大学生活が始まってあまり時間が取れなくて…………
「ここがフィンさん達ロキファミリアのホームか……」
そう言って水谷はまるで観光名所を見るような目で自分達のホームの倍以上の規模がある建物を見上げる。
オラリオの北区画に存在する周囲の建造物と趣きを異とする尖塔の並び立つお城のような大きい館。
建物の名は【黄昏の館】。オラリオの二大派閥の片翼を担うロキファミリアのホームだ。
あのモーモスファミリアの一件から二日。増援が来るまで50人という相手をした水谷の疲労が癒えた所で、今作戦の指揮を取っていたフィンからアストレアファミリアの代表として水谷にロキファミリアに来て貰いたいという一報がアストレアファミリアに届いたのだ。
何でもモーモスファミリアの事務的な後始末が済んだらしく、それをアストレアファミリアにも代表として最後に確認して貰いたいということらしい。最初はそこは団長同士アリーゼが行けば良いのではないかと、水谷は自分が代表者として選ばれたことについて謙遜しながら言ってみたのだが……
『ミズヤ……会議関係は団長一人で行かせたら、絶対に駄目だぞ!会議が混沌と化すからな!』
『団長が一人で会議に参加するとか……それほど終始ヒヤヒヤするものなんて無いな。ウチの勇者様の見立て通りここはミズヤに会議を任せた方が全然マシだ』
『すみませんが、ここはミズヤにお願いした方が良いと思います。アリーゼ一人に会議関係の仕事を任せると…あの…その…とにかくヤバいんです……』
輝夜、ライラ、リューを筆頭にアリーゼ以外の全団員から水谷に行ってもらった方が良いと叱られるような強い言葉で推薦されてしまう。アリーゼの空気が読めない天然に近い性格から察していたが、水谷もここまで言われるとは思っていなかった。リューに至っては何とかアリーゼをフォローしたい気持ちが伝わるのだが、あまりにも中途半端で語彙力が消失しているではないか。
そんな経緯があり、結果として水谷一人でロキファミリアのホームに訪問したのだが、しばらくすると玄関の大きな扉から見慣れた金髪の小人族が姿を現す。
「やぁ、ミズヤ。二日ぶりだね」
「フィンさん、ご無沙汰しています」
玄関から姿を現したのは水谷を呼んだ張本人ロキファミリアの団長フィン・ディムナであった。
「突然呼んで申し訳無い。モーモスファミリアのアジトや一味についての後処理が少々大変でね。リヴェリアやガレスに手伝ってもらいながら昨日ようやく終わったんだ」
そう言ってフィンは水谷に言うのだが、彼持ち前の爽やかな声と笑顔のせいで疲れた様子が見えない。レベル5という人並み外れた体力によって本当に疲れていないのか、笑顔という仮面で疲れを隠しているのか見極められるのは数少ないだろう。
「さぁ、中に入って。ロキファミリアへようこそ」
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フィンさんによってロキファミリアのホームを案内され、俺はホームの長い廊下を歩きながら、オラリオ二大派閥の施設というものを体感する。
100近くはありそうな部屋の数々、広い敷地面積を持つ練習場と庭、大きな食堂や図書館などファミリアのホームというよりは大学と呼んだ方が相応しいのではないか、と思うぐらいの設備。俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「ミズヤ、ここだよ」
長い廊下を歩き、一つの部屋へと辿り着く。フィンさんに促されるように中へと入ると、そこには応接室を思われる内観と設置されたソファーで待っているように座っていた見慣れた顔があった。
「ガレスさん、それにリヴェリアさんまで」
「よぉ、青年!待っておったぞ!」
「ミズヤ、体調の方はもう大丈夫か?」
「ええ、もう大丈夫です」
がっはっはと大きな声を発しながら、笑顔で待ちわびた様子を表現するドワーフのガレスさん。そして、俺が部屋に入ってくるまで上品に紅茶を飲みながら読書をしていたハイエルフのリヴェリアさん。いずれもフィンさんと同じロキファミリアの最高幹部で、オラリオ内でも上位の実力と地位を持っている人達だ。
そして、もう一人……
「おっ!君がアストレアん所の新入団員やな!ふむふむ……フィンが言ってたようになかなかの美男やないか!」
関西弁のような話し方でこっちにやって来た朱色の髪の女性。声は女性なのだが、露出させている女っ気が無い上半身とどこか親父臭さを彷彿させる性格のせいで男性ではないかと錯覚させられてしまう。
何故、彼女が女性なのかと分かったかだって?それはアストレア様が恐らく彼女に会うだろうと見込んで事前に警告をしてくれたからだ。
『絶対に男性と間違えないように』と…………
「貴方がロキ様ですね」
「せや、うちがロキファミリア主神のロキや!フィン達からは色々と聞いてるで~!大活躍やったらしいなぁ!」
そう言って目の前の女神はフレンドリーな口調と共に親密な態度で握手をする。うちのおしとやかな性格のファミリアの主神とは真逆な性格だ。だが、オラリオではロキ様みたいな神々が一般的なスタイルで、逆にアストレア様みたいな大人しく上品な神の方が珍しいとか(輝夜談)。
と、言っても目の前の女神に対して油断してはならない。何せ目の前にいるのは北欧神話で知らない人はいない神ロキだ。狡猾さでは神話でもトップクラスで、ラグナロクでは戦争を起こした首謀者である。正義の女神であるアストレア様とは水と油ぐらい違い、相性が悪そうに見える。が、それは天界の話。アストレア様が言うには狡猾さはまだ面影は残っているものの、地上に降りてきてからは丸くなったらしい。
