えていたのは言うまでもない。

 

* * * * *

 

 それから時は経ち、1596年3月。桜洞城でのことである。

 

 軍備の立て直しと、領内の内政に励んでいた二郎三郎のもとに、徳川信康がやってきた。

 

「二郎三郎様。朝廷から使者が参っております」

 

 傍らに立っていた忠勝が首をひねった。朝廷から使者が来る心当たりなど全くないからである。

 

「朝廷からだと? どういうことだろうな」

「わからん。とにかく会ってみよう」

 

 そして、二郎三郎は桜洞城の広間で、朝廷の勅使を迎えた。

 

「徳川家棟梁、世良田二郎三郎殿であるな?」

「ははっ。お使者、ご苦労でございます」

「うむ。さて、主上は徳川家と豊臣家との同盟を希望でおられる」

「……わかりました。主上の望みであれば……」

 

 そう、豊臣家は朝廷を介して、徳川家に同盟を申し込んできたのだ。これは本願寺攻めの障害を少しでも減らしたい徳川家にとっても渡りに船の出来事であり、二郎三郎は即、この申し出を受け入れ、徳川と豊臣の同盟は成った。将来、この二家の関係がどうなるかは霧の中だが。

 

 朝廷が帰ったあと、出陣の準備を整える二郎三郎に忠勝が声をかけた。

 

「まさか、秀吉のサルめが同盟を申し込むとはな」

「秀吉も、我が軍の力を認めたということだ。豊臣も、本願寺、鈴木、松永家と敵を抱えているからな。とにかく、これでこちらも敵を織田と本願寺のみに絞り込める」

 

 そして豊臣家と激突する心配がなくなった徳川家は、すぐさま本願寺家の富山城に出陣した。

 富山城の本願寺軍は激しく抵抗したが、先の戦いで大きな損害を受けていた本願寺に、前回のような勢いはなかった。

 

「敵軍、城内へ退却していきます!」

「よし、このまま敵を追撃。 城への攻撃を開始する」

 

 二郎三郎の号令一下、徳川軍は城になだれ込むように逃げ込む本願寺軍を追撃した。

 寸前で門は閉ざされ、そのまま富山城に突入することはできなかったが、徳川軍はそのまま城攻めに移行する。前回とは違い、たいした被害のないままの城攻めである。城攻めは何の問題もなく進み、ほどなく富山城は落城した。

 

 ここを抜けば、後は怒涛の如くである。前回と今回の富山城合戦で連敗し、兵力をほとんど失った本願寺軍に抗戦力はなく、1596年11月に七尾城を失い、そして1597年3月には御山御坊が落城し、ついに本願寺は滅亡した。

 

そして、二郎三郎と忠勝は、その御山御坊の天守に立っていた。

 

「ようやくここまでこれたな、二郎三郎」

「あぁ。いよいよ、我々徳川と織田の、最後の決着の刻だ……」

 

 二郎三郎率いる徳川と覇王信長の織田。決着のときは、もう目前まで来ていた……。

 

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