SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
「……で、サモさんに呼び出された訳なんだけど」
モードレッドがXXを廊下から連れ出して、十分後。
立香は、ミレニアムスツーカ内部の廊下を怪訝な足取りで歩いていた。
あてがわれた部屋で寛ぎ英気を養っていた立香の元に、モードレッドが駆け込んできたのが、ほんの五分ほど前。頼みたい事があると言われ、すぐに来るようにと部屋番号を教えられたのだが。
「肝心のサモさんはどこにいるんだろう……部屋で待ってるのかな?」
何も知らされないまま、立香は指定された部屋の前に立ち、控えめにノックした。
「サモさん? 俺だよ。入っていい?」
「っは、はい、どうぞっ」
部屋の中から響いた声は上擦っていた。声の主に気付いた立香は、意外に目を丸くしてドアを開ける。
そこもまた、立香の部屋と同じ居住室だ。ベッドと壁掛けのモニターがある以外に、物はほとんど無い。
その物寂しい故に存在感のあるベッドに腰掛けて、XXが立香を見つめていた。拳を膝に乗せ、金縛りにあったように固まっている。
「……ひょっとして、部屋を間違えてる?」
「い、いえ。あってますよ。私がサーファーさんに、マスターくんを呼んで貰ったんです」
喰い気味な言葉には明らかな狼狽が見て取れる。
不安か緊張か、何にせよモードレッドに強引に押し通されて、この状態にあるらしい。
「大丈夫? サモさんに無理を言われたりしてない?」
「え、ええ。無理などは、全く。私自身、マスターくんとは一度、お話をしておくべきと思っていたので」
「そっか……うん、実は俺もXXと話がしたかった」
どうやら、モードレッドに気を遣わせてしまったらしい。子供っぽい気質と裏腹に世話焼きな所のある相棒の根回しに、立香は感謝する。
机に備え付けの椅子に手を掛けると、「あっ……」とXXが声を漏らした。
見つめ返すと、XXは赤くした顔をふいっと逸らし――その格好のまま、伸ばした手でぽんぽんと、自分の隣のベッドを叩いてみせた。
「良かったら、こちらに座りませんか?」
「えっ」
「もちろんマスターくんが良ければなのですが……向かいあうと、上手くいかなそうなので」
真っ赤な顔で、ごにょごにょと口ごもりながら言うXX。
何が上手くいかないのかを聞くのは、多分野暮だろう。向き合って打ち明けるには、勇気が足りない事だってあるのだ。立香は戸惑いこそしたが、特に説明を求めようとはしなかった。
「じゃあ……失礼します」
一声挟んで、XXの隣に座る。XXはびくりと身を竦ませて脇に動こうとしたが、結局そのまま。肩を寄せ合うような距離に収まる。
XXの姿は、戦闘用の鎧を脱いだ開放的な姿だ。夏の海じゃなくとも、真っ白なビキニが目に眩しい。触れるか触れないかの距離に置いた肩に、彼女の体温を感じた。
気まずさを抱えた沈黙。それを破ったのはXXだ。視線を落とし、絞り出すように言う。
「本当に、大変な目に巻き込んでしまいましたね、マスターくん」
「大変なんて今更だよ。XXが気にすることない」
「ふふっ、幾度となく、世界を救ってきたマスターくんですもんね」
照れくさそうにはにかむ。不意の笑顔のかわいさに、マスターの胸がどきりと弾む。
「マスターくんは堂々としていて、心に固くて熱い芯があって、私なんか足下にも及ばないくらい立派で……見ていると、なんだかほっとしてしまいます」
「そ、そう?」
「ええ……今、マスターくんに来て貰ったのは、そんな君に勇気を貰いたかったからなんです」
僅かに怯えを孕んだ声音で、XXが言う。
押し黙って見つめる立香の横に座り、彼女はぽつぽつと、語り始める。
