SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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3節

 

 

 ルーデルの放った一撃は、途轍もない衝撃と眩い輝きを、銀河狭しと轟かせた。

 無敵に見えた巨大な恒星は、もう完全ではない。XXが突き進んだ穴をルーデルの宝具がこじ開け、巨大な風穴を穿っていた。爆発し銀河を舞った紅蓮の炎にルーデルの宝具の白い輝きが混ざり、蒼輝銀河は今、白夜の如き眩い光に包まれている。

 紅蓮の恒星の表面には、穿たれた穴を中心とした、台風の如き巨大な渦が産まれていた。渦の中央、眩い焔の只中に、静かに浮遊するXXオルタの姿が見える。

 新たなコスモパワーを手に入れたモードレッドは、グライダーのエンジンを吹かせると、迷うことなく渦の中心へと突貫した。

 

 

「さあ――遊ぼうぜ、黒い方の宇宙の父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 興奮に爛々と目を輝かせて、モードレッドが恒星に突撃する。

 瞬間、いきなり飛び込んできた異物目がけ、乱れ舞う恒星のエネルギーが、怒濤のように襲いかかってきた。

 渦の中は、先のルーデルの一撃によって安定を失い、エネルギーの断片が指向性もなく方々に飛び回る大嵐と化していた。付近の熱は穿たれた大穴を埋めようと一斉に雪崩れ込み、バケツをひっくり返したような狂乱を産む。

 乱れ舞う光は、静かで誰も犯されない筈の住処をぶち抜かれた衝撃に、混乱するかのようで。

 三六〇度全てを包み込む、星の渦潮に、モードレッドは翠に輝くグライダーを叩き付けた。

 

 

「輝け、《アルトリアナイト》!」

 

 

 モードレッドの霊基と融合した《アルトリアナイト》が反応し、彼女の鎧が、グライダーが、翠の光を溢れさせる。

 ようやく得られたごちそうに飛びつくかの如く。グライダーは押し寄せた光の波に食らい付き、自らの糧として吸収していく。

 

 

「そうだ、全部喰らって蹂躙しちまえ! ここはオレ達専用の波乗り場だ! 恒星一個分のバイキング会場だ!」

 

 

 漲る力に、更に更に興奮を滾らせて、グライダーを加速させる。

 のたうつ光の波を踏み付け、受け流し。壁の如く立ちはだかった大波を、鮮やかなトリックでグライダーを回し斬り付ける。

 恒星の無限の熱を、《アルトリアナイト》の翠の光が際限なく喰らう。翠の輝きが、恒星のそれにも勝る程の勢いで増長する。

 

 

「誰もお前を止めねえぞ、楽しい気持ちは有頂天だ! 心ゆくまで遊ぼうぜ、胸一杯になるまで暴れようぜ、相棒っ!」

 

 

 ニッと八重歯を煌めかせ、モードレッドはグライダーを駆る。

 浮かべるのは、増長していく《アルトリアナイト》の輝きに勝るとも劣らない、眩しい笑顔。

 眩しい。楽しい。心が躍る。

 今この瞬間、燃え盛る恒星の全てが、モードレッドの遊び場だった。

 

 

「オレに乗りこなせねえ波なんかねえ! たとえ燃え盛る恒星の熱波だろうが、華麗に乗りこなして征服してやる! それがオレだ! ヒロインRXの、最強無敵のサーフィンだぁぁぁぁ!」

 

 

 そう、誰も彼女を止められない。

 世界を被う紅蓮の光よりも、魂の奥底から迸る翡翠の輝きの方が強い。

 恒星の焔よりも、希望を宿す胸の高鳴りの方が熱い。

 そして――渦の中央、この冒険の終着点。

 光の中、何年も何年も静かに眠り続けている少女より。

 自分の方がずっと――ずっとずっとずっと!

 何億倍だって、楽しんでる!!

 

 

「さあホラ、ボーっとしてんなよ、黒い方の宇宙の父上! ありったけの力で、もっとオレを楽しませてみせろ!」

 

 

 怒濤の波を華麗にいなし、モードレッドはそう発破をかける。

 

 

「――」

 

 

 XXオルタは、もう眠ってはいなかった。

 開いた瞳に宿るのは、明らかな敵意。未だ遙か彼方、凄まじい速度で迫り来るモードレッドの姿を睨み付ける。

 

 

「――ゆらぎは、排除する」

 

 

 XXオルタが、腕を振る。

 次の瞬間、モードレッドの付近の光が、まるで牙を剥いた猛獣のように押し寄せて、彼女の身体に叩き付けられた。

 咄嗟に身体を水平にして、グライダーを盾に。強烈な一撃を受け、モードレッドの身体は恒星の外側に向けて思い切り吹き飛ばされる。

 

 

「わぶっ!? ――はは、そうこなくちゃな」

 

