SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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6節

 立香達は、瞬き一つさえできなかった。

 小さな翠の光が《オルトリアノヴァ》に飛び込み産まれた小さな黒点。

 そこから一度、巨大なフレアが吹き上がる。

 目も眩むほどの爆炎が消えた時、立香の目は、今まさに潰えようとする翠の光が、凄まじい勢いで恒星から遠ざかっていくのを見つけた。

 

 

「XXーーーー!!」

 

 

 立香の叫びは届かない。XXは、数百キロも離れた銀河の無重力を、流れ星のように飛んでいく。恒星に敗北し、決意も命も費やそうとしながら。

 

 

「そんな、宇宙の父上……!」

「驚く事はない。これは起こるべくして起こった、至極当然の敗北だ」

 

 

 分かっていた答え合わせに満足するように、ダース・ソルが仮面の下でほくそ笑む。

 

 

「友を放逐した罪人がいくら叫んだ所で、我等がソルが揺らぐものか。たかが一人の矮小な心が、恒星となるまで増長した憎悪のエネルギーを止められるものか」

 

 

 その下の愉悦に歪んだであろう目を、立香がキッと睨み付けた。

 

 

「違う。憎悪な訳がない。共に過ごした友達のえっちゃんが、XXの事を嫌いな訳がない!」

「眩しい戯言だな、カルデアのマスターよ。さぞかし素晴らしい友人に囲まれ、賑やかで満ち足りた日々を過ごしている事だろう――孤独という名の恐怖を、貴様はどこまで知っている?」

 

 

 立香の剣幕を失笑で受け止め、返す言葉でダース・ソルは問うた。

 

 

「暗く、冷たく、余りにも広大な宇宙に、一人放逐される心細さが分かるか? どこにも辿り着けず、抗う術すらなく、無重力の闇に捕らわれる恐れを少しでも理解できるか? たかが一惑星で一生を終える貴様に、無限という苦しみをどこまで想像できる?」

「っ……」

「やべえぞマスター、宇宙の父上が飛んで行っちまう!」

 

 

 モードレッドが指さす先、翠の光が飛んでいく。

 あと数分もすれば、彼女は極光騎士団の船団を突き抜ける。

 その先に待つのは、完全な無だ。

 途方も無く広く空っぽな蒼輝銀河の無重力が、大口を開け、XXを闇の中に呑み込もうとしている。

 

 

「見ろ。罪を犯した憐れな少女は、かつて自分が友にしたように、宇宙の孤独に放逐される。誰にも見つけられず、声も聞こえない――貴様等の断末魔も、もう届くことはない」

 

 

 ダース・ソルが、再び赤熱させた剣を振るう。

 モードレッドがプリドゥエンで受け止めるが、間近に突きつけられた煌々と燃える剣に、肌がジリジリと焦がされる。その苦痛に悶える顔を、ダース・ソルの鉄面皮が睥睨する。

 

 

「ぐ、ぎ……」

「サモさん!」

 

 

 ぐっとダース・ソルが一歩踏み込む。熱中症に犯された身体は十分に力が入らず、たまらず膝を着く。

 立香はモードレッドの傍に駆け寄り、プリドゥエンを支える彼女の手に、自分の手を重ねた。

 凄まじく熱されたプリドゥエンの熱が、立香の手をも焼く。恒星の光を浴びて無敵の力を得たダース・ソルは、二人がかりでも止められない。

 

 

「貴様等のエピソードはここで終わりだ。カルデアのマスターよ」

「っ……!」

「誰もあの少女を救えない。誰もあの少女の憎しみの焔を消せない。一人の少女が犯した愚かな罪によって、蒼輝銀河は紅蓮の終末を迎えるのだ」

 

 

 冷徹さに愉悦を織り交ぜ、ダース・ソルが彼等の敗北を突きつける。

 紅蓮の剣が、とうとうプリドェンに食い込んだ。煌々と輝く刃が盾を切り裂き、その後ろの二人を断ち切らんと、ゆっくり近づいてくる。

 

 

「ッ……何が、憎しみだ。何が、誰も救えやしないだ」

 

 

 その逃れられる死の気配を前に、モードレッドはギッと歯を食い縛り、抗う。

 

 

「そんな訳があるか! 誰かにこんなに想われて、命を懸けて救いたいって気持ちを向けられるような奴が! 救われねえ訳があるか!」

 

