「これで…………最後だな」
バラエティ豊富に積まれた多量の物資の大まかな仕分けが終わり、水谷は一時の休憩を挟む。事後報告の確認をしに来ただけなのに、肉体労働をやらされるとは当の本人も予想外の出来事だっただろう。
今は亡きモーモスファミリアの闇派閥での基本的な立ち回りは戦闘ではなく、多くの構成員がいるという利点を生かした諜報活動、ダンジョンやオラリオ外での素材などの採集と闇派閥という組織の基盤を支える立場であった。冒険者で例えるなら鍛冶師やサポーターのような立場であろう。
そのため、モーモスファミリアが備蓄していた物資というのはフィン達が予想していたよりもかなり多かったのが現状である。一夜にして闇派閥の基盤を支えていたファミリアと物資が消えたのだ。闇派閥の上層部は苦虫を噛み潰したよう顔をしているに違いない。
「それにしても、やけにモンスターのドロップアイテムや薬草といった物が多いような…………」
水谷の視線の先にある箱詰めされた木箱の山々。そこにはモーモスファミリアが遺したモンスターのドロップアイテムや薬草等が詰まっていた。物資を大まかに分ける基準として、モンスターのドロップアイテムといった素材、武器、知識書や調合する際に使用する小道具や机といった家具等、の三つに分類したのだが、モンスターのドロップアイテムといった素材が全体の六割をしている。ちなみに、割合として一番少ないのは武器類だ。
「それはアリーゼの話を聞いて君に合わせたんだ」
「合わせた……とは?」
「実は輝夜達を君の増援に向かわせた後、アリーゼに君がどういった人物か色々と質問させてもらったんだ。そしたら、アリーゼが君は【医療】の発展アビリティも持っている事を教えてくれてね。君への配分を素材や物作りに関わる知識書を多めにしたんだ。その分、武器類の配分はこちらが殆ど独占しちゃったけど」
「成る程……配慮に感謝します」
それを聞いて違和感を覚える異様な配分に水谷は納得する。けれど、水谷にとってその配分は利益しかないため、気になりはしたが、別に文句を言う事でもなかった。
何せ水谷にはトリガーがあるため、アリーゼや輝夜のような金属製の得物は必要としない。しかも、得物が壊されても水谷の場合はトリオン(この世界では精神力)を消費すれば、再度複製して戦線に復帰することができる。この世界ではある意味で鍛冶屋泣かせな存在なのだ。
むしろ、この異世界に興味があり、かつ物作りが趣味な水谷にとって知識書やモンスターのドロップアイテム等の方が価値がある。実際、仕分けしていた時にモンスターに詳しいリヴェリアに訊ねながら、水谷は終始目を輝かせていた。モンスターのドロップアイテムは余れば、換金できるという話もあったが、水谷はそれに耳を傾ける余地も無い。
ただ、内心焦ったのは水谷が異世界から来た異邦人だということがバレたかもしれないという事だ。しかも、聞く相手がアリーゼ。これには水谷もドキドキしたが、話を聞いた感じバレてはいないようだった。
この手の話は本音が出やすいアリーゼが一番危険……と数時間前に輝夜達がアリーゼ達を会議や交渉の場に一人で出せない事を改めて理解し、水谷は一人頷くのだった。
「そうだ……ミズヤにはこれを……」
そう言ってフィンさんが渡してきたのは水谷が掃討戦の前に渡した通信機。それと一振りの太刀であった。
「まずはこの通信機というものだ。これは君から借りたものだから君に返さないとね」
「ありがとうございます……因みにその刀は?」
通信機を返して貰い、懐にしまった水谷の視線に映るのは弧月と同じぐらいの大きさの太刀。鞘には輝夜が持つ愛刀『
「これはモーモスファミリアから押収したものでね。これも君にあげるつもりだ。ロキファミリアの極東出身のメンバーが言うにはかなりの業物らしいが、輝夜だったら恐らく知っているだろう。好きに使うと良い」
「えっ!?良いんですか、こんな貴重な業物っ!?」
そう言ってフィンは水谷にその太刀を渡すが、水谷は謙虚にその受け渡しを拒否しようとする。仕分けしたあれ以上の量の物資を報酬として受け取ったのに、これ以上追加で受け取れば、仕分けた本人としては拒否したくなるのも当然である。だが、この太刀の受け渡しは水谷にとって大きな意味を持たせていた。
「ミズヤ達は来月ぐらいに遠征に行くのだろう?オラリオに来たばかりのミズヤは初めてだと思うが、遠征はかなり危険なものだし、体力や精神力を多く使う。特にミズヤのような戦闘に関して精神力に依存している者はダンジョンでいつか限界が来る。先輩冒険者としてアドバイスすると、君もアリーゼ達のように一つはこういった武器を携帯しておいた方が良いと思うんだ」
「っ!!」
それを聞いて水谷はハッとする。今の水谷は戦闘面においてトリオン体……つまり構成する
けれど、水谷のレベルは2。生身でも普通の冒険者よりは高い身体能力を持っている。そこで、フィンが提案したのが精神力が無くなっても生身でも戦える方法であった。戦い方のバラエティーは応急処置レベルまで低下するが、素手でダンジョン内のモンスターと戦うよりは全然マシである。
「精神力を回復する方法もあるけど、最悪の場面に対して対策を増やすことは悪いことじゃない。僕としても将来有望な君をダンジョン内で死なせなくはないからね」
「……ですね。では、お言葉に甘えて……」
フィンの気遣いと共に水谷はその太刀を受け取る。だが、生憎と今の服装に太刀を腰に差す場所や腰に吊るせるような物が無い。そこは太刀の扱いに一日の長がある輝夜に聞くのが一番であろう。
