SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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4節

 

 

 『冥紅零滅(オブスキュラス)光仞(カリバー)』が相殺されたとの報告は、驚愕を伴って管制室に伝わった。

 

 

「……スペース☆ライダー」

 

 

 管制室の中央に佇むダース・ソルは、オルトリアノヴァの一撃を受け止めた英雄の二つ名を憎々しげに呟き、ギリと拳を握りしめる。

 一発目の光線は、マスターの令呪も用い、避けられた。

 そして二発目は、ただの宝具によって止められた。

 最強の恒星の、最強の一撃だ。命も星も貴賤なく、生存など決して許されてはいけないのだ。"止められた"という結果でさえ、汚点に他ならない。

 たかが一騎の英霊が、恒星の威光を遮るとは。何という傲慢。何という侮辱。

 スペース☆ライダーの為した事は、銀河系最強の騎士が思わず怒りに唸ってしまう程の、人並み外れた偉業であった。

 

 

「……だが、しかし。それでも我等がソルの光芒の一縷。貴様が命を賭して為した事は、僅か数分の時間稼ぎでしかない」

 

 

 冷静さを取り戻したダース・ソルは、再び意識を《オルトリアノヴァ》に向ける。

 

 

「第三射を放て、オルトリアノヴァよ。無限のエネルギーで、次こそ奴等を灰燼に――」

『渦巻く怒濤を制する王様気分!』

 

 

 その背後に突如として響く、高らかな宣誓。

 次の瞬間、管制室の入口から、大量の水が押し寄せた。洪水は扇状に広がっていた管制機器を舐めるように突き進み、控えていた制御スタッフ達を丸呑みにしてしまう。

 あっという間に機器は水の下に沈み、管制室に扇状のプールが誕生した。

 水に飲まれた機械がバチバチと火花を上げて、管制室の電力がダウンした。明かりが潰え、管制室はオルトリアノヴァの紅い光に満たされる。

 

 

「――僅か数分の時間稼ぎ? ハッ。そういう口ぶりを、地球じゃ慢心って呼ぶんだぜ」

 

 

 振り返ったダース・ソルが目にしたのは、圧倒的軍勢を前にしても臆せず立ち向かってきた、二人の人間。

 人類史のマスター。そして、彼を護るように前に立つ、健康的に日焼けした肌をセーラー服に包ませた、勝ち気な笑顔の少女。

 

 

王手(チェック)だ宇宙騎士。パイロットの作り出した数分で、お前の喉元に剣が添えられたぜ」

 

 

 モードレッドは、戦闘の昂揚にぺろりと唇を舐めながら、手にした巨大なサーフボードの尖端を、ダース・ソルに向け突きつけた。

 それに返すのは、冷ややかな冷笑。

 

 

「王手だと? 馬鹿め。たかがマスター一人とサーヴァント一騎が、蒼輝銀河最強の我に、何を為そうと言うのか」

「オレがお前と戦っている間、オルトリアノヴァは動かない。その間に宇宙の父上が、黒い方の父上を止める。あるいは、このオレがあっけなくテメエを倒しちまってもいいかもな!」

「フン。遊び人風情が、大層な口を吐くものだ」

 

 

 ダース・ソルが剣を引き抜き、それが瞬く間に赤熱する。周囲の空気が歪められ、悍ましい陽炎が紅く輝く鎧を揺らめかせる。

 

 

「っ……!」

「その口を焼いて塞いでも、まだ生意気な目をしていられるか?」

 

 

 機器がショートし、味方全員を薙ぎ払われ、機能を完全に停止した管制室。

 孤立無援。にも関わらずダース・ソルの佇む姿は依然冷徹で、気高ささえ滲ませる。

 紅蓮の光を纏い、孤高に鎮座するその様は、正真正銘、星のようで。

 

 

「来い。我等がソルの威光、我が最強の剣を通して刻みつけてやる」

「ハンッ! こちとら、人理の焼却だって乗り越えてきてるんだ! たかが熱いだけの空っぽの威光が、オレ達を焼けるなんて思うなよ!」

 

 

 発破一声。モードレッドはプリドゥエンの尖端に産み出した水球を、大砲のように射出した。

 一直線に飛んだ水球は、ダース・ソルが翳した赤熱した腕に触れると、一瞬で水蒸気になって空間に広がる。恒星の光で紅く染まる蒸気を切り裂くようにして、プリドゥエンの鋭いエッジが振り抜かれた。

 

 

「だぁりゃああ!」

「水鉄砲に、サーフボードか。ごっこ遊びでもしにきたのか?」

 

 

 ダース・ソルは、構えを取ることは愚か、力を籠める事もしない。羽虫を払うような動作で振るわれた剣が、モードレッドをプリドゥエンごと弾き返す。

 

 

「砲なら、このように殺す気で撃つがいい!」

 

 