「……昔、コスモ学園にいた頃。私とえっちゃんはよく二人で模擬戦をしていました。戦闘訓練の成績は、私とえっちゃん二人が抜きんでていたので、ライバルでありながら、最も良い訓練相手であったのです」
それは遠い記憶。まだ蒼輝銀河が学園コメディに寛容であった頃のストーリー。
まだ若く、青臭く、成長の最中にあった二人は、こぞって競争した。広すぎる銀河の事など想像する余地もない学生にとって、世界とは学校の事であり、学内最強の座こそ求めるべき名誉だった。
刃を交え、二人並んでトレーニングし、どちらが勝つかを競い合い。そうして時間を共にしているうちに、二人には友情が芽生えた。
おろそかになりがちなヒロインXの勉強は、文系少女なXオルタが助けてくれた。逆に部屋に籠もりがちなXオルタを、ヒロインXがこぞって遊びに連れ出した。
デコボコな二人の共同生活。それはとてもせわしなく、掛け値なしに充実した時間だった。
本気の戦いの後の、コスモデザート店めぐりが好きだった。互いの買ったスイーツを分け合って食べる時の甘酸っぱさが、こそばゆいけれど気に入っていた。
二人してくたくたになるまで戦い続け、お互いに一歩も動けなくなって。そうして草原に寝転んで見上げた夜空の、宝石を散りばめたような星々の美しさは、今も昨日の事のように思い出す事ができる。
「その時、草原に寝転びながら、えっちゃんは言ったんです――いつか私は、敵として貴方と戦う事になる気がするって。星空に向けた目で、どこか遠くを眺めるようにして」
その日は十六時間ぶっ通しでトレーニングをしたせいでくたくたで、模擬戦は三十二勝三十敗で自分が勝ち越していた事もあり、せいぜい腹いせの冗談だろうと思って聞き流していた。いつか絶対負かすという宣誓程度に受け取っていたのだ。二人の友情は永遠だと、信じて疑わなかったから。
今になって、あの時のXオルタの言葉が、予言であることを知った。
「私は大切な友達を、宇宙に放り出したまま見放してしまいました。私は私の事を、えっちゃんに恨まれるべきひどい人であると自覚しています」
「……」
「私は、えっちゃんの敵なんです」
そう断言する事が、一体彼女にとって、どれほど辛いことか。それが分かってしまうから、立香は決して、そんなことないとは言えなかった。
口先だけの優しさでは、彼女の心の闇は拭えない。
これは彼女の過去の過ちに起因するものだから。
傷を癒やせるのは、ただ一人――えっちゃんを置いて他にはいないのだ。
だから、XXは立香に問うた。
「聞かせてください、マスターくん」
「……」
「私は、えっちゃんを助けたい。けれど、私に助ける資格があるんでしょうか? 見放した私が、今になって彼女を救おうとする事を……えっちゃんは、受け入れてくれるでしょうか?」
震える瞳が、立香の目を見つめる。縋るように。辿り着く巣を見失い、雨に打たれる雛鳥のように。
その目はどうしようもない不安に押し潰されそうであったが、その実輝きは澄み、迷いを抱いてはいなかった。
やるべき事は分かってる。為すべき事も知っている。
えっちゃんを助けたい。友達を救いたい。自ら呟いたその一言が、何よりも彼女の確信を突いている。
彼女はもう、覚悟を決めている。
だから、立香が言うべきは――
「えっちゃんは……」
ただ、優しく、力強く、背中を押す言葉。
「XXには、笑っていて欲しいと思うよ」
微笑み、ゆったりとした口調で、何てことないように、言い切る。
「俺は色んな世界を旅して、色んな人に出会って、冒険したり戦ったりしてきたけど。XXと一緒の冒険は、どれもこれも滅茶苦茶だ」
「……め、めちゃくちゃですか」
