「ふあぁ………もう朝か」
平和そうにチュンチュンと鳴く鳥の鳴き声と窓から差す日の光で目を覚ます。目を覚ました水谷はベッドから降りるように立ち、机から調整したばかりのトリガーを手に取る。
今日は朝からパトロール。といってもただのパトロールではない。アリーゼ達がパトロールを兼ねてオラリオを案内してくれるそうだ。オラリオに来たばかりでこの世界の地理関係に詳しくない俺にとって非常にありがたい。
そう思いつつ、俺は簡単に髪を水で整え、歯を磨き、人前に出られる姿を整える。ちなみに、この歯磨きなどは昨日の夜の内にアリーゼ達が生活に困らないようにと買い出してくれたものだ。いつかこの分は彼女達に返さないとな。
「トリガー・オン!」
身だしなみを簡単に整えた後、最後の仕上げと言わんばかりにトリガーを起動する。すると、身体を光の粒子が覆い、アリーゼ達と会った頃の格好である紺色のジャージ姿の東隊所属を意味する戦闘体へと換装する。
「さて……行きますか」
戦闘体での身体の状態を確認した所で水谷は部屋を出る。彼女達と待ち合わせをしたその場所に向かうために。
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「あ!ミズヤ、おはよう!」
「ああ、おはよう」
待ち合わせ場所であるホームの玄関に到着すると、そこにはすでにパトロールする装備を整えた姿のアリーゼ達の姿があった。親睦を深めた彼女達は俺を見つけると、俺に一人一人丁寧に挨拶していく。本当に律儀な彼女達である。
「…………おはようございます」
「うん、おはよう」
ただ、リューだけは……何て言うか律儀というよりは真面目って言葉が合ってるかな。朝も挨拶をするだけでそれ以上会話は長続きせず、彼女の方から何処か距離を置いてしまう。けれども、距離を置いているといっても嫌悪感から来ているものではない。純粋にまだ俺とは打ち解けられないというものだろう。エルフの性格は分かっているが、そう簡単には打ち解けられないよな。いや、逆にアリーゼとかがフレンドリー過ぎるっていうのもあるんだよな。
「おや、ミズヤ?昨日は見られなかった武器を腰に着けているが、それはもしや刀か?」
お、流石は輝夜だな。やはり日本と似た極東出身だからこれにすぐ気付いたか。
「ああ、そうだ。名前は【弧月】。俺が接近戦で最も使う武器だ。耐久力もあって、かなり使いやすいんだ。まぁ、つい最近はチームのバランスの関係で使っていなかったけど」
そう言って俺は左腰に着けた鞘から弧月を抜刀し、右手で見せつけるように軽く素振りする。旧東隊時代は接近戦が出来る奴が三輪しかいなくて、チームの攻撃のバランス的に俺も弧月を使っていたが、現東隊は小荒井と奥寺の二人が弧月を使う
「ほぉ、刀を扱えるのか。なら、今度から私の特訓に付き合え。ミズヤなら私の良い特訓相手になりそうだ。そこのエルフでは特訓相手にならなくての~」
「なっ!?輝夜!!私は……!!」
「何、本当のことではないか。今はまだマシだが、ファミリアに入りたての頃は特訓しても息はすぐに上がるし、剣の腕もダメダメだっただろ?」
「ぐっ!…………」
輝夜の会話で俺から離れていたリューが巻き込まれる。やめてくれ、輝夜。これで俺とリューとの溝が大きくなっていくんだが。頼むからリューもこっちを黙って睨まないで欲しい。普通に怖いから。
「はは……また今度な」
冷や汗を流しながら曖昧な言葉で輝夜との約束に返事を返すと、同じタイミングで玄関に主神であるアストレア様がやって来て、団長であるアリーゼが代表するようにアストレア様の前に一歩足を踏み出す。
「では、アストレア様!いってきます!」
「ええ、気を付けてね」
まるで学校に行ってくる子供とそれを見送る母を彷彿させる光景だ。アストレア様の言葉でさっきまで言い合いをしていた輝夜とリューも今はアストレア様の言動に癒されたように大人しくなっている。これが女神の力……いや、彼女の慈悲深い性格が成せる技か。
「じゃあ、私と輝夜、リュー、そしてミズヤは北側からパトロールするわよ!他はライラを中心に南側からお願いね!」
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「それにしても前に俺が倒した暴漢といい、オラリオってなかなか治安が悪いんだな。確か今は『暗黒期』と呼ばれているんだっけ?」
