立て籠り犯達との一悶着を終え、八人の無様な失神した男達を厳重に動けないように縄で縛って見張っていると、引き渡すためにアリーゼ達が呼んだ屈強な男で構成された衛士達がやってくる。
それにしてもアリーゼと初めて会った時の事件から思っていたが、なぜあの衛士達は目をしっかり覆う仮面とインド風文化を思わせる袈裟のような服で統一されているのだろうか。それぞれの趣味……?いや、全員があの同じ奇抜な服を着るっていう趣味を持ち合わせているという線は無くはないが……可能性は低いよな。
「アリーゼ、遅れてすまない」
そう思っていると、あの奇抜な服を着た男性集団の奥から屈強な男達とは程遠い女性の声が聞こえ、まるで女主人かと思わせるように屈強な男達はその声の主である女性を通すために道を開ける。
その者はモデルのような長身で、整った怜悧な顔立ちとアリーゼ達が持っていない大人の女性特有の色気を持ち、麗人という言葉が非常に似合う女性だった。服に関しても彼ら衛士のような服ではなく、彼女の髪色と同じ紺色のチャイナ服に近いもので、それがまた彼女が持つ大人の女性特有の魅力を引き立てていた。
「彼らがアリーゼ達の言っていた立て籠り犯か……」
紺色の髪色を持つ女性は縄で縛られている犯人達に視線を移すが、一瞥したように視線をすぐにこちらへ戻す。
「八人か……これをアリーゼ達がやったのか?数も多いが、ほとんどがレベル2以上の冒険者だぞ?だとしたら、アリーゼ達には苦労と迷惑をかけたな……」
「ううん、違うわ!彼……ミズヤが一人で彼ら全員を相手にしたのよ!すっごく強かったんだから!」
「何だと……彼一人で?」
紺色の髪の彼女は申し訳なさそうに頭を下げようとするが、アリーゼの言葉でそのモーションを一時停止し、今度は俺の方へと視線を向け始める。
「アリーゼ、彼は新入りか?」
「そうよ!名前はミズヤ聡人!昨日入団したばかりで、レベル2のうちのファミリアの期待の新人よ!年齢は17歳でファミリアの中でも最年長なんだから!」
そう言ってアリーゼは誇らしげに勝手に俺の自己紹介をする。おい、文章の後半なんで年齢公開したんだ。ファミリア最年長アピール知らない女性にとって需要無いでしょ。しかも、最年長といってもアリーゼとは3歳、輝夜とは2歳……誤差だからな!誇らしげに言うと、アリーゼ達と年がかなり離れていると思われるからやめてほしいんだが。
「成る程、アストレアファミリアに入ったということは彼も私達と同じ正義を持つ者というわけか。それに……なかなかの修羅場をくぐって来たようだな。それなら、あの犯人達を一人で相手したというのも頷ける」
「は、はぁ……」
俺を見定めるようにしばらく観察し、俺を見て何かを感じたのか勝手に納得する。アリーゼ達とは仲が良さそうだが、彼女は一体何者なのだろうか?
「自己紹介がまだだったな。私の名前はシャクティ・ヴァルマ。ガネーシャファミリアの団長をやっている。お互い同じ治安を守るファミリア同士だ。気軽に私のことは呼び捨てでシャクティと呼んで構わない」
「改めて水谷聡人です。よろしくお願いします」
紺色の髪の女性、シャクティから友好の証として差し出された右手を俺は丁寧に握手でそれに応える。
成る程、彼女はガネーシャファミリアの団長だったのか。てっきり屈強な男ばかりだったから団長もそれを越える巨漢を予想していたが、意外にもほっそりとした綺麗な女性で驚いた。
けれど、ガネーシャファミリアは構成員がアストレアファミリアの二倍を越えるオラリオ全域の治安の維持に努める大規模ファミリア。ストレートに言うと、アストレアファミリアの上位互換である。その中でシャクティはファミリア唯一の地位である団長の座に着いている。少なくとも並大抵ではない実力の持ち主だというのは明らかだ。
アリーゼに聞くと、彼女はつい最近レベル4に到達したらしい。つまり、俺が今までオラリオで会った誰よりも強い実力を持っているということか。
「ミズヤ、此度は市街で暴れた犯人らの鎮圧に感謝する。後始末や周囲のパトロールは私達が引き継ぐからアストレアファミリアの皆はホームで休むと良い。全員!かかれ!」
「「「了解!!」」」
シャクティの一声でガネーシャファミリアの男団員らは縄で縛った犯人らを強引に立たせて何処かに連行し、周囲に他の不審な人物がいないか警戒する。
「それじゃあ、シャクティのお言葉に甘えて疲れた私達は帰ることにしようか。お店で買ったサンドイッチはホームでアストレア様とシェアしながらゆっくり食べましょう!」
そう言ってアリーゼはシャクティに残りの後始末とパトロールを任せてホームへの帰還を提案する。おお、サンドイッチ。戦闘ですっかり忘れていた。
「ミズヤは戦闘で疲れていると思うが、私達は逃げた犯人らを縛るぐらいだけで特に何もしてないだろ。団長は一体何に疲れていると言うのだ?」
