登場人物全員がチート持ちな世界へようこそカイン様 作:なっち様
はじめにその男を見たときあいは彼らの仲間がやって来たのかと思った。
その男は突然大声を上げたかと思うと何かを指さし興奮しているようで、あいにはそれが今目の前にいる男たち同様に下卑た欲望から沸き起こる興奮のように思えたのだ。
しかし、その男の登場に一番衝撃を受けていたのはあいでなく男たちの方であった。
彼らは今、嫌がるあいをここまで連れてきて服を脱がせようとしているそしてそのまま行為へと及ぶだろう、普通に考えればここで関係のない第三者が現れて一番困るのは男たちの方なのだ。
明確な動揺が男たちに走るのをあいは確認した認識した理解した。
止まっていたあいの思考がフルスピードで回転する。
そもそもだ、そもそもなぜ彼らはこんな場所で行為に及ぼうとしたのか?
ここは人気の少ない駐車場ではあるが絶対に人が通らない密室というわけではない、誰かが偶然通りかかれば通報されるだろう。それなのに彼らはあいをここに連れてきて急ぐわけでもなく悠々と語っていた。
つまり、彼らはここに人が来ないことに絶対の自信があったはずだ。
そして、あいにはまだ分かっていないことがあった。
眼鏡の男の能力だ。
さっきの口ぶりからして彼らは初犯ではない、恐らくずっとコンビで組んできている。という事は二人で補い合っているはずなのだ。片方は本人が言っていたように音を消し助けを呼ばせなくさせる能力。そして、もう片方は、
(おそらく……人を寄せ付けなくする能力!)
声が出なくなっただけでは不十分だ、助けを求める声が出せなくたって周囲の人間が異常に気づけば誰か一人くらいは助けに入らずとも通報や事情を聴きにやってくるだろう。そういう介入をさせなくするのがメガネの男の能力のはずだ。
「おい、藤原! どうなってんだよ!」
音を消す能力の男がメガネの男を睨みながら言った。
「馬鹿な、能力は確かに使っているのに!?」
藤原と言われたこのメガネの男は確かに能力を使用している、声を出せないあいが最後に周囲に助けを求めたとき避けられたのもこの男の能力によるもの。
動揺している男たちを横目にあいはどうすべきかを考える。絶対条件としては現れた彼に気づいてもらわなくてはならない、そのために何をすべきか、だ。
逃げ出す、男二人をかいくぐって彼のもとに行くというのがベスト、ただし現実的ではない。そんな力があったのならここまでずるずると連れてこられなかった。あいが出来ることは彼に気づいてもらえるようにすることだ。
あいは押し付けられている壁に背を力強く叩きつける。痛みとともにやってくる衝撃に反して打撃音は一切しなかった。
無音。
(こいつの能力……私が出した音って私から出る音じゃなくて私が原因で出る音を消せるのか! 範囲が広すぎる!)
「大人しくしろ」
あいの不審な動きの意図を察した男があいの身体を強く押さえつける。少女漫画でやるような抵抗の余地を残したものではない、警察官が犯人を取り押さえる時にするような骨を歪ませるかのような力での押さえつけだ。それはこうまでしてもあいの口から悲鳴が漏れる事はないという男の示威行為でもあった。
「どうする? 場所を変えるか?」
男が声を細めて言った。
「いや、この状況でお姉さんをつれて出ていくのは明らかに不自然だ、能力も聞いてないみたいだしさすがにバレるだろう」
あいと男たちを隠す大きな黒塗りのバンにもたれかかりながらメガネの男は続けた。
「それに見ろよあの外人。女連れてうろうろしてる。車取りに来たってわけじゃなさそうだ、追っ払ってくるからその女おさえてろ」
「分かった」
崩壊した世界に取り込まれてからカインの意識が目覚めた最初。
カインが目にしたものは彼が見たことがないものだった。こんなものはここ二百年彼が体験していないものだ、すなわち未知との遭遇。カインの視界には窓から覗いた街も森も荒野もない、カインの物ではない景色が広がっている。
「見ろアビゲイル! 『俺』の知らないものがあるぞ!」