 

 モードレッドの目は、怒りに燃えていた。

 魂の奥底から燃えたぎるような憤怒。

割れんばかりに歯を食い縛り、途方も無い熱に押されるプリドゥエンに、ぐっと力を籠める。

 

 

「救いは、あるだろうが! 手を差し伸べてくれる奴がいるだろうが! 今オレ達が、こうして命を張ってんじゃねえか! それなのに、何を諦めようとしていやがる!」

「っサモさん……」

「助けたいって手があるにも関わらず、それを無視して、全部投げ出してぶち壊そうなんて――そんな叛逆は、全宇宙が許したって、このオレが絶対に許さねえ!」

 

 

 心の底から、モードレッドは吼える。この宇宙に迫る結末そのものに激怒して。

 

 

 生前、彼女は国を滅ぼした。

 王を憎み国を唾棄し、何もかも要らないと怒り狂い、彼女の狂気は焔になって全てを焼いた。

 叛逆によって、彼女は己の生きた世界の全てを台無しにした。

 終わりをもたらす復讐こそが、モードレッドをモードレッドたらしめている。

 

 

 だが、きっと。

 王が息子と呼んでくれれば、この胸に叛逆の火は灯らなかった。

 誰か一人でも、彼女の本心に気付けていれば、結末は変わっていた。

 誰か一人でも……自分を愛してくれていれば。

 彼女はきっと、あの国を愛する事だってできた。

 そのどれもが無かったから、彼女は叛逆の騎士となったのだ。

 

 

 誰一人として取ってくれなかった掌で、剣を握った。

 誰も耳を傾けてくれなかった声で怒りを叫び、火を放った。

 誰も看取ってくれない命で、たった一人の父を、国ごと道連れにした。

 決して埋められない空っぽの心には、憎悪以外籠められなかった。

 全てを壊す以外に、できることは何もなかったのだ。

 

 

 モードレッドだって、本当は救われたかった。

 愛されるなら、叛逆なんて選ばなかった。

 だからこそ、彼女は真に叛逆の騎士なのだ。

 

 

「偽物の叛逆で、この世界を終わらせてたまるか! 本物の恩讐の熱はなぁ……泣き叫ばないと気が狂うくらい辛くて! テメエの剣なんて屁でもないほどに熱いんだよ!」

 

 

 吼え立ち、モードレッドはダースソルの剣を撥ね除け、プリドゥエンを思い切り振り抜いた。

 胴を貫いた強烈な一撃に、ダース・ソルが僅かに後ずさる。

 しかし、それだけだ。モードレッドの全身全霊の一撃は、赤熱する鎧に傷の一つさえつけられていない。

 重篤な熱中症に陥ったモードレッドが、ふらりとよろめく。その身体を、立香が受け止めた。彼女を抱き締めながら、二人一緒に立つ。

 

 

「君の言うとおりだ、サモさん」

「マスター……」

「助けたいって願いがある限り、助けられない命なんかない。助けを求める人がいる限り、絶対に諦めない。俺達はそうやって、幾つもの世界を救ってきたんだ!」

「……へへ。ああ、その通りだ」

 

 

 強烈な熱を浴びせられ、互いに満身創痍。脳が熱に茹でられ、視界も思考も曇らせる。そんな中で二人は、決して揺るがない全霊の闘志を籠めて、ダース・ソルを睨み付ける。

 

 

「……憐れな小童め。取るに足らないこだわりで、己の死さえ直視できないか」

 

 

 二人の気高き反骨の心は、ダース・ソルの心に失笑と失望をもたらした。

 

 

「吼えた所で結末は変わらんぞ、サーファー。貴様等はここで死ぬ。XXは宇宙の塵となって孤独の闇に葬られる。蒼輝銀河は、我等がソルの輝きの前に灰燼と化すのだ――!」

 

 

 騎士の握る輝く刃が、今度こそ彼等の命を断とうと迫る。

 ――まさに、その時。

 

 

 

 

 

 

「ダウトだ宇宙騎士! 終わるのは、貴様のチンケな野望の方だとも!」

 

 

 

 

