SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
――自分を包む光は、時折、どうしようもなく暗い。
血よりも紅く、この銀河のどんな魂よりも眩い光。とても眩しくて、熱いはずのエネルギー。
目を開けば視界は紅に染まっている。迸るエネルギーが常に肌をビリビリと震わせている。
なのに、彼女が真っ先に思い浮かべる感情は『暗い』だった。
幾度目覚めても。幾星霜の時が経った気がしても。
その光は、暗い。
そんな筈ないのに、そう思う。
恒星の中心は――少なくともその只中に居る自分の知覚は――いつも穏やかで、静かだった。
まるで時間や空間といった世界を司る概念の何もかもが、恒星の熱に焼き尽くされてしまったみたい。
光が埋め尽くしている。銀河最強の熱が満たしている。
だから、そこには何もない。
何も感じない。何も介在しない。
光がその場所の全てだから、目を閉じても開いても大して意味はない。
いつも夢を見ているみたい。だからもう、夢と現実の区別もついていない。
思考さえ、眩い紅の光が塗り潰してしまっている。
……なのに、自分は『暗い』と思う。
全部が光で満たされて。意識はふわふわで、自分という形さえばらばらで、思うって言葉の意味だってあやふやだけれど。
なんとなく、暗い。
そう感じるのはたぶん、光に混じる『ゆらぎ』のせい。
火で炙られた空気が揺らぐような。大地に手を付けて、遙か下のマグマの流れを感じるような。静かで暗い深海にいる自分を、誰かが水面から手を叩いて呼んでいるような。
どうしてか分からない。どういうものかも分からない。
そういう『ゆらぎ』が、時折浮かんでは、光の中の自分に『自分』を思い出させる。
瞬き程度のほんの一瞬、光が揺らぐ。
また、光がゆらいだ。とくん、と一回。大きくゆっくり、何億年も生き続ける巨大な生き物の、億劫に鳴る心臓の鼓動のように。
「……如何したか、オルトリアノヴァよ」
まばゆい光に包まれた意識では測りようもないが、たぶんゆらぎのすぐ後に、騎士がそう声を掛けてきた。
騎士は、自分のいずれの思考も感じた訳ではあるまい。ただ彼は、光と共に生きるサーヴァントである故に、並外れた光への知覚を有していた。
また、光がゆらぐ。とてもとても小さな、宇宙ネズミの尻尾が舞い上げる埃のような波が、立て続けに続いている。
「――ああ、痛ましい。お前は、憎んでいるのだな」
……憎んでいる?
そうなのだろうか。光に包まれたあやふやな意識では、この『ゆらぎ』の暗さを説明する言葉はない。言葉はもっと、今の自分よりも低いステージで使われるものだ。
「ひとり孤独に宇宙を彷徨い、取り残され、さぞ恐ろしかった事だろう。空気からも、重力からも、人からも見放され、辛かっただろう。この宇宙を――空虚で凍えるほど寒い蒼輝銀河の暗闇を、さぞかし恨んだ事だろう」
恒星の傍で、紅蓮の光を浴びる騎士が、言葉を紡ぐ。
また、とくんと光がゆらぐ。光で構成される世界の、世界そのものがうねる。
「何も心配はいらない、オルトリアノヴァよ。お前はもう何も気にしなくていい。思うがまま、尽きぬ恨みの往くがまま、空虚な暗い世界を光で満たすといい」
今までにない、揺らぎの連続。
それはまるで――心臓の鼓動のようで。
紅い光に、何か暗いものが滲んでくる。
「憎しみのまま焼き尽くせ。孤独を強いた銀河のがらんどうを破壊しろ。光は恐怖を産み出さないのだから、全てを光で包めばいい。お前の眩い極光で、お前に背を向けた何もかもの目を潰してしまうがいい」
とくん、とくん、光が揺らぐ。
光で塗られていた自分の世界が、掻き回される。
紅い光に、暗い何かが混ざっていく。
騎士の言うとおり、これは憎しみなのだろうか。
誰かを恨んでいるのだろうか。
分からない。分からない。
だけど、揺らぎが続く。
どうしようもなく、騒ぐ。
「貴様は最早、銀河最強の光だ――光らしく、何も考えずあるがまま、遍く全てを貫くがいい」
そうだ、光は考えない。
光は何にも侵されない。
だから、そう。
――暗いなんて異常は、排除しなければ。