SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
1節
XXの姿を捉えた時、《アルトリアナイト》の輝きは、蝋燭の燃えさしよりも小さな、か細い輝きを残すのみとなっていた。
もしもその光が潰えるのがもう少し早ければ、XXの姿は宇宙の無空に飲まれ、永遠に見つける事は叶わなかったかもしれない。
だが、彼女の最後の命の残り火は、確かに宇宙に輝き、信じる仲間へと届いていた。宇宙を飛来したモードレッドの手が、虚空に浮くXXの右手を、がしっと握る。
「――掴んだ!」
意識のない彼女の身体を引き寄せ、モードレッドはプリドゥエンから水球を射出。その反動で軌道を変え、敵艦の甲板に不時着する。
《オルトリアノヴァ》から弾き出されたXXは、想像を絶するひどい有様だった。身体のあちこちが焦げ、炭化している。左手の指先に至っては溶けてケロイド状に変質していた。
そんな状態で、《アルトリアナイト》の霊基吸収を受け続けたのだ。辛うじて呼吸が続いている事が、信じられないくらいの奇跡だった。
「ひどい怪我だ……しっかりして、XX!」
「宇宙の父上! くたばってる場合じゃねえだろ、オイ!」
「っ……ま、ますたー、く……?」
「そうだ。助けに来たよ、XX」
うっすらと目を開けて立香を見たXXは、瀕死の重傷で霞んだ目から、ポロポロと大粒の涙を溢しだした。
「ぁ……ご、ごめ……ごめんなさい、マスターくん……!」
透明な涙が、焼け爛れた頬を伝う。
ボロボロになった心から、悲しみが、情けなさが、止め処なく溢れ出て止まらない。
「必ず助けるって誓ったのに、できなかった……えっちゃんの苦しみを、憎しみを、受け止められなかった……私、私は……!」
「違うよ、XX。えっちゃんは絶対に、君を憎んでなんかいない」
「そうさ。本気で憎んでりゃ、お前は塵も残らず焼かれていたはずだ。黒い宇宙の父上は、お前を恒星の外に吹き飛ばした。『構うな、出て行け』って言ったのさ。反抗期のガキみたいにな」
モードレッドは背後、未だ煌々と燃え盛る恒星を睨み付ける。XXの突貫によって恒星の表面には小さな風穴が穿たれ、そこから僅かに、中心の人影を伺う事ができる。
悠々と浮遊するその姿を認め、モードレッドはチッと舌打ち。
「助けたいって気持ちをフイにしやがって……かつてのオレが欲しくて欲しくてたまらなかったものを、涼しい顔で踏みにじりやがって……! 必ず引っ張り出して、キツイ拳骨をお見舞いしてやる」
「そうだよ、XX。必ずえっちゃんを取り戻すんだ。君が笑顔になるまで、僕等も絶対に諦めるもんか」
XXの手を握り、立香が力強く告げる。
彼女の失態で、作戦は崩れたのに。自分たちも死ぬところだったのに。立香達は宇宙を飛んで助けに駆け付け、まっすぐな言葉を駆けてくれる。その優しさに、また涙が溢れ出てしまう。
「でも、でも……えっちゃんの力は強すぎます。《アルトリアナイト》の影響を受けながらでは、到底中心部まで辿り着けません。それに今を逃しては、恒星は更にエネルギーを増し、手が付けられないほど巨大になります」
「何か手があるはずだ。どんなピンチにだって、逆転のチャンスは必ずある」
立香はズタボロのXXの手を握り、彼女の弱音を、何度も何度も、そんなことないという言葉で励ます。
諦めない事は、強さだから。
その強さこそが、彼が人類史を救えた根源だから。
どんな意外な奇跡も、全力の大逆転も、立ち上がり立ち向かった、その先にしか存在しない。
「令呪はまだ一画残ってる。別の対抗手段があるかもしれない。君が生きて諦めない事が、何より大事なんだ」
「でも……」
