SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
「――突破だ!」
ルーデルの繰るミレニアムスツーカは、とうとう群れなす敵機の中を潜り抜け、再び自由な宇宙空間へと飛びだしていた。
ルーデルの飛んだ軌道は、やはり極光騎士団の意表を突くものだったらしい。警備の薄かった場所を抜けたミレニアムスツーカは、機体の馬力に物を言わせ、小型機の群れをぐんぐん引き離す。
ルーデルの見立て通り、そこは極光騎士団が資源を貯蔵する倉庫として利用している空間だった。倉庫とはいっても、その中には略奪した宇宙船や、明らかに居住用の建造物のような巨大なものも含まれており、それらが方々に浮遊する様子はかなり荘厳な雰囲気を感じさせる。
その建造物の中を掻い潜って飛び、とうとう立香が、求めていた我が家の姿を見つけ出した。
「あった、カルデアだ!」
「でかした
先のダース・ソルとの戦いで穿たれた横穴にミレニアムスツーカを横付けし、ルーデル以外のカルデアメンバー全員が降り立つ。駐在していた数人の騎士が、泡を食ったように固まった。
「な、何だお前等! どうしてここに――」
「我が家だからに決まってんだろ。そっちこそ、人ん家に土足で踏み込んでんじゃねえぜ!」
完全に油断しきっていた警備兵は、モードレッドの振るうプリドゥエンの一撃で、あっけなく昏倒する。
そうして立香達は、この冒険の始まり――カルデアの管制室まで戻ってくる。
手早く警備兵を片付けたモードレッドは、プリドゥエンを置き、ふぅと一息。
「さあ、次は何すりゃいいんだ、マスター?」
「待ちに待った逆転劇の始まりだよ! お願い、アンデルセン、それにおっきー!」
笑顔の立香が二人を呼ぶ。
アンデルセンは一抱えはある原稿用紙の束を抱え、不敵に笑っている。対する何も知らない刑部姫は、これから何が起こるのかと戦々恐々の様子だ。
「ねえまーちゃん。姫ちゃんってば、結局アンデルセンの作品を一行も読ませて貰えてないんだけどさ……一体何をしようってわけです?」
「まあまあ、とりあえずそこに座って、どうぞ。トップの人しか座れない、今は新所長の特等席だよっ」
「うぅ、理由話さないのが怖いなぁ、まーちゃんの笑顔が人をデスゲームに引き込むタイプの奴だよぉ」
「心配するな刑部姫。幸いにも今回は悲劇ではない。悪いようにはならんさ――まあ、馬鹿げた事にはなりそうだがな! はははっ」
アンデルセンの高笑いに、刑部姫があからさまにげんなりとしてみせる。
だが今は、命運を懸けた決戦の最中なのだ。それに、立香の晴れやかな期待を浴びて、応えられないのではサーヴァントの名が廃る。
「――ええいっ、もうなるようになれだぁ――!」
刑部姫はぴしゃりと自分の頬を打ち、勢いに任せて、カルデア管制室の中心にどっかりと座り込む。
「そうだ、引き籠もり姫。そのぐらい思い切りの良い方が、こんな巫山戯た宇宙の冒険には相応しいとも」
アンデルセンがにやりと唇を吊り上げ、手にしていた原稿用紙をばっと広げた。
沢山の原稿用紙は、ひらりと宙を舞ったかと思いきや、一斉に指向性を持って宙を泳ぎ始め、やがて大きな紙の渦になると、刑部姫を中心にして立香達を包み込む。
原稿用紙の渦が、荘厳な魔力の気配を纏う。書き連ねた文字が、そこに宿る物語が、力になって溢れ出す。
その渦を巻き起こす天才作家は、幼い顔に反し余りに大人びた厭らしい笑みを浮かべ、言う。
「一つだけ詫びるとな。タイトルを告げなかったのは、一重に俺の都合だ。自分で書いておいてなんだが、後に引けなくなってからじゃないと――こんな馬鹿げた小説、恥ずかしくて読めた物じゃないからな!」
