SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

18 / 31
2節

「……で、サモさんに呼び出された訳なんだけど」

 

 

 モードレッドがXXを廊下から連れ出して、十分後。

 立香は、ミレニアムスツーカ内部の廊下を怪訝な足取りで歩いていた。

 あてがわれた部屋で寛ぎ英気を養っていた立香の元に、モードレッドが駆け込んできたのが、ほんの五分ほど前。頼みたい事があると言われ、すぐに来るようにと部屋番号を教えられたのだが。

 

 

「肝心のサモさんはどこにいるんだろう……部屋で待ってるのかな?」

 

 

 何も知らされないまま、立香は指定された部屋の前に立ち、控えめにノックした。

 

 

「サモさん? 俺だよ。入っていい?」

「っは、はい、どうぞっ」

 

 

 部屋の中から響いた声は上擦っていた。声の主に気付いた立香は、意外に目を丸くしてドアを開ける。

 そこもまた、立香の部屋と同じ居住室だ。ベッドと壁掛けのモニターがある以外に、物はほとんど無い。

 その物寂しい故に存在感のあるベッドに腰掛けて、XXが立香を見つめていた。拳を膝に乗せ、金縛りにあったように固まっている。

 

 

「……ひょっとして、部屋を間違えてる?」

「い、いえ。あってますよ。私がサーファーさんに、マスターくんを呼んで貰ったんです」

 

 

 喰い気味な言葉には明らかな狼狽が見て取れる。

 不安か緊張か、何にせよモードレッドに強引に押し通されて、この状態にあるらしい。

 

 

「大丈夫? サモさんに無理を言われたりしてない?」

「え、ええ。無理などは、全く。私自身、マスターくんとは一度、お話をしておくべきと思っていたので」

「そっか……うん、実は俺もXXと話がしたかった」

 

 

 どうやら、モードレッドに気を遣わせてしまったらしい。子供っぽい気質と裏腹に世話焼きな所のある相棒の根回しに、立香は感謝する。

 机に備え付けの椅子に手を掛けると、「あっ……」とXXが声を漏らした。

 見つめ返すと、XXは赤くした顔をふいっと逸らし――その格好のまま、伸ばした手でぽんぽんと、自分の隣のベッドを叩いてみせた。

 

 

「良かったら、こちらに座りませんか?」

「えっ」

「もちろんマスターくんが良ければなのですが……向かいあうと、上手くいかなそうなので」

 

 

 真っ赤な顔で、ごにょごにょと口ごもりながら言うXX。

 何が上手くいかないのかを聞くのは、多分野暮だろう。向き合って打ち明けるには、勇気が足りない事だってあるのだ。立香は戸惑いこそしたが、特に説明を求めようとはしなかった。

 

 

「じゃあ……失礼します」

 

 

 一声挟んで、XXの隣に座る。XXはびくりと身を竦ませて脇に動こうとしたが、結局そのまま。肩を寄せ合うような距離に収まる。

 XXの姿は、戦闘用の鎧を脱いだ開放的な姿だ。夏の海じゃなくとも、真っ白なビキニが目に眩しい。触れるか触れないかの距離に置いた肩に、彼女の体温を感じた。

 気まずさを抱えた沈黙。それを破ったのはXXだ。視線を落とし、絞り出すように言う。

 

 

「本当に、大変な目に巻き込んでしまいましたね、マスターくん」

「大変なんて今更だよ。XXが気にすることない」

「ふふっ、幾度となく、世界を救ってきたマスターくんですもんね」

 

 

 照れくさそうにはにかむ。不意の笑顔のかわいさに、マスターの胸がどきりと弾む。

 

 

「マスターくんは堂々としていて、心に固くて熱い芯があって、私なんか足下にも及ばないくらい立派で……見ていると、なんだかほっとしてしまいます」

「そ、そう?」

「ええ……今、マスターくんに来て貰ったのは、そんな君に勇気を貰いたかったからなんです」

 

 

 僅かに怯えを孕んだ声音で、XXが言う。

 押し黙って見つめる立香の横に座り、彼女はぽつぽつと、語り始める。

 

 

