オラリオの防衛者   作:リコルト

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【幕間】東隊の追憶①

 

 

「お、三人とも来たな」

 

 

 水谷が別の世界で生きているということを知る由もない東隊隊長であり、彼の上司であった東が一日中付き添うように水谷が眠るとされている墓地で過ごしていると、墓地に彼の死を悼む新たな来客が訪れる。

 

「「すいません、東さん!遅くなりました!」」

 

 息のあった連携をここでも発揮するのはB級内でもタッグプレーに関してはA級3位の風間隊隊長である風間蒼也もかなりの実力だと絶賛する才の持ち主である東隊攻撃手ー小荒井登と奥寺常幸。東隊の中でも最年少の二人で、隊長である東が特に目をかけている後輩達である。

 

「東隊長、遅れてしまってごめんなさい。事務関係の仕事で色々と長引いてしまって……」

 

 そして、その後から二人の弟の面倒を見るように片手にお供え用の花束を持ってくる姉属性が強い少女。東隊オペレーターである人見摩子も水谷が眠るとされている墓地に姿を見せる。ボーダー内での年季は水谷が上だが、水谷とは同い年でよくボーダーの話題に関係無く親しい仲であった。

 

 墓地に全員集結した現東隊。普段からオペレーターとして黒い女性用スーツを着用している人見には関係ない話だが、本来ならば一周忌であるため男達は二宮隊の隊服のような黒服が望ましい。だが、彼らは着慣れた東隊を象徴する紺色のジャージ姿の隊服である。

 

 その理由はすでに一周忌をみんなの学校が無い前の土日に既に終わらせていたというのもあるが、水谷が旧東隊の時代から愛していた紺色のジャージを模した隊服で水谷に会いに行こうという東の粋な計らいによるものが大きかった。

 

 

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「水谷先輩……俺達ようやく(サブ)トリガーを解禁したんすよ」

 

 そう言って小荒井が水谷の墓地の前で先日終了したランク戦の結果、そして自分と小荒井が隊長である東にこれまでの頑張りや実力を認められて、メイントリガーだけで基本攻撃をするという東考案の縛りプレイから解放されたことを目の前の墓石に対して報告をするのだった。

 

「けれど、やっぱり弾トリガーって扱いが難しかったです……水谷先輩が遺した弾トリガーの使い方が載ったノートも見たんですけど、水谷先輩みたいに撃てるようになるのはまだまだ先ですね」

 

 続けて先のランク戦でサブトリガーの解放と共にサブトリガーとして射手型の弾トリガーを使用した奥寺が語りかける。初めての弾トリガーでチームに貢献したものの、自分としてはまだ上手く扱えきれていないと納得していなかった。なぜなら、奥寺は全てのトリガーを幅広く使う万能手(オールラウンダー)でありながら、射手No.2の実力を持つ先輩隊員の姿を仲間として間近で見てきたからである。それは奥寺だけでなく、小荒井も弾トリガーを使用すれば、同じ事を思うだろう。

 

「それにしても……水谷君が亡くなってもう一年が経つのね。未だにそんな実感が湧かないわ」

 

 お供え物として持ってきた花束を彼ら達より前にやってきた隊と同じように墓所に綺麗に飾った人見が悲しそうな声でそう話す。彼女にとって水谷は同じ隊でも特に話しやすい人物だったし、オペレーターの技術がある者同士よく相談もしていた。未だに隊室にあった彼の私物は東隊の隊室に保管されるように丁寧に放置されているし、その分死んだという実感が未だに湧かないのが人見の心からの気持ちだった。事実、水谷はボーダーをよく知る古株だったので、外部へのスカウトや広報、そして遠征など等各部署で引っ張りだこになっていて、フラッと突然行ってはフラッと突然帰って来るというように隊を空けることも少なくはなかった。

 

「ああ……人見の言う通りだ。隊室にいると、いつかお前が帰って来るんじゃないかと思ってしまうよ……今のお前が成長した奥寺、小荒井を見たら何を思うんだろうな。あの頃みたいにお前の意見も聞いてみたいよ」

 

 自分の部下達の話を聞いていた東が訊ねるように水谷の墓石へと話しかける。

 

 その時、東の脳内を一つの喪われた東隊の昔の思い出が駆け巡った。

 

 それは水谷がいた時期の現東隊のランク戦の思い出。ボーダーの誰もが『現東隊の最盛期』と呼んでいた現東隊の初期の頃の懐かしき記録(レコード)であった…………

 

 

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『始まりました!ランク戦夜の部!実況は風間隊オペレーターの三上、解説には風間隊隊長の風間さんと東隊とは縁がある加古隊の加古さんに来て頂きました!』

 

『よろしく頼む』

 

『ええ、よろしくね。三上ちゃん』

 

 簡単な実況と解説の自己紹介が済んだところで、彼らの話題は此度のランク戦へと早速入ろうとする。

 

『今回、マップの選択権を得た鈴鳴第一が選んだマップは河川敷A!これを踏まえた上で、解説の二人は今回のランク戦がどういった展開になると思われますか?』

 