「そう。ついていけないテンションで場を引っ掻き回すし、地球なのに平気で銀河のルールを適用して混乱させるし。すっごく軽いテンションなのに、実は放っておくと世界が滅ぶレベルの敵を追ってたり、そこらの神様よりもヤバい宝具を平然とぶっぱしたりするし」
「あ、はは……」
身に覚えがありすぎるXXが、思わず乾いた笑みを溢してしまう。その照れくさそうな笑顔に向けて、立香は続ける。
「XXはとびきり滅茶苦茶だけど……その分、とびきり楽しかったよ」
「……」
「とんでもない事件に巻き込まれるけれど、その分全く退屈しないし。どんな危機もおちゃらけたテンションで解決しちゃうから、いっそ爽快でさえあるし」
実はその笑顔の裏には、友を見捨てた罪の意識が、いつもこびり付いていたのだが。
明るい笑顔の裏に潜んでいた暗い影に気付けなかった事も、かつての冒険の最中に、彼女が打ち明けてくれなかったことも、口惜しくないと言えば嘘になる。
けれど、しょうがないとも思う。気付ける訳がないと開き直りたいくらいある。
それだけ、XXは明るくて、おちゃらけて、とんでもない存在で。
そんな彼女に振り回される時間を――もちろん後になって振り返ってみればだが――どうしようもなく、楽しいと感じてしまうのだから。
「地球や、ルルハワや、Sイシュタルと宇宙を巡っていた時――あの時見せてくれた君が、本当の君なんだよね?」
「……」
「だったらえっちゃんは、絶対に、君の事が大好きだったはずだよ。笑って、ふざけて、楽しそうにしている君の事を、本当の友達だと思っていたはずだ」
嘘でああまでふざけられる訳がない。例えそれが罪からの逃避だとしても、立香がこれまで見てきたXの姿には、ちゃんと彼女の本質が現れている。
学生生活の事なんて、手に取るように想像できる。きっとえっちゃんをあちこち振り回していたのだろう。矢鱈目鱈に突撃して、トラブルばかり抱えていたのだろう。しょっちゅう何かしら爆発させていたりするはずだ。
付き合わされていたえっちゃんには同情を禁じ得なくもないが、同時に羨ましいと思う。
だって、そんな息つく暇もないドタバタの毎日は、楽しいに決まっているから。
「俺は、XXには笑っていて欲しい。心のまま、まっすぐで訳の分からないXXであって欲しい。絶体絶命のピンチも、トンデモな力で解決して……得意気に笑って『久しぶりですね』なんて呑気な挨拶をして欲しい」
それを、きっとえっちゃんも願っている。
XXの目が潤み、揺らいで――やがて大粒の涙が、こぼれ出す。
揺れ動く感情が。抗いがたい喜びが。溢れて溢れてとまらなくて。優しい言葉が、ただ自分を肯定し前を向かせてくれるマスターが、嬉しくて嬉しくてしょうがなくて。
「罪とか、恨みとか、きっとどうでもいいはずだ。だって……XXといると、楽しいんだもん」
「はい……」
「いつもみたいに、銀河の危機なんてちぎっちゃ投げしてさ。明るく笑って、ドーンと助けちゃおうよ。それが俺が知ってる、えっちゃんが好きなはずの、君の姿だ」
「っはい……!」
喉をしゃくり上げながら、XXは何度も力強く頷いた。
頬を伝った雫は後から後から落ちていく。熱い涙が、彼女の氷のようだった心を溶かし、淀みを洗い落としていく。
涙が昂ぶる感情に震える拳に落ちる。その手を、立香の手が上からそっと包み込んだ。XXの固く握りしめられた手に、温もりを染み込ませる。
手に落ちる涙は、とても温かかった。
「っごめ……ごめん、なさい、マスターくん」
涙混じりで上擦った、とてもひどい声でXXが言う。
「お姉さんなのに、もっとしっかりしなくちゃいけないのに、わたし……」
「謝らなくていいよ。むしろルルハワの頃から、その年上ムーヴは無理があるなって思ってたから」
「っは、は……ほんとに、君ってば……!」
噎び泣きながら、XXは笑う。吹っ切れたように。肌に食い込む程キツく縛られた鎖から、ようやく解き放たれたように。
