SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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3節

 

 

 ミレニアムスツーカが、悠然と宇宙を駆ける。

 刑部姫の産み出した千代紙連隊が群れなしてミレニアムスツーカを囲み、渦巻くような隊列を組む。薄くしなやかな鋼鉄の翼がドリルのように回転して、小型機の雲に突破口を切り開いていく。

 数百キロも離れていた距離はみるみる縮まり、黒い点々にしか見えなかった極光騎士団の大星団が、徐々にその姿を露わにしていく。

 近づくにつれ、小型機の群れに戦艦の火砲も迎撃に加わる。コックピット越しの光景は目まぐるしいという言葉さえ生ぬるい凄まじい苛烈さだったが、今更それで止められるようなカルデアではない。

 もう憶する事も、尻尾を巻いて逃げる事もない。

 

 

蒼輝式(ハウル・)急降(オブ・)下爆撃(ジェリコ)!』

 

 

 果たして敵旗艦まで辿り着いたミレニアムスツーカは、高らかな駆動音を奏でながら宙を舞い、全力の火砲によって、甲板に風穴を開けた。

穴からは間欠泉のように空気が噴き出し、引きちぎれた甲板の破片や、不幸にも居合わせた騎士達が無重力に投げ飛ばされていく。

 着陸したミレニアムスツーカ。そこからXX、モードレッド、立香が甲板に降り立つ。

 

 

「さあ到着だ! 後はお前のがんばり次第だぞ、XX!」

「ありがとうございます、ルーデルくん。何とお礼を言ったらいいか……」

「よせよ水くさい。それに、お礼を言われる段階ではないさ!」

 

 

 最後に降り立ったルーデルは、気付けのようにロケットブースターの義足をふかした。

 先ほどくぐり抜けてきた宇宙空間は、今も小型機の群れと千代紙連隊の混戦で、あちこちで小さな爆発を引き起こしている。

 そして、今まさに降り立った旗艦の背後には、巨大な恒星にして彼等の目標《オルトリアノヴァ》が、視界一面を被う程に広がっている。ジリジリと肌を振るわせるようなエネルギーの波動は、さながら電子レンジの中に放り込まれたかのようだ。

 圧倒的大きさの、敵。救うべき友人。紅蓮の輝きをまっすぐ見据え、XXはぐっと口元を引き締める。

 覚悟を決めたXXに、立香が力強く頷いて見せた。

 

 

「ルーデルの言うとおりだ。お礼は後だよXX。全部が終わった後の君の笑顔、楽しみにしてるから!」

「ええ。マスターくんも頑張って。あともう少しですから!」

「さあ、行くぜマスター、ルーデル! オレ達の役目はこの艦の制圧だ、さっさと――」

 

 

 ぐるぐると肩を回したモードレッドが、勇んで穴に飛び込もうとする。

 その小さな身体が、突然吹き荒んだ横薙ぎの熱風に呷られて吹き飛ばされた。

 肌を一瞬でひび割れさせるような熱気と共に立香達に襲いかかったのは、途轍もない覇気。

 押し黙り見上げた一同の前で、《オルトリアノヴァ》が、どくんと一度胎動する。

 かと思いきや、その巨大な球体の一画に、凄まじい熱が凝縮していく。依り集められた熱はたちまち光り輝く球形になり、大きさを増し、恒星がもう一つ誕生したかの如き迫力で世界を震撼させる。

 

 

「ッえっちゃんが、もう一発レーザーを撃つ気です!」

「そんな。味方の戦艦を巻き添えにしてもお構いなしかよ!?」

「いや、待て。狙いは俺達じゃないぞ」

 

 

 産み出されたエネルギー球は、XXオルタの敵意が形を為したように、オーロラのような余波を吹き出させている。その向く先は、遙か宇宙の彼方――立香達がくぐり抜けてきた、今まさに爆炎の続く敵機の群れの最中。