 咆哮と共に、正拳。体勢の崩れたモードレッドの腹目がけ突き出した拳が、一気に熱を増す。

 次の瞬間、ダース・ソルの拳から、バーナーのような太い炎が射出された。

 猛烈な威力の火砲は、間一髪かざしたプリドゥエンによって受け止められ、モードレッドの身体が大きく宙を舞う。

 モードレッドは空中で体勢を立て直し、管制機器を沈めた扇状のプールにプリドゥエンで着水。そこに再び、ダース・ソルの拳から火砲が放たれる。

 火砲の当たった水面から、柱のような水蒸気が立ち上る。そこで産まれた波を使い、モードレッドは広い管制室で鮮やかな波乗りを披露する。

 

 

「ごっこ遊びじゃねえ。本気の波乗りで、本気の遊びだ。せいぜい追いついてみな、カタブツ!」

 

 

 モードレッドはプリドゥエンを繰る。

 水上で己の手足のように鮮やかに踊るプリドゥエンは、魔力で付近の水を寄せ集めると、ダース・ソル目がけ鞭のように勢いよく薙ぎ払った。

 ハンマーよりも重く、ちょっとした鋼鉄程度なら真っ二つにしてしまえる水の鞭は、しかしダース・ソルの赤熱した鎧の前に、水砲と同様にあっけなく蒸発してしまう。

 

 

「――どうやら、焼け石に水という諺は、そちらの時空には存在しないらしいな」

 

 

 戦闘が始まってから、ダース・ソルはその場から一歩も動いてはいなかった。兜の下に表情を隠していても分かるほど、冷ややかにモードレッドを侮辱する。

 言葉の通り、モードレッドの放つ攻撃は、いずれもダース・ソルを仰け反らせる事さえできていなかった。ぶつけた水は立ちどころに蒸発し、プリドゥエンの打撃は拳や剣で難なく弾かれる。

 状況は膠着――してはいない。

 モードレッドが悪戦苦闘している間にも、ダース・ソルの熱はジリジリと昂ぶり、空間を熱し続けていた。

 赤熱し続ける鎧によって、管制室はオーブンの中のような強烈な加熱状態だ。モードレッドが波乗りをするプールは、もう一部が沸騰し、ひとりでに蒸発しようとしている。じっとりとした湿気が全身を包み、モードレッドの額に汗を滲ませる。

 

 

「近づくのが怖いか、サーファーよ。それも当然。貴様の児戯に比べ、我が力は強烈無比。この拳でひとたび触れれば、たちまち貴様の肉を焼き、骨すらも炭化させるだろう」

「くっ――」

「海などという星の一要素の支配者を気取り、見誤ったな。我は恒星の騎士。絶対なる光の申し子だ」

 

 

 五度目のプリドゥエンの一撃を拳で振り払われ、モードレッドはまたも着水。

 そのプールに、ダース・ソルが身を翻して飛び込んだ。

 

 

「なっ――ぐぁ!?」

 

 

 煌々と熱を宿した鎧が水に触れた瞬間、凄まじい水蒸気爆発が発生。水上のモードレッドを吹き飛ばし、管制室の壁に叩き付けた。

 満ち満ちていた水は、一瞬で蒸気になって霧散する。空間が濃霧に満たされ、一寸先さえ見えなくなる。

 肌が痛いほどの熱い蒸気をかき分けて、立香がモードレッドに駆け寄った。

 

 

「サモさん、しっかり!」

「っ平気だ。このぐらい何てことねえ……っけど」

 

 

 プリドゥエンを杖代わりにして起き上がるモードレッド。その顔は苦しげで、滝のように流れる汗で、セーラー服がびっしょりと濡れていた。

 

 

「あっつい……うだる……真夏の海は慣れっこだけど、こんなサウナみたいな熱さは願い下げだ……ぐぅ」

「くそ。ここまで圧倒的だなんて」

 

 

 モードレッドと同じようにびっしょりと汗を滲ませ、立香も苦しげに呻く。

 全身を包む湯気が熱く、吸い込むと粘膜が火傷するようだ。粘つく布で雁字搦めにされているように気持ち悪い。空気が水っぽいのに、身体から水分がどんどん抜け出て、身体が乾いていくのを感じる。

 血がドロドロに粘ついていく。全身の血管が拡張されて、酸素が回らず目眩がしてくる。

 もはや管制室そのものが、彼等を殺す処刑装置であった。

 視界を埋め尽くす真っ白な濃霧に、紅蓮の光が灯り、近づいてくる。

 鎧を赤熱させたダース・ソルは、苦しげに呻く二人に対し、僅かに愉悦を滲ませて失笑した。

 

 

「先の威勢はどうした、サーファーよ。それとも釜茹でが好みか? このままじっくり、我が『紅黒(ネメシス・)極星殻(ガルガディーン)』の温度を上げてゆこうか」

 

 

 ジジ、と空気がヒリつき、ダース・ソルの鎧が輝きを増す。蒸気が一気に温度を上げ、たまらず二人は頭を垂れるようにして崩れ落ちる。

 