渦が強まり、原稿用紙が舞う。そこに綴られた文字が浮き上がり、青白い光を放ちながら渦の中を飛び交う。
「今だ。おっきー、宝具を!」
「悪いようにならないって信じてるからね――『白露城の百鬼、八天堂様』!」
膨れあがるアンデルセンの宝具に併せ、刑部姫も宝具を発動。堅牢な姫路城の白い外壁が、カルデアを被うように組み上がっていく。
原稿用紙の渦はますます大きく広がり、やがて管制室の全てを青白い光で埋め尽くす。
その眩く輝く物語の力の中。
アンデルセンはキザに片手をひらりと翳し、自らが綴った物語の、顕在を宣言した。
「光栄に思えよ、引き籠もり姫。これは貴様の為の物語。馬鹿げた宇宙に相応しい、馬鹿げたスペースオペラだとも! 俺の一時の気の迷いを、せいぜい笑って楽しむがいいさ! タイトルは――ああ全く馬鹿らしいが叫んでやる!」
「建立せよ――『宇宙城塞モモヤマ』!!」
◇
カッ――と、光が視界を塗り潰す。
立香が最初に感じたのは、世界の階層が切り替わるような、力強い変革の気配だった。
機能を止め静まり返っていたカルデア管制室の空気が、今まで感じた事のない、明らかに異質なものに切り替わっている。
どこか肌をひりつかせ、無限に広がるようなその気配の正体は――昂揚。
やがて光が止み、恐る恐る目を開き。
「……わぁ……!」
眼前に広がった光景に、立香は瞳を輝かせ、興奮に色めく声を上げた。
カルデア管制室の姿は一変していた。
足下の床は、真っ白な光沢に青の光を走らせるサイバネティックな外装に。
中央に控えていた観測機シヴァは、宇宙空間における戦況把握を補佐する三六〇度投影型の球形スクリーンに。
そしてレイシフト用に魔術回路の張られた壁面は、宇宙空間を一望する超特大ウィンドウに。
そこにある何もかもが、役割を一新し、様相を変え、全く別のものへと生まれ変わっている。
外装を見ることができればもっと驚いた事だろう。
彷徨海を漂う無骨なノウム・カルデアの姿は、もうそこにない。
宇宙に広げるのは、内装と同じ白磁に艶めく巨大な翼。
空母の如く広がった甲板に居並ぶのは、数えるのも馬鹿らしい無数の火砲。
そして、その甲板の奥。立香達が居る司令室に当たる場所。
山のように鎮座したソレを言葉で表すとすれば――そう、天守閣。
真白の外装をあしらった城郭が、巨大な戦艦のコックピットとなり、絢爛な和の意匠を宇宙空間に誇示している。
「な、な、な――なにこれぇーーーー!?」
劇的に生まれ変わったカルデアの中央、司令席に座った刑部姫が、誰よりも素っ頓狂な声を上げて驚いた。
アンデルセンの宝具『あなたの為の物語』は、刑部姫の宝具『白露城の百鬼八天堂様』に干渉し、変質。宇宙空間に於いても最強の城の名を誇示するSFの城を誕生させていた。
「私の姫路城が宇宙戦艦になった!? ――うわ、姫の服装も変わってるし!」
「宇宙城塞モモヤマ――昔のアニメをリスペクトしたイカした快作、いやイカれた怪作だ。宇宙人の襲撃に対向するべく、人々は堕ちずの牙城たる姫路城を改造し、無重力を駆け地球を護る宇宙城塞を産み出した、的な!」
「ヤ〇トじゃん! どーりでピチピチっとした宇宙服と思ったよ、森〇だもんこれ!」
刑部姫は顔を真っ赤にして、いつの間にか変わった自分の服を摘まむ。レザースーツのようなそれはいかにも宇宙服っぽく非常に似合っていたが、身体にフィットする構造のせいで、刑部姫の色々と大きな所が強調されている。意図的か事故か、股から首元まで通ったファスナーは胸の下までしか上げられず、肌色のV字を作り彼女の大きな胸の谷間を露わにしている。
「うっひゃあ、アニメじゃよくある服装だけど、自分で着るとすっごいなぁ……ねえまーちゃんまーちゃん、今の姫、せくしー?」
「余り聞かないでくれるかな? ガン見がバレるとサモさんのプリドウェンがっぱぁぁ!?」
