SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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プロローグ

 

 サンタナ。

 

 

 それは大海原に吹き荒ぶ熱を孕んだ突風。

 海をざわめかせ、人々を浮き足立たせる南風。

 つまりは、夏の象徴。

 実はメキシコ限定の風を指す用語で、更に言えば本来の季節は秋らしいのだが、まあそういう詳細はどうでもいい。

 彼女がサンタナと言えばそれは夏風で。

 吹いていると証する風は、彼女の心が奔るゆえに起こるもので。

 情熱の風はいつも、彼女の心を押して――高波の上に身を乗じさせるのだ。

 

 

 

 

 ズズゥ――ン――と。

 地鳴りのような凄まじい音と共に、飛沫が大海原を真っ白に染める。

 夏の海原。海岸に轟く夏の咆哮。最大高度にして五メートルを超える大波は、岩を削り大地を抉る、海の猛威だ。

 優雅に水面を舞うイルカでさえ、これほどに荒れ狂う波の中では、たちまち上下感覚を失い、木の葉のように揉みくちゃにされてしまうだろう。

 

 

 その大波を泳ぐのは――否、制すのは、ただ一人。

 ざんっ! と波の頂点から、鋭角にエッジの効いた菱形の陰が飛びだしてくる。

 真っ青な空、燦々と燃える太陽に照らされて浮かび上がるのは、黄色の基盤に青字で王家の紋様をあしらったサーフボード。ブリテン王家の宝具、プリドゥエン。

 次いで見えたのは、躍動的に宙を踊る、金髪のポニーテール。健康的に焼けた小麦色の肌。ビー玉のようにまん丸な、輝く翡翠の瞳。

 巻き上げた飛沫を天の川のように煌めかせて、モードレッドは唯一絶対の荒波の覇者として、大空を舞う。

 

 

「そらそら、いっくぜぇ――ざぶーん!」

 

 

 弾むような声と共に、プリドゥエンが勢いよく水面を叩く。軟着陸したジェット機のように高速で海面を滑るモードレッドの後ろから、先ほど乗り越えたばかりの高波が迫る。

 後ろから迫り来る波を捕まえ、ぐぐっ――と高度を上げていく。覆い被さり、呑み込まんと迫る波の頂点が近づいてくる。

 

 

「――にひっ」

 

 

 モードレッドの唇が吊り上がり、日焼けした肌によく映える、白い八重歯が煌めいた。

 次の瞬間――だん! とプリドゥエンを蹴り付ける。

 王家の宝具たるサーフボードは、彼女の意のままに波を飛び越え、乗り手ごと宙を舞った。

 青空に身を翻す、さながらスケートボードのトリックのような技巧。しかしそれをサーフィンで、まして五メートルの大波でやるのは話が違う。

 常識外の――サーヴァント限定の、更にその中で波を心から楽しむ者にしか為せない超絶技。

 荒波を制するモードレッド、只一人が味わえる爽快感。

 

 

 ――否。只一人、ではない。

 燦々と照る夏の太陽に照らされる陰は――三つ。

 大きな菱形のプリドゥエン。それを繰るモードレッド。そして――

 

「うわわ、わわ……!」

「イヤッホオオオオオオオオオオウ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 快声を上げるモードレッドの背中にしがみついて、彼女のマスターである藤丸立香は、少女のような甲高い悲鳴を重ねた。

 普通の一般人たる立香は、当然ながらモードレッドの絶技にはついていけない。宙を舞いながら、重力に任せて引っ張られる足が、プリドゥエンを離れてバタバタと宙を泳ぐ。

 そんな立香はお構いなしに、モードレッドは楽しげに笑う。遠く水平線まで届くような立香の悲鳴を後に引きながら、プリドゥエンが着水。岸に向け押し寄せる波の背に乗り、一気に滑り下りる。海水を浴びて湿った立香の黒髪が、ワカメのように髪に貼り付いた。

 ジェットコースターのような高速の滑走を終え、モードレッドは万感の思いで、両の拳を青空に振り上げた。

 

 

「やったぜ! 気持ちいい! 最高! 今日も冴えてるぜぇ、オレの波乗りっ!」

「ぜっ、ぜぇ……! げほっ。ちょ、待ってサモさん。叫びすぎて喉痛……おえぇ」

「ははっ。なんだよマスター。まだまだ始まったばかりだぜ。もうヘバッちまったか?」

「いや、これ多分命の危険を感じてるね! 指が震えてるもん俺!」

 

 

