オラリオの防衛者   作:リコルト

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いざ、バベルへ

 

 

 掃討戦というファミリアを巻き込んだ戦いの後始末を遺恨を残すこと無く終えて迎えた初めての安息日。

 水谷はオラリオで調達した黒色のスラックス風のズボンに加え、淡い水色一色の無地カットソーに紺色のジャケットを羽織った私服姿で、ホームの玄関前で立ちながら誰かを待っている様子をただ一人醸し出していた。

 

「結構時間がかかってるなぁ……」

 

 調整に出す刀を持ちながら、玄関で20分。街中で刀を持った黒髪のスラッとした青年が誰かを待つ姿は非常に絵になり、行き交う街人は男女問わず彼に視線を移す。

 水谷は色目を使っている女性からの視線とオラリオでは珍しい極東出身の風貌だという物珍しさが詰まった視線にひたすら耐え続けているのだった。

 

「すまない……待たせたな。ミズヤ」

 

「い、いや……全然大丈夫だ…が…」

 

「むっ?どうした?」

 

 時間をかけてホームの中から姿を現した輝夜の姿に水谷は思わず息を飲み込んでしまう。

 

 冒険者として戦う際に使用している戦闘衣に似ているが、動きやすさ重視というよりは華やかさといったお洒落の方を重視した緋色を主役とする美しい着物姿。

 

 そして、当の本人はというと、普段は面倒だからとあまりやりたがらない化粧を施していて、口にはうっすらと紅を差しており、椿油を施した黒髪はサラサラと普段より艶が醸し出されている。

 

 水谷は輝夜の女性としての徹底ぶりとそれを体現した極東美人の色気に一瞬ドキッと動揺するが、彼ら二人以外の街人からしてみれば、目に毒だと言いたいぐらい破壊力があるだろう。なぜなら、その視線の先には極東出身を思わせる黒髪の若い美男美女が吊り合うように立っているからだ。

 

「あ……いや、今日の輝夜はいつもより違うなぁと……」

 

「前に水谷にも話したが、私は極東の貴族の出身だ。面倒だから自分からはあまりしないが、化粧といった知識は並の人よりは充分にあると自負している。……それよりもどうだ?何処か変な所は無いか?」

 

 そう言って輝夜はあまり着慣れない華やかさ重視の着物姿を回るように見せつけながら、頑張ってお洒落した成果を一番に感想を聞きたかった目の前の彼に訊ねる。

 

「そんな所は全く無いぞ。むしろ、素が元々綺麗だった輝夜が今日はいつもより女らしくて俺は素敵だと思うな」

 

「っ!!?///」

 

 輝夜の問いかけに水谷は悪戯なく思ったままの事を輝夜に伝えるのだが、それを聞いた輝夜は普段の現実主義的な冷たい雰囲気ではなく、15歳という年齢に似合う乙女の雰囲気を表情から漏らしてしまう。

 

「そ、そうか。それなら良い。そ、それよりも早く用事を済ませるよう!ほら、早く行くぞ!」

 

「えっ?ちょっ……何でそんなに早く行く必要があるんだ?待っ……引く力強っ!?」

 

 そう言って輝夜は水谷のジャケットの袖を摘まみ、彼と同じレベル2の力で彼を引っ張るように急ぎ足で用事を済ませる目的地へと向かうのだった。

 

 この時、引っ張られた水谷はその姿勢の関係で輝夜の顔を見ることが出来なかったのだが、すれ違った街人とファミリアのホームの窓から一部始終を見ていた主神と眷族が語るには『顔は照れて赤くなっていたが、あれは間違いなく女性が嬉しそうにしていた顔だった』らしい。

 

 

…………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

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 二人が辿り着いたのは真上にそびえ立つ50階建ての白亜の摩天楼。そこは立地的にオラリオの中心にある事から都市のシンボルとも呼べるような場所で、同時にダンジョンから溢れるモンスターを食い止める蓋の役割を果たす重要な施設でもあった。

 

