「うぉ~、すっご!なんだよ、これ………」
紺色のジャージの上からローブのようにバッグワームを被り、顔を隠しながら街中を散策する水谷は街中の雰囲気に圧倒されるように声をあげる。
活気のある街の大通りにいくつもの屋台がある様子はヨーロッパの朝市を連想させ、生まれて一度も海外に行ったことがない水谷にとってとても新鮮な光景だった。
それだけでも水谷を十分に驚かせるものであったが、それ以上に水谷が驚いたのは………
「獣人、ドワーフ、それにエルフまでいるのか」
自分と同じ人間だけでなく、ネコや犬といった耳をした獣人、濃い髭が特徴的なドワーフ、尖った耳を持つエルフといった自分の住んでる世界にはいない異種族が何事も無いように平和に暮らしていることだった。
「はは……国近や半崎にファンタジーの世界に来たと話したら、興奮間違い無しだな」
水谷はボーダー内でも屈指のゲーム好きであったおっとり系ゲーマー少女と『ダルいっす』が口癖のスナイパー少年が興奮する様を思い浮かべながら、クスッと笑みを溢す。
(それにしても、本当にここは俺…いや、ボーダーすらも知らない異世界のようだな。多種族による城塞都市、通貨もヴァリスと呼ばれる見知らぬ貨幣、文字も英語に似ているけどまったく見たことが無い。話し言葉だけ分かるだけでも不幸中の幸いだった。話す、聞く、読む、書くが出来なかったら、コミュニケーションのコの字すらも出来てない所だ)
しばらく街中を散策することで、この街での文化レベル、生活様式、地形などを情報として接収し、水谷は分析を行い、改めてボーダーすらも未知の異世界に来てしまったのだと確信する。
「東隊長や遠征挺に乗っていた皆は無事帰れたんだろうか?それなら別に良いんだけど…」
一応、言葉は通じるので、屋台を営むお店の人達に大きい船みたいな目撃情報は無かったか、俺みたいな服装をした異邦人をした人物を他に知らないかと聞いてみたが、関連性のありそうなニアピン情報も見つからない。俺が倒れていた現場を察するに遠征挺は無事で、俺だけが遠征挺から投げ出されたのだろう。
「はぁ……マジ何でこんなことに。今頃、遠征帰還のお祝いで東隊長と焼き肉食べに行ってたのになぁ」
自分一人という犠牲だけで尊敬する人物と多くの人々の命を救えたという答えは見知らぬ異世界に来た水谷を安心させる材料ではあるものの、メンタル面に何も支障が無いわけではない。戦闘員として優れた能力を持っているものの、彼はまだ高校生。誰も自分を知らない世界にいきなり放り込まれて心機一転しろと言う方が難しいだろう。
(まぁ……こうなっては今更悔いても仕方がない。ここでしばらく調査をすれば元の世界に戻るための手掛かりの一つは見つかるだろう。今はどこか衣はともかく食住を確保しないと。もし、東さんだったら、こういうこともテキパキと簡単にこなすんだろうな……)
何とか気持ちを切り替えつつ、生活できる場所が無いかと路地裏にまで足を踏み入れる水谷。
すると………
「待ちなさーい!!このドロボー!!」
「チッ!!くそっ!!」
何かがパンパンに詰まった麻の袋を必死に抱えながら逃げるように走る男とその男を追いかける赤いポニーテールが特徴的な水谷と年が変わらないぐらいの少女が水谷へと迫ってくる。
「なに?泥棒?」
「そこのガキ!邪魔だ!!どきやがれぇ!!」
「そこの君!!彼を捕まえてぇ!!」
ト〇とジ〇リーみたいに止まることを知らない追いかけっこをする二人が、互いに叫びかける。泥棒か……どの世界にもいるものだな。
見過ごせないと思った俺はバッグワームを解除し、左手に小さな緑色のキューブ、利き手である右手に黒いハンドガンを生成した。
「スパイダー」
その言葉と共に左手の緑色のトリオンキューブからワイヤーが飛び出し、子供の悪戯みたく彼らの足元にビンっとワイヤートラップが張られる。
「うぉっ!?何だ、このヒモぉ!?」
全速力で走る男は突然足元に張られたワイヤーを回避できず、驚いた様子で空を飛び、バタンっと重い音を立ててすっ転ぶ。顔から転んだのか鼻血が出ている。
「何あれ?急に男の足元にヒモが現れて……っ!?危ない!!その男はお尋ね者のレベル2の冒険者よ!!」