「ッあーもう! でももだってもねえんだよ! バカの癖に内気で陰気な宇宙のバカ父上め!」
XXの余った手を無理矢理に握りしめ、モードレッドが怒鳴った。
XXが、胸に抱かれた腕を見てぎょっと驚く。そのぐらいでは、一度燃え上がったモードレッドの怒りは止まらない。
「手を伸ばせば届く場所に求めるものがあって、なんで諦めるんだ! 一度覚悟して走り出した足を、どうして止めようとするんだ!」
「っ……!?」
「お前には、心があるんだろうが! だったら欲張れよ! 引き籠もりで我が儘な黒い父上に、分からず屋って怒れよ! 何としても掴み取るって決めたなら、髪の毛一本も残さず奪い取って見せろ! ――このオレが納得できるほど激しく、運命に叛逆してみせろよ、宇宙の父上!」
うだつの上がらない父上の顔をしたXXに、とうとう痺れを切らして怒鳴りつける。
思いの丈を振り絞った彼女は、はぁ、はぁと息を荒げ――そこでようやく、二人が驚きの表情で、自分を見ている事に気が付いた。
「な、なんだ? ヘンな事言ってねえだろ。父上によく似た顔で泣きごとを言われちゃ、ブリテンの沽券にも――」
「サモさん……それ」
立香が上擦った声で、指さす。
その指を追って、モードレッドもようやく気が付いた。
彼女が胸に抱いた、XXの右腕。
そこに装備されたガントレットが、これまでにないほどの強烈な翠の輝きを放っていた。
「だ、大丈夫なの、サモさん!?」
「大丈夫も何も、何も感じねえぞ。むしろ、妙に胸のあたりが熱くなるというか、ざわざわする感じはあるけど」
「《アルトリアナイト》が、サーファーさんに反応している……?」
呟き、XXは水の惑星での出来事を思い出す。
《オルトリアノヴァ》の分身を消滅させ、気絶したXXをモードレッドが救助した時。XXが取りこぼした《アルトリアナイト》を、モードレッドは素手で掴み取り、何事もなくけろりとしていた。
あの時も、翠の輝きはモードレッドの命を奪う事をしなかった。そればかりか、まるでそこが本来収まる場所であるかのように、残酷な輝きを収めてすらいたのだ。
「……《アルトリアナイト》」
アンチアルトリア物質。
あらゆるアルトリアのエネルギーに仇なし、無効化し、吸収し、ゼロに帰す。
その能力は――
その在り様は――
アルトリアと名の付く物質を問答無用に葬るその作用は――まさしく。
「叛逆。それこそが《アルトリアナイト》の本質だとしたら……」
自分が握る限り、この輝きは諸刃の剣だ。
自分の霊基は、光に触れれば熱した油に水を垂らすが如く蒸発してしまう。
だが――その霊基の本質が、同じ油であれば。
止め処ない熱を際限なく受け止め、際限なく昂り続ける相乗効果を見せるのではないか。
諸刃の剣を、正しく必殺の刃として振るえる腕。
銀河最高の鉱石に唯一認められた、その腕は。
今、XXの右腕を抱き締め、翡翠の光に当惑している、彼女の――
「……モードレッド」
迷う時間は少なかった。
決意を固めたXXが、未だ何が起きているのかわからないと言ったモードレッドの手を握る。
「貴方に、蒼輝銀河の命運を託します」
「な……?」
「私の問題で、私が引き起こした事件です。だけど私は、どんな手を使ってでも、えっちゃんを助けたい」
だから、と、XXはモードレッドを見つめる。
弱く、打ち拉がれていた心に、願いを籠めて。
目の前の心優しき叛逆者に、希望を託す。
「力を貸してください。貴方の力で、この蒼輝銀河の運命に叛逆してください」
《アルトリアナイト》は、モードレッドの心臓の鼓動に呼応するように、翠の光を増幅させている。
モードレッドはほんの少し押し黙り、自分の瞳によく似た翠の光を見つめる。
それからぐっと決意を固めると、XXの右腕と一緒に、自分の胸に抱き受けた。