 

 

「狙いはカルデアだ! おっきーとアンデルセンが危ない!」

 

 

 立香がぞっと顔を青ざめさせる。

 カルデアは今の立香達にとっての最大戦力であり、この圧倒的不利な戦況を切り開く要だ。

 刑部姫の千代紙連隊の協力がなければ、立香達はここまで辿り着くことは叶わなかった。同様にここから脱出をする時にも、カルデアの力は必要不可欠だ。

 ましてや――二人に向けられた、星を一瞬で爆散させる凶悪な一撃。それが銀河を一直線に貫き彼女たちを蒸発させる様は、想像するだけで、恐ろしい最悪の悲劇だった。

 

 

「えっちゃんはダース・ソルに操られている筈だ。止めに行かないと!」

「ダメだマスター、エネルギーの膨らみ方が異常だ。もう何分もねえぞ!」

 

 

 僅か数呼吸の間にも《オルトリアノヴァ》の輝きは力を増し、噴火寸前の火山のような予兆が立香達の本能をわななかせている。漏れ出るエネルギーの余波でさえ、横切った敵機に火を付け燃やし尽くしてしまう程だ。

 格が違う。次元が違う。規模が違う。

 小石を空に放り投げても、太陽に届きはしないように。

 膨れあがる熱と光を押し留める術を、見出せない――その圧倒的な戦慄の中で。

 

 

「……」

 

 

 XXは静かに、己の左拳。装着されたガントレットが讃える翠の光を見つめる。

 本来、命は星に逆らえない。

 その絶対的な常理を覆し、星に手を伸ばそうと藻掻けるのは――この場に於いては彼女と、彼女の手にした《アルトリアナイト》のみだ。

 

 

「……私が――」

「いいや、それは違うさXX」

 

 

 ポン、と肩に手が置かれる。

 快活で凜々しき戦士の声が、XXの覚悟を遮った。

 振り返ったXXの視線の先、ルーデルはニッと歯を見せて笑い、言う。

 

 

「お前の腕は、悪を打ち倒す必殺の銀の弾丸だ。それは手の届く人を護るためではなく、もっと大きな目的を果たすために使われなければいけない」

「ですが、このままではカルデアが……」

「ハハハッ! おいおい、お前が雇ったのは《アルトリアナイト》探しの為の探検家か? よく見たまえよ、目の前の男の雄姿を!」

 

 

 そう言って、ルーデルは己の胸にドンと拳を叩き付け、力強く胸を張る。

 無骨で機能的な、藍色の飛行服。

 ハーヴィンジャケットの胸元に輝くのは、歴戦をくぐり抜けた証を示す勲章の数々。

 犬耳のような飛空士帽を被った、死の恐怖さえも擦り寄ることは叶わない、眩しく強い笑み。

 一縷の曇りもない瞳が浮かべるのは、生きる希望と喜びに満ち満ちた、一等星の如き煌めき。

 

 

「俺は蒼輝銀河イチの飛行機乗り。銀河の無空を風切り舞い飛ぶスペース☆ライダー! 無限の彼方まで飛ぶ俺が、恒星の光に手を伸ばせないと思われるなんて心外だ!」

 

 

 胸の内に滾る情熱を表すように、左足のロケットブースターがガオォン! と唸りを上げる。

 その音に呼応して、停泊していたミレニアムスツーカが機動した。銀河の彼方まで飛行するエンジンが咆哮し、立香達の腹の奥底を打ち震わせる。

 恒星の紅蓮の輝きに埋め尽くされていた宇宙に、宇宙船のエンジンが吹き上げる青白い輝きが灯る。

 その眩く強烈な蒼い光が、凜と佇むルーデルの背中を照らし出す。

 どこか超然とした笑みが、立香を向いた。

 立香は押し黙り、彼の瞳を真摯に見つめる。

 

 

「……」

 

 

