SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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5節

 次にXXが目覚めた時、彼女はミレニアムスツーカの座席に座ったまま眠らされていた。

 うっすらと開けた視界が霞む。

 次第に焦点があった時、そこには立香とモードレッド、それからふわふわと宙に浮く球体ドロイド、ガーデルマンの姿があった。

 

 

『損傷霊基、六十%修復。安定期に入りました。回復も順調です』

「ほっ、良かった」

「ったく、一日に何度気絶するんだよ、宇宙の父上」

 

 

 立香の脇で、モードレッドがそう悪態を吐いた。口調は乱暴だが、日焼けした小麦色の顔は、立香と同じく安堵を浮かべている。

 

 

「……私は、どのくらい?」

「ほんの小一時間だよ。今はハイパーブースターで、XXオルタの所に向かってる」

「《アルトリアナイト》は?」

「大丈夫、ケースに入れて保存してるよ。ほら」

 

 

 ついと首を傾ければ、座席の横のテーブルに、ガラス筒に入れられた《アルトリアナイト》が、翠色の輝きを讃えていた。

 XXは、礼もそぞろに立ち上がると、《アルトリアナイト》に近づいていく。

 操縦席に座ったルーデルが、咳払い一つ、彼女を制した。

 

 

「やめた方がいいんじゃないか、XX。先ほどの戦いを見るに、それは君にとっても天敵に近い鉱物なのではないかね?」

「……ええ、その通りです。直に触れれば、私の霊基は一分と保たず消滅するでしょう。だからえっちゃんと戦う前に、何とか武器の形に加工しないと」

 

 

 気を急いたXXの声を、ルーデルの失笑が遮った。

 

 

「落ち着きたまえよ。どれだけ阿呆なエンジニアだろうと、回転するプロペラに手を突っ込んだりはしない。君がやろうとしている事は、それに近い無鉄砲だぞ」

「止めないでください、これはえっちゃんの為にも必要な――」

「必要なのは知っているよ。だから落ち着けと言っているんだ。幸い、ミレニアムスツーカには十分な設備があるし、うちのドロイドはとびきり優秀だ。武器の加工のような面倒事は任せても構わんと思うがね。だろう、ガーデルマン?」

『……まるで自分の成果のような得意気な口ぶりには辟易を隠せませんが、パイロットの意見を全面的に肯定します。三時間ほどで、望む形に組み込んで見せましょう』

 

 

 どういう理屈かルーデルの方に冷ややかな目をくれてから、ガーデルマンがそう応える。

 XXはしばらくの間葛藤していたが、やがて諦めたように息を吐くと、座席に座り直した。

 

 

「……すみません、お任せします」

「それでいい。我々はどっしり冷静に、戦争前のブリーフィングといこうじゃないか」

 

 

 そう言うとルーデルは、自動操縦に切り替えると、立ち上がって立香達に向き直る。

 

 

「《アルトリアナイト》の力は本物だった。アレがあれば、確かに《オルトリアノヴァ》の光を打ち消す事が可能だろう。だが《オルトリアノヴァ》の前には、ダース・ソル率いる極光騎士団が控えている」

 

 

 ポケットから取り出したスペースガムを一つ口に放り、ルーデルは深呼吸一つ。

 

 

「数十億人からなる大艦隊。小型船だけでも数十万騎はあるだろう。対するオレ達はこのミレニアムスツーカ一つきり。敵の大軍をかい潜り、何とか恒星のど真ん中にいるXXオルタに《アルトリアナイト》を叩き付ければ、ひとまず俺達の勝ちだ」

 

 

 つらつらと語られたそれは、嘘偽りない勢力図。

 端の方の座席に座っていた刑部姫が、恐る恐る手を上げた。

 

 

「……無理ゲーじゃない?」

「控えめに言って自殺だな。こんな馬鹿げた作戦を敢行するのは、余程の阿呆か、戦争末期の我等が総統閣下くらいだとも」

 

 

 艦内の空気が、水を打ったように静まり返った。

 いたたまれない沈黙の後、ルーデルがきょとんと目を丸くする。

 

 