カインは叫んだ、叫ばなければカインのうちに眠る欲が彼自身を引き裂いてしまいそうだった。目の前にある馬車に似た物はどうやって動く? 空から見下ろす建造物はカインの世界にはないデザインで木でも石でもない物体で構造されている。
カインの瞼が開くたびに新しい未知が開かれていく見つかっていく生まれていく。
(素晴らしい! 気がどうにかなってしまいそうだ)
興奮。
カインはここ二百年いやもしかしたらはじめて生を授かった時よりも興奮していた。
「陛下……ここは一体?」
遅れて一緒に世界の崩壊に巻き込まれたアビゲイルが声を上げた。目が覚めたら見覚えのない場所にいる普通の人間なら恐怖するのが当然。しかもアビゲイルは王女だ。ことさら刺激に耐性がない。カインが異常なだけで恐怖を覚えても恥ずべきことではない、それなのにアビゲイルは見かけは平然を装ってカインに聞いた。
「分からん! ああ未知だ、未知にあふれている!」
指揮者のように手を広げ、アビゲイルのように平然を装うことなくカインは答えた、カインがここまで興奮している様子を彼女は見たことがない。もしかした両親でも見たことがないのではないかと思わせるほど普段のカインと逸脱していた。
カインが使えない今、自らで事態を把握するしかないと決心しアビゲイルはまずここがどこなのかを調べることにした。
調査という点に置いて彼女の固有魔術『記録』は優秀だ。彼女が触れたモノの記録を遡って知ることが出来る。レコードという音声記録盤は音によって起こされた振動を針で刻むことによって記録され、再生するときは刻まれた傷を針でなぞることで音を再生する、アビゲイルの能力はいわばレコードの針だ。彼女の能力は刻まれた歴史の傷を読み取る。
まずここがどのような場所なのかを調べるためにアビゲイルはアスファルトで舗装された地面に触れる、極端な話、ここの下が今にも噴火する火山の火口だという事だってあるのだ。
彼女の頭に様々な記録が流れ込んでいく、馬車のようなものを置いていく人間、取りに来る人間、話し込む人間、引きずられている人間。それらすべてが映像としてアビゲイルには見える。
地面からの情報を読みとったアビゲイルが把握したことは大まかに二つ。
・ここは自分たちがいた場所とは文化が違うこと。
・ここは馬車のような物の置き場だという事。
とりあえず急いでここから移動することは無さそうということを確認できただけマシな結果だ。脳裏に映った人間たちの恰好はアビゲイルの見たことのない服装で、顔のつくりも違っていた。陛下が分からないというのだ、ここはもしかしたら違う星なのかもしれない。
(……ちゃんと帰れるのでしょうか)
アビゲイルは興奮冷めやらぬ様子のカインなら例え帰れるとしてもここに残りそうだとおもった。
「……ふむ、欲しいな」
ぽつりと、カインは呟いたのをアビゲイルは聞いた、いや呟いたのではない。ついに漏れたのだ。心が漏れた、カインの核となるものが。
すなわち所有欲。カインの欲望がポップコーンのように膨れてそれが口から言葉として漏れ出た。
「アビゲイル、【俺】は必ずこの世界を手に入れるぞ」
大きく掲げた手のひらを握り込みアビゲイルへと振り返ってカインはそう告げた。
「世界……ですか?」
「ああ、恐らくここは【俺】達のいた世界ではない、お前も薄々、分かっているだろう?
特に『記録』の魔術を持つお前のことだ、真っ先にそれを使って元の世界との相違点を【俺】
よりも知ったはずだ」
アビゲイルの返事を待たずしてカインは続けた。
「それにしてもこの世界でも魔術は使えるのには安心だ。生きるのには困らなそうだな、いや見た所この世界の文明はあっちよりも高い、我々の魔術で糧を得ることができるのか?」
カインは思考に一区切りをつけ
「まあ、最悪の場合は奪えばいいか」
とうなずいた。アビゲイルは答えに瀕した。
アビゲイルが答えあぐねていると二人に背後から声がかかった。
「そこのお二人さん、ちょっといいかい?」
異能力バトルが始まります