 幾度も、世界を救ってきた。

 多くの英雄に出会い、共に戦い――別れてきた。

 大いなる目的の為に、幾度も噛み締めた。時に抗えないと泣き、時に託された想いを胸に立ち上がってきた。

 そして今、目の前の快活な戦士の猛々しき姿に感じる。

 いつだって苦しい、離別の気配。

 

 

「任せたまえよ。俺はお前と同じ現代を生きた英雄。先輩として、君の航路を切り開いてみせよう」

「……」

「ハハハッ! そんな目をするな少年(キント)! 俺は無敵のスペース☆ライダーだからな。また会えるさ、必ずな!」

 

 

 幾度も別れ、託されてきたからこそ、立香は知っている。

 彼のような英雄は。

 どこまでも楽しく、豪快で、生きる事は希望なのだと全力で肯定し続けるような英雄は。

 笑顔の『さよなら』が、大好きなのだと。

 

 

「――ありがとうルーデル! 後は俺達に任せてくれ!」

「そうだ。その意気だとも。お前の輝き、燃え盛るその魂は、宇宙のどんな星よりも眩く、あまねく銀河に轟くだろうさ! だから俺は、今ここで、お前達の為に空を飛ぶんだ!」

 

 

 ミレニアムスツーカが一人でに上昇を始める。ルーデルが左足のロケットブースターを噴射し、後部ハッチに降り立つ。

 

 

「ガーデルマン」

 

 

 短く、名前を呼ぶ。

 彼の相棒たる球形ドロイドは、彼の勇姿を労うように、ふわふわと宙を漂う。

 無機質なレンズでルーデルを見つめ、ドロイドは深く含蓄を孕んだ声で言った。

 

 

『ご武運を、私のパイロット』

「お前も、自分の役目は分かっているな……後は頼んだぞ、相棒」

 

 

 離別には余りに短い、そんなやり取り。

 ガーデルマンはふわりと宙を舞ってミレニアムスツーカを離れ、立香の傍に降りてきた。

 立香の隣に来ても、一言も発さずに。小さなドロイドのレンズは、浮上するミレニアムスツーカの眩いエンジンの炎を、遠ざかるまでずっと見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……僅か二日余りの筈なのに。随分広く感じるな」

 

 

 一人きりのコックピットに座り、ルーデルは薄く微笑む。

 ゴキゴキと首を鳴らし、腕を一回し。それから、力強く操縦棍を握りしめる。

 エンジンは既に最高潮に昂ぶっている。かつてない唸りが、操縦桿越しにビリビリとルーデルを騒がせる。

 コックピットの向こうには、極星騎士団の旗艦の機影が黒い影になって堕ちている。

 上昇するにしたがって黒い影は流れていき――やがて視界が、紅蓮に染まる。

 すぐそこに広がるのは、蒼輝銀河最大最強の恒星。

 産み出された光球は、今すぐにも破裂せんと言わんばかりに、目を焼く程の強烈な光を揺れ動かしている。

 僅か数日の間に、エネルギーは更に増長を続けたのだろう。中央に見えていたXXオルタの姿は、今は紅蓮の光に塗り潰されて見えなくなっている。

 光の遙か奥底。巨大な恒星の母たるXXオルタに――眼前に一機相対する自分は、果たしてどの様に見えていることか。

 

 

「目を覚ましておくことだな、XXオルタよ――でなければ、この後の感動の再会を見逃してしまうぞ!」

 

 

 ルーデルが、更に強く操縦桿を握りしめる。

 彼の魂に呼応し、ミレニアムスツーカが力を蓄える。

 エンジンが更に温度を上げ、炎が真白に輝き、それが機体を淡く覆い始める。

 

 

「かつて人は海を越えた。それから人は空を飛んだ。深海の泥を救い神秘を見つけ、宇宙に飛び出し別の星に旗を立てた! 人類はやがて恒星にだって手を伸ばすだろう! そうさ、きっとこの後すぐにでもな!」