「……どうした。ひょっとして現代でも閣下ネタは禁句か?」

「いやぁ。笑えるネタじゃないし、笑ってる場合でもないと言うかぁ……」

「《アルトリアナイト》を砲弾か何かにして打ち込むのはどう?」

 

 

 緩んでしまった空気を引き戻すべく、立香が案を出す。しかし、すぐにルーデルが首を振って否定した。

 

 

「夥しい敵艦のどれかに当たればそれでおしまいだ。それにただの金属では、恒星に近づいた瞬間に熱波に負けて四散するだろう。飛び出した《アルトリアナイト》がどこに飛ぶか分かった物じゃない」

「それじゃあ、やっぱり突貫をしかけるしか――」

「……いいえ、その必要はありません」

 

 

 息を飲んだ立香の言葉を、XXが遮った。

 皆の視線を集める中、XXは決意を固めた声で、言った。

 

 

「目的地に近づいた辺りで、私を放り出してください。後は、私が何とかします」

「何とかって……オイ、ルーデル以上に笑えねえ冗談だぞ、宇宙の父上。勝てない程の戦力差だって話をしてんのに、頭数を減らしてどうするんだ?」

「《オルトリアノヴァ》に辿り付ければ、私の勝利です。敵をかいくぐるのであれば、大きな船よりも、私一人の方が小回りが利きます」

「でも……」

「大丈夫ですよサーファーさん。私はこれまで、どんな絶対絶命のピンチも乗り越えてきたんですから……ね、マスターくん」

 

 

 唐突に、XXが立香に話を振った。その笑みは穏やかで、見つめられた立香は思わず鼻白む。

 

 

「きみには、きみの守るべき世界がある。その使命は、誰かが邪魔していい物ではありません……私の身勝手な我が儘に付き合ってくれて、ありがとうございました」

「……」

「後は大丈夫です。お姉さんが何とかしてみせます。ですからきみは……」

「違う……違うよ、XX」

 

 

 ハッキリと首を横に振って、立香はXXの優しい笑みを否定した。

 

 

「ダメだ。認められない。上手く言えないけれど……XXが、そんな優しい顔を見せる作戦なんて、怖いよ」

「少年の言う通りだぞ、XX」

 

 

 立香に言葉を続けたルーデルは、これまで見せていた快活さからは考えられないほど鋭い目で、XXを見据えた。

 

 

「戦争に於いては、時に無茶を通さなければいけない事もある。だがお前のそれは、ただの蛮勇だ。どれだけ勇気を振り絞ろうと、投身自殺には名誉も勲章も付いてはこないぞ」

「ッ何を言うんですか。自殺なんて、私は……」

「いいや、そうだとも。何故ならお前は、勝ったその先の事を何も考えていないからだ」

 

 

 指を突きつけられ、XXが口を紡ぐ。

 

 

「《オルトリアノヴァ》を倒した後、襲いかかる極光騎士団の群れをどうするつもりだ――答えられないな? 何故ならお前は、どうもするつもりもないからだ」

「……」

「お姉さんを気取るならば、よく考えろお嬢さん。『星と共に散る』と言われた少年が、どれだけショックかをな」

 

 

 ルーデルが告げた言葉は、XXの胸を深く穿った。

 それは、立香が確かに察し、信じたくないが為に口を噤んでいたものだった。

 立香は沈痛に押し黙り、XXの言葉を待つ。けれど彼女の口からは、否定する言葉は出てくれなかった。

 

 

「……しょうが、ないじゃないですか」

 

 

 代わりに漏れ出たのは、ようよう振り絞るような、今にも泣き出しそうな弱音で。

 

 

「この事件は、何もかも、私のせいなんです」

 

 

 俯いた瞳から、大粒の涙が溢れて落ちる。

 

 

「あの時私が、友達をちゃんと看取っていれば……えっちゃんの死は穢されなかった。幾つもの星が壊される事もなかった」

 

 

 冷凍睡眠から解放されたXは、Xオルタから背を向けた。

 友人の死を認められず。命を救ってくれた恩義を果たそうともせずに。瓦礫と共に宇宙を彷徨う友の姿を、見て見ぬ振りをした。

 全て、彼女が臆病だったせいだ。

 全て、彼女が卑怯者だったせいだ。

 