 楽しげなモードレッドの背にしがみついて、立香はようよう言葉を絞り出す。ぐわんぐわんする頭に思い浮かぶのは、決して波乗りの楽しさではない。例えるなら不安定なレイシフトによって空中に放り出された時のような、絶体絶命のあの感じだ。

 ブン、と空中に画面が投影され、マシュ・キリエライトの姿が映った。カルデアの管制室でモニターしていた彼女は、うっすらと頬に冷や汗を伝わせて、言う。

 

 

『せ、僭越ながらご指摘させて頂きますと、先輩の今のバイタルは、酒呑童子さんと源頼光さんの鉢合わせの場面に遭遇した時に相当する恐慌状態です。モードレッドさん、先輩を背に乗せての波乗りの際は、できれば人間業程度に抑えて頂けると……!』

「ちぇー、分かったよ……悪いなマスター」

「いや、謝るのはこっちの方。サモさんと一緒に乗りたいって言ったのは俺だしね」

 

 

 たはは、と照れくさそうに立香が笑った。ぽんぽんと彼女の小麦色の肩を叩いて、言う。

 

 

「それに、怖いけど楽しいよ。本当に」

「それって、命の危険を感じて脳がバカになってる状態じゃねえ?」

「ははっ。そうかもしれないけど――信頼してるし。サモさんに掴まってれば、どんな波だって乗り越えてくれるってね」

「な――」

 

 

 夏の日差しに日焼けしたモードレッドの小麦の肌が、更にぼふんっと熱くなった。

 途端にわたわたと狼狽えたモードレッドは、揺れる瞳をおろおろと彷徨わせながら、

「あ、ああああああったりまえだ! おお、お前に言われなくたって知ってるし!? 楽勝だし!? この俺と、ぷ、プリドゥエンに乗りこなせねえ波はねえんだもちろん!」

「わ、わ、慌てないでサモさん! 落ちちゃうから!」

「にゃああああ!? だからって急に抱きつくなぁ! こっちは色々準備とか覚悟とかいるんだぞばか、ばーかぁ!」

 

 

 視界一面が水面という大海の中、一つ浮いたサーフボードの上でもみ合う二人。

 夏の日差しの下のイチャつきは、再び投影された画面から響いた上擦った声に遮られた。

 

 

『お、お二人とも忙しいところ失礼しますが! サポート義務として遠慮なく口を挟ませて頂きますがっ! ――再び大波です、十メートル級のとてつもない波が迫っています!』

 

 

 マシュの声に顔を上げれば、沖合の水平線が、ぐっと盛り上がってこちらに迫っている。

 まるで悠々と乗りこなされた海が、気に食わないと本気を出したみたいだ。ぐんぐんと大きくなっていくそれは破壊の意志を宿す怪物のようで、立香の頬に冷や汗が伝う。

 

 

「サモさん!」

「任せとけ! どんな荒波だって、オレとプリドゥエンの前に屈服させて、乗りこなしてみせ――ひゃうっ。だ、だから勝手に抱きつくなっての!」

 

 

 素っ頓狂な声を漏らしたモードレッドは、真っ赤になった頬で歯噛みし、立香の腕を掴む。

 

 

「腕はぁ、ここ! デコは首の後ろ! 変なトコ触ったり、に、に、匂い嗅いだりしたら蹴り飛ばすからな!」

 

 

 世界が唸る、そう感じる程の轟音を上げて、大波がすぐそこまで迫る。二人を呑み込まんと鎌首を擡げ、高く昇った太陽さえも覆い隠す。

 

 

「頼んだよ、サモさん」

「ああ、今度は楽しもうぜ。波を掴んで、夏を制して――一緒に遊ぼうぜ、マスター!」

 

 

 ざんっ! と水面を蹴り、波に乗る。

 押し寄せる水量を、そのまま速度に転換。ぐんぐん速度が上がり、モードレッドの金髪がはためく。

 唸り声を上げて、波が畳まれていく。怪物の口が閉じるように、波が覆い被さってくる。

 太陽の光が透け、美しく圧倒的な、エメラルドグリーンの天上が頭上を埋める。

 

 

「サモさん!」

「分かってる、こっからが面白いんだ――ぜっ!」

 

 

 気合い一声。モードレッドは両手を波に浸して方向転換。大波を御しながら、横一線に切り裂くようにプリドゥエンを繰る。

 眼前に広がるのは、さながら大渦。

 押し寄せる波が産み出す輪の中央に映るのは、雲一つない真っ青な空。

 太陽を透かして翡翠に輝く水の壁に、ほうと立香が息を飲む。

 チューブ。それは波に飛び込む勇敢な者にしか見ることを許されない、最も美しい海の秘境。

 熟練のサーファーのみが味わえる、エメラルドの洞穴。

 