謎に畏まっていた立香の顔面に、どぱぁん! と凄い音を立ててプリドゥエンが叩き付けられた。
「分かってんなら見んなバーカ! 次は角でいくからなエロマスター!」
「面でも十分死にかけるからやめようねサモさん! 今の君の一撃で、本気で人類史が終わりかけたからね!?」
「そもそもエロい事考えてる暇なんかねーんだよ! ほら見ろ、鼻の下伸ばしてる間に、敵が迫ってきてるぞ!」
モードレッドが指さした先。全面ガラス張りの先に広がる宇宙空間は、追いついてきた夥しい数の小型船が迫り、黒い雲のように広がっていた。
数万機を数える小型艇は、さながら畑を食い尽くすイナゴの群れのように、生まれ変わったカルデアを押し潰さんと迫る。
その群れ目がけ、カルデアの甲板に居並んだ無数の火砲が、一斉に火を吹き上げた。
突然あちこちで発生した凄まじい光が宇宙空間を満たし、衝撃が小型機を巻き込んで連鎖的な爆発を産む。
帯のように広がる破壊の炎を産み出したのは、他でもない、司令席に座る刑部姫だ。
「……」
彼女は最初、自分でも何が起きたか分からないとばかりに、きょとんと目を丸くしていた。
それから、振りかざした手をまじまじと見つめ――
数度ぐっぐっと握っては開いてを繰り返し――
「……おっけー、姫ちゃんノってきたぁ!」
ぱちんっと一度、指を鳴らす。
次の瞬間、無数の電光画面が刑部姫の周囲に現れた。
司令席を囲むようにして緩やかに動く青白い空間投影画面の数々。それに酔いしれるような浪漫を感じ、刑部姫はふんすっと気合い一喝。
「義務教育は履修済み! 異世界だろうが宇宙だろうが、ゲームで培ったやらかい頭でなんのその! これだけお膳立てされて付け上がらなきゃ、オタクの名が廃るってもんでしょ!」
元は自分の宝具。そこに情熱を込め書き綴ったアンデルセンの物語が、自分を取り巻くエネルギーとして、霊基に直に流れてきている。
刑部姫は、山のようなコンソールの役割と、それらでできる事を瞬時に把握。両脇の空間に投影された操作パットに、思い切り両手を叩き付けた。
戸惑いも、恐れも、もはや微塵もありはしない。
あるのはただ、ただ、うずうずと沸き立つ高揚感!
「これよりコスモプリンセス提督、スペースおっきーの着任であーる! ありったけの戦力で、まーちゃんの路を開くよ! いっけぇーー、千代紙連隊!」
刑部姫の号令を合図に、機動城塞の両脇から大量の折り鶴を模した艆が現れ、極光騎士団の小型機目がけ一気呵成に躍りかかった。
鋼鉄の紙を折ってできたような折り鶴の宇宙船――千代紙連隊は、素早い動きで宇宙を飛び、鋭く固い翼や嘴で、小型船を切り裂いていく。
切り裂かれた小型船は、ばうん! と音を立てて爆発し、その破片が近くにいた小型船を巻き込み、連鎖的に爆発を引き起こす。爆風を避けようと機動を変えれば、その一瞬の隙に鉄の折り紙に切り裂かれ、ばうん! と新たな爆発の火種となる。
たちまちのうちに、小型機が群れ為して生み出していた黒雲は、猛烈な爆発の重奏を巻き起こす、鮮やかなスターマインへと変貌した。
隊列を乱された小型機は散り散りになり、黒雲の向こうにあった紅蓮の恒星の姿が、立香達の目にも見えるようになる。
「さあ行ってまーちゃん! ここはスペースおっきー提督に、どーんと任せちゃってよ!」
「うん! XX、サモさんはミレニアムスツーカに! えっちゃんの所まで一直線だ!」
立香のかけ声に、XX、モードレッドが応じる。すっかり変質した、和装を宇宙に持ってきたようなサイバーパンクじみた廊下をひた走り、ルーデルの元まで戻る。
単なる横穴でしか無かったカルデアの廊下は、宇宙船の離着陸を行う広いプラットフォームになっており――鎮座したミレニアムスツーカの傍で、ルーデルが爆笑していた。