 

 体勢を立て直したモードレッドは、ますます獣のように笑みを深め、グライダーを唸らせる。恒星の渦は、まるで呑み込んだ異物を吐き出す生き物のように、猛烈な勢いでうねりだす。

 

 

「ゲームしようぜ! オレにぶん殴られたら、お前の負けな!」

「ゆらぎは、必要ない」

 

 

 XXオルタが両手を翳すと、両脇から大砲の如き勢いで光が押し寄せる。モードレッドはあえて対向せず、身体を垂直に。僅かに開いた波の隙間にグライダーをねじ込ませ、産毛が焦げるほどの紙一重で波を避ける。

 噴火のように突き上げる波には、同じくらいの強さでグライダーを叩き付ける。吹き飛ばそうと迫る光は全て《アルトリアナイト》が飲み込み、翠の光の糧とする。

 

 

「止まらねえ。止まってたまるか……! ッこんなに楽しいのに、止まってられるか!」

 

 

 いなし、かわし、受け止め、飲み込み。

 光を蹂躙しながら、徐々に徐々に、恒星の中央へと近づいていく。

 XXオルタの姿が、次第に明瞭に、モードレッドの視界に捉えられるようになる。

 

 

「「――」」

 

 

 瞳が、交錯する。

 楽しくて楽しくてしょうがなくて、爛々と輝く翠の瞳と。

 何の感情も見せず、光の中で無を抱く、つまらない琥珀の瞳。

 

 

「――揺らぎは、いらない」

 

 

 XXオルタが両手を突き出した瞬間、今までと比べものにならない衝撃がモードレッドに叩き付けられ、また恒星の外側に向けて弾かれる。

 再び遠ざかった、その距離を二度と詰めさせないと、XXオルタが光を繰る。

 

 

「うちゅうは、さびしい」

「っ……!」

 

 

 押し寄せるのは、絶対的な優位に立つ《アルトリアナイト》でさえ無効化が追いつかない程の、分厚い光の波。

 押し返される。

 途方もない質量で、覆い隠す。

 彼女自身も、彼女の心も。

 

 

「ひろくて、さびしくて――ずっと、ずっと、うちゅうは、こわい」

 

 

 それが、恐らく十数年ぶりに放った、XXオルタの心中。

 友を救うために、自らを犠牲にして。

 何年も何年も、無重力に放逐され。

 無限に広がる宇宙の、無限の孤独に放り出され。

 大好きな甘いものもない。

 やかましい友達もいない。

 幸せなんて、もう二度と手に入らない。

 どこまでも続く闇が、彼女の心を粉微塵に押し潰した。

 

 

「うちゅうにいると、こころがゆれる」

 

 

 暗い。つらい。さびしい。切ない。虚しい。怖い。暗い。誰か。つらい。話したい。暗い。助けて。誰か。つらい。つらいよ。だれか。

 暗くて。暗くて。どうしようもないほど暗くて。

 その暗闇が晴れる事は決して無いと絶望してしまったから、彼女は光になったのだ。

 

 

「ゆらぎは、いらない――ゆらぎは、すべて、排除する――!」

 

 

 恒星の全力の焔がモードレッドに向けて雪崩れ込み、XXオルタの姿を覆い隠していく。

 何もかもを投げ出して、閉じこもって。

 ただただ、静かに、眠っていようと。

 

 

 

 

 

「ッ――な、に、が揺らぎだぁ! バカ野郎ォーーーー!」

 

 

 その光の壁を、モードレッドのグライダーが真一文字に切り裂いた。

 紅蓮の光の中に、強烈な翠が煌々と灯る。

 

 

「テメエも宇宙の父上も! 罪だ罰だとウダウダとみみっちいことばかり言いやがって! こんなにバカデカイ宇宙で、自分の殻に閉じこもりやがって!」

 

 

 再び立ちはだかった波に向け、グライダーを駆る。ズパンッ! と音が出る程鮮やかな一閃が光を貫き、瞬く間に呑み込んでしまう。

 爛々と見開かれたモードレッドの翡翠の瞳に宿る激憤は、この銀河の何よりも熱く燃え、希望に満ちあふれていて。

 

 

「テメエがしたい事は宇宙の破滅か? 何もかも焼き尽くす事か? 大切な友人を泣かせることか!? ――何もかも違うだろうがボケ!! いい加減に目を覚ませ!!」

 

 

 モードレッドは、何もかもを壊した叛逆の騎士だからこそ。

 怨嗟の焔で自らも焼いた復讐者だからこそ。

 絶望の果てに、愛する人を殺した罪人だからこそ。

 彼女は断言できる。

 この恒星の只中に於いて尚、決意を見失わないでいられる。

 

 

「これが叛逆であるもんか! この眩しいだけの空っぽの光が、怨嗟の焔であるもんか!」

「――」

「何がゆらぎだカッコ付けてるんじゃねえ! お高く澄まして心を隠して、それで王を気取れるなんて大間違いなんだよ!」

 

 

 ずばん! ずばん! と光を切り裂き、翡翠の光を煌めかせ。

 モードレッドは飛ぶ。

 宇宙を楽しみ、無重力を遊ぶ。

 ただ一つの目的のために――

 ――目の前の分からず屋に、キッツイお灸を据えるために!