「けれど、その太刀は遠征に行く前に一度、鍛冶専門のファミリアに調整を頼んだ方が良い。長らく使っていなかったせいか、刃こぼれしているからね」
「分かりました」
その後、水谷はロキファミリアの面々に今回の共闘の参加にお礼を言って自身の帰る場所であるアストレアファミリアへと帰還するのであった。
ちなみに、あの大量の物資報酬は素手での持ち帰りが不可能なため、ロキファミリアから台車を借りる事になり、水谷がそれを返しにロキファミリアに再度訪れたのは数日後の話である。
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「ふぅ……俺の部屋も大分賑やかになったな」
大量の物資をファミリア内に搬入し終え、その中に含まれていた家具類を自分の部屋に着飾り、初日の生活に必要最低限度の家具しか無かった部屋から、調度品を置く余裕があるぐらいに家具類が充実する見違えた部屋にビフォーアフターした景観に謎の達成感を覚える。
工房のように改造されたデスク。
知識書が並ぶ本棚の数々。
カーペットや花瓶といった生活感溢れるアクセント。
デスクには調合用のフラスコやビーカーが並び、本棚と合わせると自分の趣味部屋みたいになってしまうが、そこは生活感が溢れるように調度品で調整した。これなら、女性しかいないこのファミリアの誰かを部屋に招待しても大丈夫だろう。
一番の驚きはこの某番組のようにビフォーアフターした部屋ではなく、このビフォーアフターした経緯である。この華やかなビフォーアフターに費やしたお金が0円……いや、0ヴァリスなのだ。破格のリフォーム価格である。
『聡人、もう大丈夫かしら?』
部屋の外から呼ぶ声がする。このファミリアで下の名前を呼ぶのは一人しかいない。
「構いませんよ、アストレア様」
部屋の外を繋ぐドアを開け、廊下で待っていたファミリアの主神をビフォーアフターした部屋へと招待する。
「あらあら、まぁまぁ、綺麗じゃない!」
生まれ変わったという言葉が相応しい部屋を見たアストレア様は女性らしく手を口に当てながら、部屋に対して嬉しい感想を述べる。その部屋をセッティングした本人にとって主神の感想は非常に嬉しいのだが、残念ながら部屋を自慢するために呼んだわけではない。
主神を呼んだのは掃討戦以来のステータス更新をするためである。
アリーゼや輝夜やリュー達全員のステータス更新はすでに終わり、残るは自分のみ。結果を聞いてみると、彼女達の基礎アビリティが少し上がったぐらいで、そこまで変化は無かったそうだ。だからこそアリーゼ達だけでなく、意外と主神のアストレア様も大健闘した俺のステータス更新に期待を覚えている。
「じゃあ、始めるわ。背中を見せて頂戴」
アストレア様に背中を見せ、アストレア様は慣れた手つきでステータス更新を実行する。お互い何度も経験すれば、慣れるのも当然で、初めてステータス更新した時よりも簡単にそれは終了した。
「はい、終わったわよ」
アストレア様から新たに更新されたステータスのコピーの羊皮紙を受け取り、上から下へと数値を読む。
ふむ……魔法・スキルに変化は無しか。
「今回の戦いで基礎アビリティがかなり上がったわね」
「そうですね。まぁ、俺には
水谷 聡人
レベル2
力 : I 48→I98
耐久 : I 24→I 42
器用 : I 52→H100
敏捷 : I 15→I 35
魔力 : D500→D514
神秘:I
医療:I
※魔法・スキルに変化は無し
アストレア様の言う通り全体的に大きく上昇している。特に器用の上昇率が顕著だ。やはり、そこは色々なトリガーを使う戦い方が反映されているのだろう。
けれど、今回のステータスを見て一番の収穫なのはステータス欄の『魔力』の上昇だ。
元々いた世界ではトリオン量というものは個人の個性みたいなもので、所有するトリオン量を増やすといった事は不可能に近いものとされていた。
だが、この異世界ではトリオン量は精神力へと換算されている。そのため精神力の量や質が分かる『魔力』の欄にずっと焦点を当てていたのだが、今回のステータス更新で自分が出した仮説が証明されたのだ。
それは精神力に換算されたトリオン量が増えるのか、どうか?という仮説である。
今回のステータス更新の結果を受けて、冒険者と同じ要領で精神力に換算されたトリオン量が増えることが判明。今回は少ししか増えなかったが、成長すれば今よりも長期的に戦えるし、トリオン量の消費量の関係で使えなかった戦法も使い放題だ。この発見はかなり大きい。
「そうそう……ステータス更新で思い出したわ。実は近い内にある催しが開かれるのよ」
「催し……パーティみたいな?」
「ええ、そんなものね。名前は『
二つ名……レベル2であるアリーゼや輝夜も持っていた筈。確か『
「で、話を戻すのだけれど、実は今回の神会の後に各ファミリア間の友好を深めるために眷族達を交えた食事会が開かれるのよ。聡人も一緒にどうかしら?」
アストレア様の話を聞くと、今回の食事会には俺以外に団長のアリーゼに、俺と同じ戦線を戦った輝夜、ライラ、リューの四人を連れて行くらしい。アストレア様としてはファミリアの全員を連れていきたい所だったが、人数や食事の関係で代表者を少人数にしぼる形になってしまったそうだ。
まぁ、別に断る理由はない。むしろ、他の神々やファミリアについて詳しく知る良い機会だ。
「良いですね。俺も行きます」
「ふふっ、なら決まりね」