「……ずっと、ずっと、寂しかったんです。誰にも頼れず、膨れあがっていくえっちゃんのエネルギーに、何とかしなきゃという思いばかりが募って……思い詰めて、どうにかなってしまいそうで……いつの間にか私は、自分自身さえ見失っていたようです」
「もう、大丈夫?」
「はい。もう、迷いません……私のあるべき姿は、君が思い出させてくれました」
涙を拭い、微笑む。
彼女は目を真っ赤に晴らし、あちこちびしょ濡れの酷い顔だったけれど……今まで見た彼女の中で最も晴れやかな、一心に友を想う優しさに満ちていた。
立香もまた笑みを返し、彼女の目尻に浮いた涙を掬ってあげる。
「XXが俺達を呼んでくれてよかった。君を助ける力になれて嬉しいよ」
「本当ですか? ……私に頼られる事を、マスターくんは嬉しいと思ってくれますか?」
「もちろん。XXが、心を開いてくれた証拠だから」
訪ねるようなXXに、誇らしげに答える立香。
かぁっと顔を赤くしたXXは、未だ例えようもない感情で揺らした瞳で真摯に立香を見つめる。
ベッドの上、XXの手が動き、重なっていた立香の手と、指を絡ませた。
くすぐったい感触に、立香が驚く。XXが、抑えがたい感情にはぁと吐息を吐き出す。
「じゃあ……もう少しだけ、君を頼ってもいいですか?」
答えを聞く前に、XXは立香の胸に飛び込んでいた。
胸元のシャツを握りしめ、ひしと身を寄せる。白ビキニだけを身につけた胸が、お腹に当たってふにょんと弾む。露出した肌のあたった箇所から、彼女の熱い体温を直接感じる。
ふわりと舞った金髪から蜜のように甘い少女の香りがして、立香の胸をどきりと高鳴らせた。
「だ、XX?」
「ごめんなさい、マスターくん。けれど少しだけ、このままでいさせてください」
立香の胸に顔を埋め、小刻みに震わせた声でXXが縋る。
「シリアスは苦手なんです。私は、きみが思うよりずっと脆くて、弱い女の子ですから」
「……」
「だから、私に元気をください。前を向く力を……マスターくんやえっちゃんの好きな私でいるために必要な、ほんの少しの勇気を分けてください」
小刻みに身を震わせながら、XXが言う。
船は決戦の宙に向けて宇宙を駆ける。やるべき事も、それを為す覚悟も、もう決まっている。
だから、あと必要なのは……頑張るための力だけ。
立香はおずおずと腕を持ち上げ、彼女の背中に回した。蝶々結びの水着の紐にどきりとしながら、彼女の温かく、しっとりとした白い肌に手を乗せる。
「……これで、いい?」
返事はない。立香の胸に埋めた顔が、こくこくと頷く。
彼女の切ない心の隙間を埋められていることを確信するのは、ほんの少し覗く顔の赤みと、押し当てられた胸から伝わるどきどきという鼓動で、十分すぎる程に伝わって。
決戦の地に向けた飛行の最中。銀河と大切な友達を救う使命を帯びた一人の少女は、少年の胸にひしと受け止められ、抱え続けた罪の意識に凝り固まった心を、彼の優しさに解きほぐしていくのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
いよいよ物語も佳境。ここからはノンストップの大迫力バトルが始まります。
さて、今作『SABER WARS Groove of the Galaxy!!』ですが、
実は、R18のえちえちノベルです。
この話のすぐ後に展開される、
サモさんと立香がXXをやさしくしっぽり慰める、
くんずほぐれつのイチャラブ3Pおせっせを収録した
SABER WARS Groove of the Galaxy!!《上巻》。
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