『があぁぁぁっ!?』
ーーーーどうなっている?
アストレアファミリアのホームには誰もいないと報告を受けていた筈だ。なのに、この状況は一体なんだ?
今回の作戦のために50人近いファミリアの過半数の団員を連れてきたのに、この無様な有り様は……一体?
アストレアファミリアホームを倒壊させるどころか傷の一つも付けられず、むしろその50人近い団員らが藁のように吹き飛ばされ、すでに何十人が負傷させられている。
自称アストレアファミリア所属だと言う
作戦の部隊にはレベル1の雑魚もいるが、レベル2のモーモスファミリア内でも精鋭クラスも連れてきている。だが、あの少年はそんな精鋭らに臆すること無く、彼の魔法で生み出したと思われる魔弾で次から次へと戦闘不能にしていった。
あの戦い慣れた動きやレベル2を難なく倒す所を見て、恐らくあの少年はレベル2以上だと推測できる。
そう言えば……ここにいる道中で部下からアストレアファミリアの新入団員の噂について聞いたな。アストレアファミリアに協力した見慣れない男の流浪者が俺達の仲間を一人で倒したと。長年恨みが溜まっていたアストレアファミリアへの襲撃が終わったら、今回の発端であるその男もぶちのめそうと思っていたが、まさかその男が……こいつなのか?
本当なら一石二鳥だとほくそ笑みたい所だが、生憎とガチでそんな余裕が無い。もうすでに戦力の半分があの生意気な少年によって倒されている。
クソっ!こんな無様な負け戦を晒すぐらいだったら……待てよ、ホームをこの生意気な少年一人が余裕で守っているなら、他のアストレアファミリアの団員は何処に向かったんだ?必要無い情報だと思って偵察からは何処に行ったのか聞き忘れていたが……まさかな?
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「バイパー!!」
「「ぐはあっ!!?」」
水谷の左手から放たれる複雑な弾道による全方位攻撃がモーモスファミリアの下っ端達を容赦無く襲う。強烈な一撃を喰らったことで、体力や精神力に自信のある団員以外はその場で倒れて意識を失うが、鉛弾や火薬と違って生身への大きな怪我が無いため気絶した奴等はどれほど幸福だろうか。もしここに他のアストレアファミリアの乙女達がいたら、彼女達が持つ金属製の武器で下手をすれば大怪我をしていたに違いない。特に加減を知らないリューはやりかねないだろう。
「この!生意気なガキめ!」
「くたばりなぁ!」
巨漢に似合った大剣を振り回すように躍起になった男二人が水谷を後ろから襲う。
それに気付いた水谷は左腰に付けられた鞘から右手で弧月を引き抜こうとするが、迫り来る何かに気付いた水谷はその手を止める。水谷の手を止めるその表情には動揺や焦りというものは一切無く、まるで誰かを信頼したような余裕を見せる笑みが浮かび上がっていた。
「居合いの太刀・二刹!」
「やあぁぁっ!!!」
男二人が大剣を大きく振りかぶるその瞬間、彼らの懐に潜るように現れたのはフィンが増援として寄越してくれた輝夜とリューであった。輝夜は極東剣術の太刀による刹那を思わせる素早い二連撃をお見舞いし、リューは風を起こすような素早いスピードによる剣撃を男達にかます。それらを喰らって男達が流れるように倒れたのは言うまでもないだろう。
「すまんな、ミズヤ。遅れたか?」
「いいや、全然。ナイスタイミングだ」
刀を鞘におさめた輝夜の言葉に水谷は笑顔で答える。そこへ最後の増援であるライラが駆けつけるのだった。
「おいおい……うちの勇者サマに言われて増援に来てみれば、半分も敵戦力が残ってねぇじゃないか。圧倒的数差だからと全速力で急いで来てみれば、残りもミズヤで片付けられるんじゃないか?」
「いやいや、俺も限界があるからな。ほら、一応無傷で全員の相手をしていたわけじゃないし」
そう言って残りの残党も片付けさせようとするライラに水谷は自分の有り様を見せる。その姿は所々傷が付いていて、緑色のトリオンが漏れていた。傷が浅くトリオン漏れが少ないのを見ると、乱戦で敵の剣といった武器が軽くかすったのだと思われる。
「ミズヤ、本当に大丈夫なのですか?傷口から光が漏れていますし、腹の傷など抉れていますよ」
「心配するな、リュー。別にこれは戦闘体だからな。致命傷を負えば、普段の生活と同じ生身の姿になるだけだし、戦闘体で付いた傷は生身に殆ど影響しない」
実はこの世界でのトリオン体……つまり戦闘体が破壊された際の検証は既に水谷がここ数日間で終えていた。
結果としてまず、破壊された際は
後はこの世界では魔法だけでなく、剣による物理攻撃も戦闘体に効果があること。元々トリオン体である戦闘体には銃やナイフといったトリオン以外で作られた武器に関しては殆ど攻撃を戦闘体に与えられない仕様になっていた。だが、この世界では運悪くそれが実装されていない。
実際に輝夜が刀で水谷の身体を試しに斬り倒した所、見事に真っ二つからの戦闘体活動限界。水谷はこれを戦闘体を作るトリオンがこの世界では魔法を撃つ際に必要な
だが、それ以外は元の世界と変わりはない。もし、戦闘体で受けた傷や痛みが生身でも適用されていたらと思うとヒヤヒヤしていた水谷だったが、その心配も杞憂だった。最悪それだったら、すでに輝夜に試し斬りされた時点で水谷はあの世行きである。
「おやおや?つい先日まではミズヤに対してツンツンとしてたエルフが今日は優しいんだな?これが神様達が言う所謂『ツンデレ』というやつじゃないのか?」
「だ、誰がツンデレですか!からかわないでください、ライラ!確かに最初はライラの言うようにミズヤに思う所がありましたが、今はもう違いますから!私はミズヤを
ニヤニヤとした表情でライラがリューをからかい、顔を真っ赤にして必死そうにリューが弁明する。だが、リューが言ったその言葉を誰もが聞き逃さなかった。
あれほど水谷に対して打ち解け難い態度をとっていたリューが水谷を仲間だと呼び、心配したのだ。もし、この場にアリーゼがいたら『リオン!成長したわね!』と戦場にも関わらず騒ぐに違いない。
まぁ、そういったネタになりそうな話を好むライラと輝夜に聞かれた以上、それがアリーゼや他の団員に伝わるのは時間の問題であろうが。
「さて……長話はここまでのようだな」
話を区切るように水谷は彼の仲間達に語りかける。見てみると、残りの20人近い残党が話をしていた水谷達の周りを迫るように囲っている。
それを見たアストレアファミリアの4人は互いに背中を預けるようにして東西南北の敵を網羅するように布陣を展開し、各々の得物を手に握る。
さぁ、防衛戦ならぬ……残党狩りの時間である。