「さて、早速だけど確認を済ませようか」
フィンさんから紙の束を受け取り、俺は空いていたソファーへと腰をかける。話し手であるフィンさんと話しやすいように彼の真向かいに座った位置である。
「まず、モーモスファミリアについてだけど、眷族は無事全員捕縛。今はギルドとガネーシャファミリアに委託して闇派閥の情報を聞き出している感じだ。主神の方はすでにギルド側の判断で送還したそうだ」
「送還?」
「送還っていうのは文字通り神を天界に返すことだ。地上に降りた神々にはルールがあって、それを破れば送還されるし、地上で致命傷を与えられても送還される。といっても神々の送還はなかなか無い。神々の送還はギルドで管理されているからね。昨日の夜に天に昇る光がその送還だよ」
まだオラリオに来たばかりという俺の経緯を知っていたフィンさんが丁寧に説明する。ああ、あの夜にギルドから昇ったあの光が送還をしていた光だったのか。
「けど……自分の故郷に帰されるって神々にとってあまり罪が軽くないような気が……?」
「そんなことないでぇ。神々ちゅうのは自分の仕事をサボって地上に降りてきてるんや。天界に帰れば、仕事三昧の生活で、二度と地上に降りられないんやからな」
な、なるほど。神々にも事情があるんだな。確かに永遠に仕事三昧は俺も嫌だわ。それにサボっていたんだから、居心地が悪いのも何となく予想はつく。
「……と、まぁ、これが今回の作戦の結果だ。次は報酬について話をしようと思う」
資料に目を通して今回の作戦の報告の確認を終えると、次は報酬の話へと移る。話し終わったフィンさんが立ち上がり、応接室の隅にあった配膳用のワゴンからジャラジャラと中身が詰まった袋をいくつか持ってきた。
「まずは金銭面から精算しようか。今回のモーモスファミリア掃討作戦の達成報酬金がこれまでの懸賞金を含めてギルドから300万ヴァリスを頂いた。これを僕達ロキファミリア、そしてアストレアファミリアに均等に分配したいと思う」
300万ヴァリス……それを2で割るから150万ヴァリスがアストレアファミリアに入るわけだ。100万以上あれば、設備や装備をより良いものに替えることができる。一夜の戦いにしては貰い過ぎな気もしなくはないのだが。
促されるように150万ヴァリス相当が入った袋をフィンさんから受け取るが、話はまだそれだけじゃないようだ。
「だけど、それに付け加えて個人的にロキファミリアから100万ヴァリスをアストレアファミリア側に提供しようと思う。この100万ヴァリスはミズヤ個人のものだ」
「えっ………?」
さらに追加と言わんばかりにフィンさんは中身が詰まった新たな袋を俺に手渡す。中身の重さはさっき貰ったものよりも軽い。50万ヴァリス分の差額だろう。
「う、受け取れませんよ。いきなり個人的に俺に渡されても……それにこの100万ヴァリスはロキファミリアが貰った報奨金の3分の2で、ロキファミリアの利益は50万ヴァリスになるんですよ!」
もし、このまま俺がこれを受け取れば、報酬金の配分はロキファミリアが50万ヴァリス、アストレアファミリアが250万ヴァリスとなる。共同戦線を組んだにも関わらず、これはあまりにも不公平極まりない分配だ。
「これは僕、リヴェリア、ガレス……そしてロキが相談して出した結論だよ。君は今回の作戦内で最も重要な働きをした。僕達ロキファミリアの三人が活躍しないぐらいね。だからこそ、僕達は個人的に君にギルドから受け取った報奨金の一部を戦功報酬として君にあげようと考えたんだ」
戦功報酬……たしかボーダーにもそういった制度があった。何度か貰った経験はあるが、ここまでの大金ではない。17歳の少年がいきなり一日で100万を手に入れるなんて並大抵ではありえない話だ。
「別に私達は50万ヴァリスもあれば十分な方だ。だから、ミズヤがあまり利益だとかどうとか気にする必要はない。それに私達三人がその気になれば、ダンジョンで100万ヴァリスを稼ぐなど容易だからな」
「リヴェリアの言う通りじゃ。そこは大人しく貰っておけ」
今回の作戦に参加したリヴェリアさんとガレスさんも俺にこの大金を受け取ってくれと促す。ロキ様も口には出さないが、その細い目で受け取れと言っているような感じがする。
「……分かりました。このお金は大事に使わせて頂きます」
ここでこれ以上揉めれば、ロキファミリアの方々に迷惑をかけてしまう。それなら、いっそのこと懐に入れてしまうのが平和的だ。逆に何か裏がありそうな雰囲気もあるが、ここで警戒して場を悪くするのも宜しくはない。アストレアファミリアとロキファミリアの全面戦争とか死んでも嫌だ。
「うん、大事に使ってくれると嬉しい。で、次はモーモスファミリアから押収した物資面の話だね。押収した物資についてはルールがあるんだけど、これは簡単に言えば活躍したもの勝ちなんだ」
「活躍したもの勝ちですか……え、ということは……」
活躍したもの勝ちという言葉を聞いて、思わず二度聞きしてしまいそうになる。だが、そんなのも想定の内だとフィンさんは笑顔で下っ端の団員にその押収した物資とやらを持って来させた。
下っ端の団員達がどんどん持ってくるが、凄い量だ。本や何かに使う工具やモンスターの素材、武器、それに加えて机や椅子といった家具も揃っている。数的にかなり規模が大きい闇派閥だったらしいが、それに見合う程の量だな。
「すでにロキファミリアの取り分は確保している。ここにあるのは全てアストレアファミリア……いや、君のものだよ」
おーい、マジですか。すでに仕分け終わった後で、この量が俺の手元に入るのかよ。俺は粗大ゴミの業者とかじゃないんだけどなぁ。……まずは、分類別に仕分けからだな。