 

「っ……はは、いやっほおおおおおおう!」

「『逆巻く波濤を(プリドゥエン)制する王様気分(チューブライディング)!』」

 

 轟! と唸りを上げて閉じていく波を背に、二人は歓声を上げながら、夏の空にその身を躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

      ◇

 

 

 サーヴァントの体調管理というのは、カルデア内でも一,二を争う重要な任務だ。

 いや、本当の事を言えば管理する必要は別にない。というよりそもそも、サーヴァントには体調という概念がない。本来は飯を食う必要もなければ睡眠も取らなくていい。身体を構成する魔力だって実体化しなければさほど消耗しないし、カルデアのリソースの問題であれば、最悪座に還るという手もある。

 問題となるのは、そう――サーヴァントたる英雄達は、みんなみんな、その武勇伝に恥じない最高峰のワガママ達だという事だ。

 

 

 彼等は実体化()()()()し、上手い飯を()()()()()。機嫌が悪くなるとそれを隠そうともしないし、露骨に戦闘に支障が起きる。

 そして――暇。これが一番最悪だ。

 数多くの伝説を残し、普通と懸け離れた、言ってしまえばネジの外れた価値観を持つ彼等達が『何か面白い事をしたい』と思いついた時には……もう目も当てられないような事態になる。

 

 

 そういった訳で、立香は今、モードレッドのストレス発散に付き合って、夏の孤島へとレイシフトしているのだった。

 モードレッドの背中でひとしきり翻弄された立香は、カルデアから持ってきたパラソルの下に、どっかりと腰を下ろす。時間にすれば三十分も経っていないだろうに、身体はすっかりくたくただった。

 

 

「ふへぇ……」

『お疲れ様です、先輩。格好いい波乗り姿でしたね』

「ありがとうマシュ。実際は、サモさんにしがみついていただけなんだけど」

『でも、とっても楽しそうでした。水分補給のドリンクと、冷たいアイスを用意していますよ』

「やった、ありがとうマシュ!」

 

 

 クーラーボックスを開けると、冷たい空気が顔に当たる。ソーダアイスを囓ると、爽やかな甘みと共に冷たさが身体を冷やし、天国のような心地を感じさせた。

 

 

「んん~……! 地下の彷徨海からでも夏を感じられるから、レイシフト様々だね! マシュも来ればよかったのに」

『そうですね。波乗りは少し怖いですが、大海原を眺めながらアイスを食べるだけでも、いい気分転換になりそうです』

 

 

 立香が笑うと自分も嬉しい。そんな優しい微笑を浮かべて、マシュが応じる。漂白された世界という極限状態ながらも、旧カルデア時代からのこういうやりとりがまだ続けられている事を嬉しく思う。

 世界の危機だからって、精神まで張りつめている必要はない。こうして沢山遊んで、色んな人と関わって、毎日を楽しむ事だって、大いなる脅威に対する立派な反抗だ。少なくとも立香はそう思うし、だからこそ自分は、こうして今も生きていられるのだと思っている。

 

 

「マシュ、この後は何か予定あったっけ?」

『ええと……武則天ちゃんが、キマイラの絨毯を欲しがって癇癪を起こしそうだと情報が』

「えぇ……」

 

 

 豊かな紫の髪を蓄えた、高飛車な少女の事を思い出す。曰く、苦手な猫を克服する為に、まずは半分猫の生き物から始めるのだという。何だか凄い矛盾を感じるが、仮にも皇帝である彼女を放置していれば必ず天罰が下るだろう。

 立香の心中を察して、マシュが朗らかに微笑む。

 

 

『ケイローンさんがそろそろ先輩の状態を見たいと言っていましたので、ご一緒に行って貰いましょうか。あと、森くんが我慢の限界のようなので、ガス抜きも兼ねて。後ほどダウィンチちゃんに、レイシフト環境とチームの編成を打診しておきます』

「あはは……賑やかにしたって、不必要に大変な気がするよ、カルデアって」

『みなさん、人理を守るために奮闘してくれていますし、こちらも出来る限り応えなければ、ですね……なので先輩も、あんまりモードレッドさんばかり構ってはいけませんよ?』

 

 

 ちょっと語気を強めて、そう釘を刺される。半目の奥の瞳の色が結構真剣だったので、立香はうぐっと喉を詰まらせた。

 

