SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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4章 惑星級のビッグウェーブ
1節


「……とまあ、そんな感じで。目覚めたら宇宙の最果てにいた姫ちゃんなのでした」

 

 

 コックピットに広がる宇宙を眺め、刑部姫は疲れ切った目でそう呟いた。

彼女の目は感情を灯す事を完全にやめており、何かを悟っているようにも、何物も見たくないと心を閉じているようにも見えた。

 

 

「ごめんね、おっきー。起こすのも悪いかなと思って」

「うぅ、まーちゃんの優しさが心に染みるけど、心の準備はちっともできないよぉ……ホントにあんなのと対決するの? デジマ? カルデアが救うのって人類史でしょ? ならちゃんと地球の枠内に収めよう? っていうか姫、自室に引き籠もって同人誌を作る作業に戻りたいんだけど」

「文字通りの乗り掛かった船だ、覚悟決めろ引き籠もり」

「確かに普段の絡みは無いけれど、だからってその呼び方はどうかと思うよサモちゃん!?」

 

 

 辛辣な物言いに、またも刑部姫がショックを受けて涙目になる。その隣に、一緒に寝かされていたもう一人の姿はない。

 

 

「おっきー、アンデルセンは? まだ寝てるの?」

「姫よりも早く起きてたけど、一生懸命執筆してたよ。『どうせ戦闘できない三流だ。放っておけ』って。宇宙船でも集中できるあたり、ホント尊敬するっていうか、作家の苦しみ知ってる分怖いくらいあるけど」

「ふうん……ま、実際オレ達と一緒にいてできることも少ないだろうさ。好きにさせて良いんじゃねえか?」

 

 

 宇宙の見える窓を隣に、原稿用紙に打ち込む青髪の少年の背中を想像する。

 カルデア、まして地球にいては到底味わえない宇宙空間にいながら、手元の紙に文字を走らせる。眼前の未知より優先させる物語があるのなら、それにはきっと意味がある筈だった。立香も頷き、それ以上追求する事はやめた。

 眼前の星はみるみるうちに大きくなり、その表面の様子が立香達の目にも見えるようになる。

 宇宙を救う重要なミッションを抱えているとは言え、地球を遠く離れた宇宙の冒険だ。目の前に広がる新しい星の光景に、立香がほぅと感嘆の吐息を漏らした。

 

 

「陸地が見えない。本当に水だけの星なんだ」

「だからこそ恐ろしいぞ。水面が波打っているのがここからでも見えるだろう? 宇宙空間から見えるって事は相当な大きさの波だ、数キロメートルはあるかもな」

「……幅が?」

「高さだとも」

 

 

 何かの冗談かと、立香が思わずルーデルを見る。返された勝ち気な笑みには、一切の冗談は混じっていなかった。

 

 

「水だけの惑星なら珍しい事でもない。そしてこの辺りの宇宙帯は重力の動きもデタラメだ! 水が予測不能な動きで襲いかかってくるぞ。飲まれればもちろん即死だ!」

「……ねえまーちゃん。この人のハイテンション、やっぱ戦争続きで頭のどこかやってるんじゃないの?」

 

 

 冷や汗をタラリと溢し、刑部姫が言う。

 唯一笑みを深めたのは、波という言葉に反応したモードレッドだ。

 

 

「ヘッ、上等だぜ。波があるなら、そこはオレの領分だ。いい加減、地球の単調な波に飽き飽きしてた所だしな!」

 

 

 モードレッドは手にしたプリドゥエンの面を撫で、それから隣で不安そうな顔を浮かべるXXの胸をトンと小突いた。

 

 

「心配すんな、宇宙の父上。波乗りついでに、サクッと必殺アイテムを頂いてきてやるよ」

「……ええ。お願いします、サーファーさん」

「っそ、その声で聞き分けがいいと、何かゾクゾクすんな……まあいいや、任されたぜ!」

 

 

 二人頷き合う。立香はその様子を見ながら、重荷を背負うXXがそんな風に頬を緩ませられるだけでも、自分たちがここに来た意味があったのだと思わずにはいられない。

 ミレニアムスツーカが惑星に突入する。

 大気圏を突入してすぐ、ズズゥ――ン、という重苦しい轟音が立香達の身体を震わせた。大気に混じる水しぶきで濡れるコックピットの眼前を、超高層ビルのような高さの大波が、生き物のようにゆったりとした動きで立香達の前を横切っていく。

 遙か下の海面は、まるで何百ものミキサーが一斉に稼働しているようだった。曇り空を反映させた灰色の水が、指向性もなく暴れ回っている。その波の一つとっても、数十メートルはあるに違いない。

 後部ハッチが開いた瞬間、冷たい水が吹き込んできた。前方に立っていたモードレッドが、暴風に思わず袖で顔を覆う。

 

 

「反応によれば、《アルトリアナイト》はここから半径十キロ圏内のどこかにある! 緑色の輝きを探すんだ!」

「そりゃまた随分アバウトだな。文字通り、海に落ちた宝石を探すって奴だ。楽しそうじゃねえか!」

 