 

「《オルトリアノヴァ》の中に、えっちゃんの姿を見た時……これは罰なんだと分かりました。虐げられた友達が、罪を犯した私を焼きに来たんです」

 

 

 変わり果てた友の姿も、目を刺す程の紅の光も、強烈に肌を焼く熱も。何もかもが、自分を責めているように感じられた。

 それはXXにとって、途方も無い恐怖だった。

 対峙するだけで身体が震えて、『何とかしなくちゃ』という思いだけがみるみる膨れて、パンクしてしまいそうで。

 誰かに助けを求めずには居られなかった。

 だから、XXは立香を求めた。

 

 

「マスターくんを呼んだ事だって、私が臆病だったからなんです。優しいきみは否定してくれるでしょうが、やっぱり、きみをこの問題に関わらせるべきではなかった」

「……」

「だから、もういいんです。マスターくんは、私に勇気をくれました。それでもう、充分、反則なくらいなんです」

 

 

 XXの目が、涙を目一杯に溜めながら、立香を見る。

 蒼の瞳孔を揺らしながらも、確かに光を宿し。

 唇を震わせながらも、心は揺るがず。

 

 

「私は、罰を受けます。傷も、身を焦がす熱も、宇宙に放り出されるのも、私一人でいい」

「XX……」

「私は今度こそ、えっちゃんを看取ります……勇気を振り絞って、責任を持って、彼女を終わらせる」

 

 

 殺したのは、自分だから。

 もう、とっくの昔に手遅れになってしまったけれど。

 ずっと昔にそうするべきだったように。

 彼女を、ちゃんと葬って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 ……いや。

 ……いや?

 

 

「……?」

 

 

 ふっと湧いた疑問が、立香の目を瞬かせる。

 些細な、けれど決定的におかしい、違和感。

 立香の過去の冒険の記憶が、走馬燈のように脳裏を駆け巡る。

 立香の目まぐるしい脳内など露知らず、ミレニアムスツーカ内部はお通夜のような重苦しい空気に満ちていた。すっかり威勢を削がれたモードレッドが、沈んだ調子で言う。

 

 

「弔いか……それは、辛いな。オレにはあんまり縁のねえ話だけどさ。生前は奪ってばっかで、サーヴァントになってからは、死なんて意識する事もねえし」

「――」

 

 

 思考のパズルが、カチリと嵌まる音がした。

 

 

「モーさん、今なんて!?」

「うぇっ!? いや……は、叛逆したのは、そりゃ多少は悪いと思うけどよ。あの時はオレも本当に必死で――」

「そうじゃなくて、もう一つの方! サーヴァントになってからって奴!」

「な、何だよ。怒ってんのか? 確かに倫理観はガバってるけどさ。カルデアでまた会おうって命を擲った英霊のお陰で、救えた人類史だってあるじゃねえか!」

 

 

 いきなり詰め寄られて顔を真っ赤にさせながら、おっかなびっくりモードレッドが叫ぶ。

 立香の顔に、みるみる喜びが満ちた。

 打って変わった晴れやかな顔で、立香はミレニアムスツーカ中に響く声で叫んだ。

 

 

 

 

「――えっちゃんは、生きてる!」

 

 

 立香の凜とした声が、コックピットに響いて、消えて。

 それからようやく、XXが、上擦った声を漏らした。

 

 

「……へ?」

「そうだよ、だって変じゃないか。命がみんなサーヴァントになった蒼輝銀河なら、死んだサーヴァントは霊基が分解されて座に還っていなきゃおかしい!」

 

 

 サーヴァントは、英霊の座に登録された英雄の歴史が、魔力と人々の信仰によって形を得て顕界した霊体だ。

 ゆえに、厳密に言えば、英霊に死は存在しない。肉体を構成する魔力が解け、霊基は英霊の座に返還される。

 世界の作りが違う蒼輝銀河と言えど、サーヴァントの有り様まで違うはずがない。

 

 

「で、でも……えっちゃんは確かに星の崩壊に呑み込まれて……現に《オルトリアノヴァ》の中で――」

「いや、言いたい事は分かるぞ少年」

 

 