 

「な、何のこと?」

『とぼけてもダメです。最近は週一くらいで海に出られていますよね』

「ほ、ほら、サモさんはいつも資源回収に頑張ってくれてるし」

『それでもですっ。カルデア召喚初期のサーヴァントで、付き合いが長いからって、先輩は少しモードレッドさんに甘すぎると思います』

 

 

 画面の向こうで、ぷぅとマシュが頬を膨らませる。後ろでくつくつと笑いを堪えているのは、ダ・ウィンチちゃんだろうか。

 

 

「だ、だってしょうがないだろ? 彷徨海はカルデア以上に寒くて、サモさんが最近めちゃくちゃダウナーなんだもん。波乗りに連れて行ったら凄く喜んでくれるし……こっちまで元気貰えるし……」

『そ、それでも最近は何だかくっつきすぎですっ! いくら資源回収のトップエースだからって、先輩の平等性を損なわせていい理由にはなりません!』

「俺の平等性って何!?」

 

 

 何だか不穏な気配のする単語に声を上げた時、海岸からモードレッドが姿を見せた。

 

 

「っごめん、話は後で!」

『あっ、もう。五分後には帰還ですから、用意は忘れずにお願いしますね、先輩!』

 

 

 マシュの呼びかけに曖昧に応じて、立香はクーラーボックスからミネラルウォーターを一本手に、ぶんぶん手を振るモードレッドに手を振り返す。

 

 

「ただいま、マスター!」

「お疲れ様。波乗り楽しかった?」

「最っ高! 今日は特にいい波来てたぜ! 連れてきてくれてサンキューな!」

「このぐらいお安い御用だよ。はい、お水」

 

 

 モードレッドは立香からペットボトルを受け取ると、喉を鳴らして水を飲む。一気に半分ほど空にすると、残った水を頭から被って、身体に付いた塩を落とす。

 豪快で、けれども水を滴らせる彼女の姿はやっぱり可憐で。

 立香はほんのり頬を朱に染めながら、濡れてしっとりした彼女の金髪に、用意していたバスタオルを被せてあげた。タオル越しにわしゃわしゃと頭を撫でると、くすぐったそうな笑い声。

 

 

「なあマスター、今度はお前もボード持ってこいよ。オレ直々に指南してやるからさー」

「そうだねー、それもいいかも」

「へへっ、楽しいぞぉ。海の上に立つと、ふわふわして胸が弾んで、翼が生えたような気分になるんだ。自分で乗るとまた格別だぞ!」

 

 

 波乗りの興奮冷めやらないと言った様子に、立香に擦り寄って輝く目を向けるモードレッド。小柄な体躯も相まって、おてんばな妹ができたような心地にほっこりさせられる。

 このまま他愛ない話に華を咲かせたい気持ちをぐっと堪えて、立香は用意していたセーラー服をモードレッドにすっぽり被せる。

 

 

「わぷっ」

「俺の波乗りは、また今度ね。あと数分でカルデアに帰るから、準備よろしく」

「へーい」

 

 

 おてんばで暴れん坊なサモさんは、けれど一度波に乗せてしまえば、とても素直な少女になる。モードレッドはすぽんとセーラー服に頭を通し、プリドゥエンを脇に担ぐ。

 

 

「腹減ったな、マスター。帰ったら赤マントに焼きそば作って貰おうぜ、焼きそば!」

「お、いいね。具はキャベツとタマネギだけの、ソースの味しかしないやつ!」

 

 

 夏の日差しと潮風には、安い焼きそばがよく似合う。昂揚してスキップするモードレッドを隣に、立香はレイシフトを起動させた。

 瞬間――ぐんっと身体が引かれる感覚。

 美しい大海原が搔き消え、身体が一度感覚を忘れ、意識が彗星のように飛翔する。

 世界を飛び越える形容しがたい感覚は、体感にしてものの数秒で終わる。

 すぐに戻ってくる、自分の身体の感覚。目を開ければそこは、いつものカルデアの中央管制室で、マシュやダヴィンチちゃんがにこやかな顔でおかえりと――

 

 

 

 

 

「――あれ?」

「……お?」

 

 

 ふと漏れたのは、そんな疑問の声。同時に戻ってきたモードレッドも、遅れて声を上げる。

 最初に感じたのは、違和感。

 ついで、その違和感の正体に思い至る。

 

 

「……」

 

 