 

 眼下、遙か数キロ下に蠢く荒波に、流石のモードレッドも、小麦色の頬に冷や汗を伝わせる。轟々という唸りに、足が浮かび上がるような緊張が走る。

 それを敏感に察知した立香が、彼女の肩に手を置いた。

 

 

「サモさん」

「心配すんな、これは武者震いだよ。ただの荒波程度に、オレがビビるもんか……だろ、マスター?」

「うん。サモさんならできるよ。俺はそう信じてる」

 

 

 モードレッドが振り返り、視線が交錯する。

 翡翠の瞳が、何かを期待するように揺れていた。

 

 

「だから、これは不必要な、くどいくらいの念押し……必ず帰ってきてね、サモさん」

「ああ、心配性なマスターの為に、面倒くせえけど言ってやる……約束だ。パパっと終わらせて、お前の下に戻ってくる」

 

 

 くすり、と笑って、モードレッドが立香の襟を摘まんだ。

 

 

「だから、これも、いらねえ念押しだ」

 

 

 そう言って、モードレッドは立香の胸に身体を押しつけた。

 驚いたのはほんの一瞬。すぐに立香の腕が、モードレッドの日焼けした、小柄な身体を抱き締める。

 XXの目を丸くする顔も、「まっ」と声を漏らした刑部姫のキタコレ顔も、ルーデルの短く吹いた口笛も感じない。ただ二人きり、お互いの触れ合わせた身体や、はぁという息遣いや、その内側の力強い鼓動を感じる。

 

 

「……」

「……もう、平気?」

「待て。あと十秒くらい」

「うん……」

「……」

「……チューしなくて、平気?」

「ん……やめとく。それは、帰ってきたオレへのご褒美にする」

「分かった。予約しておくね」

「ん……」

「……がんばれ、モードレッド」

「ん」

 

 

 短く、ささやくような、二人だけのやり取り。こくこく頷く度に、ふわふわのポニーテールが揺れる。

 そうして、ぬくもりを充分に満たしてから。モードレッドはパッと抱擁を解き、彼女に最もよく似合う、八重歯を見せた勝ち気な笑みを浮かべた。

 

 

「っし! 行ってくるぜお前等、マスター!」

「行ってらっしゃい、サモさん!」

 

 

 手をブンブンと振り、モードレッドはダンッと甲板を蹴り付け、水しぶきの舞う中空へと身を投げ出した。

 ゴウッと空気が吹き荒び、モードレッドの身体を浮かす。落下はぐんぐん速度を上げ、荒れ狂う水面がみるみる迫る。

 モードレッドは、脇に握ったプリドゥエンと共に一回転。両脚を面にしっかりと乗せる。

 

 

「さあ行くぜ、前人未踏の荒波に挑戦だ!」

 

 

 気合いの声を張り上げるモードレッド。その後ろに、高さにして数キロはあろうという荒波が迫る。

 途方も無い大波を、プリドゥエンの面が切り裂いた。モードレッドは落下速度をそのまま勢いに変えて、巨大な水面を駆け下りる。

 大波を抜けようとした対向から、数十メートル級の別の波が迫る。モードレッドは軽やかに身を翻し、迫り来る波をプリドゥエンで蹴り付け、速度を殺さず駆け抜ける。

 

 

「ハハッ、あちこちうねりまくって暴れてやがる。賑やかでめちゃくちゃで、まるでカムランの大戦だ!」

 

 

 波を登りきり、ざんっと空中に舞う。

 視界一面、三六〇度どこを眺めても、水平線の向こうまで荒れ狂う波、波、波、波、波。

 それが、この水の星の全て。

 モードレッドに迫るのは、星そのものなのだ。

 

 

「上等だ――全部踏み付けて、蹂躙してやろうぜぇ、プリドゥエン!」

 

 

 叫び、猛り、サーファーは舞う。地表を埋め尽くす我が物顔の波共に、自分こそが波を制する王なのだと教えるために。

 その鮮やかな勇姿は、滞空するミレニアムスツーカからも確認することができた。窓にへばりついた立香が、ほっと笑みを綻ばせる。

 

 

「全然平気どころか、すっごく楽しそう。本当に心配は杞憂だったみたいだ」

「ふへぇ、運動神経やっば……頭も身体も、姫とは作りが違いそー」

 

 

 立香の隣で、刑部姫が感心して言う。

 操縦席の方から、ルーデルが二人を呼んだ。

 

 

「《アルトリアナイト》らしい輝きを見つけたら教えてくれ! 通信機で、俺からモードレッドに伝えよう」

「了解! といっても、視界一面水ばっかで、正直何がなんだか……」

「待ってまーちゃん。あそこ、何か光ってない?」

 

 

 刑部姫が指さした箇所に目を向けると、その先で、濁った水面がチカッと銀色に瞬いた。

 

 

「うーん、《アルトリアナイト》は緑色なんだよね?」

「それじゃあ違うかな……え、じゃああの光って――」

「ッ――全員掴まれぇぇぇぇ!!」

 

 