 高らかに響く、明朗快活な声。

 振り返った立香は、それを目にする。

 視界一杯に広がる、紅蓮の恒星。

 その紅蓮を背にして影を落とす、ひとつの勇姿。

 それは片足から炎を噴き出しながら迫ると、強烈な蹴りによって、半球状のドームを叩き割った。甲高い轟音と共に、ガラスの破片が舞う。

 光を反射し、星屑のようにキラキラと舞う、その最中。

 飛び込んだ男は、ロケットブースターを内臓した鋼鉄の右膝を、ダース・ソルの土手っ腹へ深々と叩き付けた。

 隕石が直撃したような衝撃に、ダース・ソルが初めて吹き飛んだ。機材を巻き込みながら、彼方の壁に叩き付けられる。

 

 

「「ル――」」

「また会おうと、確かにそう言ったじゃないか!」

 

 

 降り注ぐガラスの星屑の中。

 降り立った男は、目を丸くする立香達に、得意気な敬礼と共に微笑んだ。

 

 

「「ルーデルーーー!?」」

「ああそうさ! 銀河最速のスペース☆ライダー、恒星の中から無事帰投し、君達を守るため再び参上だ!」

 

 

 拳で胸を叩いたルーデルは、獅子の嘶きの如く、ガオン! と義足のロケットをふかす。

 立香達は未だ呆然と、まるで幽霊でも見るように眼前の男を見つめている。驚きは、瓦礫の中から立ち上がったダース・ソルも同様だった。

 

 

「何故だ……我等がソルの輝きを受け、何故生きている!?」

「ハハッ、貴様にも驚くなんて感情があったか、ダース・ソル! 銀河最強を名乗るお前も、地球で生きた俺の逸話については知らないらしい」

 

 

 まるで手品に成功した子供のように顔を輝かせるルーデル。

 彼の顔にはあちこち火傷の傷が走り、服は酷く焼け焦げている。笑みは晴れやかだが負傷は激しい。彼は確かに《オルトリアノヴァ》の攻撃に突貫し、ミレニアムスツーカと共に相殺されたのだ。

 

 

「だがしかし、撃墜なんて日常茶飯事だとも! 俺は三十回以上も撃墜され、その全てに生還してきた『不滅の英雄』ハンス・ルーデル! その逸話の通り、俺はいかなる攻撃を受けようと、()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「っ……なんと、小癪な……!」

「まあ、今回は流石にダメかと思ったがな! 貴様のソルも中々強烈な熱だったぞ。ハハハッ」

 

 

 ダース・ソルが拳をギリと握り締める。

怒り心頭の彼に指を突きつけ、ルーデルは不敵に笑う。

 

 

「だが、熱いだけの光になど憶するものか。そこにいる少年達の放つ命の熱と、尊ぶべき輝きの前には、どんな恒星も霞んでしまうとも」

「ルーデル……」

「そうさ少年、お前達は今、この蒼輝銀河の何よりも眩しく輝いている。お前のその、人を惹き付けてやまない一等星の煌めきに、できない事などあるはずもない」

 

 

 そうしてルーデルは立香に手を差し伸ばし、立ち上がらせる。未だ決意に満ちた真っ直ぐな瞳に満足げに頷き、問う。

 

 

「さあ、お前の航路を教えてくれ! 心のままにどこへ向かう。魂の叫ぶままに何を為す!」

「ッ――XXを助けたい! XXの願いを叶えたい!」

「オレ達を宇宙の父上の所まで飛ばせ、ルーデル! こんなつまらねえ叛逆、オレ達の手で終わらせてやる!」

 

 

 希望と熱意に満ち満ちた彼等の目に、ルーデルはニッと白い歯を見せて笑った。

 そうして彼は、右足のロケットブースターを噴かす。ゴォォォ――という振動が、腹を揺さぶり、昂揚になって魂を湧かす。

 プリドゥエンを構えたモードレッドに、立香がぎゅっと抱きついた。

 

 

「さあ征けェ! 心の赴くままに、お前の航路を引くんだ、少年!」

 

 

 そして、ルーデルの全身全霊の蹴りが、プリドゥエンを天高く打ち上げた。

 凄まじい速度で射出された二人は、ルーデルが割り砕いた天井を抜け、今まさに遠ざかっていく翠の光に向け、あっという間に遠ざかっていく。

 広大な宇宙空間において、余りにちっぽけな二つの命は、けれどこの瞬間、どんな星々よりも熱い輝きを胸に宿し、銀河を救う使命を為すべく、最後の戦いへと馳せるのだった。

 

 

 

 

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