「……昔、コスモ学園にいた頃。私とえっちゃんはよく二人で模擬戦をしていました。戦闘訓練の成績は、私とえっちゃん二人が抜きんでていたので、ライバルでありながら、最も良い訓練相手であったのです」

 

 

 それは遠い記憶。まだ蒼輝銀河が学園コメディに寛容であった頃のストーリー。

 まだ若く、青臭く、成長の最中にあった二人は、こぞって競争した。広すぎる銀河の事など想像する余地もない学生にとって、世界とは学校の事であり、学内最強の座こそ求めるべき名誉だった。

 刃を交え、二人並んでトレーニングし、どちらが勝つかを競い合い。そうして時間を共にしているうちに、二人には友情が芽生えた。

 おろそかになりがちなヒロインXの勉強は、文系少女なXオルタが助けてくれた。逆に部屋に籠もりがちなXオルタを、ヒロインXがこぞって遊びに連れ出した。

 デコボコな二人の共同生活。それはとてもせわしなく、掛け値なしに充実した時間だった。

 本気の戦いの後の、コスモデザート店めぐりが好きだった。互いの買ったスイーツを分け合って食べる時の甘酸っぱさが、こそばゆいけれど気に入っていた。

 二人してくたくたになるまで戦い続け、お互いに一歩も動けなくなって。そうして草原に寝転んで見上げた夜空の、宝石を散りばめたような星々の美しさは、今も昨日の事のように思い出す事ができる。

 

 

「その時、草原に寝転びながら、えっちゃんは言ったんです――いつか私は、敵として貴方と戦う事になる気がするって。星空に向けた目で、どこか遠くを眺めるようにして」

 

 

 その日は十六時間ぶっ通しでトレーニングをしたせいでくたくたで、模擬戦は三十二勝三十敗で自分が勝ち越していた事もあり、せいぜい腹いせの冗談だろうと思って聞き流していた。いつか絶対負かすという宣誓程度に受け取っていたのだ。二人の友情は永遠だと、信じて疑わなかったから。

 今になって、あの時のXオルタの言葉が、予言であることを知った。

 

 

「私は大切な友達を、宇宙に放り出したまま見放してしまいました。私は私の事を、えっちゃんに恨まれるべきひどい人であると自覚しています」

「……」

「私は、えっちゃんの敵なんです」

 

 

 そう断言する事が、一体彼女にとって、どれほど辛いことか。それが分かってしまうから、立香は決して、そんなことないとは言えなかった。

 口先だけの優しさでは、彼女の心の闇は拭えない。

 これは彼女の過去の過ちに起因するものだから。

 傷を癒やせるのは、ただ一人――えっちゃんを置いて他にはいないのだ。

 だから、XXは立香に問うた。

 

 

「聞かせてください、マスターくん」

「……」

「私は、えっちゃんを助けたい。けれど、私に助ける資格があるんでしょうか? 見放した私が、今になって彼女を救おうとする事を……えっちゃんは、受け入れてくれるでしょうか?」

 

 

 震える瞳が、立香の目を見つめる。縋るように。辿り着く巣を見失い、雨に打たれる雛鳥のように。

 その目はどうしようもない不安に押し潰されそうであったが、その実輝きは澄み、迷いを抱いてはいなかった。

 やるべき事は分かってる。為すべき事も知っている。

 えっちゃんを助けたい。友達を救いたい。自ら呟いたその一言が、何よりも彼女の確信を突いている。

 彼女はもう、覚悟を決めている。

 だから、立香が言うべきは――

「えっちゃんは……」

 

 

 ただ、優しく、力強く、背中を押す言葉。

 

 

「XXには、笑っていて欲しいと思うよ」

 

 

 微笑み、ゆったりとした口調で、何てことないように、言い切る。

 

 

「俺は色んな世界を旅して、色んな人に出会って、冒険したり戦ったりしてきたけど。XXと一緒の冒険は、どれもこれも滅茶苦茶だ」

「……め、めちゃくちゃですか」

「そう。ついていけないテンションで場を引っ掻き回すし、地球なのに平気で銀河のルールを適用して混乱させるし。すっごく軽いテンションなのに、実は放っておくと世界が滅ぶレベルの敵を追ってたり、そこらの神様よりもヤバい宝具を平然とぶっぱしたりするし」