 

「ぐ、あ……」

「マスター! くそ、離れろこの野郎!」

 

 

 フラフラと立ち上がったモードレッドが、立香を守るべくプリドゥエンを振るう。

 しかし、重心も覚束ない一撃は、ダース・ソルの腕に難なく受け止められる。そればかりか近寄った瞬間に、鎧から噴出した凄まじい熱気が、日焼けした肌を黒焦げにせんとばかりにモードレッドに吹き付けられた。

 

 

「っあ、ちぃぃぃ!」

 

 

 モードレッドは、自分から飛びずさる以外にできなかった。プリドゥエンさえ投げだし、熱された床の上を転がる。

 

 

「そうだ。光は絶対だ。手を下すまでもなく、ただ傍に在るだけで生物は焼かれ、渇き、朽ちていく。このままみっともなく地を這い、貴様等の矮小さを思い知りながら死ぬといい」

 

 

 エネルギーの余波がビリビリと肌を振るわせる。傍に寄られるだけで皮膚が焼け落ちてしまいそうだ。煌々と灯る光は余りに眩く、目を開ける事さえ難しい。

 極度の熱中症に呻く二人を睥睨し、ダース・ソルは期待外れに肩を透かす。

 

 

「人類史のマスター……どんなものかと期待していたが、期待外れだ。カルデアを軍艦に変貌させた事には驚いたが、最終的に、我に対してこのような自暴自棄な突貫に望むとは。結局はXXと同じ、思慮の足りない子供でしかなかったか」

「……へ、へ」

 

 

 煌々と輝く騎士の眼下で、ぐぐっと身体を持ち上げ、モードレッドは笑う。

 

 

「自暴自棄? んなワケねえよ。今のテメエに勝てるなんてハナから思ってねえ。ただお前の注意を引きつけて、時間さえ稼げれば、オレ達の勝ちなんだよ」

「……」

「教えてやるよ宇宙騎士。今、宇宙の父上が恒星の中央に向かってる。伝説の鉱石《アルトリアナイト》を引っさげてな」

 

 

 疲弊し、熱中症に意識を茹でられながら、それでもモードレッドは、あらん限りの意識を使い、ダース・ソルに勝ち気な瞳を向ける。

「テメエが絶対と宣う恒星の光も、《アルトリアナイト》の前じゃ形なしだ。恒星が消えりゃ、お前の宝具も木偶になる……ヘヘ、粋がってられるのも、あと数分の内だぜ」

 

 

 八重歯を覗かせ、強気に笑う。表情を仮面で覆い隠し、冷酷無比を気取る宇宙騎士がどんな動揺を見せるのかと楽しみ、嘲笑ってやろうと言うように。

 ――しかし。

 

 

「《アルトリアナイト》……やはりそうか。やはり貴様等は、その程度の愚昧であったか」

 

 

 ダース・ソルが見せたのは、深い失望と、愚かな子供に対する嘲笑と憐憫であった。予想だにしなかった反応に、モードレッドが絶句する。

 

 

「な……」

「Xオルタを鹵獲した我が、その脅威を想定しないとでも思ったか? 想定した上で貴様等の児戯に付き合ってやっていると、少しでも思わなかったのか? 何というおめでたい思考だ。地球という星は、随分と貴様等に都合が良かったらしいな」

 

 

 吐き捨てるようにそう言って、ダース・ソルは赤熱した腕を振り払った。途端に熱風が吹き荒び、空間に充満していた蒸気が一瞬で搔き消える。

 視界がクリアになる。透明なドームの向こうに、紅蓮の光に照らされた宇宙が広がる。

 背後の景色を埋め尽くす紅蓮の恒星を指さし、ダース・ソルは言った。

 

 

「見るがいい。あの煌々たる輝きを。命など寄り付く隙のない絶対な熱を」

「っ……」

「最強の名は驕りではない。貴様等がいかに強かろうと、いかに志高かろうと、法則には決して逆らえない。熱力学も、物理学も、霊基学も、あらゆる常理がアレを絶対と告げている。故にこそ我はアレを最強と呼ぶのだ」

 

 

 そうしてダース・ソルは、あろう事か立香達を苛んでいた熱を収めた。

 二人にとっては格好の隙だったが、動くことはできなかった。思考は全て凍り付き、視界は紅蓮の光に釘付けになる。

 紅蓮の光の中央に、小さな翠の光が見える。

 彼等が必殺兵器と呼び、全てを託した《アルトリアナイト》の光は――背後に膨れあがる紅蓮を前にしては、余りにか細く頼りなく。

 心の隙間に、悪寒がぞっと這いよる。

 その悪寒を心に擦り付けるように、ダース・ソルは不敵に微笑み、告げた。

 

 

「しかと目にし、絶望するがいい――オルトリアノヴァの憎しみの炎が、貴様等の希望を焼き尽くし、銀河を蹂躙する様をな」

 

 

 

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