『注目なのは結成僅かにして快進撃を遂げ続けている鈴鳴第一かしらね。未だ誰もが崩しきれていない攻撃手の村上君がいるし、マップ選択の権利がある。河川敷Aは市街地マップよりも高層マンションが多いし、射程に自信がある銃撃手や狙撃手が有利なマップね』

 

『ああ。諏訪隊の諏訪と堤は銃撃手ではあるが、二人はボーダーでも珍しい散弾銃(ショットガン)型を使う近距離で威力を発揮するタイプだ。実質、攻撃手とは変わらず、そう考えれば村上以外の仲間の来馬や別役といった銃撃手や狙撃手がマップによっては活きてくるだろう。だが、狙撃手に関しては東隊の東隊長……そして、今回からあいつが混ざっているからな』

 

 風間の淡々とした言葉にその人物を良く知っている加古が笑みを浮かべて強く反応する。

 

『そうね……今回からは水谷君がいたわね。村上君とは別の意味で注目すべきなのは間違いなく水谷君よ。村上君を崩せるのも恐らく彼ぐらいだし、逆に他の隊がどのように水谷君を倒すのが見所ね。彼を倒すのは旧東隊からの長い付き合いの私でも難しいぐらいだから』

 

『成る程。さて、試合開始まで残り数分!各々のチームは一体どういった戦い方を見せるのでしょうか!』

 

 

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「さてと…………そろそろ試合が始まるわけだが、小荒井と奥寺はもう大丈夫か?」

 

「「は、はい!だ、大丈夫です!」」

 

「おいおい……緊張し過ぎだ、二人とも」

 

 俺の確認の言葉に小荒井と奥寺が試合前にも関わらず未だに緊張した様子を見せており、俺だけでなく東さんや人見もその光景に思わず苦笑してしまう。

 

「まぁ、二人が元A級の水谷の前で未だに緊張するのも分からなくはない。だが、水谷が旧東隊を解散して以降ボーダーのラボでトリガー開発をしていたにも関わらず、俺の隊への勧誘を引き受けてくれたのは小荒井や奥寺の成長のためだ。水谷が隊にいなかった前回のランク戦まで二人はボロボロだったからな」

 

「「め、面目ないです…………」」

 

 

 

 水谷が来るまでのランク戦の数試合はポイントを得て、勝ちはしたもののそれらは全てベテランの東による点数で、小荒井や奥寺はポイント獲得にあまり貢献することが出来なかった。確かに勝利はしているが、それでは二人が隊員として成長しない。そう考えた東は一人の長い付き合いの後輩に頭を下げて隊への勧誘をしたのだった。

 

 それが当時、旧東隊解散以降は防衛任務には出てはいるものの、自分の才を生かしてトリガー開発にのめり込んでいた水谷聡人だった。東は小荒井や奥寺と同じ攻撃手と同じ目線でアドバイスと指揮管理が取れ、積極的に自らの見解を述べることが得意な人材を探していたのだ。

 

 東の勧誘にもちろん水谷は快諾。お世話になった上司が頭を下げてお願いしにきたのだ。追い返すような真似をする方が逆に難しいぐらいである。

 

 

 

「さて……じゃあ試合前の最後のミーティングだが、小荒井と奥寺は最初に何をすべきか分かるな?」

 

 水谷の問いに奥寺と小荒井ははっきりと答える。

 

「「はい!まず、俺達は合流を優先します!」」

 

「うん、その通り。俺が二人の戦いを見てアドバイスしたように二人の個々とした戦い方では前回のランク戦の二の舞だ。二宮先輩の辻みたいに二人は単騎でも強いタイプじゃない。だが、二人にはその息のあった連携がある。二人がそれを生かして戦えば、A級にも負けない実力になるはずだ。他に質問は?」

 

「村上先輩はどうするんですか?村上先輩を倒すのはかなりキツイと思いますが……」

 

 そう言って奥寺が水谷に訊ねる。

 

「村上に関しては転送場所によるが、俺が倒すつもりだ。奥寺達は他の諏訪隊と鈴鳴第一を狙ってくれ。東さんも奥寺達の援護に回ってください」

 

「大丈夫か、水谷。それだと水谷の負担が……」

 

 東の心配も水谷には分からなくはない。何せ相手は一チームを支えるエース攻撃手。彼のように水谷は攻撃手一つに絞って極限まで極めたタイプじゃない。攻撃手同士の間合いだったら、村上の方が有利だろう。

 

 だが………

 

「大丈夫ですよ、東さん。久しぶりのランク戦で少し自分も暴れたくなりましてね。それに荒船から『そろそろ鋼には痛い目を見て貰わないとな』と言われてるんですよ』

 

「全く……分かった。そこは水谷にまかせよう。だが、もし困ったら、いつでも援護に行くからな」

 

「了解です!」

 

 

 こうして、最後のミーティングを終えると、試合開始前のアナウンスが再度流れて転送のカウントダウンが始まる。

 

 

 これが水谷を加えた新東隊の最初の戦いであった……

 

 




次回はこの回想の続きを出そうか、前回の本編の続きを出そうか悩みどころです……笑。
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