「あ、はは……」

 

 

 身に覚えがありすぎるXXが、思わず乾いた笑みを溢してしまう。その照れくさそうな笑顔に向けて、立香は続ける。

 

 

「XXはとびきり滅茶苦茶だけど……その分、とびきり楽しかったよ」

「……」

「とんでもない事件に巻き込まれるけれど、その分全く退屈しないし。どんな危機もおちゃらけたテンションで解決しちゃうから、いっそ爽快でさえあるし」

 

 

 実はその笑顔の裏には、友を見捨てた罪の意識が、いつもこびり付いていたのだが。

 明るい笑顔の裏に潜んでいた暗い影に気付けなかった事も、かつての冒険の最中に、彼女が打ち明けてくれなかったことも、口惜しくないと言えば嘘になる。

 けれど、しょうがないとも思う。気付ける訳がないと開き直りたいくらいある。

 それだけ、XXは明るくて、おちゃらけて、とんでもない存在で。

 そんな彼女に振り回される時間を――もちろん後になって振り返ってみればだが――どうしようもなく、楽しいと感じてしまうのだから。

 

 

「地球や、ルルハワや、Sイシュタルと宇宙を巡っていた時――あの時見せてくれた君が、本当の君なんだよね?」

「……」

「だったらえっちゃんは、絶対に、君の事が大好きだったはずだよ。笑って、ふざけて、楽しそうにしている君の事を、本当の友達だと思っていたはずだ」

 

 

 嘘でああまでふざけられる訳がない。例えそれが罪からの逃避だとしても、立香がこれまで見てきたXの姿には、ちゃんと彼女の本質が現れている。

 学生生活の事なんて、手に取るように想像できる。きっとえっちゃんをあちこち振り回していたのだろう。矢鱈目鱈に突撃して、トラブルばかり抱えていたのだろう。しょっちゅう何かしら爆発させていたりするはずだ。

 付き合わされていたえっちゃんには同情を禁じ得なくもないが、同時に羨ましいと思う。

 だって、そんな息つく暇もないドタバタの毎日は、楽しいに決まっているから。

 

 

「俺は、XXには笑っていて欲しい。心のまま、まっすぐで訳の分からないXXであって欲しい。絶体絶命のピンチも、トンデモな力で解決して……得意気に笑って『久しぶりですね』なんて呑気な挨拶をして欲しい」

 

 

 それを、きっとえっちゃんも願っている。

 XXの目が潤み、揺らいで――やがて大粒の涙が、こぼれ出す。

 揺れ動く感情が。抗いがたい喜びが。溢れて溢れてとまらなくて。優しい言葉が、ただ自分を肯定し前を向かせてくれるマスターが、嬉しくて嬉しくてしょうがなくて。

 

 

「罪とか、恨みとか、きっとどうでもいいはずだ。だって……XXといると、楽しいんだもん」

「はい……」

「いつもみたいに、銀河の危機なんてちぎっちゃ投げしてさ。明るく笑って、ドーンと助けちゃおうよ。それが俺が知ってる、えっちゃんが好きなはずの、君の姿だ」

「っはい……!」

 

 

 喉をしゃくり上げながら、XXは何度も力強く頷いた。

 頬を伝った雫は後から後から落ちていく。熱い涙が、彼女の氷のようだった心を溶かし、淀みを洗い落としていく。

 涙が昂ぶる感情に震える拳に落ちる。その手を、立香の手が上からそっと包み込んだ。XXの固く握りしめられた手に、温もりを染み込ませる。

 手に落ちる涙は、とても温かかった。

 

 

「っごめ……ごめん、なさい、マスターくん」

 

 

 涙混じりで上擦った、とてもひどい声でXXが言う。

 

 

「お姉さんなのに、もっとしっかりしなくちゃいけないのに、わたし……」

「謝らなくていいよ。むしろルルハワの頃から、その年上ムーヴは無理があるなって思ってたから」

「っは、は……ほんとに、君ってば……!」

 

 

 噎び泣きながら、XXは笑う。吹っ切れたように。肌に食い込む程キツく縛られた鎖から、ようやく解き放たれたように。

 