「ああ、任せろよ。オレは完璧な王の完璧な国を滅ぼした叛逆の騎士だ。たかが恒星の一個、ぱぱっと粉々にして、黒い宇宙の父上に拳骨をお見舞いしてやる!」
「ええ。その意気、その力、お借りします! モードレッド!」
ボロボロの身体に鞭打ち、XXは立ち上がる。
彼女の全身に纏っていた鎧に、不意に眩い光の線が走ると、バシュン、バシュンと音を上げてXXの身体から剥がれていく。
「コスモウェポン、蒸着開始!」
XXがかけ声一つ。鎧は鳥のように宙を舞い、モードレッドの身体に装着されていく。
「霊基分析。使用者登録、認証! 銀河ウェポン利用申請許諾、全解放!」
鎧がモードレッドの身体を包み、やがて彼女の姿が、眩い光に包まれる。
最後にXXは、右手の小手――《アルトリアナイト》を解き放った。翠の光は、そこが最初から在るべき場所だったとでも言うように、モードレッドが放つ光の中へと消える。
「霊基をコスモステージにアップグレード! さあ、思う存分この銀河に叛逆してください! シーズンを引き継ぐニューカマーにして、全てのアルトリアに徒なす生粋気鋭のリベリオン!」
「――目覚めよ、ヒロインRX!!」
カッ――! と光が宇宙彼方まで埋め尽くす。
眩い光の中から姿を見せたのは、新たな宇宙騎士。
XXに勝るとも劣らない身体を包む、ひたすらに格好良い白銀の鎧。
両脚を置くのは、未だ見たことのない新たな宝具。空中に浮遊する身の丈ほどのグライダーが、両脇に角のように突き出た気筒から、猛々しい熱気を噴射させている。
白磁の鎧の隙間から覗くのは、眩い翡翠の光だ。伝説の鉱石《アルトリアナイト》と深部で結びついた霊基が、彼女自身が一つの宝石であるかの如く、神々しい輝き包む。
新たな武器。新たな霊基。
蒼輝銀河を駆け、宇宙に叛逆するべく生まれ変わった、新たなヒロイン。リベリオンX。
「――」
モードレッドは、まるで見違えた自分の身体を見回し――一回り大きくなった拳を、ぐっと握りしめる。
ゴウッと唸りを上げ、モードレッドは飛んだ。一直線に、真上に、眩い光の帯を引く。
グライダーが彼女の意志を反映し、凄まじい速度で銀河を走る。
身を翻し、グライダーと一体となって宙を舞う技は、かつて彼女がプリドゥエンと共に波を駆けたトリックだ。
「……にひっ」
快活に、朗らかに、宇宙の危機なんて目に入らないとばかりに楽しげに、モードレッドが歯を見せ笑う。
新たな宝具――生まれ変わった相棒――プリドゥエン・アライズが、彼女に新たな遊び場を提供していた。
この銀河全てという、最高の遊び場を。
「いぃ――よぉぉっしゃあああああああああああああああ!」
高らかな歓声を上げ、新しい玩具に興奮する子供のように、モードレッドは宇宙を舞う。
そうして彼女は、光速の宙飛びを堪能しながら、希望に瞳を輝かせる立香とXXに向けて、力強く握りしめた拳を翳して見せた。
「マスター、宇宙の父上、そこで楽にして観戦してな――ちょっと遊んで! ついでに銀河を救ってくる!」
「行ってらっしゃい、サモさん! ――令呪よ、ヒロインRXに力を!」
最後に残った令呪が、モードレッドの昂揚に更に燃料を投下する。
そうして、モードレッド――ヒロインRXは飛んだ。
託された叛逆の意志を為すべく。
膨れあがる巨大な紅蓮を、翡翠の刃で貫くべく。
最強の恒星に、絶対なる叛逆の魂を叩き込むべく。
そして、己の魂のあるがまま、宇宙を踊るべく。
「さあ行くぜ、プリドゥエン! 楽しい楽しい、馬鹿げたド派手な叛逆の時間だぁぁぁ!」
ドッ――と宇宙を震わせて、モードレッドは飛ぶ。
紅蓮の光に満ちた宇宙に、翡翠に輝く叛逆の流れ星が、一条の美しい線を引いた。