「てめえ!!よくも邪魔しやがってぇ!!先にテメェからぶっ潰してやるぅ!!」
立ち上がった男は鼻血を垂らした顔で、水谷の後ろから殴りかかるように拳を大きく振りかざす。
「レベル2?ゲームだったら、雑魚じゃないかそれ?ゲームとかアニメに少し疎い俺でも分かるぞ」
だが、水谷は後ろから襲いかかろうとする男の攻撃をかわし、続けて殴りかかろうとする男のジャブも難なく余裕でかわしていく。先程、水谷に危険を知らせた赤髪のポニーテールの少女はありえないといった様子で口を開け、その光景を眺めるしかなかった。
「やれやれ……少し落ち着きなよ!!」
しばらく男の攻撃をかわし、受け身状態だった水谷がここで反撃。右手のハンドガンの銃口を男の足に向け、数回バシュンバシュンという音と共に引き金を引く。
「ぐあぁぁぁ!!!??」
男は悲鳴と共に撃たれた足を押さえ、その場に踞る。
「何、今の火薬が爆発したみたいな音?君、もしかして彼の足に怪我を「いや、よく見てください。血はおろか、傷すらも出してませんよ」……何これ、黒い重し?」
「何だよ、これぇ!?足に石がめり込んでるのに、痛みが無いなんて気持ち悪りぃ!?くっそ!動けねぇ!?」
水谷と赤髪のポニーテールの少女の視線の先。そこには足に貫通するようにめり込んだ黒い重しによって足が地面に固定された男の情けない姿だった。
「……自首するならその重し外してやるよ」
トリオンを重しに変えて相手を拘束する汎用射撃オプショントリガー。直接的な破壊力が無い代わりにシールドと干渉しないメリットはあるが、重くする効果にトリオンを割いているため、射程と弾速が落ちるデメリットがある。水谷が男に撃ったのは通常弾ではなく、この鉛弾だったのだ。
「すごいね、君!レベル2の冒険者を難なく無力化するなんて!何処のファミリア出身なの?さっき出したヒモや重しは君の魔法なの?さっきの見慣れない武器は何?」
「お、落ち着いてくれ。一気に言われると………」
目をキラキラとさせながら、赤髪のポニーテールの少女は俺にマシンガンの如く質問攻めをしながら身体を寄せてくる。もし俺が辻だったら、確実に死んでたな……。
「アリーゼ!大丈夫ですか?」
そう思っていると、向こうから緑と白を基調とした服装の金髪のエルフの少女を筆頭に、自分の世界で見慣れた着物の黒髪の少女、子供みたいな体型のピンク髪の少女など十人ぐらいの女性が一気にゾロっとやって来る。恐らく、この赤髪の少女の仲間だろう。
「平気平気!この人が捕まえてくれたんだ!」
アリーゼと呼ばれた赤髪の少女は俺を指差して事情を仲間達に説明する。それを聞いて、エルフの少女は不審者を見るような視線、日本人っぽい着物を着た少女とピンク髪の小柄な少女は興味津々といった視線をこちらに送ってくる。
後者はまだしも、前者は何で?まだ俺、君には何もしてないはずなんだけど。迅さんみたいにセクハラをするような人を見る目だよ、それ。
そう思いつつ、彼女からの視線に耐えていると彼女達を後ろからかき分けるように胡桃色の髪をした落ち着いた様子の女性が前に現れる。
「この度は私のファミリアの団長の手助けをして頂きありがとうございました」
「いえ、そんな大したことじゃ無いです」
そう言って、頭を下げてお礼を言った女性に頭を上げさせると、彼女は俺の心の中を覗くようにじっと見つめる。すると、彼女は女性らしくふふふと笑いながら、俺にある提案をする。
「どうやら何か困り事を抱えているようですね?よろしければ、お礼を兼ねて私達のホームに来て頂けないでしょうか?出来る限り私達が相談に乗りますよ」
「えっ、良いんですか?」
「ええ、構いませんよ」
これは嬉しい提案だ。もしかすると、彼女からこの異世界についてさらに詳しい情報を聞けるかもしれない。
「じゃあ、お言葉に甘えて………」
「はい。ちなみに貴方のお名前は?」
「
「ミズヤ聡人さんですね。私の名前はアストレア。彼女達アストレアファミリアの主神です」
(アストレア……?歴史か何かで聞いたことが……)
トリガーセット(暫定)
メイントリガー
・拳銃(アステロイド)
・鉛弾(改)
・シールド
・拳銃(メテオラ)
サブトリガー
・スパイダー
・バッグワーム
・シールド
・メテオラ