 

 

 際限なく昂ぶる熱が、真白の光になってスツーカを被う。

 空間が揺らぎ、捻れ、切り裂かれ――そこに、音が産まれる。

 ワァァ――ン、と。

 まるで、悠然と空を舞う鷲の如く。

 どこまでもどこまでも響き渡り、遍く全てに我ここに在りと告げるかのような、猛々しきジェリコの喇叭。

 その音が、彼の魂に呼応する。

 彼の宝具の、発動を告げる。

 

 

「さあスツーカよ、愛する我らが鋼鉄の鷲よ! 喇叭を鳴らせ! 魂を揺さぶる咆哮を、勝利を導く凱旋の旋律を、そして未来ある少年少女の路を切り開く鬨を! 銀河狭しと轟かせろ!」

 

 

 紅蓮の光球が震え、とうとう解放の時を迎える。

 それに立ち向かう真白の光は、あまりに小さく、ちっぽけで。

 それなのに、太陽に負けないほどに、あまりに眩しく、熱くて。

 その只中の男の笑みは――

 とても、とても、熱く、輝いていて。

 

 

 

 

 

「『鉄鷲よ、(フリーデ・)見果てぬ(インス・ウン・)夢へ征け(エンドリッヒ)!!』」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、二つの光が激突する。

 まるで、ビックバンのように。

 新たな銀河がそこから始まるかの如き眩い光が、衝撃と共に蒼輝銀河を駆け巡る。

 何もかもが真っ白に染まったのは、きっと数秒。

 

 

「――」

 

 

 次に立香が目を開いた時、宇宙はもう、暗闇ではなくなっていた。

 紅蓮と、白。強烈な二色の光が混ざり合い、オーロラのようなヴェールを宇宙に引いていた。

 渦を巻くような白と紅のオーロラが導くのは、未だ煌々と輝きを放つ《オルトリアノヴァ》の中心。

 光の渦は、まるで立香達の行く先を示すようで。

 見惚れる程の美しさは、彼等の決意を祝福するようで。

 

 

「ッ――」

 

 

 立香はぐしっと袖で目元を拭い、溢れようとした涙を全て吸い取らせる。

 それから彼は、闘志に溢れる晴れやかな顔で、この銀河を護る正義の使徒を呼ぶ。

 

 

「XX!」

「ええ! 彼の想い、これまでしてくれた事、決して無駄にはしません!」

 

 

 XXが背中のエンジンを吹かし、宙に舞う。

 彼女は一度立香達を振り返り、右手のガントレットを胸に翳した。

 

 

「必ず、えっちゃんを連れて帰ります! ご武運を、マスターくん、サーファーさん!」

「行ってらっしゃい、XX!」

「気張れよ宇宙の父上! 恒星なんかに、負けるんじゃねえぞ!」

 

 

 二人の激励に力強く頷くと、XXは背後のジェットエンジンをフル稼働。たちまち光の線になって、紅と白のオーロラの渦の中心を潜り、《オルトリアノヴァ》に向かっていく。

 残された立香とモードレッド。立香の隣に浮いていたガーデルマンが、一足先に甲板に空いた穴へと潜っていく。

『勝利してこその戦いです。為すべき事を為しましょう。よいですね、マスター』

 頷き、立香は隣のモードレッドの手を取った。

 指を絡ませ、ぎゅっと握りしめ。互いを見つめ、頷き合う。

 

 

「……へへっ。あんな風に発破をかけられちゃ、コッチもうかうかしてらんねえな、マスター」

「だね。一緒に燃え上がろう、サモさん!」

 

 

 そうして二人、甲板から飛び降りる。 

 一人の飛空士が描いた真白の光は、彼が旗艦内部に消えるまでずっと宇宙に美しい線を引き、大いなる戦いへ向かう彼の行く先を讃え続けていた。

 

 

 

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