 

「……ずっと、ずっと、寂しかったんです。誰にも頼れず、膨れあがっていくえっちゃんのエネルギーに、何とかしなきゃという思いばかりが募って……思い詰めて、どうにかなってしまいそうで……いつの間にか私は、自分自身さえ見失っていたようです」

「もう、大丈夫?」

「はい。もう、迷いません……私のあるべき姿は、君が思い出させてくれました」

 

 

 涙を拭い、微笑む。

 彼女は目を真っ赤に晴らし、あちこちびしょ濡れの酷い顔だったけれど……今まで見た彼女の中で最も晴れやかな、一心に友を想う優しさに満ちていた。

 立香もまた笑みを返し、彼女の目尻に浮いた涙を掬ってあげる。

 

 

「XXが俺達を呼んでくれてよかった。君を助ける力になれて嬉しいよ」

「本当ですか? ……私に頼られる事を、マスターくんは嬉しいと思ってくれますか?」

「もちろん。XXが、心を開いてくれた証拠だから」

 

 

 訪ねるようなXXに、誇らしげに答える立香。

 かぁっと顔を赤くしたXXは、未だ例えようもない感情で揺らした瞳で真摯に立香を見つめる。

 ベッドの上、XXの手が動き、重なっていた立香の手と、指を絡ませた。

 くすぐったい感触に、立香が驚く。XXが、抑えがたい感情にはぁと吐息を吐き出す。

 

 

「じゃあ……もう少しだけ、君を頼ってもいいですか?」

 

 

 答えを聞く前に、XXは立香の胸に飛び込んでいた。

 胸元のシャツを握りしめ、ひしと身を寄せる。白ビキニだけを身につけた胸が、お腹に当たってふにょんと弾む。露出した肌のあたった箇所から、彼女の熱い体温を直接感じる。

 ふわりと舞った金髪から蜜のように甘い少女の香りがして、立香の胸をどきりと高鳴らせた。

 

 

「だ、XX?」

「ごめんなさい、マスターくん。けれど少しだけ、このままでいさせてください」

 

 

 立香の胸に顔を埋め、小刻みに震わせた声でXXが縋る。

 

 

「シリアスは苦手なんです。私は、きみが思うよりずっと脆くて、弱い女の子ですから」

「……」

「だから、私に元気をください。前を向く力を……マスターくんやえっちゃんの好きな私でいるために必要な、ほんの少しの勇気を分けてください」

 

 

 小刻みに身を震わせながら、XXが言う。

 船は決戦の宙に向けて宇宙を駆ける。やるべき事も、それを為す覚悟も、もう決まっている。

 だから、あと必要なのは……頑張るための力だけ。

 立香はおずおずと腕を持ち上げ、彼女の背中に回した。蝶々結びの水着の紐にどきりとしながら、彼女の温かく、しっとりとした白い肌に手を乗せる。

 

 

「……これで、いい?」

 

 

 返事はない。立香の胸に埋めた顔が、こくこくと頷く。

 彼女の切ない心の隙間を埋められていることを確信するのは、ほんの少し覗く顔の赤みと、押し当てられた胸から伝わるどきどきという鼓動で、十分すぎる程に伝わって。

 決戦の地に向けた飛行の最中。銀河と大切な友達を救う使命を帯びた一人の少女は、少年の胸にひしと受け止められ、抱え続けた罪の意識に凝り固まった心を、彼の優しさに解きほぐしていくのだった。

 

 





ここまで読んで頂きありがとうございました!
いよいよ物語も佳境。ここからはノンストップの大迫力バトルが始まります。







さて、今作『SABER WARS Groove of the Galaxy!!』ですが、




実は、R18のえちえちノベルです。




この話のすぐ後に展開される、
サモさんと立香がXXをやさしくしっぽり慰める、
くんずほぐれつのイチャラブ3Pおせっせを収録した
SABER WARS Groove of the Galaxy!!《上巻》。


文庫版はとらのあな様、メロンブックス様で、
ダウンロード版はDLsite様、FANZA様にて
絶賛発売中です。




小説の方は引き続き毎日投稿予定!
激動の下巻もお楽しみください!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。