「ここがバベルか……」

 

 バベルはおろかダンジョンにも来たことが無いため、初めてのオラリオの中心部エリアに水谷はすでに心を踊らせる。

 

「ああ、そうだ。地下はオラリオが誇る迷宮(ダンジョン)になっているが、2階から上は冒険者や神々が使える場所になっている。私達が訪れるのは冒険者が使用できる最上階である20階。そこに私が信頼する鍛冶師がいる。ついでにその階に宴用の服を売る店もあった筈だ」

 

 そう言って輝夜はバベルの20階に当たるであろう中層辺りを見ながらここに来た理由を水谷に話す。

 

「輝夜が信頼する鍛冶師ってやっぱり刀に精通しているんだよな?もしかしてその人は極東出身なのか?」

 

「いや……半々と言った所だな。まぁ、実際に会ってみれば、すぐにどんな奴か分かるだろう。ほら、中に入るぞ」

 

「あ…ああ。分かった」

 

 水谷は輝夜に引っ張られるような形で目的の場所があるバベルの中へと入る。

 

 

 ただ、その様子を天から見守る女神が一人。

 

 

 黒髪のお嬢様の隣にいる同じ黒髪の少年を見ながら、美しき銀髪を持つ女神は彼に興味を抱き、見入るように立ち上がり、そして妖艶な笑みを浮かべる。

 

 

 けれど、美神と呼ばれる一人の女神の興味を引いた彼はというと、バベルの()()()からのアプローチに気付くわけもなく、目の前にいる仲間の手によって女神の視界から姿を消してしまうのだった。

 

 

……………………………

 

 

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「ふふっ……面白い子を見つけたわ」

 

 

 バベルの最上階。

 

 神々が住むことができるバベルの上層の中で最も高い階であるそこで、一人の美神がオラリオを一望できる大きな窓を見ながら静かに微笑む。

 

 その美神は炎を模した扇情的なドレスを着こなしているが、ドレスの隙間から彼女の透き通るような白い素肌が大きく見え、女性達はその容姿に羨望を抱き、男性達は彼女に誘惑されそうだと言うぐらいの魅力を保持していた。

 

「…………どうなさいましたか、フレイヤ様?」

 

 彼女の様子の変化に気付いた200cもある長身の猪人の男が慌てる様子もなく、落ち着きがある声で訊ねる。

 

「さっきね……何気なくバベルの下の方を見たら、面白い魂を持っている子を見つけたのよ」

 

「面白い……魂ですか?」

 

「ええ、そうよ。彼の魂はまるで水……それも汚れを知らない清らかな水のようね。けど、それだけじゃない」

 

「それだけじゃない……とは?」

 

「うふふ……水っていうのは不思議なものなのよ。ある時は氷のように固くなり、ある時は霧のように分散する……水っていうのは柔軟に幅広く形を変えるのだけれど、彼はその水を体現したような感じなのよね。将来、どういった子になるのかここまで興味を持ったのは初めてだわ」

 

 そう言って、女神……フレイヤは先程まで飲んでいたワインの側に置かれていた酔い醒まし用の水が入ったコップを手に取り、透明な水を眺めながら中に入っていた氷でカラカラッと音を立てる。

 

「…………取りに行きますか?」

 

 女神の意図を汲み取った猪人の男……オッタルは短く一言で主神にご意向を訊ねる。が、フレイヤはその問いかけにゆっくりと首を振るのだった。

 

「今はまだお預けかしらね……だって、彼と一緒にいたお嬢さんは確かアストレアの眷族だったもの。アストレアとは良い神友だし、彼女が関わっているのなら、あまり大事にしたくないわね。だけど……次の神会で彼女に訊ねる良いネタができたわ」

 

「…………それは良かったです」

 

 

 そう遠くない神会に向けて一人の美神は静かに動きだし、彼女に仕える猪人は久しぶりに見た主神の楽しそうな様子に一瞬笑みを見せ、静かにその場から退出するのだった。

 

 

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