 

 

 

 

「寂しいなら、ちゃんと寂しいって言いやがれぇぇーーーーッ!!」

 

 

 

 

 かつて彼女は孤独だった。

 かつて彼女は誰より絶望に打ち拉がれた。

 そして――今。

 彼女は知っている。

 穏やかで甘い、友と過ごす優しい日々を。

 正しき目的の為に剣を振るえる満足感を。

 過去の怨恨を「今は別に良い」とサラリと受け流した時の、ちょっぴり切ない、胸の空くような開放感を。

 真夏の太陽の元、自由に波に乗る爽快感を。

 

 

 自由は。遊びは。誰かと一緒の賑やかさは。

 愉快で、騒がしくて、馬鹿げていて。

 楽しくて、楽しくて、楽しくて楽しくて楽しくて。

 何もかもどうでもよくなるくらい、最高で。

 

 

「だから、拗ねるんじゃねえよ。ホントは羨ましいんだろ!? 待ってなよ――揺らぎまくり騒ぎまくりの楽しい世界に、オレが責任持って引っ張り上げてやるからよぉぉ!」

 

 

 立ちはだかった巨大な光の壁にグライダーを叩き付け、質量を持つ巨大なエネルギーを全て《アルトリアナイト》に呑み込ませる。

 際限なくエネルギーを吸収したモードレッドの翠の光は、いまや超新星に匹敵する凄まじい輝きで、XXオルタを圧倒していた。

 何の感情も見せなかった琥珀の瞳が、煌々と輝く翠の光に、ちかっと瞬く。

 

 

「――やめろ、くるな――くるなぁぁ!」

 

 

 初めての絶叫。

 XXオルタが翳した両手に、光が一気に集い、解き放たれる。

 

 

 

 

「『冥紅星滅(オブスキュラス)光仞(カリバー)』!!」

 

 

 

 

 迫り来る、惑星を粉々に吹き飛ばす光線。

 モードレッドはもう、これっぽちも恐れない。

 今やこの恒星は、彼女の遊び場だから。

 

 

 

 

 彼女はモードレッド。

 騎士であり、サーファー。

 最優の騎士で、最高の遊び人。

 できないことなんて何もない!

 かつて民を導き、戦場を駆け、国を落としたように!

 彼女は全ての波に乗る!

 全ての怒濤を叛逆し、征服し、乗りこなす!

 

 

 

 

 

 

「『あらゆる宇宙(プリドゥエン・)を制する超銀(アゲインスト・)河浪漫波浪(ストリーム)!!』」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、翡翠の光が爆発したように輝きを増す。

 モードレッドが繰るグライダーは、襲いかかる紅蓮の光を全て撥ね除け、眩い翠に染め返す。

 そうしてモードレッドは、見惚れるほど鮮やかなグライダー捌きで、受け止めた光の奔流のありったけを、XXオルタに向けて跳ね返した。

 翡翠の光線がXXオルタを直撃し、とうとう彼女を被っていた最後の熱殻が吹き飛ばされる。

 

 

「《アルトリアナイト》!」

 

 

 モードレッドの呼び声に、グライダーはこれ以上ない眩い輝きで応える。

 エネルギーを吸い込み、蓄え続けた翠の光が、グライダーに乗せた足から、モードレッドに集まっていく。

鎧を輝かせながら駆け巡る光の終着点は、固く握り締められた、モードレッドの右拳。

 星の光を集わせた拳を突き出して、モードレッドが吼えた。

 

 

「歯ぁ食いしばれよ、宇宙の黒い父上! この全身全霊の拳骨が、テメエ専用の目覚ましだ!」

 

 

 轟! と爆音を上げ、グライダーがエネルギーを噴きあげる。

 さながら彼女自身が彗星になったように。輝きと同化し、恒星の真の中心へと突貫する。

 最後の抵抗のように紅蓮の波が襲いかかるも、そんなもの、いまさら屁でもない。

 眩く輝く拳が光を砕き、波をぶち破り。

 あらゆる障害を叩き割って、辿り着く――!

 

 

 

 

「ッ――」

「覚えとけ、あるいは思い出せ――喧嘩ってのは、こうやってするんだよぉッ!!」

 

 

 

 

 目を剥く琥珀の瞳の眉間に、翠に輝く拳骨が、ありったけの力を籠めてぶち込まれた。

 

 

 

 

 

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