アリーゼの提案に相変わらずの口調で食い付く輝夜。この中で最年少のリューも普段は言い合いをする仲である輝夜の言葉に確かに…と賛同していた。
「ミズヤの戦闘を見るのに疲れた☆」
「イラッ☆」
「アリーゼ……確かに彼の戦闘には驚かされた所はありましたが、それを疲れたというのは…………」
「ははは…………」
アリーゼの至ってふざけていない真面目な顔から放たれる映画に飽きたような子供の言い分に、輝夜は満面な笑顔を維持したまま顔に青筋を立て、リューはアリーゼをフォローしようとするが、真面目なエルフはアリーゼを完璧にフォローしきれていない。
全く……かつてのボーダーにいた頃を思い出させるやり取りだ。彼女達みたいに俺も年が近い奴等と漫才みたいな日常を過ごしていたんだよな。
こうして、あれから彼女達の漫才みたいなやり取りが数分近く続いたものの、全員分の持ち帰りサンドイッチを手に取って『アストレア様が待っているわ』と逃げるように走ってホームへと帰還するアリーゼの強引な手段により帰還することとなった。まぁ、オラリオの街中についてはほぼ理解したし、地図もあるから地理関係についてはもう大丈夫だろう。
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「聡人、入るわよ」
サンドイッチをファミリアの面子と食べ終え、自分の部屋の中に戻って今日使用したトリガーチップのメンテナンスを行っていると、廊下から主神であるアストレア様の呼ぶ声が聞こえ、俺は快く自室のドアを開けて招き入れる。
「アストレア様、どうしたんです?」
「今日、聡人がパトロールで立て籠り犯と戦ったじゃない?ステータスを更新しようかなと思って」
ステータスの更新。そう言えば、この異世界は敵と戦うことで経験値を得るという何処かのRPGみたいなものがあったな。といっても経験値の値はすぐ反映されるのではなく、神様による更新手続きを経て初めて自身の実力として反映されるとか。アストレア様が言っていたのはそれだろう。
「分かりました」
そう言って、背中に刻まれたファミリアの証をアストレア様に見せるために俺は服を脱いで、上半身裸になり、近くにあった椅子に腰をかける。
「じゃあ、やるわね」
アストレア様も近くにあった椅子に座って、ステータスを更新しやすい体勢を整えると、早速小さな針のようなもので小指に傷を付け、それにより噴き出した女神の赤い血を一滴背中に付着させる。
すると、神の恩恵を刻んだ時と同じように背中に波紋が生まれ、波紋から文字みたいなのが顕現する。俺は読めないものの、アストレア様がスラスラと読んでいる辺り顕現しているのは神聖文字だろうか?
「ふぅ、終わったわ。最新の知りたい?」
更新手続きを終え、いつの間にか写した羊皮紙を握っている主神の言葉に首を縦に振る。本来ならアストレア様に読ませず、自分で読むべきなのだが、まだオラリオの共通語でも読み書きはできない。アリーゼ達にも迷惑をかけるし、遅くても一月以内には習得したいものだ。
で、アストレア様にステータスを聞くと……
水谷 聡人
レベル2
力 : I 0→48
耐久 : I 0→I 24
器用 : I 0→I 52
敏捷 : I 0→I 15
魔力 : D500→D500
神秘:I
医療:I
魔法:【トリガー・オン】
・速攻魔法
・自身のトリオンを精神力として換算。専用の道具トリガーを握り詠唱することで、戦闘体になることができる。
・精神力を消費することでトリガーに登録されたトリガーチップの能力・武器を生み出せる。
・戦闘体で受けた外傷は生身の身体に殆ど影響しない
・解除詠唱【トリガー・オフ】
スキル:
・早熟する。誰かを守ろうとする防衛者の意志がある限りその効果は継続。誰かを助けるために自らの力を行使した際、手に入る経験値にボーナスが入る。
:
・発展アビリティのスロット個数の制限解放。何かを学ぼうとすればする程それに適した発展アビリティがレベルアップ時に複数具現化する時がある。
:強化視覚支援
・水谷聡人のサイドエフェクト。視力の強化、暗視効果に補正。他人と一時的に目を通して視覚を共有できる。
魔力……まぁ、俺の場合はトリオン量に変化は無いものの、他のアビリティは向上している。あまり伸び代が少ないと思われるが、アストレア様が言うには一度の戦闘でここまで伸びるのはかなり凄いことらしい。大方、スキルのせいだろうな。
「そうだわ、聡人。今日の午後空いているかしら?」
「午後ですか?」
うーん……今のところは無いだろう。パトロールはシャクティ達が引き継いだし、アリーゼ達も各々の私情のために朝食を食べたら何処か出掛けてしまった。
「予定は無いので、大丈夫です」
「そう、良かったわ。なら、出かける準備をしましょう」
「出かける準備?」
「ええ、今から聡人には私とギルドに行ってもらうわ。聡人にはダンジョンにも正式に潜れるギルド冒険者としての登録をしてもらいたいのよ」