 刑部姫の声に割り込む、ルーデルの咆哮。

 次の瞬間、ミレニアムスツーカが大きく機体を傾け――先ほどまで浮遊していた箇所を、レーザーの如き一筋の水流が貫いた。

 突然に傾いた機体を、刑部姫と一緒に転がる。そんな状態でも、水流の空気を抉る衝撃をはっきりと知覚する事ができた。

 

 

「な、何が起きたの!? 《極光騎士団》の攻撃!?」

「それならまだやりようはあったんだがな! 急いで座席に座ってベルトを締めろ!」

 

 

 操縦桿を握りしめ、ルーデルは歯軋り。

 コックピットの画面には、灰色の大海を悠々と泳ぐ、巨大な魚影が映っていた。

 

 

「これは完全に想定外だ――水ばかりの星に、まさか原生生物とは!」

 

 

 波打つ水面を割って、その生物が巨体を曝け出す。

 蛇のような胴長のボディ。扇のように美しく広がる巨大な鰭。頭のほとんどを占める巨大な口には、鋸のような歯がびっしりと並んでいる。

 サーペント――神話に語られる水の怪物を彷彿とさせる生物は、まっすぐミレニアムスツーカを睨み付け、かっ開いた巨大な口から、超高水圧のレーザーを放出した。

 

 

「揺れるぞ、歯を食い縛れ!」

「ああもおー! 姫今回は見てるだけで余裕って思ってたのにぃぃぃぃぃ!」

 

 

 泣き叫ぶ刑部姫の悲鳴をエコーさせながら、ミレニアムスツーカが急旋回して水流を避ける。

 サーペントは水流を放出したまま、クイと顔を傾けた。空を切り裂くように動いたレーザーを、ルーデルは更にエンジンを吹かして回避。縦横無尽の神業で、追従するレーザーを撒く。

 レーザーが止んだ時には、船内はすでに満身創痍だった。矢鱈目鱈に振り回されたお陰で立香の脳は回り、ルーデルでさえ苦しげに唸り、古いテレビにそうするように頭を叩いている。

 一気に顔を青ざめさせた刑部姫が、皆を代表して叫んだ。

 

 

「分が悪すぎるんじゃない!? こんな避け方されたら、まずまーちゃんの身が保たないわよ!」

「ああ、全くその通りだ! 奴を何とかしなければ、全員纏めて海の藻屑だ」

「ッ分かりました、私が――」

 

 

 XXがツインミニアドを現出し、立ち上がろうとする。しかし意気込みは長く続かず、大きな揺れにあおられ、呻きと共に呆気なく膝を付いてしまう。

 

 

「よすんだXX! 傷はまだ癒えてはいまい。そんな状態で戦うのは危険だ、一旦引いて体勢を立て直す!」

 

 

 ルーデルの凜とした声。それに戦慄したのが立香だ。

 

 

「待ってよ、それじゃあサモさんが!」

「こらえろ少年! すぐに救助策を考えるが、今は君達の命が大事だ!」

「ダメだ、サモさんを見捨ていい訳がない!」

「まーちゃん掴まって、またレーザーが来るよ!」

 

 

 刑部姫が指さす先。サーペントはまたも大口を開け、そこに眩い銀色の光を蓄え始める。

 超高水圧のレーザーが、今度こそミレニアムスツーカを打ち落とさんと放たれる、まさにその時。

 

 

「ッそのデカ口を――閉じやがれぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 大波を切り裂いて跳んだモードレッドが、両手に持ったプリドゥエンを、思い切りサーペントの頭上に振り下ろした。

 衝撃に頭が揺れ、高らかな鳴き声と共に、レーザーが水面を切り裂く。全長数キロはありそうな巨体が、凄まじい水しぶきを上げながら水面に沈む。

 プリドゥエンで水面を捉えながら、モードレッドが通信機に向けて叫んだ。

 

 

「コイツの相手はオレが引き受ける! レーザーの一本だってお前等には撃たせねえ、だからお前等は《アルトリアナイト》を探せ!」

「サモさん!」

「心配すんなよマスター。海はオレの領域だ。お前はお宝を探しながら、安心してオレのトリックに見惚れてればいいさ!」

 

 

 その言葉が強がりでないと証明するように、へへ、と楽しげに笑うモードレッド。

 その背後の水面を切り裂いて、サーペントが姿を表した。波乗りするモードレッドの後ろを追いかけながら、鋸状の歯を爛々と輝かせる。

 

 

「オレは、王に食らい付いた叛逆の騎士だ。壁が高いほど、波が高いほど、オレの魂は烈火の如く燃えたぎるんだッ」

 

 

 真っ白な八重歯を煌めかせ、怪物に負けない程の野性的な笑みをギラリと浮かべ、モードレッドは輝く翡翠の瞳でまっすぐサーペントを睨み付けた。

 

 

「来いよ化物! どっちがこの海の支配者に相応しいか、その身体に叩き込んで教えてやる!」

 

 

 勝ち気な光を灯す翡翠の瞳目がけ、サーペントの大口から、特大のレーザーが放たれた。

 

 

 

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