「ハッハハハハハ! すごいな、これがジャパニーズアニメか! こんな面白くとんでもないものを見ていたら、老後の生活に満足して英霊の座に至れなかったかもしれないな! ハハハハハハッ!」
「カルデアに来たら、何でも見放題だよ! ルーデルならきっと遊びにこれる!」
「なんと。ここまで来て、負けられない理由がまだ増えるとは! 全くお前は面白い奴だな!」
快活に笑ったルーデルは、昂ぶる感情を抑えられないとばかりに、左足のロケットブースターをガオン! とふかし、親指でミレニアムスツーカを指す。
「準備は全てできている! 不滅の飛空士の繰る船に乗りこめ、戦士達よ!」
「ああ! ――行こうぜ、宇宙の父上」
うずうずと沸き上がる興奮に笑みを浮かべて、モードレッドはXXの背中を叩いた。
「これまで渡り歩いたどんな世界でも、ノリ気になったオレ達を止められた波はねえ! たとえ燃え盛る恒星の熱波だろうが、楽しく豪快に征服してやろうぜ!」
「ッ――ええ!」
XXは力強く頷き、モードレッドの後を追いかけ、力強い足取りでミレニアムスツーカの搭乗ハッチを踏む。
再び空に舞い上がったミレニアムスツーカに、刑部姫の操る千代紙連隊が併走し、その鋼鉄の翼で持って、眼前の小型機の群れを蹴散らしていく。
エンジンはものの数秒で最高潮に達し、立香達はエンジンの唸る高らかな凱旋音を奏で、煌々と燃え盛る《オルトリアノヴァ》目指し、一直線に宇宙を駆ける。
◇
「ッ――て、敵戦力、急激に数を増やしました! その数、推定十万!」
「我等の小型機はまるで歯が立ちません。戦況が塗り替えされました!」
その変貌の一部始終を目撃し、データでの観測を行いながらも。極光騎士団の旗艦司令部に蔓延した戸惑いは相当なものだった。
何せ、宇宙航行の力もないただの建造物だったカルデアが、眩い光に包まれた瞬間、面妖奇天烈な戦艦に変貌したのだ。僅か一機と数人の筈だったカルデアは、今や万を越える戦力を使い、反撃に打って出ようとしている。
無数の鋼鉄の折り鶴が小型機を切り裂き宇宙を飛ぶのは、風邪を引いた時に見る夢が如き面妖さで、極光騎士団の管制室に混乱の渦を巻き起こした。多くの管制スタッフは突然の自体にどう動けばいいかも分からず、次々と切り替わる画面をただうろうろと見つめている。
「――静まれ」
その混乱を斬り殺すが如き、厳粛な声。
ダース・ソルが鎧を赤熱させる。
爆発的な熱波がゴウッ! と管制室中に吹き荒び、そこにいる全員を戦慄によって黙らせた。
ダース・ソルはジジ、と空間に陽炎を産み出したまま、その熱とは真反対の氷のような冷たい声音で指示を飛ばす。
「小型艇をさらに増員。あの奇妙な船を、現在の座標に留めさせろ」
「しかし、小型艇では歯が立ちません。無駄な増員では――」
「……無駄だと?」
ダース・ソルの鎧が、更に温度を引き上げた。吹きすさぶ強烈な熱に、口を挟んだスタッフが息を飲む。その恐れを滲ませた顔をマスク越しに睨み付け、ダース・ソルは変わらぬ冷徹な声音で言い捨てた。
「下らん。無駄なのは奴等の足掻きよ。数を増やそうと、所詮蟻の群れ。大いなる巨星に纏わり付く、塵でしかない」
そう。彼は常々言っているではないか。
奴等の抵抗は無駄である。
敗北など、万に一つもありはしない。
紙に書いた兵士が人を傷つけられないのと同じように。
生命が恒星に楯突く手段など、有りはしないのだ。
「――目覚めよ、オルトリアノヴァ」
騎士は、背後に煌々と輝く極星に向かい、ただ告げる。
「その神々しきソルの輝きを解き放て。取るに足らぬ羽虫を灰燼に帰せ。死すら感じる余地のない極限の光で以て、奴等に自らの矮小さを思い知らせてやるがいい」