 静かすぎる。

 単におかえりの声が掛からないからじゃない。カルデアの管制室に一人の姿も見えないのは、明らかに異常だった。

 

 

「マシュ? ダヴィンチちゃん?」

 

 

 応える声はない。レイシフト用の広々とした空間に、立香の声が空寒く反響する。

 

 

「通信機も反応しない。電力は通ってるみたいなのに」

「……妙だな」

 

 

 波乗りの時の明るさのない、より"素の自分"に近い声で呟き、モードレッドが駆け出した。

 

 

「周囲を確認しよう、離れるなよマスター!」

「う、うん」

 

 

 プリドゥエンを携えて走るモードレッドのセーラー服を追い、立香も表情を引き締め走る。

 静寂の原因はすぐにハッキリした。同時に、それが危機的状況である事も。

 慎重な足取りはすぐに小走りになり、全力の駆け足になり。

 二手に別れてカルデアをぐるりと回った時には、二人の顔はぐっしょりと冷や汗が吹き出していた。

 

 

「――いたか!」

「ダメだ、誰もいない! スタッフもサーヴァントも、みんなカルデアからいなくなってる!」

 

 

 口にした言葉が信じられず、二人は見合わせた顔をさっと青ざめさせる。

 

 

「何が起きてんだ!? また事件か、それともクリプターのクソ野郎の襲撃か!?」

「お、落ち着こうサモさん。戦闘の形跡は無いし、メインの発電系統は生きてる。ひょっとしてレイシフトの不調で、次元の狭間とかに飛ばされたのかも」

「っぞっとしねえ話だな……せっかく浮かれてた気分が台無しだ」

「ともかく、管制室に行こう。何か手がかりが掴めるかもしれない!」

 

 

 忌々しげに歯噛みするモードレッドの肩を叩き、二人で一緒に駆ける。

 飛び込んだ管制室にも、ひと一人、サーヴァント一騎も見当たらなかった。いつも複数人が仕事に打ち込んでいるデスクは空で、スクリーンだけが青い光を灯している。

 各種機器の簡単な操作なら習っていた。立香とモードレッドは、手分けしてコンソールを操作し、必死に現状を把握しようとする。

 

 

「くそっ、やっぱりだ! 存在証明システムが動いている、それも()()()()()()()()()()()!」

 

 

 自分で呟いた情報に、苦々しく口を歪める。

 レイシフトとは、生態情報を過去に飛ばし、それを観測する事で有り得ない場所への実存を可能にする技術だ。レイシフトした際の立香には、カルデアからの『彼が今ここにいる』と定義する独自の存在証明プログラムが常に働いている。

 それが、作動している。

 

 

 つまりここは、特異点だ。

 どこか別の年代、別の世界のカルデアに、立香とモードレッドは迷い込んだと言う事だ。

 それが明らかになり、次いで別の疑問が立香の頭を埋める。

 

 

「どうして誰もいない。どうして本来のカルデアへの通信が通じないんだ。そもそもここは一体……、……なんだ?」

 

 

 画面に走らせていた目が、ある一点で止まる。

 震える指で、文字列をなぞる。

 

 

「座標が……見た事ない数字だ。何かのバグ――」

「――げえええぇっ!?」

 

 

 別のコンソールを操作していたモードレッドが、素っ頓狂な悲鳴を張り上げた。彼女はまん丸に見開いた目で立香を振り返り、震える手でコンソールを示す。

 

 

「ま、ます、マスター大変だ! やべえ事になってるぞ!」

「どうしたの!? 何か見つけた!?」

 

 

 駆け寄った立香もまた、モードレッドが見た光景を目の当たりにする。

 表示されていたのは、カルデアの外を映し出す監視映像だった。

 本来ならそこには、轟々とうねる彷徨海の荒波が映し出されているばかりの、味気ない景色が映し出されている。

 その景色が、一変している。

 荒ぶる波は一つとしてなく。

 けれどその色は、昏い荒波よりも尚暗い、漆黒。

 その帳の中に瞬くのは――。

 

 

 

 

 ――星?

 

 

「……え?」

 

 

 しばらくの間、思考が吹き飛ぶ。

 ようよう思考が戻ってきても、現実味が来るまでには更に時間を要し。

 

 

 

 

 

「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 理解と同時に、喉を振り絞って立香は叫んだ。

 自らの置かれた状況に、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 画面に映るは、満面の星空。

 上下左右、どこをとっても続く星雲のヴェール。

 美しく壮大な、果てしない銀河の暗闇。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――無限の宇宙の只中を、カルデアは漂流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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