アリーゼ達にオラリオの街をパトロールを兼ねて案内をされていた水谷はオラリオの街を見学している際に、以前の暴漢の件も踏まえて思ったことを口にする。
「そうだね。けれど、今は大分街の活気も戻って来た方だよ。五年前位はもっと酷かったから。……ゼウスファミリアとヘラファミリアの二大派閥が壊滅したことから始まった『暗黒期』。最初の頃は
「成る程な………」
水谷の言葉にアリーゼが答える。その答えにはアリーゼの今のオラリオに対する複雑な感情が詰まっていた。
五年前位といえば、アリーゼ達がまだ十歳ぐらい。リューと輝夜はオラリオの外出身だが、アリーゼはオラリオ出身だ。大方、その暗黒期が始まる瞬間を目撃し、経験したのだろう。もしかすると、それが彼女が正義のファミリアに入団した
俺も彼女の気持ちや境遇は似ているから十分に理解できる。俺がボーダーに入ったのも俺から家族と日常を奪った第一次大規模侵攻がきっかけだ。目の前で多くの瓦礫が積み上がり、家族や友人らが未知の生物らに殺された、だからこそ俺はボーダーに入った。俺みたいな経験をする人達を少しでも減らすために、平和な日常を目指すために。
それが俺の
「さて、そろそろお腹が減ってきた所だし、お店で何かを買って食べましょう!」
「団長に賛成どすわぁ、ミズヤは何にするおつもりで?」
しばらく歩き続け、屋台が並ぶ大通りに辿り着いた所でアリーゼから朝食を摂らないかという提案を受ける。朝から何も食べていないためこの提案に反対するものはいなかった。
サンドイッチに焼き鳥のような肉串、そして新作を謳う『ジャガ丸くん?』というコロッケに近いようなもの等色々と売られていて、非常に悩む。朝から油っこいものは食いたくないからジャガ丸くんはすでに除外済みであるが。
「俺はサンドイッチだな……この野菜が沢山入ったものが俺の好みだ」
「へぇ……意外です。てっきり男性の
「ド阿呆。人間の男性が全員肉しか食わない等とんだ偏見だわ。こういうミズヤみたいな男性は草食系男子と言って女性からモテやすいタイプの希少価値だ。エルフの里を出たばかりのポンコツエルフが人間を語るなど百年早いわ!」
「なっ!?ポンコツ………!?」
野菜しか入っていないサンドイッチを朝食に選んだのがエルフであったリューにとって意外だったようで、自分の男性の人間に対する偏見を口にしてしまうが、それを人間代表である輝夜が指摘する。うん。フォローは嬉しいけど、滅茶苦茶ボロクソに言うじゃん。
「じゃあ、私はこの卵チキンサンドにするわ!」
そんな言い合いをしている二人を他所にアリーゼは自分の食べるサンドイッチを注文していた。いや、サンドイッチの具材卵と鶏肉しか無いじゃん。野菜0%だよ。二人が言い合いしている中でよくそれを注文できたな。
その後なんやかんやあって、輝夜とリューのサンドイッチも注文し、出来上がりを待っていると…………
「助けてぇ!!!」
近くから少女が助けを求める声が聞こえて、俺とアリーゼ、輝夜、リューは現場へと向かう。そこは内装が綺麗な洋服店で、店の入り口では中年の男性八人が立て籠り、リーダー格の男が右手に握られたナイフを少女の首に突き付け、少女を人質にしていた。
「早く逃走用の馬車を用意しろぉ!!」
犯人らの要求は逃走用の馬車。立て籠り犯らしい聞き慣れた模範的な要求で、彼らは店から金銭を奪った強盗犯だとか。やはり、どんな世界に来てもこういう輩はいるんだな。
「私が剣で突撃します。アリーゼ達は少女の保護を……」
「落ち着け、特攻エルフ。奴等は未だ少女の首に凶器を突き付けておる。突撃すれば、少女の保護など無傷でやるのは難しい。もう少し状況を見ないか!」
「ですが……このままでは!!」
輝夜の言う通りここは突撃を優先すべきではなく、まずはあのリーダー格の男の無力化と少女の保護が優先だ。
だが、それなら…………
「分かった。俺が一人でいく。アリーゼ達は俺がリーダー格の男を無力化した次第に少女の保護、他の一般人が事件に巻き込まれないように周辺の警備を任せる」
「なっ!?正気ですか!?相手は八人。それを貴方が全員片付けるとか無謀すぎます!ここは「何か勝算があるんでしょ、ミズヤ?」