 混乱するXXの言葉は、凜としたルーデルの声で容易く遮られた。笑みを深めたルーデルが、立香の後に続く。

 

 

「英霊の死とは、霊基が分解され座に還ること――つまり逆を言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、そういうことか?」

「まさにそういうこと! ありがとうルーデル!」

 

 

 ハイテンションな立香に感謝を述べられ、ルーデルが照れくさそうに、組んだ手をひらひらと振る。

 恒星の只中で浮遊するXXオルタには、確かに実体があった。そればかりかXXと同様に、肉体の成長までもしているようであった。

 それに、先ほど水の惑星に現れた分身には、泰然としていながらも、明確な意志を見せて、XXを見つめていた。

 それらは、少なくとも絶対に、死体が見せる反応ではない。

 宇宙の低温が、肉体も含め霊基を冷凍保存させたのか。コアとなるオルトリアクターの特異な力かは分からないが、ともかく。

 

 

「XXは生きていて、ずっと眠っていたとしたら? 今のXXに襲いかかっている状態が、ただ夢を見ているようなものだとしたら?」

「――弔いだの罰だの馬鹿馬鹿しい! ブン殴って目覚めさせれば、感動の再開じゃねえか!」

 

 

 最後にモードレッドが、ガツンと両拳を打ち付けて、希望に満ちた勝ち気な笑顔を浮かべて見せた。

 ミレニアムスツーカに、たちまち活気が戻ってきた。最愛の友を取り戻せるかもしれない。それはこの冒険でようやくたどり着いた、希望にあふれる最高のハッピーエンドだ。

 

 

 

 

 そこにドアがスライドし、軽い足音が響いた。

 フラフラとした危うい足取りでコックピットに入ってきた少年(風)サーヴァントは、丸眼鏡の奥のひどい隈を浮かべた目で、心底嫌そうに一同を見回した。

 

 

「……なんだ、葬式みたいな空気でいるかと思えば、底抜けに明るいじゃないか。皆して気でも狂ったか?」

「アンデルセン!」

 

 

 久しぶりに姿を見せたアンデルセンは、嬉しそうな立香の呼び声に、頭をハンマーで殴られたかのような顰め面を浮かべた。

 

 

「叫ぶな馬鹿め。こっちは縦横無尽に回転する地獄の執筆部屋で二徹した後なんだぞ……なぜそうもテンションが高い。どうせハッパでも吸ったんだろう。オレにも寄越せ」

 

 

 悪態を吐いたアンデルセンは、目眩にぐらぐらと頭を揺らしながら、手にした分厚い原稿用紙の束を、立香の前にドサリと置いた。

 

 

「全く、お通夜ムードの貴様等を嘲笑うことだけを楽しみにしていたのに、すべて台無しだ。もう帰っていいか?」

「アンデルセン、これって……」

「はぁぁ……リソースの全てを使い果たしたオレに、まだそんなつまらない事を喋らせようというのか、この馬鹿は」

 

 

 ボサボサの頭を掻き毟り、何もかもめんどくさいと言わんばかりに目つきを悪くさせ、アンデルセンは吐き捨てるように言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。こんな宇宙で、引き籠もって筆を走らす理由が他にあるか。分かったら、つべこべ言わずに目を通せ。俺はもう休ませて貰う」

 

 

 言うが早いか、アンデルセンは後部ハッチの手頃な所に横たわると、数秒とたたずにささやかな寝息を立て始めた。

 捨て台詞の意味を理解した立香は、手にした原稿用紙を恐る恐るめくり――ページを捲る手はすぐに止まらなくなり、文字を追う度に胸を昂揚させる。

 

 

 そこに綴られていたのは、アンデルセンの言う通りの――掛け値無しの、突破口で。

 文字を追い、綴られた物語を脳裏に思い浮かべ、勝利の鍵を得た事を確信する。

 迸る活力と一緒に、立香は顔を振り上げる。

 持ち上げた、とびきりの笑顔。

 輝く瞳をまんまるに開いた、その視線の先で。

 

 

 

 

 

 

「いける――これなら絶対にいけるよ、おっきー!」

「……ほへ?」

 

 

 完全に蚊帳の外を決め込んでいた刑部姫が、素っ頓狂な声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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