リューの必死の言葉を遮り、アリーゼが落ち着いた様子で俺に訊ねる。
「ああ、もちろん」
「……分かったわ、輝夜はどう?」
「少なくともこのエルフが主役の特攻作戦よりは数百倍はマシだ。私はミズヤを信じよう」
「よし、なら私達三人は周辺の一般人の警護よ。後は頼んだわよ、ミズヤ」
「まかせろ」
「行くわよ、リュー、輝夜」
そう言ってアリーゼ、輝夜、リューの三人はこれ以上一般人が事件に巻き込まれないようにと警護に回り、俺は犯人がいる方へと足を一歩ずつ踏み出す。
「おい!誰だ貴様は!?見慣れない顔だな!まさか、アストレアファミリアの者か!?」
「正解。といっても昨日入ったばかりの新人だけど」
「はっはっはっ!まさか、あの正義のアストレアファミリアが入ったばかりのレベル1冒険者を寄越すとはな!!とんだお笑い草だぜ!そんな新人にはレベル2である俺様が痛い目をあわせてやる!!ほれ、この少女を助けてみろよ!」
「助けて……お兄ちゃん」
そう言って、男はナイフを俺の方へと向け、人質である少女を近くに強い力で抱き寄せる。まぁ、普通のレベル1だったら手は出せないだろう。
残念だったな。お前のその慢心が今回の敗因だ。俺の腰から見える刀で攻撃してくるだろうと視線が下を向いて、ナイフをこちらに向けることで俺が武器を使うのを警戒しているのは分かっている。
だが、お前のそのナイフが少女の首から離れたことで俺の勝機はすでに決まっていた。お前の無力化なんて弧月が無くても充分に可能だ。
「エスクード」
水谷がそう言うと、水谷に突き付けてナイフを持つ右手の下から分厚い壁が下から上に押し上げられるように垂直に突き上がっていく。
「ぐわっ!?」
男もこれは予想外だっただろう。まさか、自分よりも若い少年が見せつけるように身に着けていた刀を使わずに攻撃を仕掛けてきたとは。
エスクードにより男の右手だけが上の方に持っていかれ、腕が曲がる。右腕は叩きつけられたような強い衝撃を受け、堪らず凶器であるナイフを手から離し、ナイフは空を舞い、地面にカランという金属音と共に落ちる。
「いってぇ!!?クッソがあぁ!!!」
予想外の反撃に男は激昂し、先程の衝撃で一瞬拘束を解いてしまった人質である少女に対して手荒い動作で再び拘束しようとするが、水谷はそれを見逃さなかった。
「旋空弧月!」
水谷の左腰に着けられた鞘から水谷は弧月を抜刀。抜いた刀の柄からは光刃が表れ、水谷はそれを離れた距離にいるリーダー格の男に対して大きく数回振るう。
【旋空】
孤月の専用オプショントリガー。
トリオンを消費して刀身を瞬間的に拡張でき、振り回されるブレードは先端に行くほど速度と威力が増す事ができる。また、射程の性能は効果の持続時間と反比例し、発動時間を短くするほど射程を伸ばす事が可能だ。
「がっ……!?レベル1に負け……!?ありえな……い?」
刀身が伸びた弧月の攻撃を喰らったリーダー格の男は少女に触れることなく、その場に跪くように倒れる。男の姿を見てみると、弧月を喰らった部分には生々しい痛そうな痣が出来ていた。
「安心しろ。そこまで深い傷じゃない」
元々、トリガーの武器は全て一般人が大怪我をしないように攻撃を受けても軽い痛みを伴う怪我をするか、意識を失うかのレベルにまで威力を絞っている。余程、本人が威力の調整を間違えない限り人間が死ぬことはほぼありえないのだ。
「………………これがミズヤの実力!?」
「ほぅ………良い腕じゃないか、ミズヤ」
初めて水谷の実力を目の前で実際に目の当たりするリューと輝夜も仲間でありながら彼の男を一瞬で倒す実力、刀を振るう見事な腕前に驚きと関心を露にしていた。
「さぁ、今の内に!」
「ありがとう……アストレアファミリアのお兄ちゃん」
そう言って少女は横で気を失っている男から解放され、アリーゼ達の元へと駆けていく。
これで人質は無事に解放。残りは残党だけだ。
「さて、残党狩りといこうか」
店に立て籠る残党七人に対して弧月の刀身を向ける。対して男達もリーダーがやられて投降する様子もなく、各々の武器をこちらへ向けてくる。
一対七か。……少し本気を見せるか。
現在の水谷のトリガーセット
メイントリガー
:弧月
:旋空
:エスクード
:??
サブトリガー
:??
:??
:??
:??